俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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誰が彼女を殺すのか ①

熱、風圧、僅かな異物、そして毒。

ネロのやつによって散らされた残りの魔力をすべて殺意へと変換させる。

許せねえ、許せるはずがねえ。 お粗末な思考回路の癖に僕をコケにしやがって。

 

自分は本物ではない、だからここで終わりじゃない、まだ無茶が出来る。 

絶対に生きては返さない、壊れる間際の余力の全てを使ってでも前らの成功に瑕疵を付けてやる。

あいつらに一番痛みを与えるには、どうすればいい?

 

『……やっぱり、お前だよなぁ?』

 

作戦変更、爆風は目くらましと敵の視野狭窄に当てる見掛け倒し。

本命はこっちにしよう。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「…………あ、れ……?」

 

なぜ、自分の口から血が零れるのか分からなかった。

しかし自分の胸にぽっかりと開いた風穴を見下ろせば、その理由は自ずと知れた。

ああ、最後の最後にドジを踏んでしまったのだと。

 

「ハク……? ハク!!」

 

マスターの悲痛な叫びが遠のく意識に木霊する。

傷口が熱い、おそらく私の体を貫いたのは液体内で散々撃たれたあの熱線だ。

爆発の衝撃で飛散したのか、私達が飛びあがった空中にはいくつもの黒い雫が周囲を舞っていた。

 

そしてすべての液体は、今にも撃ちださんばかりに白い光を湛えていた。

 

「ちょっとあんた、後ろ!!」

 

「……! クソッ!!」

 

間一髪撃ちだされる寸前にネロちゃんが気づき、私の体を抱きかかえたままマスターが空間を跳躍する。

意識が完全に途切れる寸前に私が見たのは、もはや見慣れたあの東京の景色だった。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「お兄ちゃ……ハクちゃん!!」

 

「スノー、凍結!!」

 

「わ、分かった!!」

 

短い言葉でも俺の意図をすぐに汲み、スノーフレイクがハクの傷口を凍結させる。

凍化の魔法のお蔭でなんとか現状の悪化は免れたが、致命傷に変わりはない。

 

「ど、どうなるのよ……ねえ、助かるの!?」

 

「お前は出て来るな、身体が消えるぞ! おいハク、聞こえるか!?」

 

「駄目、起こさないで! まずは安静にして、私が押しとどめるから……!」

 

今にも消えそうなネロをスマホに押し込み、ハクに呼びかけるが返事はない。

指先に触れる温もりは、解けて消えてしまいそうなほどに儚いものだった。

 

「……酷い、内側からズタズタに……これじゃ、もう」

 

「退いてくれ、俺がやる!」

 

「駄目だよお兄ちゃん、ハクちゃんが制御できない状態で賢者の石を使ったら……」

 

「だったらどうしろって言うんだよ!!」

 

「それ、は……」

 

「……いや、悪い。 頭に血が上ってた」

 

俺は馬鹿か、スノーフレイクに当たったところで状況が良くなるわけじゃない。

傷口の凍結はあくまで延命処置だ、すぐにでも治療を施さないと命に関わる。

 

「……ドクターに、頼もう。 座標は分かる、急げばまだあの場に残っているはずだ」

 

「でもお兄ちゃんが出向くと……」

 

「一瞬だけだ、ハクを引き渡してすぐ戻れば問題ない」

 

先に連絡し、あらかじめ引き渡し場所を決めておけば汚染量はさほど増えないだろう。

ハクのサポートが無くても大雑把になら賢者の石の力を振るうことができる、今はこの手しかない。

 

「……お兄ちゃん、“治療”するってことは傷口の凍結は解かないといけない。 でないと患部に触れる事すらできないから」

 

「………………」

 

「ただ、ハクちゃんは今かなり危険な状態で踏みとどまっているの。 もし私の魔法を解いたら、そこから何分……いや、何秒持つか」

 

「スノーフレイク」

 

「だからね、()()だけは――――」

 

「それ以上は言わないでくれ」

 

「…………うん、ごめん」

 

瀕死のハクが横たわる傍にいることが耐えきれず、その場を立ち去る。

祈るように握りしめた携帯から通話を繋ぐと、頼みの綱は数コールで応答してくれた。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

『……なるほど。 こちらも上空でのやり取りは一部始終目撃していた、様子がおかしいと思ったがそう言う事か』

 

「時間がない、治せるかどうか教えてくれ」

 

『残酷な事だが、かなり難しいと思う』

 

絶望的な診断を下された瞬間、心臓が破裂したんじゃないかと思えるほどに大きく跳ねた。

 

『理由は2つある。 1つは君の口から聞いた限りでは即死級の致命傷という点、心臓の欠損から生き返る人間はいない』

 

「でも、ハクは……」

 

『それが理由の2つ目だ。 その子は魔人なんだろう? ボクは人を治せても魔物や魔人の手術は施せない』

 

「―――――……」

 

『……システムが違うんだ、犬や猫とはわけが違う。 ボクが扱うゲームは魔人の治療に対応していない』

 

「そう、か」

 

絞り出した声は自分でも情けないほどに震えていた。

ドクターでも治療が不可能なら、他にどんな奇跡を起こせばハクを治すことができる?

 

『……すぐに割り切るのは難しいだろう、ボクだってそうだった。 だが敵は君が立ち上がるのを待ってはくれないらしい』

 

「なにか……あったのか……?」

 

『ああ、君がテレポートしてすぐの話だ。 そちらに今動画を送る、一度切るぞ』

 

言うや否や通話が切断され、10秒と待たずしてメールに添付された動画ファイルが送られてきた。

表示された再生時間は3分前後。 早速開いてみれば映っているのは、ハクが撃ち抜かれたあの現場だ。

 

「…………は?」

 

――――そして夕闇に染まる空には、悪意のにじみ出た笑顔を浮かべる巨大なンロギの顔が浮かび上がっていた。

 

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