俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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皆底に沈む ⑧

「ドクター、どうです!?」

 

「ああ、十分だ! 二人ともよくやった!」

 

「やっとだヨ! もー散財しちゃったからネ私!」

 

炎剣で最後の一端を断ち切れば、液体の全長は3mほどにまで縮小していた。

再生速度こそ鈍っているが、余計な時間は掛けられない。 また膨れ上がる前に次の行動に移さねば。

 

「っし! 魔力充填完了、いつでもいけるっしょ!!」

 

「こちらも執筆は済んでいるぞ、いつでも征ける!」

 

「では合図とともにラピリス達と交代だ。 いくぞ、1・2の……」

 

ヴィーラ達の用意を確認し、ドクターがカウントを始める。

作戦開始から何分が経過した? 液体内に取り込まれたという方々の安否は無事だろうか。

胸に渦巻く不安は断ち切れない、それでも最善は尽くしたはずだ。 あとはドクターとブルームスターの案を信じるだけだ。

 

「……3!!」

 

「っしゃ! 全員伏せて――――なッ!!」

 

力強い一歩を踏み出し、前方と私達と入れ替わる様にヴィーラが液体の目前に躍り出る。

そのままゴルフスイングのように振るわれた鉄槌は大地を抉りながら、液体を真芯で捉えた。

 

「図書っ子、今!!」

 

「うむ、承知した!」

 

鉄槌の表面に先んじて紙片を張り付いていたのか、衝突と同時に液体全体が瞬く間に凍結する。

飛び散ることも許されず、1つの氷塊と化した液体はそのまま地を揺るがす速度で天高く打ち上げられた。

 

「凍結と同時に風圧で加速させている、ヴィーラの拒絶に加えてさらに高さは稼げるだろう」

 

「やるネ、シルヴァ―ガール! でもちょっとやり過ぎじゃないカナ……?」

 

「警戒を重ねてやり過ぎるという事はないだろう、なにせ()()が跳んでくるんだ」

 

「まったく、周囲の汚染被害を考えて打ち上げてくれとは……無茶を言ってくれるものですね、あの阿呆は」

 

あっという間に豆粒ほどの大きさになってしまったが、それでも暮れなずむ空の中に浮かぶ陽炎のような"揺らぎ”は辛うじて見える。

あれだけ顔を合わせて説教をしたかった相手が現れるというのに、まったく手を出せないというのは何とも歯痒い。

だが今は手を出すだけで邪魔になる、腹立たしいがあとは彼女の成功を祈ることしかできない。

 

「頼みましたよ……ブルームスター」

 

日の沈む空に映える白い人影が、揺らぐ陽炎の向こうから現れた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

『グ―――ガ―――――アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!????』

 

触れた部分から肉が崩れる嫌な手ごたえが伝わって来る。

創造主の形と性格を模した防衛システム、その根幹は賢者の石によって作られたものだ。

そんな存在が賢者の石の天敵である私に接触した時点で、勝負は決していた。

 

『テ、メェ……テメェ、ネロォ!! よくもテメェお前よくも僕にこんなお前ェ!!』

 

「……ごめんなさい、創造主……私は、あなたを裏切るわ……!」

 

視界が霞み、呼吸が乱れる。 動揺するな、そして最後まで決して油断するな。

肉体を失ったせいか、まだ効き目が弱い。 創造主の身体は崩壊しかけているがまだ生きている。

 

「ネロちゃん、危険です! 離れて!!」

 

「駄目よ、まだ仕留めてない。 最後まで完璧に……」

 

『だったらお前も道連れにしてやるよォ!!』

 

だが、崩壊を待つだけだった創造主の顔が悪辣に歪む。

嫌な予感が背筋を走るがもう遅い、死に体とは思えない強烈な握力が私の腕をわし掴みにした。

 

『僕の残りの力全部くれてやるよ! お前らの思い通りになんかさせるかよザマァ見ろ!!』

 

「くっ、自爆する気!?」

 

まずい、かなり狭まったこの空間では逃げ場がない。

暴走する魔力を私の力で抑え込もうにも間に合わない。

 

「ネロちゃ――――!」

 

「――――だろうな、お前はただじゃ死なないだろうよ」

 

どこかで聞いた事のあるムカつく声が、真上から降って来た。

そして私を掴む創造主の腕を寸分たがわず切断したそれは、淀みない動きで私とお人よしを抱きかかえて後ろへと跳ぶ。

 

『ン、なぁ…………!?』

 

「悪いな、ハク。 助けに来るのが遅れた」

 

「ま……マスター!!」

 

白いローブの下から現れる、髪の毛の先まで白い女の子。

万事休すのこの局面を狙いすますように現れたのは、創造主によって賢者の石を埋め込まれたお人よしの相棒だった。

 

『まがい物の……石ころがあああああああああああああああ!!!!!』

 

「もう一回跳ぶぞ、掴まってろ!」

 

「ちょっと、間に合うの!?」

 

「間に合わせる、舌噛むなよッ!!」

 

跳躍と共に全身へ掛かる意識が飛びそうな負荷、そして耳を劈く爆発音。

背後から迫りくる爆熱から逃れ、暗闇の中にぽっかりと開いた白い穴から飛び出すと、手を伸ばせば届きそうな星空が広がっていた。

 

「ぷ……はぁ!! 空気が……空気が美味しい……!!」

 

「だろうな……って、お前体が透けてるぞ!」

 

「ああそうでした! スマホ出してくださいマスター、ネロちゃんの収納を試みます!」

 

「そう言う事はもっと早く言え!!」

 

黒い液体と化した空間から飛び出た途端、実体を持たない私の体は存在が薄れ始めた。

あとは当初の予定通り、取り出された端末へ自己の存在を転写するだけだが……正直成功するかは怪しい。

 

「大丈夫ですよネロちゃん! なんとかここまで逃げ延びたんですから、きっと大丈夫です!」

 

「励ましにしても根拠がなさすぎるでしょ……ま、ありがたく受け取っておくわ」

 

端末の画面に触れ、転写を開始する。

元からこのお人よしが入っていたものだからだろうか、読み込みは非常に安定していた。

 

「……行ける、かも。 ねえ、()()! これならいけるわ、私生きて―――!」

 

「――――ケホッ」

 

「…………え?」

 

歓喜を胸に彼女の方へ振り返ると、嫌な焦げ臭さが鼻を突いた。

咳き込みと共に、お人よしの口から鮮血が零れる。 本人も自ら吐き出したそれが何なのか理解できていない様子だった。

 

「あ、れ……? おか、し……ですね……痛……」

 

「ハ、ク……? ハク!!!」

 

燻ぶる煙が燻る彼女の胸元には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。

 

 

 

 

 

 

『―――――言ったろ、お前らの思い通りになんかさせるかよバァーカ』

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