俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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鳴神 葵のはじまり ⑤

迷子の少女を連れ、がむしゃらに非常階段を駆け下りる。

泣きながらも懸命に走ってくれるのは幸いだった、パニックを起こしてしまえばそれだけ避難も遅くなる。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

ビルの壁面を這うようにして伸びる非常階段からは、木の被害がよく分かった。

壁の亀裂や窓から飛び出す枝と根の浸食率が、階を下るほどみるみる減っていく。

おそらく枝葉を伸ばす本体は上階にある、そして一番浸食が酷いのは……私達がいた、スタッフルームがある階だ。

 

「……無事でいてくださいよ、七篠さん」

 

長く長く、どこまでも続いているような階段を下りきり、ようやく地上へ降り立った。

それでも重く痺れる足をそれでも前に進め、少女の手を引きながらビルからさらに距離を取る。

 

「おい、子供が逃げて来たぞ!」

 

「だ、大丈夫か!? はやくこっちに!」

 

広い駐車場まで逃げ込むと、先に避難していた大人たちが集まってくる。

木の浸食が少ない下階の人々はいち早く異常に気付き、避難できたのだろう。

だが、まだ上階には七篠さんを含め取り残された人がいる。

 

「ハァ……この、この子を……頼みます……お母さんが、いるはずです……」

 

「わ、分かっ……待ちなさい、どこに行く気だ!?」

 

迷子の少女を預け、ビルへ戻ろうとする私を大人たちが制止する。

そうだった、私はまだ変身していない。 他人から見ればか弱い少女にしか見えないはずだ。

だがこんなところで足止めされている場合じゃない、事は一分一秒を争うのだ。

 

「離してください、まだ中に人が……!」

 

「何言ってるんだ、すぐに魔法局が駆け付ける! 近づくと危険……おわっ!?」

 

言い揉める私達の間を断ち切る様に、目の前に白衣を着た小人が飛び出した。

一人だけではない、複数人でわらわらと現れた小人たちは、素早く迷子の少女に緑色のトリアージタグを張り付けて私を取り囲む。

 

『やあ、気分はどうだい?』

 

「ど、ドクター!」

 

『そう、ドクターでおなじみ魔法少女ヴァイオレットだ。 諸事情により遠隔から話してるが許してくれ』

 

こんな小人を操れる魔法少女は一人しかいない、私達が脱出する間に救助作業を始めていたようだ。

そして私を取り囲んだ小人たちは少女と同じように、私の腕にもトリアージを張り付ける。

ただしその色は緑色ではなく、重傷を示す赤いタグだった。

 

『むっ、これはいけない。 外傷はないが脳波に異常がある、直ちに搬送が必要だ脳内出血の可能性がある今すぐに手術が必要ださあ早く急がねば』

 

「えっ、あ、ちょっ……!」

 

言い返す暇もなく集まってきた小人たちに運ばれ、どんどんと駐車場から離されていく。

たしかに頭は打ったが、脳波に異常というのはただの詭弁だろう。

 

『避難者は皆表口に集まっている、裏は人目も無い。 変身するならもう少し待ってくれ』

 

「ドクター……助かります」

 

「おねーちゃーん! ありがとね、おだいじにねー!!」

 

さきほどまで泣きじゃくっていた少女の声もどんどん遠ざかっていく。

……彼女の母親は無事だろうか、もしかしたらまだ内部に取り残されているかもしれない。

それならば、助け出すのは私の仕事だ。

 

『ボクは避難者の治療で手いっぱいだ、極力サポートはするつもりだが負担をかける事になる。 すまないね』

 

「大丈夫ですよ、この程度の相手なら私だけでどうにかなります」

 

『だが君は今日すでに魔物と交戦している、コンディションも万全じゃないだろう。 無茶だけはしないでくれ』

 

「無茶せずに済むならそうしますよ――――」

 

懐からストラップ(つえ)を取り出し、刃を引き抜く。

小人たちの足取りは非常に速く、すでに人気のない裏口まで到達している。

ここまででも手助けは十二分だ、ここなら何も心配せずに魔法少女へと変われる。

 

「――――転刃!!」

 

青い光が全身を包むと同時に、私は矢の如く駆け出した。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「――――誰かいますか!? 生きていたら返事を!!」

 

商品棚が薙ぎ倒され、根がはびこる百貨店内を縦横無尽に跳ね回る。

地を、壁を、天井を、蹴りつけながら死角なく店内を探し続けるが、人影は見当たらない。

大分上の階まで登ったはずだ、なのに人がいないというのは、もうすでに……

 

「いや、そんなはずはない。 七篠さんだってきっと生きて……!」

 

 ―――――そ―――――こい―――――しつこ―――― 

 

「……! 誰か、誰かいるんですか!?」

 

一瞬だが、たしかに声が聞こえた。 聞き間違えなんかじゃない。

その場で足を止め、耳で拾う音に集中する。

この階から聞こえたものじゃない、音が漏れたのは天井の亀裂――――

 

「―――上か!!」

 

天井に向けて跳躍し、刀の鞘で殴り付ける。

根の浸食で亀裂が広がっていた天井はそれだけで崩れ、上階への道を切り開いた。

 

……悍ましいほどの根と枝で満ち溢れた、険しすぎる道のりを。

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