俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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何が彼を突き動かすのか ②

「うるっさいですよコルトォ! こんな朝から近所迷惑なのが分かりませんか!」

 

「お呼びじゃないんだよサムライガール! 結局あれからおにーさんは帰って来たのカナ!?」

 

階段を降りると既にアオとコルトの2人が火花を散らしていた。

アオの恰好は寝間着のままだ、跳び起きてそのまま下まで降りてきたのだろう。

 

「うるっさいよコルト、ンな大声出さなくても聞こえてるっての」

 

「お兄さん! いつの間に帰っていたんですか?」

 

「深夜過ぎだよ、色々トラブルに巻き込まれてね。 心配かけた」

 

「ほんとだヨー、昨日サムライガールうるさかったんだからネ」

 

「おだまりやがれ!」

 

「はいはいそこまでそこまで。 丁度いいや、全員で朝食にしよう」

 

掌を叩いて2人の喧嘩を断ち切り、少女たちを店内へ招く。

そういえば昨日はロクに食べ物も口にしていない、思い出した途端に胃が悲鳴を上げ始めた。

 

「ヤッター! 私ベーコン、厚切りで!」

 

「少しは遠慮しなさい、それにお兄さんも顔に疲れが見えます。 無理をせずとも休んで……」

 

「良いって良いって、ついでだし余りものも食いきってしまうか」

 

「……ボクもご相伴にあずかっても良いかな?」

 

――――アオとコルトに紛れても、もう一人分の声が差し込まれた。

それは聞き覚えがある、できればもう二度と会いたくなかった声。

 

「……ドクター? 珍しいですね、あなたも付いて来たのですか」

 

「君がメディカルチェックも忘れて本部に戻らなかったからだろう、ペンダントの微調整も必要だというのに」

 

古村咲、またの名を魔法少女ヴァイオレット。

今日は魔法少女としての白衣姿とは異なり、某有名ゲームキャラのイラストがプリントされたTシャツにドット模様のパーカーを被っている。

 

「やあ、花粉事件以来かな? 元気そうで何よりだよ、葵のお兄さん」

 

「あ、ああ。 確か咲ちゃんだっけ?」

 

「ちゃん付けはやめてくれ、しかし……ふむ、すまないが少ししゃがんでもらっていいかな」

 

「……?」

 

動揺は顔に出ていないと思いたいが、何かヘマを踏んだだろうか。

落ち着け、とにかく怪しまれるようなそぶりを見せてはいけない、大人しくしゃがんで見せる。

すると彼女の細い指先が、俺の目の下を優しく撫でた。

 

「……顔色が悪いな、寝不足かい? 栄養も足りていないしストレス気味だ、朝食はしっかり取った方が良い」

 

「ははは、そりゃどうも……」

 

にゃろう、心臓に悪い真似をしてくれる。

この子は何だか苦手だ、水晶のような瞳はまるで何でも見透かすかのようにこちらを見つめてくる。

 

「ヘイヘイサムライガール、あれって良いの? ノットギルティ?」

 

「……ドクター、ちょっと嫌いです」

 

「な、何故だい?」

 

少女三人の姦しい会話を背に向けてそそくさと調理場へ逃げる。

優子さんはいつも通りまだ起きてこないか……なら自分含めて4人分、ちゃちゃっと作ってしまおう。

 

「……そういえばもう一人拾ってきたんだけどサ、あの子どこ行ったノ?」

 

「ああ、扉の影に隠れてるよ」

 

「ん? もう一人誰か来てんのか?」

 

調理場から首を覗かせて扉の方に目を向けると、擦りガラスの向こうにアオ達と同じぐらいの背恰好をしたシルエットが見える。

ヒラヒラと揺れるおさげは見覚えがある、あれは……

 

「……詩織ちゃん?」

 

「こ、こんにち……わ……七篠、さん……!」

 

「ほらほらこっちに来た来タ、ヘイマスター! この子にもブレックファーストセット1つ!」

 

「へいへい、けど2人はともかくどうしたんだ詩織ちゃん?」

 

「えっと、その……ま、前に食べた時、ご飯が美味しくて……!」

 

そりゃ嬉しい、自分の腕にそれほど自負があるわけではないが言われて嫌なセリフじゃない。

これは期待を裏切るわけにもいかないな、とびっきりのものを作らなくては。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

《ない、ない、ない、無いぃ……》

 

魔法局のサイトから深部まで潜り込んでどれぐらい時間が経っただろう。

手当たり次第に散らばる情報を漁るがこれだと思えるような情報は見当たらない。

もっと深く潜れば魔法少女の個人情報を管理しているような場所もありそうだが、そんな機密情報が保存されたものは回線から独立した端末で保管されている。

道が断たれていては流石の私もたどり着けない、できるのはせいぜい見える範囲・戻る事が出来る範囲で手掛かりを探すくらいだ。

 

《……それにしてもおかしいですね、個人情報には届かなくてもちょっとした拍子に名前程度は出てきてもおかしくはないと思いますけど》

 

漁った情報の中にはラピリスやゴルドロスと言った見知った顔の名前が出てくるファイルも多い。

しかしそこから幾ら古いログを辿っても『スノーフレイク』というワードが全く出てこないのだ。

 

店長の記憶違いか? いや、そうだとしても似たような名前すら出てこないのは妙だ。

データが残されていない、その理由は一体何だ?

