俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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終わりの始まり ⑤

「結論から言えば怖いんだよ、皆」

 

苛立ちを隠しきれず、珍しく語気を荒げたドクターが椅子を軋ませる。

背後で監視の目を光らせる警視庁の人間も気に掛けていない、わざと聞かせているのだろう。

 

「今まで臭いものに蓋をして誤魔化していたツケが解き放たれたんだ、これからどんな災害が起きるか分かるかい?」

 

「それは……まず考えられるのは魔力汚染ですよね」

 

「ああ、だがそれも時間と共に広がって薄まるものだ、東北圏なら命に関わるような影響はない。 問題はそのあとだ」

 

「……致死量には及ばずとも大気中の魔力量は増えます、一般人の健康被害や魔物の出現は確実に増える」

 

「そうだね、魔女レトロは覚えているかい? これからは彼女のような魔力の影響を受けた患者は増加していく」

 

魔女レトロ、魔法少女事変の最中に独立して行動していた3人組の一人だ。

本人は「魔結症」と呼ばれる体に魔石が生成される病に侵されており、機械人形型の杖が魔女として行動していた。

 

「魔力濃度と魔物の出現率は比例関係にある。 それが日本中に拡散されたんだ、魔法少女の仕事はこれまで以上に忙しくなるぞ」

 

「それなら余計にこんないざこざで時間を浪費する暇はないはずでしょう、すぐに新田さんに抗議してきます!」

 

「待て待て、()()()()()。 魔物が増えれば魔法少女の処理能力をいずれ超える、そうなれば一般市民への被害は免れない」

 

「そんなこと……」

 

「ラピリス、悲しいけどいくら個人が優れようと届く腕の範囲には限りがあるんだよ」

 

魔法少女だってあくまで人間だ、ロウゼキさんのような規格外でも体力の限界はある。

私も手の届く範囲なら全力で戦い抜くが、東北の外で行われる戦いには関わることすらできない。

 

「そして一般人は魔物に襲われると、ろくな抵抗も出来ない。 どれだけの権力者であろうともね」

 

「だからこうして……自分の身を守るため、いざという時に動かせる魔法少女を確保していると?」

 

「すべて想像の域を出ないけどね、君達も何か聞かされていないかな?」

 

不意にドクターが話しを振ると、背後の男たちはしどろもどろに視線をそらして空咳を繰り返す。

詳細を聞かされているかは分からないが、確かにこの反応はやましいことがあってもおかしくはない。

 

「それに今回の混乱に乗じて魔法少女が暴動を起こすかもしれない、そういった面でも抑制の目は必要なんだろうね」

 

「魔女の一件で魔法少女全体のイメージは下がっていますからね、それに関しては無理もありません」

 

「そうだとも、そして忘れてはいけない。 ボクたちは力の振るい方を間違えれば、魔物と同じただの化け物としか見られないんだよ」

 

今でこそこうして警視庁の方々が目を光らせてはいるが、魔法少女にとって彼らの存在は何の抑止力にもならない。

この瞬間に彼らが拳銃を乱射しようとも、魔力が籠っていない鉛弾では私達の肌を撫でるだけだ。

それでも私達が変身を保ったまま大人しく監視を受けているのは、魔法少女の正体を保護する絶対の法と、局長の身を切った交渉があったからに過ぎない。

 

「焦ってはいけないよ、ラピリス。 必ず君の力が必要になる時が来る、その時まで血涙を飲んででも耐えてほしい」

 

「……分かりました、私はこれで失礼します」

 

「ああ、あまり長話すると余計なお小言を貰いそうだからね。 また後で会おう」

 

ドクターと警視庁の方々に一礼し、部屋を出る。

魔法少女事変の重要参考人であるドクターは我々よりも監視体制が一段上だ、顔を合わせるだけでも様々な制約が絡みつく。

それでも会話を交わした価値はあった、あの状況で堂々と私あてのメッセージを残すとは流石ドクターだ。

 

「その時まで耐えろ……ですか、分かりましたよドクター」

 

彼女に預けたペンダントは未だ戻らない、とっておきの付け焼刃とやらを施すために預けたままだ。

しかし監視の目が光る間はドクターも下手な真似は出来ない、私がドクターなら次の手は……

 

「HEY、サムライガール! ドクターの調子はどうだったのサ?」

 

「うるさいですよゴルドロス、どうだったと言われても何もありませんよ。 ただ大人しく軟禁されているだけです」

 

思案しながら作戦室の扉を開くと、居ても立っても居られずに扉の前で立っていたゴルドロスに肩を掴まれた。

その奥では、同じく落ち着かない様子のシルヴァが部屋の中をぐるぐると歩き回っている。

 

「まったく嫌になるよネ、まるで犯罪者扱いだヨ。 局長もどっか行っちゃうしサ……」

 

「局長は記者会見やら何やらで忙しい、我々はこうして座して待つことしか……うぅ、本がないと落ち着かない……」

 

「はいはい、二人ともとりあえず座ってください。 無駄な体力を使う余裕はありませんよ」

 

「「そうは言ってもぉ……」」

 

文句を漏らす二人を引きずりながら、部屋の四方を見渡す。

この部屋にも何人か警視庁の人間が目を光らせているが、この距離なら小声までは聞こえまい。

 

「……ドクターから伝言です、“耐えろ”と」

 

「What's? どういう事カナ、それは」

 

「我は何か嫌な予感がするのだが……」

 

互いにだけ聞こえる声量で密談を交わしていると、背後のドアが再び開かれる。

入室してきたのは先程までドクターの背後に立っていた中の一人だ、額には冷や汗が浮かび、ここまで走って来たのか肩で息をしている。

 

「た、大変だ! 魔法少女ヴァイオレットが――――脱走した!!」

 

「……つまり、こういう事ですよ」

 

そして彼が持ってきたものは、予想通りの報告だった。

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