俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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雪野原にて ⑤

「うひょひょひょひょ! 魔石魔石魔石、どこを見ても魔石だらけだヨ!」

 

「弾幕薄いですわよゴルドロスさん! そろそろ援護してほしいですわー!?」

 

「ツヴァイよ、下がれ! 我が出る!」

 

入れ替わり立ち代わりながら、数えきれないほどの魔法少女が絶え間なく現われる魔物たちを叩き伏せていく。

石ころ同然の扱いで地面に散らばる魔石を集めながら、適当に空へマシンガンを放てば魔物に当たるほどだ。

いくら散財しても魔物を倒すほどに魔石を回収できる戦場は、私にとって最高の環境だった。

 

「ジャンピーン! へいへいゴルの字ぃ、でっかい石ころ拾ってきたよ! あといい感じの木の棒」

 

「ナイスだヨ、チャンピョン! デカいの行くから全員下がりナー!!」

 

両手いっぱいのグレネードを抱えてぶん投げれば、お釣りがくるほどの魔石が雨のように降り注ぐ。

ここまで全力で武器を振り回せる機会なんて一生ないだろう。

 

「ゴルドロス、チャンピョン、あまり突出するな! ボクの治療も完璧じゃないんだからな!」

 

「大丈夫だヨ、ちゃんと互いにカバーできる距離は保ってるからサ。 それより7時方向の面子が押されてるからサポ――――ドクター、下!!」

 

「……! チッ!」

 

あまりにも濃い魔力の中、嗅ぎ分けるのが遅れてしまった。

ドクターの足元に広がる地面が盛り上がり、火柱が吹き上がる。

予兆に気付いたおかげでドクターも回避したようだが、火が治まった中から現れたのは、鎌首をもたげた竜だ。

 

「まったく、次から次へと飽きさせてくれないな……」

 

『グルアアアアアアアア!!!!』

 

「ドクター、無事でして!?」

 

間一髪で火柱の直撃は回避したが、立ち位置が悪い。

私達を分断するように竜が生えてきたせいで、互いに援護が難しい状況になってしまった。

迷う時間はない、火竜の意識が再びドクターへ向く前にロケットランチャーを……

 

「―――――しゃがんでください、ドクター!!」

 

『グルーーーーギュヘ゛ッ!?』

 

……取り出すよりも早く、空から落ちて来た真っ赤なスポーツカーが火竜を押し潰した。

 

「…………What's?」

 

「う、うぐぐ……なんとか着地は成功ですね……」

 

「あはは、流石に無茶し過ぎたわぁ……!」

 

竜を轢殺した車から出て来たのは、東京で保護されたはずのサムライガールとドレッドハートだった。

煙を上げている車内には、ぐったりとしたまま動かないオーキスの姿とその頭上に乗ったクワガタ状のガジェットも見える。

まさかとは思うが、東京からこの採石場まで文字通り()()()きたとでもいうのか。

 

『ナイスコントロール、私の演算に狂いはない』

 

「園ぉー! やっと来ましたわね、早速ですけど助けてくださいまし!」

 

「うっぷ……ど、ドクター……ブルームスターは……?」

 

「ラピリス、君という奴は……!」

 

フラフラとした足取りで立ち上がりながらも、サムライガールの瞳から光は消えていない。

この終末のごとき世界の中で、今だ彼女は諦めていないのか。

 

「……ああ、もう! 言っても聞かないだろうな、ブルームスターはあっちだ! 君に施した対魔加工ならまだ耐えられるはずだ、ただし絶対に死ぬなよ!」

 

「ありがとうございます、ドクター……しばらく前線は任せます!」

 

言うや否やサムライガールの行動は速かった。 

道を塞ぐ魔物を斬り捨てながら、ブルームが戦う渦中へと向かう。

私にはその背中がとても羨ましくて仕方なかった。

 

「妬けるネ、ほんの少しだけ……へぶッ!?」

 

走る背中を見送る私の脳天に何か突き刺さる。

涙目になりながら地面に落ちたものを拾い上げてみれば、それは見覚えのあるスマホだった。

そして点灯したままの画面に映っているのは、怒りに顔を赤くしたネロだ。

 

≪……あいつ…………あいつゥ!!≫

 

「ね、ネロ!? なんでこんな所に居るんだヨ!」

 

≪知らないわよ、あのバカに聞いて!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!≫

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「――――あ……ぎ――――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!?!?!?」

 

肉が焦げる、骨の髄まで灼熱の痛みが浸透していく。

賢者の石によって強化された炎の苦痛は筆舌に尽くしがたいが、この声が聞こえただけでも十分お釣りがくる。

 

「な゛、てめ……あづうァ゛あ゛がァ゛……!!? なに、を゛……じやがった゛ぁ!?」

 

「効くだろ? 魔力を焼く炎だ、俺たちみたいなやつにとっては天敵だよ」

 

以前の東京でンロギに攻撃が届いた時を思い返す、あの時も偶然だが黒衣の炎を纏っていた。

俺の心に燃える怒りや憎しみを糧としてこの炎は、魔力に引火する。

賢者の石によって常に多大な魔力を生成する存在なんて、全身にガソリンを浴びているようなものだ。

 

「い、ぎ……いいいいいいいいいいい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 止゛め゛ろ゛止゛め゛ろ゛止゛め゛ろ゛ォ!!!」

 

「良かったよ、本当は効いてくれるか不安だった。 だがこれでお前を殺せる」

 

「う゛るせえ゛んだよォ゛!! 僕の話を聞゛け゛ェ゛!!」

 

腕の中でンロギががくが、激痛に悶える中での抵抗など押さえつけられる。

魔法で抵抗しようにも魔力を練った端から燃えてしまう以上、己の腕力以外に頼るものはない。

 

「が、ギィ゛……!! 僕゛が、こ゛ん゛なもので死ぬとでもぉ゛……!!」

 

「死にはしないよ、存在ごと消えるだけだ」

 

「―――――あ……?」

 

黒衣の炎は、俺の存在すら焼却してしまうものだ。 だからその力を賢者の石で引き上げた。

今の炎は巻き込んだ存在全てを荼毘に付し、塵ひとつも残さない災厄と化している。

 

「最初からお前が“いなかったこと”にすれば魔力なんてなくなるだろ。 だから一緒に消えてくれ」

 

「正゛気、かよ゛……テ゛メェも消゛えるんだぞ、誰゛もお前のことなん゛か゛思い出さね゛え!! それ゛でもか゛!!?」

 

「あいつらが笑える世界に魔法(おれ)はいらない」

 

俺という存在がある限り、賢者の石から溢れた魔力は無くならない。

俺がいる世界で、鳴神 葵が笑えないなら、喜んで消えよう。

 

「大丈夫だ、独りじゃない。 お前がどこに逝こうと地獄の底まで追いかけてやる」

 

「ひ、ィ゛……!? い、嫌だ……死゛に゛たくない……消え゛たくない゛ぃ……!! 何も゛為せず、何゛も゛残せず消えるなんて嫌゛だァ゛!!」

 

焼け焦げた喉でンロギが叫ぶ、恐怖に流した涙も炎に溶けてしまうだけだ。

醜く歪んだその顔に掛ける情などもはや欠片もなかった。

 

……後悔はない、自分で選んだ道だ。

自分が居なくなった世界はきっと何も変わらない、10年前のあの時からまたやり直すだけだ。

魔法少女なんていらない、理不尽に奪われる命もない、だから――――

 

「――――ブルームスタァー!!」

 

だから、お前だけには……来てほしくはなかったんだ。

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