俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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杞憂に非ず ②

「え……あ……?」

 

時が止まったような静寂の中、全員がその場で固まって動くことができなかった。

ネロの顔に苦痛はない、驚愕こそしているが本人も何が起きているのか分からないだけだ。

停滞していた思考が再び巡り、身体を動かすまでおよそ4秒。 真っ先に駆け出したのはロウゼキだった。

 

「動かんといてな、間違うて頭吹っ飛ばしてもうたら最悪やさかい」

 

「ひっ!? ちょっ、なにを――――!?」

 

一呼吸で距離を詰めたロウゼキが、ネロの胸から伸びた腕に向け、自らの右足を迷いなく振り下ろす。

空気を切り裂くほど鋭く放たれた一閃は、刃物染みた切断面を残して謎の腕を斬り飛ばした。

 

「うっびゃあ!? あん、あんたちょっ……人に向けてなんて美脚振り回してくれてんのよ!?」

 

「気ぃ抜かんといて、まだ終わってへん」

 

「ロウゼキ、上だ!!」

 

切断された途端、ネロの胸から生えた切り口は霞のように消えてしまった。

しかし斬り飛ばされた腕は未だ消えず、不自然な軌跡を描いてロウゼキの頭上を舞っている。

 

『おいおい、挨拶も無しに酷ぇ真似すんなァ?』

 

回転しながら宙を飛ぶ腕が丁度ロウゼキの直上に到達した時、腕の切り口が泡立つように膨れ上がる。

それは瞬く間に腕に比べて数十倍の質量となり、旋回の勢いそのままロウゼキへと振り下ろされた。

 

「ロウ――――!!」

 

「――――ふぅ、びっくりしたわぁ」

 

「……うん、突っ込まないわよ私!」

 

地を揺らすほどの重量に頭上から押し潰されたというのに、肉の塊を砕いて内部からロウゼキが現れる。 当然のように無傷だ。

 

「へぇ、なんだよ。 結構しぶとい奴がいるな?」

 

「挨拶の返しにしては物騒やなぁ……あんたが黒幕でええの?」

 

ロウゼキに破壊された肉の断片が集まり、それはだんだんと人の形を成して行く。

魔法少女の域をも超えた異形の再生能力、こんな真似ができるやつは一人しかない。

 

「ンロギ・グ……!」

 

「よぉ、石ころ共。 わざわざ僕が会いに来てやったんだから泣いて喜べよ」

 

腰まで伸びた艶のない黒髪、錆びた装飾が張り付いた小汚いローブ、犬歯をむき出しにした性根の悪さがにじみ出た笑顔。

あのハイウェイで出会った全ての元凶、ンロギ・グと名乗った男が魔法少女に変身した姿で間違いない。

 

「ま、創造主(マスター)……? 何で私の中から……?」

 

「テメェん中にパス作ってたんだよ、これだけ魔力が濃いなら僕でも十分に活動できる」

 

ローレルの事件からより一層酷くなった魔力汚染、さらに俺たちが滞在していたせいで東京の魔力濃度は限界まで上がっている。

ハイウェイの時は環境に適応できなかったンロギが、満足に活動できるレベルまでに。

 

「まあ身体は本調子じゃないが十分だろ? 僕の目的を邪魔されるのも面倒だからな」

 

「ぴえ……」

 

ンロギの視線がボイジャーへと向けられる。

狙いはネロが回収し、ボイジャーへと渡されたスイッチだ。

……逆に言えば、奴が狙うほどスイッチの重要度は高いということになる。

 

「ボイジャー、逃げろ!!」

 

了解(りょ)!!」

 

一も二も無くボイジャーが逃げ出した。

悔しいがンロギを相手にして後ろを守り切る自信がない、迷わず逃げてくれたのは大助かりだ。

 

「おいおい、お友達見捨ててる気かよ。 薄情だなオイ」

 

「ロウゼキ、あんたはボイジャーを頼む。 ミミズの二の舞はごめんだ」

 

「何言うてはるん、あれが元凶ならうちかて……」

 

「妖精相手に無傷で済んだわけじゃないだろ、コンディションなら俺たちの方が整ってる」

 

「………………」

 

ミミズを吹っ飛ばした時から感じていたが、今のロウゼキは本調子ではない。

立ち振る舞いから負傷を庇うような不自然さが隠せていないのだ、おそらく妖精を倒した時に何らかの攻撃を受けている。

 

「……ふぅ、敵わんなぁ。 妹ちゃん、撤退は見誤らんように見張っといてな?」

 

「うん、お兄ちゃんは私が守る」

 

思う所もあっただろうか、ロウゼキはすんなりと引いてボイジャーの後を追う。

残ったのは俺とスノーフレイク、そしてネロと俺たちの間に立ちふさがる様に立つンロギの4人。

これでいい、化け物の相手は同じ化け物がお似合いだ。 

 

「なんだよ、女に囲まれて守られて羨ましいなぁオイ。 ガキに囲まれてイキりたっていい気分かい?」

 

「そっちこそ、人の胸元から生えてくるなんて倒錯した趣味をお持ちじゃねえか。 魔力で脳みそもイカれちまったか?」

 

「「……はっはっはっはっは」」

 

互いに心にもない笑いを交わしながら、ふとンロギの背後にへたり込んでいるネロを見る。

一瞬視線が交錯したが、拒絶するようにネロは顔をそらした。 

 

「……遺言は済んだかよ、石ころども。 それじゃそろそろ僕のために死ねよ、今すぐ」

 

「やって見せろよ神様気取りが。 ……スノーフレイク、行くぞ」

 

「うん……任せて」

 

周囲の気温が急激に低下し、辺りの物質が全て魔力へと変換されていく。

この東京の中でンロギの活動に制限があるかは分からない、奴の滞在は一分一秒がこの世界に重大な汚染をもたらす。

出し惜しみしている余裕はない、この世界の10年を蝕んだ元凶を――――今ここで討つ。

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