俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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誰が彼女を殺すのか ④

「切れたか……クソ、好き勝手に言ってくれる」

 

ブルームスターとの通話は第三者(ネロ)の介入を経て、一方的に切断された。

何か秘策があるようだが、この非常時に勝手な真似をしてくれる。

しかし、最後に言っていたボイジャーが回収したものとは……

 

「ドクター、ブルームスターはなんと?」

 

「さあね、何か策があるらしいが向こうものっぴきならない状況らしい」

 

「そうですか……」

 

一度魔法局まで避難してから、どうもラピリスの様子は上の空だ。

理由は分かっている、ブルームスターのことだ。 魔法少女となって強化された彼女の動体視力は、ブルームスターが転移する寸前の惨劇を見てしまった。

向こうから電話がかかってくるまでは自分も確証はなかったが、通話越しに聞いたあの悲痛な声は間違いない。

 

「……君が悔やむ事じゃない。 それに今は悲しむ暇はないはずだ」

 

「ですが、だからと言って誰も彼もが立ち上がれるわけじゃない。 あなたなら分かりますよね、ドクター」

 

「………………」

 

知っている。 平等に訪れるはずの死を、誰もが皆苦も無く乗り越えられるわけじゃない。

まして身内に等しい存在ならば、心の傷だってより一層深くなる。

 

「このままでは彼女は孤独になる。 ドクター、私はブルームスターの“友達”なんです」

 

「……なんだよ、ちょっと妬けるなぁ」

 

以前に死を覆そうとしたボクを命がけで説得しようとした親友だ、止めても言う事を聞くわけがない。

まあ、そんな彼女だから自分もギリギリで倫理を踏み越えないで済んだのか。

 

「ラピリス、これを持っていけ」

 

「……? これは、私のペンダント?」

 

「急ごしらえだが改造は終わった、無敵大戦のデータを一部写してある」

 

投げ渡したのはラピリスの強化変身を司るペンダント。 先の約束通り、対ブルーム用の対策を施したものだ。

流石に無敵とまではいかないが、東京の魔力汚染程度なら十分防ぐことができる。

 

「ボクはボクでやることがある。 門の完成まではンロギも動きを見せないはずだ、急げよ」

 

「ドクター……ありがとうございます!」

 

言うや否や、振り返りもせず駆け出す彼女の背を見送る。

……我ながら非合理的だ。 もとより時間がないこの状況、今は一人でも多くの人手を借りたうえで門の対処が優先だというのに。

 

「さて、ボクも仕事するか……シルヴァはどこに行った?」

 

徹夜続きの体をほぐし、魔法陣の解析を続けるシルヴァを探しに資料室へと足を運ぶ。

どう足掻こうと残り時間は少ない。 それなら脅威への対処も重要だが、悔いのない選択も必要だろう。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「流石に野ざらしはあんまりだからね、ハクちゃんはこの中で待ってる」

 

スノーフレイクに案内されたのは、辛うじて風化を免れていた一軒の建物だった。

元は民家だったのだろうか、表札は経年劣化が激しくて読み取れない。 

 

「じゃあ私は外を警戒してるから、安心してハクちゃんと話して」

 

「……ああ」

 

門前に俺を残し、ふらついた足取りでスノーフレイクが去っていく。

もはや不調を隠すことも難しいのか、昨日よりも確実に調子がおかしい。

 

≪……ねえ、あの子……なんで生きてるの? ()()()()()()()()?≫

 

「そうだな」

 

≪そうだなって……いや、私が言えた義理じゃないけど……≫

 

スノーフレイクの肉体は、ハクと同じくギリギリの瀬戸際を凍結させた延命状態にある。

致命傷になったのはネロの身体を使ってンロギが現れた際、胸に受けた刺突だ。

正直今生きているだけでも奇跡的なはずだ、賢者の石を殺す力で貫かれたのだから。

 

≪相棒の事は心配する癖に、あの子にはなんか薄情じゃない?≫

 

「本人が隠しているんだ、なら俺は気づかない方がいい」

 

≪…………そう、なら良いわよ、もう≫

 

錆ついた門戸を押し開けると、埃が積もった廊下の奥に、一つだけ扉が開いた部屋があるのが見える。

土足も気にせずに玄関を踏み上がり、部屋を覗き込むとそこには白いシーツを掛けたハクが横たわっていた。

 

「――――いやーマスター、お恥ずかしい限りです! こんな姿をお見せしちゃって」

 

「………………」

 

「あれれ、言葉失っちゃってます? 期待してたリアクションと違いました? 残念でしたね、この程度で口数が減る私じゃありませんよ!」

 

「ハク」

 

「あっ、ネロちゃんも来ていたんですね。よかったよかった、ちゃんとサルベージできたようで何よりです!」

 

「ハク、痛みはあるのか?」

 

「……いえ、ほとんど何も感じません。 スノーちゃんの魔法はすごいですね」

 

口だけは忙しなく動かしていたハクだが、その身体は寝たまま起き上がることすらしない。

いや、起き上がることも出来ないのか。 それほどまでにハクが受けたダメージは深刻だ。

 

「酷いですよ、これ。 傷口からさらに枝分かれした熱線が体内をズタズタに抉っているんです、よく即死しませんでしたよ私」

 

「いくら魔石が必要だ、どうすれば回復する。 教えてくれ」

 

「無理です、マスター。 私の体が変化を受け入れるためにはこの凍結を解除しないといけない」

 

スノーフレイクの魔法は、決して傷を治すものじゃない。

傷口に対する変化をプラスマイナス含めて0で固定しているだけだ。

治療を進めるために凍結を解除した瞬間、ハクには即死級の苦痛が襲い掛かってしまう。

 

「……どうしてもか」

 

「ええ、どうしてもです。 ごめんなさい、私はとんでもないドジを踏んでしまったんです」

 

ハクの語り口は、駄々をこねる子供をあやすように穏やかなものだった。

それでも俺は、その先の言葉を聞きたくはない。

 

「駄目なんですよ、マスター……私はここで、退場(おわり)なんです」

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