俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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鳴神 葵のはじまり ⑥

思わず言葉が詰まる、上階の惨状についてはある程度覚悟していた。 それでも“これ”は想定以上だ。

血管のように脈動する根と枝に覆われた室内は足の踏み場もない、地獄絵図だ。

辛うじて植物の隙間から覗くマネキンや衣類から、ここが元々衣服店のテナントが位置していた場所だと教えてくれた。

 

「こん、な力……どこから……!?」

 

目の前に広がる魔物の規模は一人で何とかなるものではない。

今からドクターに応援を……いや、二人でもまるで足りない。 これは他所からも救援を呼ばなければいけないレベルだ。

おそらく、この階に居た人たちはもう……

 

「――――キャアアアアアアアアアアア!!!」

 

「……っ!!」

 

生存者0名の文字が脳裏をよぎった瞬間、甲高い悲鳴がフロアに響く。

まだ生きている誰かがいる、蠢く木々を切り払いながらテナントを飛び出すと、通路の突き当りで根に足を取られている女性を見つけた。

一足で跳び掛かり、根を切り払って女性を助け出す。 この状況かで奇跡的にも酷い怪我は負っていないようだ。

 

「魔法少女です! 大丈夫ですか!?」

 

「あ、あぁ……助かったぁ、良かったぁ……!」

 

高校生だろうか、抱きかかえた女性は緊張から解放された反動からぽろぽろと涙を零した。

 

「もう安心です。 生存者はあなただけですか? ほかに見かけた人は?」

 

「い、いる……いっぱいいる! みんな、みんな火傷顔の人が……!」

 

「……! 分かりました、落ち着いて話してください」

 

ひとまず初めに開けた穴から階下に降り、落ち着いた女性から話を聞き出す。

涙混じりの断片的な情報だが、女性が話しているのは七篠さんの事で間違いない。

なんと彼はあの地獄染みた環境で生き延びながら、囮になりつつ他の生存者を逃がす手伝いをしていたようだ。

 

「……ありえない」

 

だが、その話を聞いてこぼれたのは安堵の息ではなかった。

最後に彼の姿を見た時の傷は相当深い、本当ならばすぐにでも治療しなければならないものだ。

囮となって走り回るなど自殺行為でしかない、しかもすべて見ず知らずの他人のためになど。

 

そんなもの善人や聖人などではない、ただの狂人だ。

 

「と、とにかくここは危険です。 階段を降りてすぐに避難を」

 

「ま、待ってよぉ! 一緒についてきてよ、アタシだけじゃ無理!」

 

「申し訳ありません、まだ救助対象がいるなら私が離れる訳にはいかない」

 

千切れんばかりに首を横に振る女性を突き放し、再び天井の穴から根と枝が蔓延る上階へ飛び込む。

階下は植物の侵食も少ない、それに危険がありそうなものはすべて切り払ってきた。 彼女だけでも十分避難できる。

それに彼女よりも救助が必要なのは、この階でまだ生きているはずの七篠さんだ。

 

「誰か、聞こえますか!? 助けに来ました、返事をしてください!!」

 

張り上げた声はむなしく人気のないフロアに木霊する。

返事はない、もしや先ほどの女性を救出したのを最期に力尽きたのだろうか。

いや、それでもこの目で死体を確認するまでは諦めてはいけない。 

 

「退きなさい……寄らば全て、斬るッ!!」

 

行く手を遮る木々を斬り伏せながら、人影を探してフロアを駆け抜けると、あることに気付いた。

無造作に伸びていると思われた木々は、すべて同じ方向から放射状に広がっているようだ。

そして鼓動のように脈打つ根には、時折赤い何かを運んでいるのが透けて見える。

 

「……中心はこの先か?」

 

魔物ならば必ず核となる急所が存在する。

木々を伸ばし、根が栄養を運ぶ先ならばきっとそこがこの魔物の心臓だ。

焦る気持ちが私の背を押す。 七篠さんの安否も気になるが、先に魔物を片付けてしまえば同じ事。

 

そして私の予感は当たっていたのか、進むほどに道を遮る木々の数が増えていく。

よほどこの先にあるものに私を近づけたくないらしい。

 

「邪魔をぉ――――するなッ!!」

 

木々がその身を絡ませ合い、編み上げて作られた壁を力任せに撫で斬ると、目的のものは見つかった。

それはまさしく「心臓」だった。 天井まで伸びた木々の中に脈動する、赤い光。

悍ましいかぐや姫だ、腫瘍のように膨れたその光のコブこそがこの魔物の核だと確信できる。 そして――――

 

「――――七篠さん! 無事……じゃ、ないですね!」

 

「あお……じゃない、魔法少女か……!?」

 

ベコベコにへこんだ消火器を握りしめ、迫りくる枝を懸命に振り払う七篠さんの姿がそこにあった。

腹部からの流血は布切れでしばりつけただけの簡単な止血処置しか施していない、よくもまあその身体でここまで生きていたものだと呆れてしまう。

 

「もう安心です、下がってください。 すぐに救急隊を呼びます、その前にあの核を斬らねば!」

 

「待て、駄目だ……斬っちゃいけない……!」

 

「何を言っているんですか、すぐにでも止めないと危険です!」

 

「駄目なんだよ……()()()()()()()()()()()、今斬れば中の人も危ない!!」

 

「―――――え……?」

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