俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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皆底に沈む ⑥

「わー! 駄目です、こっちも行き止まりですよ!」

 

「どんどん狭まってきてるわね、もうちょっとぐらい仕事遅くてもいいってのに!」

 

防衛システム(ンロギ)からの逃走劇はすぐに終わってしまった、なにせ逃げる先の道がない。

この闇の中心部から逃げればすぐに見えない壁のようなもの阻まれる、空間の体積がみるみると減っているのだ。

不用意に空間の端へ行けば、外のラピリスちゃん達からまとめて斬り飛ばされかねない。

 

「……追ってくる気配がないわね、創造主」

 

「まったく性格悪いですね、逃げ道がないってわかっているんですよ」

 

「ちょっと、創造主のことを悪く……いや、返す言葉はないわね」

 

いくら生みの親とはいえ、自分の命すら無下に扱った相手だ。

ネロちゃんも流石に擁護は諦め、額を抑えてしゃがみ込んでしまった。

 

「駄目だわ、詰みね。 このまま空間の消滅に巻き込まれるか、創造主に殺されるかしかないわ」

 

「ネロちゃん、あれはあなたのお父さんじゃありませんよ。 同じ姿をしたただの防衛システムって言ってました」

 

「同じでしょ、だってあれは――――……」

 

「……あれは?」

 

「……創造主、の……力で、生み出されたもの……だわ」

 

何かに気付いたのか、絶望に沈んでいたネロちゃんの表情に別の色が差し始めた。

創造主、つまりンロギが作成したシステムならば……それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いや……いや、でもあり得ないわ。 私を殺すためのシステムなんでしょ? 欠陥構造すぎるでしょ」

 

「正確にはあなたの暴走を止める人を殺すための装置です、ネロちゃん自身の反乱は想定してなかったかもしれないですね」

 

「だとしても精神だけの私が十全に対抗できるか……」

 

「まあまあ、どうせ楽に死ぬか苦しんで死ぬかの違いしかないんですよ。 同じ末路なら前向きに倒れましょう!」

 

「あんたねぇ……あーちょっと! 分かった分かったから、腕引っ張んないでよ、不安定なアバターって言ってるでしょこれ!?」

 

灯台下暗し、あの防衛システムの天敵は守るべき存在そのものだ。

賢者の石の権能を弱体化させるネロちゃんの力があれば、あのお邪魔者も何とかできる。

 

「……もしかしてだけど、あんたたちっていっつもこんな危ない橋ばっか渡ってたの?」

 

「ええ、死にかけたのも一度や二度じゃありませんよ。 そのたびにマスターは傷ついて来ました」

 

思い返してもなぜ生きているのか分からない死線ばかり潜り、同じ数だけマスターは何を失ってきた。

黒衣で焦がした代償も、零れた血や肉も、賢者の石の対価だって二度と戻っては来ないというのに。

 

「でも私は、ずっとそばで見ているだけしかできなかったんです」

 

「なに、惚れてんの?」

 

「いいえ、まったく」

 

「えぇ……? どういう主従関係なのよアンタら……」

 

「相棒ですよ、上も下もありません」

 

だからこそ、恥じる事なく隣に立てる“私”でありたい。

マスターの無茶をただ眺めているばかりでは、いつかあの人だけがどこか遠い所に行ってしまいそうで恐ろしくなる。

 

「はぁー……恵まれてたのね、あんたは」

 

「ええ、とんでもない幸運でしたよ」

 

ネロちゃんと交わすマスターの話は、幾らでも続けられる気がした。

しかし状況はそれを許さない、越えなければならない敵は目前に立ちはだかる。

もしラピリスちゃん達の目論見が成功したとしても、私達がやつを倒さなければ全てが台無しだ。

 

『よぉ、死に方はようやく決まったか? リクエストなら聞いておこうか』

 

「そうですね、お味噌汁が飲みたいです。 帰ったら暖かい味噌汁で乾杯しましょうよ、ネロちゃん」

 

『……なるほど、状況が呑み込めてねえ馬鹿が一匹ね。 お前はどうする、ネロ?』

 

「わたし、は……」

 

私達の前に立ちはだかるのは、ネロちゃんを縛る呪いだ。

この悪夢を乗り越えない限り、きっと彼女は笑って生きる事が出来ない。

 

『お前を創ってやった恩を忘れたか? なぁ、最期ぐらい僕の役に立つんだろお前?』

 

「私は……」

 

『今さら掌返してさァ、僕を裏切って許されるわけないだろ。 誰もお間を許しちゃくれない、お前だって同罪なんだよ恥知らず』

 

「私は……私は……! ああ、もうッ!!」

 

暗闇の彼方まで響くほどの音を立て、ネロちゃんは自ら両頬を全力で叩く。

不安定でデリケートと言っていた彼女のアバターには赤い紅葉が色濃く残り、目じりにはじんわり涙も浮かんでいる。

しかし、代償として十分覚悟は決まったらしい。

 

「私は……もう従わない! 道具なんかじゃない、もっと楽しいことがしたい! 創造主の命令で、やりたくない事なんてしたくない! 私は、私は……!」

 

「ネロちゃん……」

 

「……私は、()()()()のよ……!」

 

『…………ああ、そうかよ』

 

苛立ちを隠そうともしないンロギが指を鳴らすと、その背後に光の球体がいくつも現れる。

思い出すのは、先ほど私の鼻先を掠めた凄まじい光線――――

 

『――――じゃあ沈め、この黒い水の底に……お前らガラクタ共2体仲良くさぁ!!』

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