俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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杞憂に非ず ①

「おぼぼぼ……マジ気分がさげぽよ……」

 

ネロぴが研究所に降りて10分は過ぎただろうか、多少体調は回復したが内臓をかき回されるような不快感は収まらない。

土一色しかないはずの視界が酷くサイケデリックに歪んでいく、現場から離れて安静にしていてもこれだ。

おそらく自分だけで任務を続けていても道中で死んでいたかもしれない。

 

「ああ、でもそういう時のためにロウゼキさんもいたんだっけ……」

 

全環境適応能力に付随した高濃度魔力耐性を生かし、ロウゼキさんのサポートを行うのが私の仕事だった。

しかし東京の汚染度は想定以上、目的の研究所には一歩も踏み込めずこの有様である。

……ただ、そうなると私ですら踏み込めない濃度の魔力を気にもしないネロぴは一体何者なのだろう。

 

「んにぃ……なんかロウゼキさん達が話してた気がするけど……まあいっかぁ」

 

「良くないわぁ!! このおっぺけぺ!!」

 

「んっひゃあ!!?」

 

噂を刷れば何とやら、研究所に繋がる穴から勢いよく飛び出してきたのはネロぴその人だった。

髪を振り乱して汗に塗れ、激しく肩を上下して息を乱している、ここまで急いで戻ってきたらしい。

 

「ほらぁ、お目当ての奴! さっさと逃げるわよ!!」

 

「ね、ネロぴっぴぃー! そんなに急いでうちのこと心配してくれたん?」

 

「違うわよあんぽんたん!! 良いからさっさと“逃げろ”って言ってんでしょ!?」

 

『ギュロロロロォー!!!』

 

その言葉が示す通り、ネロぴが飛び出してきた穴から獰猛な唸り声が聞こえたかと思うと、腹に響く揺れが足元から伝わって来る。

それは段々と強くなり、とうとう崩れた足元から現れたのは――――乱杭歯をむき出しにしたゴムチューブのような魔物だった。

 

「ウワーッ!? しつっこいわねこのミミズ!!」

 

「ミミズ!? ミミズなんこれ!? てかうちら超ピンチだし!!」

 

ネロぴの言葉でようやくそれが鬼ヤバにデカいミミズだと理解できた。

そしてこれほど巨大な魔物が大口を開けて足元に現れたらどうなるか、私たちなど一口で美味しくいただかれる。

 

「ねえ、あんたも魔法少女でしょ? こんなのさっさと倒しちゃってよ!」

 

「…………ぴえん」

 

「……ちょっと? 何出し惜しみしてんの? 命の危機よ私たち?」

 

「うちの攻撃手段ね……あれ」

 

指を指した先、ミミズの口内には土や研究所内の瓦礫と共に、私の要であるスイッチが今まさに飲み込まれようとしているところだった。

じつは寝耳にミミズなこの状況、うっかりネロぴが戻ってくるまで土を収納したスイッチなどを並べて整理していたところだった。

そしてそのすべてが私の手から離れ、魔物の胃へと収まって行ったのだ。

 

「つまりなす術なしおのさげみさわ……」

 

「言ってる事分からないけどすごいピンチって事!? 私あんたなら何とかなると思って戻って来たんだけど!!」

 

「まじメンゴォ……」

 

「謝って済むもんじゃないでしょうよおおおおおおおおお!!」

 

重力に従って落下する体、真下にはよだれを垂らして獲物を待つ魔物の口。

残念ながらこのままネロぴの断末魔ごと飲み込まれ、先に逝ったスイッチと仲良くごちまるされるのが私達の最期……

 

「あかんよぉ、魔法少女がそない簡単に諦めたら」

 

「まあ助けに来るって信じてくれてんなら嬉しいけどさ……」

 

≪BURNING STAKE!!≫

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「走馬灯駆け巡ったわ……秒で終わったけど……」

 

「ぴえぇん!! もうマブダチしか勝たん!!」

 

「ああ分かった分かった、離れろって……」

 

間一髪というところだった、ロウゼキと合流して駆け付けた時にはあやうく魔物の夕飯になりかけていたのだから心臓に悪い。

文字通り一蹴できる程度の相手だったから良かったが、ボイジャーたちを孤立させたのは反省しなくてはならない。

 

「悪かった、怖い思いさせたな。 俺の分身も間に合わなかったみたいだし、やっぱ慣れない真似はするもんじゃないか」

 

「あぁん? あの木偶人形ならすぐに消え……ああ、そういうこと」

 

「……? なんかあったんネロぴ?」

 

「いや、こっちの話。 それよりこれ、あんた本当私に感謝しなさいよ本当に、本っ当に!」

 

何か一人で納得した様子のネロが取り出したのは、ボイジャーが作る格納スイッチだった。

既に中身が入っているのか、上部のスイッチは押下されている。

 

「ボイジャー、これは?」

 

「んとね、なんだっけロウゼキさん?」

 

「第一魔力研究所の“心臓”や。 今まで下手に手も出せなかったんやけど、四の五の言えへん状況になったさかい」

 

 スイッチはネロからボイジャーに渡され、彼女の腰に装着されたホルダーに装填される。

大事なものの割にプラプラとぶら下がっているのは見ていて落ち着かないが、そばには最高のボディーガード(ロウゼキ)もついている。 うっかり失くすようなこともあるまい。

 

「これはな、魔法陣なんよ。 災厄の日が起きるきっかけを封じ込めとった」

 

「…………なんだって?」

 

「失われた第一魔力学の空白を辿る、そしたらブルームはんたちの状況も何とかなるかもしれへんよ?」

 

 

『―――――へぇ、そいつは聞き捨てならないなぁ』

 

「…………えっ?」

 

それはあまりにも唐突だった。

出来れば二度と聞きたくなかった、しかしもう一度必ずケリを付けなければいけない宿敵の声。

世間話のような気軽さで俺たちの会話に割り込んだその声は、ネロの元から聞こえて来たものだ。

 

「―――――な、に……これ?」

 

全員の視線がネロへと注がれる。 

驚愕に染まる本人の胸元からは、這い出るように伸びた男の腕が生えていた。

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