俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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勝利のための方程式 ②

「……お兄ちゃんの調子はどうだった?」

 

「あっ、月夜ちゃん……精神的にだいぶ参ってますね、食事も睡眠も取っていないです」

 

すこし考え事をしたいというマスターから少し離れ、適当な廃屋でインスタント食品の後片付けをしていると、音もなく月夜ちゃんが姿を現した。

ンロギとの戦いで受けたダメージが後を引いているのか、元から色白だった彼女の顔色は更に白みを増している。

 

「……睡眠も食事も確かに今の私たちに必要ないよ、だけど感覚としては嗜好品の延長みたいなものなんだ。 摂れるなら摂ったほうが良い」

 

「なおさら今のマスターには必要ですね、気絶させてでも眠らせましょうっ!」

 

「ふっ……今のお兄ちゃんには難しいと思うなあ」

 

冗談交じりに自らの掌に拳を打ち付けてみせると、珍しく月夜ちゃんがほほ笑んだ。

私の前で笑ってみせたのは初めてかもしれない、花が綻ぶようなその笑みはお世辞を抜いても美人と言える。

しかし彼女も笑ってしまったのは本意ではなかったらしく、すぐにはっと気づいていつもの凍るような無表情へと変わった。

 

「……今のは、違うから。 あなたに心を許したわけじゃない」

 

「そ、そんなぁ。 折角仲良くなれたと思ったのに……」

 

「そ、そんな顔したって駄目だから! お兄ちゃんは、私の……」

 

口に出しかけた言葉を飲み込み、月夜ちゃんが顔を伏せる。

 

「……ごめん、本当は分かってる、こんなの醜い感情だって。 お兄ちゃんとずっと一緒にいたあなたにやきもちを妬いてる」

 

「そんなことないですよ、月夜ちゃんはお兄ちゃん思いなだけです」

 

「でも……“私”は本物じゃないんだよ。 出来るだけ正確に七篠月夜のデータを複写しているだけ」

 

「そんなこと言ったら、私なんて自己の存在すらあやふやですよ」

 

10年前、この世界に魔力を拡散させた母体とでも言おうか。 

研究施設を巻きこみ、東京を焦土と化した爆発に乗せて拡散した母体の欠片が「ハク」という存在だ。

スワンプマン、あるいはテセウスの船か。 自分が母体から連続した存在なのか、独立した個体なのか自信がない。

 

「でも私はマスターが好きで、この世界を守りたくて、いなくなってほしくない人たちがいる。 月夜ちゃんはマスターが大好きですか?」

 

「うん、大好き。 始まりがコピーだったとしても、“私”はこの気持ちを否定したくない」

 

「ならそれでいいじゃないですか。 気持ちが本物なら自分が何者かなんて関係ない、後ろめたいことなんて欠片もありません」

 

「そうだね……そっか、気にしなくていいんだ」

 

ふと、月夜ちゃんの表情から憑き物が落ちたように見えた。

自己性を見失うという恐怖は私には共感できないが、心のどこかではずっと気に病んでいたのかもしれない。

 

「そっか……もう、この気持ちに嘘をつかなくていいんだね……!」

 

「あれ、もしかして私なんかやっちゃいました?」

 

一転して、法悦に浸るような笑顔で虚空を仰ぐ様子は、とてもじゃないが肉親に向ける感情の圧ではない。

だけどきっと恐らくたぶん私の思い違いだろう、そう思う事にする。 

それはそれとしてマスターは危ない女の子を引き付けるフェロモンでも出しているのだろうか。

 

「ありがとう、ハクちゃん。 私吹っ切れたよ……もしもこの戦いが終わってまだ生きていたなら、やりたい事が出来た」

 

「やめましょう、その発言は色々とまずいです」

 

この戦いが終わったら、なんて洒落にもならない状況だ。

第一、もし本当にこの戦いが終わって“生きていたら”なんて……

 

「…………月夜ちゃん、私達の勝利条件って何でしょうかね」

 

「まず一番大事なのはンロギの撃破かな。 あれがいる限り、いつこの世界が終わってもおかしくはない」

 

「それともう一つ、ありますよね」

 

「……魔力の根絶、だね。 少なくとも賢者の石なんて存在は消し去らないといけない」

 

賢者の石、いまだマスターたちの体内で息づく諸悪の根源。

石が存在する限り、魔力は際限なく増え続ける。 その先に待っているのは生命が死滅した不毛の星だ。

世界の滅亡を避けるためには、マスターたちの命ごと石を砕くほかない――――と、思っていた。

 

「……月夜ちゃん、やっぱり私は嫌です。 二人が犠牲になるのは」

 

「でも私達はもはや賢者の石と一心同体なんだ、引き剥がすことは出来ない」

 

「引き剥がすことは無理でも()()()はどうですか?」

 

「……それってつまり?」

 

「私、もう一回ネロちゃんと話がしたいです。 彼女がもつ力ならどうにかなるかもしれない!」

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