俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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終わりの始まり ⑦

「えー、魔法少女ヴァイオレットの逃走と我々には何の関係もございません。 すべて彼女の独断です」

 

「な、何を白々しい事を! 貴様、奴が逃げる前に何を話していた!?」

 

「他愛ない会話ですよ、皆さんも聞いていたでしょう? 何か不審な点があればすぐに指摘もあるかと思うのですが……」

 

「……チィッ!」

 

駄目だ、いくら問い詰めたところで埒が明かない。 整髪料で整えた髪が台無しだ。

この魔法少女とドクターの会話はすべて監視の目がある中で行われたもの、それを蒸し返して「気づきませんでした」と宣言することは警視庁の人間として落ち度を認める事になる。

何か2人だけで通じる暗号があったのかもしれないが、今さら部下に問いただしても無駄だろう。 この件については煮え湯を飲む思いだがこれ以上の糾弾は無理だ。

 

「しかし困りましたね、流石にドクターが逃げたとあれば我々も動かなければなりません」

 

「そ、そうだ! すぐに連れ戻せ、これは魔法局の管理責任問題だ!」

 

「ええ、なるべく早く捕獲できるように手を尽くします。 遠くに逃げる前に手を打ちたいので、よろしいですか?」

 

「い……ぃ……」

 

……「いいだろう」と飛び出しかけた言葉を寸前で飲み込む。 許可を出して本当に良いのだろうか?

そもそも自分たちが魔法局にやって来たのは魔法少女の動きを牽制するため、そしていざという時に自分たちの身を守る私兵を確保するためだ。

魔法少女ヴァイオレットの逃走はイレギュラーなものではない、何か企みがあるに違いない。

 

「大丈夫ですか、顔色が悪いですよ?」

 

「おま……お前……お前らは……」

 

無駄だ、何を聞いたところで知らぬ存ぜぬで通されるに決まっている。

逃げ出したヴァイオレットの捕獲は自分達の力では不可能だ、魔法少女の力を借りるしかない。

魔法戦力の監視・確保が目的だというのに、いつの間にかこいつらの出動を抑制どころか認可しなければならない状況に立たせられている。

 

「どうしました、ただ一言“良し”と言っていただければ何も問題はありません。 それともみすみす彼女を逃がすおつもりで?」

 

YESと言おうがNOと言おうが自分の首を絞めることに変わりはない。

だが目の前の魔法少女は確かな言質を取るまで俺を逃がさない気だ。

 

「う、ぐぅ……うううぅ……!」

 

初めから見誤っていた。 たかがガキ数人、多少脅してエサを用意すれば簡単になびくはずだと。

だが違う、こいつらは子供なんかじゃない、自分よりもずっと多くの修羅場を潜り抜けて来た化け物だ。

 

――――エサになるのは、自分達だった。

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「取りましたよ、言質! 私達の勝ちです!」

 

証拠を録音したテープと、念のために一筆したためてもらった誓約書を高らかに掲げる。

完全に解けたわけではないが、これで警視庁からの行動制限は大分和らいだ、今なら隙を見て東京へ向かうことも可能だ。

 

「Yeah! さっそく出動だヨ、街の様子も確かめないとネ!」

 

「我も行こう、ラピリスは我らが気を引く間に抜け出して……」

 

「いいえ、監視の目もすべて消えたわけではありません。 一人は魔法局に居残る必要があります」

 

「むぅ、それならば我が残るべきか?」

 

「いいえ、焦る必要はないですよ。 ドクターからは“待て”と言われているのですから」

 

彼女が姿を消したのは時間稼ぎだ、ペンダントの改造にそれだけ時間がかかるのだろう。

たとえ東京内の魔力が拡散したとしても、ドクターの準備が完了するまでに先走ってはいけない。

 

「それに第一に考えるべきは街の安全です、これからは魔物の出現頻度が一層上がることでしょう」

 

「そっか、ドクターが抜けた分の穴を私達が埋めなきゃいけないんだネ」

 

「ええ、ドクターの動きが見えるまでは3人で交代しながら街の巡回です。 しばらく休日はないと思ってください」

 

「任せよ、我も3徹まではいけるぞ!」

 

「徹夜しなくても3人なら8時間ずつ交代で大丈夫カナ、サムライガールもそれでOK?」

 

「構いません、何かあればすぐに連絡を取り合うようにしましょう。 最初は私が出るので2人は休んでいてください」

 

「無理は禁物だからネ。 ……けどサ、案外冷静だね」

 

「そう見えますか? ならばよかったです」

 

本当は腸が煮えくり返っているし、何度鯉口に手を掛けたか分からない。

この緊急事態にゴチャゴチャと鬱陶しい戯言を並べ、人同士でいがみ合うなどなんと不毛な事だろうか。

それでも一線を超えなかったのはドクターからの忠言と、ブルームスターたちの安否に思考の容量が取られていたおかげだ。

 

「…………サムライガール、ずんばらりんしちゃったら今度こそ警察のお世話になるからネ?」

 

「失礼な、峰打ちで済ませる理性は残ってますよ」

 

「我は峰打ちでもだいぶ危ういと思う……」

 

ゴルドロスのおちょくりも躱し、巡回のために作戦室の扉を開く。

……すでに壁の崩落から大分時間が過ぎた、街の様子も気になるが、東京にいるはずのブルームスターたちは何をしているのだろうか。

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