俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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杞憂に非ず ⑤

「ロウゼキさん、後ろッ!!」

 

「ああもう、ほんまに数ばっか多くて嫌になるわぁ!」

 

ミミズの襲撃から難を逃れたスイッチに収納していたドリルを振り回す。

蹴散らし、吹っ飛ばし、叩きのめし、繰り返し何体の同じ顔を退けただろうか。

もはや数を数えるのも馬鹿らしい、次から次に沸いて来る顔ぶれは一向に減る様子がないのだから。

 

「一体一体は脆いんやけどなぁ、こうもアホくさい数で押されると嫌になるわ……!」

 

「はっははははは! ほらほら、手ェ止めるとどんどん増えるぞ?」

 

「ぴえぇー! もうやだー!!」

 

ゴールは目前だというのに酷く遠く感じてしまう。

行く手を遮るのは数多の肉壁、幾らかき分けても一歩も先に進めない。

私とは段違いの突破力を持つロウゼキさんでさえ歩みは遅々たるものだ、私だけならとっくに質量で押し潰されている。

 

「ボイジャーはん、離れたらあかんよ。 ほんで離してもアカン、うちに張り付いとき」

 

「うち褒められた伸びるタイプなので生きて帰ったらいっぱい褒めてほしい!!」

 

「京都総出でこねくり回して褒めるさかい」

 

「うっし、やる気盛り盛りご飯パワー!!」

 

ネロぴが回収したスイッチを落とさぬように握りしめる、この中に収納されたものだけは渡してはいけない。

コピぺされた魔法少女の正体は分からないが、私達を狙うという事はこのスイッチが“鍵”なんだ。

回収された魔法陣には10年前から続く魔力災害に繋がる情報が残っている、絶対に渡すわけにはいかない。

 

「はっはははは、肩に力入ってんなぁおい!」

 

「っ゛――――!」

 

不意に肩に走る痛烈な熱に顔をゆがめる。 見れば私の肩には何本ものナイフが突き刺さっていた。

咄嗟に引き抜こうと柄の部分を握るが、ガラスのように砕けて刃の部分しか残らない。 いやらしい作りだ。

 

「ボイジャーはん!」

 

「おいおい慎重に抜けよぉ? そんなんじゃ一生傷跡残るかもなぁ」

 

「そん、なの……魔法少女になった時から、覚悟の上っしょッ!!」

 

スイッチを一つ押し、その中に収納されていたものをばらまく。

中身はピンを抜いた状態で保管していた大量のフラッシュバン――――取り出せばすぐに起爆する、いざという時の護身用として常に持ち歩いて物の一つだ。

この量だと味方ごと巻き込むことになるが、ロウゼキさんならこの程度の玩具を喰らうはずがないと信頼できる。

 

「走ってぇ!!」

 

「……!」

 

起爆の寸前、掛け声と共にロウゼキさんへスイッチを1つ投げ渡す。

幸運にもインターセプトされることなく手渡されたスイッチは、外見からじゃ中身が分からない。

ネロぴから渡されたスイッチを私が持っているのか、ロウゼキさんへ手渡したのか、ンロギたちは一瞬迷いを見せる。

 

「その一瞬が命取りだし……!」

 

瞬く閃光の中を二人駆け抜ける。 フラッシュバンへの対処すら忘れさせる一瞬の隙、それこそが私達の勝機だ。

相手は得体のしれない怪物、目くらましは持って数秒が限度と思ったほうが良い。

その間に私かロウゼキさんか、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「チッ――――! ああもう、人が優しくしてやりゃ調子に乗りやがってさァ、バカかよお前らさぁ!!」

 

視界は目論見通りに潰れているのだろう、数だけは多い分身たちは周囲をやたらめったらに攻撃し始めた。

片腕を大ナタに変形させて振り回す者、肉体を破裂させて焼けた肉片をまき散らす者、ナイフや弾丸をやみくもに撒き散らす者。

たとえ同士討ちをしようと関係ない、相手は味方の損失も気にせず2人の敵を倒せばいいだけなのだから。

 

「っ゛……ぃ……!!」

 

当然、そんな地獄絵図の中を無傷で逃げ切れるはずがない。 走る背中が切り裂かれ、穿たれ、焼かれ、抉られる。

それでも苦痛を漏らすわけにはいかない、視覚が利かない今は私の声が位置を教えるヒントになってしまう。

 

「……どこ狙っとるん? そないあてずっぽうでうちに当たると思ってるなら幸せな頭やなぁ」

 

(ロウゼキさ……!?)

 

しかし、耐える私とは真逆にロウゼキさんは嘲笑を漏らした。

いや違う、彼女はそんな無駄な事をしない。 私に向かっていた攻撃を全て自分で引き受ける気だ。

それでも……いくらロウゼキさんでもこの数は無茶だ、死んでしまう。

 

「ハッ! バカはどっちだ、声が聞こえりゃどこにいるのか分かるんだよ!!」

 

「ふふふ、鬼さんこちら。 頑張って当ててみぃ」

 

「なめんじゃねえよ! そこ―――――にお前がいるなら、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………!」

 

ロウゼキさんへ向けられていた目が、全て私へと集まった。

天の壁(ゴール)は目前、手を伸ばせば届く距離にある。 しかしその手が触れるよりも早く、数多の分身たちが私の体を組み伏せた。

 

「う、ぁ……!!」

 

「ボイジャーはん!」

 

「ははは、ビンゴォ! お前が相方のガキ庇うつもりなのはバレバレなんだよねぇ。 ならお前とはだいたい真逆の位置にいるだろ」

 

組み伏せられた上に大量の重しが圧し掛かり、身動きが取れない。

完全に捕まってしまった、私の力じゃ抜けだすのは不可能だ。

 

「ロウゼキさん、逃げて! うちのことは気にしないでいいから!」

 

「だってよ、泣かせるねぇ。 お優しい魔法少女様はどうするかな?」

 

「………………」 

 

「選べよ、こいつの命かその箱か。 10秒以内に決めなきゃこいつの頭を潰す」

 

「……すまんなぁ、ボイジャーはん」

 

そしてロウゼキさんは逃げる足を止め、その手に持ったスイッチを……分身たちの方へ投げ渡してしまった。

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