俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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エンドロールは終わらない ①

「スペ3返し、階段革命8切り8切り8切りツーペアでボクのあがりだ」

 

「くわぁー!? 悪質! わざわざ一枚ずつ8切りしていくのが悪質だヨ!!」

 

「残念、大富豪の座は譲らないぞ。 ……葵? 次は君の手番だよ」

 

「えっ……あ、すみません」

 

空になった場へ、手札から余ったカードを差し出す。

危うく遅刻しかけた次の日の土曜。 私の家に集まった3人と宿題を片付ける予定だったのだが……いつの間にかトランプが始まっていた。

 

「なんだかボーっとしてるネ、サムライガール。 風邪でも引いたカナ?」

 

「明日から……大寒波到来って、テレビで言ってたよ?」

 

「風邪引いたならココアでも飲む? 全員分淹れるわよ」

 

「「「「結構です!!!」」」」

 

この場にいる全員、お母さんの家事スキルは知っているゆえの即答だった。

 

「しかし気になるね、たしかに昨日からやけに調子が悪そうに見えるけど」

 

「なんというかデジャヴを感じるというか……違和感を覚えるんです」

 

「違和感って……何に対してだヨ?」

 

「それが分からないんですよ、分からないですが……何か大事なものがないような気がして」

 

「ふむ、軽度の記憶障害という所か……? 最近強く頭を打った覚えは?」

 

「さすがドクターだネ、冷静な分析だヨ」

 

「……ドクター」

 

コルトが茶化して呼んだ古村さんへの呼称を復唱する。

何故だろうか、その呼び名がしっくり来る。 まるで以前から何度も呼んでいたかのように。

 

「コルト、あなたが私を“サムライガール”と呼び始めたのは何故でしたか?」

 

「へっ? そりゃたしか……あれ、なんでだったカナ?」

 

別に私は刀なんて触れたこともないし、剣道すら習った覚えがない。

日本人なんて外国から見れば皆サムライやニンジャみたいなものなのかもしれないが、コルトの返答ははっきりとしなかった。

 

「ビブリオガール……ドクター……うーん、なんでサムライガールはサムライガールなんだろネ?」

 

「こ、コルトちゃんじゃないと分からないと思う……」

 

「どうせ君の事だから大した理由じゃないだろう。 葵、それが君の言う違和感と関係するのかい?」

 

「そんな気が……するんですが……」

 

今一確信がない、というよりも違和感を覚える出来事が多すぎて重要なものが絞れない。

おそらく“これ”も重要なんだ、全てが一つに繋がっている。 そんな大事な何かが私の中から抜け落ちている。

 

「あ、葵ちゃん……泣いてる、の?」

 

「えっ……? あれ、おかしいですね……なんで私……」

 

詩織さんに指摘されて頬に触れてみると、私の瞳からは涙がこぼれていた。

別に悲しいわけでもないのに、なぜか溢れる涙は止める事が出来ない。

 

「葵、悪かった。 この馬鹿金髪はボクが懲らしめておくから許してくれないか」

 

「私のせいなのカナ!? ちょっとサムライガール、本当に大丈夫!?」

 

「大丈夫です、なんだかちょっとびっくりしちゃったみたいで……」

 

「そうか……何か少しでも不調を感じたらすぐに病院に行くように、いいね?」

 

「ええ、ありがとうございます……」

 

古村さんのお父さんは、10年前の震災で命を落としている。

それ以来彼女も医者としての道を志し、たまにこうして友人や同級生の体調を気遣ってくれる。

かけがえない親友だ、なのに……そんな古村さんにも私は違和感を覚えているのだ。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「…………雪だ」

 

リビングの窓から見た街には、とっぷりと暮れた闇の中にしんしんと雪が降っていた。

街灯に照らされた雪の降り模様からすると、明日もきっと積もるはずだ。

 

「葵、あんたもそろそろ寝なさい。 夜更かしは背が伸びないわよ」

 

「分かってます、もう少ししたら寝ますよ」

 

結局、あれから何となく遊ぶような気分でもなくなり、皆自然と解散してしまった。

悪い事をしたと思う、自分のせいで楽しかった空気が台無しだ。 だがそれでも……

 

「……お母さん、私達って二人暮らしですよね」

 

「そうね、お父さんとは別居中だもの」

 

お母さんの言う通り、今夫婦は別居状態にある。

だが、その理由もまた……はっきりとは思い出せない。

 

「もう一人、誰かいたような気がするんです……でも、思い出せない」

 

「………………」

 

「ごめんなさい、変な話ですよね。 たぶん私の勘違いです」

 

「私もね、なにか変な気分なのよ」

 

「えっ……?」

 

振り返って見たお母さんの顔は、どことなく寂しげに電子タバコを燻らせていた。

 

「変なのよね、私には家事ができないはずなのにうちには十分な調理器具が揃ってるの。 いつ買って揃えたのかも思い出せない」

 

「それは……」

 

「誰かが居たのよ、でも何も覚えてない。 どこにも何も残ってない……なぜかしらね」

 

「――――-……」

 

言葉にできない衝動に駆られ、階段を駆け上る。

何も分からない、だけどぽっかりと空いた心の穴がずっと何かを叫んでいる。

私の記憶には残っていなくとも、誰かが居た痕跡は確かに残っているんだ。

 

物置の扉を千切る様に開くと、昨日と変わらない埃が空を舞う。

昨日と変わらない冷え切った空気が入って来るなというかのように溢れ出す。

昨日と変わらない白い花が、凛としたまま机の上に鎮座している。

 

「ちょっと、葵……?」

 

「なにか……知っているんですか、あなたはなにか……!」

 

呼び止めるお母さんも、零れる涙も気にせず、荷物をかき分けて物置の奥へ進む。

埃まみれの身体で辿り着いた机には、昨日と変わらないスマートフォンが置かれていた。

自分のものでも、お母さんのものでもない。 カバーも装着していない剥き身の外装にはまるでいくつもの死線を潜り抜けたかのような傷が刻まれている。

 

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私は自然と、そのスマートフォンを手に取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪…………やるじゃない。 ちゃんと覚えていたのね、あんた≫

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