 

《……削除された?》

 

古いログを投げ捨て、適当な端末を巡って「ゴミ箱」に捨てられた情報を集める。

しかし駄目だ、どれもこれも日にちが新しすぎる。

 

もっとだ、完全に削除されたデータを掬い上げて更に古い日にちのものを集めて行く。

……すると、その中にたった一つだけ『スノーフレイク』に関する記述を発見できた。

 

《魔法少女名:スノーフレイク、本名:七篠月夜……》

 

無いはずの心臓が強く跳ねた気がした、漸く目当ての情報を手にしたことに強い高揚感が立ち上る。

破損寸前のテキストデータを壊さないよう、慎重に読み解いていく。

 

《えーと、なお当魔法少女は既に死亡……ここに間違いはありませんね》

 

出来れば間違いであってほしかったが、しかしそれなら大事に保管される理由こそあれ何故こんな所に放棄されているのだろうか。

――――その理由は読み進めていくと自然と分かった。

 

《彼女が持つ魔法は魔力を冷気として放ち、物質はもちろんエネルギーや概念に至るまでを凍結出来る……すごいじゃないですか! ……え?》

 

虫食いだらけのテキストデータ、それでも奇跡的に残された一文に目が留まる。

一見強力に思える彼女の魔法、しかしそれには一つだけ大きなデメリットがあった。

 

《……彼女が魔法を使うほど、「七篠月夜」という存在が融解する……?》

 

彼女が部屋に飾った花瓶が消えた、親しい付き合いの魔法少女が名前を忘れた、命を救ったはずの民間人が礼も言わずに立ち去る、ふとした拍子に彼女の存在を見落としてしまう。

文中には悲しみと共にそんな事が綴られていた。

 

詩的な表現だがつまり彼女が魔法を使えば使うほど誰かが彼女の存在を忘れるということ。

記憶だけではなく、彼女が干渉した事実までもが不自然に消えて行く。

そんなことがあり得るのか? いや、それならここまで情報が見つからなかった理由にも説明がつく。

 

《強い意志力、または血の繋がりがあるものはある程度の耐性を持つが、それでも認識の風化は免れず……》

 

なら一体、マスターはどれだけの意思をもって彼女の事を覚えているのだろう。

ここまで痕跡が消えてしまった妹を、罪の意識に苛まれながらもずっと覚えている。

それがどれほど惨たらしいものなのか、何も知らない私は知る事も出来ない。

テキストデータを握る腕に力が籠る、私はマスターのために何ができるのだろう。

 

……その時、後ろ首に何かが刺さるような感覚が奔った。

続いて間髪入れずに鳴り響くうるさいほどの警告音。 しまった、寝不足のせいか油断した。

どうやら何らかのセキュリティに引っかかったようだ、けたたましい警告は一切止む様子がない。

 

《うわわわ、やっばやっば……!》

 

慌てて手元のデータを丁寧に抱きかかえ、脱兎の如くその場から離脱する。

自分の痕跡を残さないよう、細心の注意を払いながら――――

 





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【魔法少女名:スノーフレイク】 本名:七篠月夜 (〇〇年〇月〇日 死亡)

彼女に発現した固有魔法は「凍化の魔法」、
杖を媒体にあらゆるものを凍らせる『冷気』を放つことができる。
この冷気は通常の凍結現象だけに留まらず、目には見えない運動エネルギーや概念
そういったものを「凍らせる」事も出来る非常に強力な魔法である。
事前の実験では銃から発射された弾丸の停止、細胞を壊さずに傷口だけを凍らせるなど……
まあ詳しい内容は別に用意した動画ファイルを確認してほしい、残っていればの話だが。

……そう、残っていればだ。 強力な彼女の能力だが1つ致命的な副作用がある、
それは【彼女が魔法を使うほど「七篠月夜」という存在が融解】するというものだ。
詩的だがあえてこう表現させてもらおう。 彼女は『雪』だ、何かを凍らせるたびにその身が溶ける。
この世界から彼女の痕跡が溶けて消え、誰もが七篠月夜という存在を忘れてしまう。

彼女が作戦室に飾った花瓶が消えた、親しい付き合いの魔法少女が名前を忘れた、
命を救ったはずの民間人が礼も言わずに立ち去る、ふとした拍子に姿を見失う。

身を削った彼女の活躍を誰も覚える事が出来ない、それは一体どれだけ残酷な事なのだろう。
彼女の死後、この文章が残る事を願う。 頼む、誰でも良い、彼女の事を思い出してくれ。
七篠月夜は確かにこの世界に存在していたんだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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