俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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鳴神 葵のはじまり ②

魔物が現れた、それ自体はいつもの事だ。

いつものように招集が掛けられ、真っ直ぐに現場へ向かう。 何も問題はなかった。

ただ一つ問題だったのは、現場にお父さんの職場が巻き込まれていたこと

 

そして、私が冷静さを欠いていたことだ。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「……大丈夫?」

 

「……ああ、あなたですか」

 

いつの間にか、窓の外は夕暮れに移り変わっていた。

縁さんが帰ってから私は明かりもつけずにテーブルスペースで座してたため、裏口から入って来た彼に怪訝な顔をされてしまった。

 

「これ、買い出し……駄目になったろ、鍋とか」

 

「ああ、お母さんが融かした奴ですか。 ありがとうございます、七篠さん」

 

彼が両手に抱えた買い物袋の中には、新品の調理器具や足りなくなった食材が入っていた。

昨日は油断した、まさか一瞬目を離しただけであんなことになるとは……なぜテフロン加工された鍋が融けたのかは今でもわからない。

 

「しかしこんな時間まで買い出しなんて、何かあったんですか?」

 

「職質されてた、この顔だからかな」

 

「……そうですか」

 

彼の顔を覆う火傷は悪い意味で人目を引いてしまう。

本人もそれを自覚し、街中ではフードで顔を隠しているようだが、傍から見れば不審者にしか見えない。

 

「買い出しは礼を言っておきます、しかしこの家に迷惑はかけるような行為は控えてくださいよ」

 

「うん、分かってる」

 

ふと、縁さんから受け取った資料の内容が脳裏に蘇る。

いや、気にするな。 確かに彼の境遇は同情できるものだが、私には関係のない話だ。

迷いが生じた数だけ刃が鈍る、またあの時の間違いを繰り返すつもりか。

 

「ちょっと、電気もつけないで何してるのあんたたち」

 

「お母さん、おかえりなさ……何ですかその手の雑誌は」

 

七篠さんを追うように入って来たのは、同じく買い物袋を手にしたお母さんだ。

ただし袋の口から覗いているのは食材などではなく、「誰でも簡単! 今日の晩御飯」などなど印字された表紙だ。

 

「安心して、次こそ行ける気がするわ」

 

「なんで虚無の実績からそこまでの自信が湧いて来るんですか?」

 

「大丈夫、全部自費購入よ」

 

「そういう問題じゃないんですよお母さん」

 

私が頭を抱える横で、七篠さんは速やかに買ってきた調理器具や食材を避難されている。

彼もまたこの家に来た初日にお母さんの洗礼を受けたものだ、判断が早い。

 

「お、俺作るんで……大丈夫ですよ、鳴神さん」

 

「素人は引っ込んでなさい、熟練の母親というものを見せてやるわ」

 

「習熟度が重ねた経験値に比例していないんですよ! いいからお母さんは引っ込んでいてください!」

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「ああもう、やっぱり鍋を駄目にしただけじゃないですか!!」

 

次の日、怒り心頭の私は駅近くの百貨店にいた。

日曜日の店内は人通りが多く、油断すれば埋もれてしまいそうだ。

結局のところお母さんのチャレンジは失敗に終わった、いっそあそこまで酷いと一種の才能かもしれない。

 

「まったく、お金も無限に出る訳じゃないですからね」

 

「まあ、本人に悪気はないんだから」

 

「……そうですね、ふんっ」

 

一番気に食わないのは、私の付き添いとしてこの男がついているということだ。

確かに日曜の昼前から子供一人でこんな所をうろついてるのは目立つかもしれないが、お母さんも何を考えているのやら。

フードを目深にかぶった男が小学生と共に行動する姿など、余計に悪目立ちするだけだろうに。

 

「いいですか、必要な備品を買い揃えたらすぐに帰りますよ。 余計なトラブルに巻き込まれるのはごめんです」

 

「ああ、分かってる」

 

覇気が感じられない返事に、理不尽ながら余計腹が立ってしまう。

虐待されていたという過去を(おもんぱか)ればしょうがないのかもしれないが、なよなよとした彼の振る舞いにはどうも憤りを覚える。

どうも彼とは反りが合わない、おそらく今後ともいい印象を持つことはないだろう。

 

「とりあえず鍋とおたま、それに秤量カップと―――」

 

スマホのメモアプリに記載していた買い物リストに目を通していると、不意に着信画面へ切り替わる。

表示された着信相手はいかにも小学生の友達を装った名前で偽装された、魔法局からのものだ。

 

「……失礼。 はい、私です」

 

『もしもし、葵ちゃん? お出かけ中だったかしら、悪いけど出動要請よ』

 

「分かりました、この近くですか?」

 

『ええ、今から詳細な場所を添付するわね』

 

通話の内容は予想通り、魔物の出現を知らせるものだった。

場所は幸いにもこの百貨店附近、魔法少女の脚ならば5分と掛からず現着できる。

 

「……七篠さん、申し訳ないですが私は急用ができました。 どうやら友達が近くにいるようなので、顔を合わせてきます」

 

「……? ああ、分かった」

 

多少無理な言いわけだっただろうか、それでもまさか目の前の小学生が魔法少女とは思うまい。

彼はあくまで部外者、お母さんの無茶振りで家にいるとはいえ、私の正体がバレる訳にはいかないのだから。

 

「こちら財布です、買い物の続きは任せます。 早めに終わればまた合流しますので、それでは!」

 

早口でまくし立て、言い返す暇もないうちにその場を離脱する。

今こうしている間にも魔物による被害は広まっている、一分一秒でも早く現場に駆け付け、魔物を斬り伏せなければならない。

そうだ、それこそが魔法少女としての“使命”なのだから。

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