俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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誰が彼女を殺すのか ⑥

「驚いたな、どうやって東京の魔力を吸って生きていられるの?」

 

「優秀な仲間のおかげですよ、完全な耐性ではないですが対話するには十分です」

 

「それに思ったより早くやってきたね」

 

「ドレッドハートに感謝です、途中で彼女の拾われなければもっと時間がかかっていました」

 

 

想定外だった、彼女の介入は。 この東京に足を踏み入れる人材も、余裕も、存在しないものと思っていた。

そのうえ嫌なタイミングの来訪だ。 お兄ちゃんとハクちゃんの最期を邪魔したくはないのに。

 

「たしかラピリス、だったね……この期に及んで面白い事を言うなぁ」

 

「冗談ではありませんよ、あなた一人ではないですよね。 ブルームスターはどこですか」

 

「動かないで」

 

一歩踏み出した彼女の足元から、氷の剣山を隆起させた。

四方を取り囲む剣山の檻は、少しでも体を動かせば容易に肌を突き刺す。

 

「あなたの介入はお兄ちゃんにとって邪魔になる、それ以上進む気ならただじゃ帰さない」

 

わざわざ手間をかけてまでこの地に足を踏み入れた彼女の良心は本物だ。

だからこそ気に食わない、この惨状の中に未だ誰も傷つかない結末があると考えているお気楽な善性が。

しかし怒りをこめた氷柱を突きつけられた彼女は、少し戸惑いながらも信じられない言葉を口にした。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

「―――――うん?」

 

それは“お前頭大丈夫か?”という煽り文句ではなく、私に対する純粋な心配だった。

 

「顔色が優れていない、体の軸もぶれている。 立っているのもやっとの状態に見えます」

 

「……こんな状況で、私の容態を考えていたの?」

 

「だってあなたはブルームスターの味方ですよね」

 

―――覚えている、この子は。 誰にも記憶できないはずである私の存在を。

そうだ、思い出した。 この子はずっとお兄ちゃんと同棲していた忌々(うらやま)しい女だ。

お兄ちゃんと過ごした時間が長いため、関連性の高い私の記憶まで耐性が付いているのだろうか。

 

「そうか、確か名前はラピリスだったかな。 なんだか一目見た時から気に食わなかったんだ」

 

「わ、私何かしましたっけ……?」

 

「いいや、こっちの話だから気にしないで」

 

「と、とにかくこの拘束を解除してください! あなたも一度ドクターに診てもらったほうがいい!」

 

「無駄だよ、私ももうじき終わる」

 

衣装の襟を乱暴に引き下げ、その下の傷痕を見せつける。

硝子のような質感の肌には、心臓があるべき場所を中心にヒビが広がっている。

あきらかに人間のそれとは違う傷口を見せつけられ、ラピリスもまた驚愕に目を見開いた。

 

「どう、いう……ことですか……?」

 

「“七篠 月夜”、それが私の名前。 ずっと昔に死んじゃって、今の私は賢者の石に残された記録を頼りに構築された亡霊みたいなものだよ」

 

「七篠……ということは、お兄さんの妹さん?」

 

「魔法少女名はスノーフレイク、あなたに妹と呼ばれるのは何だか不愉快だからやめて」

 

隆起させた氷柱の一端をより深く彼女の喉元へ押し付ける。

薄皮一枚分を貫いた彼女の肌には、ぷくりと赤い血の玉が膨らみ始めた。

 

「私の体は魔法陣の定着まで持たない、ンロギとの決戦に私はいない。 なら、私にできる事は何だろうね」

 

「……それ、は」

 

「みじめだよ、お兄ちゃんの助けになりたかったのに……何もできない、何もなせない、“私”はここで砕けるだけ……!」

 

感情の高ぶりが制御できない、周囲の気温がみるみる低下していく。

心臓が軋む、胸のヒビが広がっていく。 だけどそんな事も忘れ、私は全てをぶちまけたかった。

 

「お願いだから、私から最後の役目まで奪わないでよ! あの二人の、邪魔をしないで!!」

 

「………………」

 

彼女は何も言わない、何かを話そうとすれば喉元の氷柱が一層深く突き刺さる。

ただ、言葉以上に雄弁な瞳が、じっと私を見つめ返していた。

 

そして氷の檻を突き破る炎の渦が、彼女を取り囲むように燃え上がった。

 

「……嫌な炎、まるでお兄ちゃんの真似みたい……」

 

「ええ、私は彼女に憧れていたのかもしれません」

 

炎の熱に圧され、氷の檻が決壊する。

僅かに溶け残った氷片を踏み砕き、炎と風を纏った彼女が歩み寄る。

 

「ブルームスターの傷も正体も知らず、私は彼女を漠然に仲間だと信じていました。 だけど一つだけ分かることがあります」

 

「……何を分かるっていうのかな」

 

「スノーフレイク、あなたすらいなくなったあとでブルームスターは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

―――知っている。 お兄ちゃんならきっとそう言う事をする。

詳細な方法までは分からないが、信頼という名の確信が私にはあった。

 

「……だったら、だったらどうするっていうの? 賢者の石がある限りお兄ちゃんとあなた達は共存できない、どのみち未来なんてないんだよ」

 

「そうですね、もう少し早く気付けていれば何か方法もあったかもしれない。 けど、今からでも最後まで諦めたくはない、それでもだめなら……」

 

そして彼女は……この期に及んで笑ってみせた。

 

「その時は、私も一緒に死にますよ」

 

ああ、この子は本気だ。 お兄ちゃんが死ぬときは、迷わず命を絶つ覚悟がある。

駄目だ、そんなことをしたらお兄ちゃんが悲しむから―――いや、()()

 

「――――嫌だ」

 

あまりにも醜い本音は、驚くほど簡単に口から零れ落ちていた。

 

「いやだ……やだよ、なんで? なんで、お兄ちゃんの最期まで……!?」

 

私が立てない場所で、お兄ちゃんの隣に立つ彼女が許せない。

私すらいなくなった後の傷が、埋められてしまうのが許せない。

いやだ、持っていかないで。 お兄ちゃんの中から、“私”まで持っていかないで。

 

「スノーフレイク……!?」

 

「やだよ、なんで……あなたはそんなに持っているのに、お兄ちゃんまで私から持っていかないで!!」

 

私には何もない。 誰の記憶の中にも私は残らない。

ただ一人私を覚えてくれる、お兄ちゃんまで奪わないで。

 

「お兄ちゃんを私にちょうだいよ……!!」

 

ずっと隠していたかった醜い本性がすべて、氷となってラピリスに牙を剝いた。

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