俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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鳴神 葵のはじまり ⑨

「元気そうね、2人揃って面白い状況だって聞いたのだけど」

 

「全然楽しくないんですよ」

 

おそらく縁さんから漏れた情報だろう、私の着替えなどを持ってきたお母さんは片手にカメラを持っていた。

数分前にお兄さんの腕からすり抜けていなければ私の痴態が撮られていただろう、縁さんにはあとで話をしなければならない。

 

「荷物はここに置いておくわ、何か飲む?」

 

「お茶ください、そこの冷蔵庫に入ってます」

 

お母さんが取り出してくれたお茶のボトルを受け取り、一息つく。

長いこと気絶したせいもあり、気づかぬ間に相当喉が渇いていたようだ。 冷えたお茶が染み渡る。

 

「で、調子はどう?」

 

「ふぅ……ええ、怪我は軽傷です。 数日で退院できますよ」

 

「そう。 そっちの命知らずは?」

 

「お兄さんは……もう少し長引きますね」

 

医者曰く、腹部の傷口は下手すれば内臓が壊死していたかもしれないところまで酷かったとのことだ。

失った血液も多く、今でこそ容体も安定しているが中々目覚める様子がない。 少なくとも1日2日の退院は無理だろう。

 

「それよりお母さん、重大な話が一つあります」

 

「あなたの正体がばれたかもしれないって話でしょ、それも合わせて聞いているわ」

 

さすが縁さん、そのあたりのややこしい状況は既に説明を終えていたか。

だがこれで情報漏洩元はほぼ確定だ、やはりあとで“話し合い”はさせてもらおう。

 

「……非常に申し訳ないのですが、もしお兄さんが私の正体を知ってしまった場合は」

 

「家で預かるわ」

 

何を言ってるのか、とでも言いたげな呆れた顔でお母さんは電子タバコをふかしている。

ニコチンの入っていないただのレモンフレーバーを楽しむだけのものだが、病院内で扱うのはマナー的にどうなのだろうか。

 

「私は最初からあの子を手放すつもりはないわよ、本人が出て行くつもりなら何も言わないけど」

 

「なんでそこまで……」

 

「あなたと同じような顔をしてたのよ、だから見ていられなかった」

 

「……私と?」

 

隣のベットに移動されたお兄さんの顔を見る。

傷が痛むのか、彼の眉間にはシワが寄ってうなされているようだった。

 

「見た目の話じゃないわよ、もっと精神的なとこ。 あんたがお父さんを斬った時も同じような顔してたから」

 

「………………」

 

「あんたは悪くないわよ、怪我はあっても助かったんだから」

 

「その慰めに、私は納得できなかったんです」

 

「だから我武者羅に強くなろうとして余裕ばかりを失っていたんでしょ」

 

お母さんの言葉は私の痛い所ばかりを突く、今回の事件を振り返っても私は相当焦っていたと思う。

魔物の核を仕留める時も、お父さんのトラウマが重なってパニックを起こしていた。

お兄さんが止めなければ、もしかしたら私は取り込まれた人質ごと……

 

「どう? 私がいくら言っても聞かなかったけど、頭は冷えた?」

 

「……ええ、おかげさまで。 反省しました」

 

人の振り見て我が振り直せ、他人から見たら私も相当な自暴自棄だったのだ。

魔法少女は誰かの幸せのために戦うものだというのに、お母さんたちには心配をかけてしまった。

 

「けど“お兄さん”ねぇ……随分仲良くなったじゃない」

 

「そ、そういう訳では断じてないですよ!?」

 

ただ魔法少女ラピリスとして振る舞う時の二人称が何となく口に残っていただけだ。

深い意味はない。 ……ないはずだ、うん。

 

「まあいいわ、着替えが足りなかったら連絡して、また持って来るから。 それじゃ」

 

「お母さん、分かっていると思いますけど料理にはくれぐれも気を付けてくださいね」

 

「…………分かっているわよ」

 

去り際の表情は絶対に分かっていなかった。

駄目だ、一日でも早く退院しなければ店が大変な事になる。

 

「はぁー……縁さんには申し訳ないですけどしばらく目を光らせてもらいますか」

 

起こしていた半身をベッドに倒す。 お母さんが帰った今、しばらくは人も入ってこないだろう。

二人だけ残された病室に、しんとした沈黙が流れる。

 

「……父親を斬ってしまったんですよ、私」

 

「………………」

 

「駆け付けた時には魔物に襲われる寸前でした、冷静な判断を下す余裕もない。 一も二も無く飛び込んで、振った刀は切れ味が良すぎました」

 

私の魔法は刀の重量を任意で操作できるもので、斬撃の瞬間だけ重量を増加させれば切れ味も威力も爆発的に引き出せる。

ただ、冷静さを欠いたその時は――――少しだけ魔力の調整を誤り、その“少しだけ”が致命的だった。

初めて人を斬った時の感触は今でも掌に残っている。

 

「お父さんは重傷、意識を取り戻しても気にするなって笑ってました……けどあれからずっと自分を追い詰めて、取り戻せない過ちに後悔ばかりを繰り返していました」

 

「…………」

 

「あなたは何を失ったのですか、お兄さん。 何があなたをそこまで追い詰めたのですか」

 

「……なんだ、気づいていたのか」

 

いつの間にか意識を取り戻していた彼が、ベッドの上でゆっくりと目を開ける。

気付いたのはお母さんが帰った時だ。 なんとなく呼吸の気配が変わった気がしたので、確信はなかったが。

 

「…………俺はな、■■を見殺しにしたんだ」

 

彼の言葉はどういうわけか耳をすり抜けるようで、記憶に残らない。

だけど私は、なぜか涙を流していたと思う。

 

「力が無いから仕方ないって、見えないふりをしてたんだ。 あいつならきっと大丈夫だって」

 

「…………」

 

「■■を殺したのは俺だから、償いが必要なんだ」

 

ああ……お母さんの言う通りだ。 この人は私と同じなんだ。

自分を許す方法が分からなくて、自分を傷つける事しかできなかった。

私が幸福だと信じたい世界が、この人にとってはあまりにも残酷に牙をむいたから。

 

 

だから今度は私は、この人を幸せにしたいと願った。

それが私のはじまりだったんだ。

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