俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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何が彼を突き動かすのか ⑪

魔物の残骸が灰となって街に降る、しかしそのどれもこれもが地へ届く前に虚空へ融けて消えてしまう。

それはまるで季節外れの雪のようだ、きっとあのUFOが完全に消えるまで降り続けるだろう。

 

「……なあハク、この灰ってどこに行くんだ?」

 

《さあて、閻魔様の懐が広ければ多分地獄に積もりますよ》

 

ふと、伸ばした掌に一片の灰が降って来た。

ものの数秒で消え失せる塵芥、それはまるであの夢の中に残してきた忘れ物の様で……

 

「……月夜、お前の事は忘れない。 いつかお前の事を笑って語れるように頑張るからさ」

 

空に浮かぶデカブツが燃え尽きる、彩りが欠けた雪が止む。

ただ最後に一粒、黒色に輝く魔石がUFO跡から落下してきた。

 

《あっ、マスター、魔石です! 結構でかい、変な所に落っこちたら大変ですよ!》

 

「しまった忘れてた! さっさと回収……」

 

≪ターイムオーバー! 真っ黒モード停止しまーす!≫

 

だが最悪のタイミングでタイマーが時間切れを告げ、ブルームスターの姿がいつものモノクロスタイルへと戻る。

同時にがた落ちしたスペックが全身の虚脱感となって現れた。

 

「ぐっ……! こんにゃろ、変われ羽箒―――」

 

――――飛び立とうとしたその瞬間、首筋を猛烈に走った悪寒が俺の体を後ろへ跳ね逃した。

俺の軌跡を横一文字で切り裂くように刃が通り抜ける。

ラピリスか? いや違う、彼女なら峰打ちするくらいの良心は残っているはずだ。

 

《マスター!?》

 

「は、外しちゃったぁー……」

 

「っ――――誰だお前!?」

 

「魔法少女オーキス、覚えなくていいよっ!」

 

巨大なカミソリを持ったドレス姿の少女は、得物を大きく振り回しながらこちらへ肉薄する。

彼女が踏み込むたびにアスファルトにその足が沈む、それほどの重量だというのに少女は重さを感じさせずに軽々しく刃を振るってみせる。

 

「魔石はぁ、取らせないよう! あ、あれは私達のものなんだからぁ!」

 

「わっ、馬鹿! 危な……邪魔すんな!」

 

リーチの長い大振り、息つく間もなく振るわれる斬撃を躱すためにこちらも後退を余儀なくされる。

つまり落下する魔石からどんどんと距離を離されるわけだ、あれがどこかに落ちるかも分からないのに。

 

「クソ、退けろ! ンなもん振り回すな、危ないだろ!」

 

「じ、邪魔するために振るうんだよぉ。 あの魔石は―――」

 

「――――盗られると困るもの、なんですね」

 

じゃれ合う俺たちの横を赤と青が混じった旋風が駆け抜ける。

それはビルの間を跳ね、瞬く間に魔石の落下地点へと回り込むと、頭上へ跳躍して魔石を掴み取ってみせた。

 

「あ、ああああぁぁー!?」

 

「――――ラピリス!」

 

遠目に見えるのは前と同じ追加武装に身を包んだラピリスの姿。

彼女達も駆け付けていたか、それとも巻き込まれて悪夢から目覚めたばかりか。

 

「HEYブルーム、伏せテ!」

 

「っ―――!」

 

背後から受けた警告に身を屈めると、その頭上を掠めて銃弾が通り過ぎた。

オーキスへと向けられたその銃弾は刃の腹で受け止められるが、矢継ぎ早に放たれ続ける銃弾が彼女をその場に縫い付けて動かさない。

 

「ひええぇぇ、ももももう起きたのぉ……!?」

 

「よくもやぁってくれたネ! お礼は百倍返しでいいカナ!?」

 

「怖い! 我この金ぴかの怖い!!」

 

射線の邪魔にならない様に転がり避けてみると鬼の形相をみせるゴルドロスの後ろでシルヴァが怯えている。

一体この二人の間で何があったのだろうか。

 

「よくやりましたよゴルドロス! このまま3人纏めてしょっ引きます!!」

 

「ゲェッ、マジかあいつ戻ってくるの速っ!」

 

《3人って私達も頭数に入ってますよね!? これ逃げた方が良いのでは!?》

 

魔石を回収したラピリスが砂煙を巻き上げて凄まじい速度でこちらへ戻ってくる。

あいつ事のついでに俺たちまで捕まえる気か、洒落にならん。

タイマー切れの状態であれと真っ向勝負はごめんだ、せめてシルヴァだけでも先に逃がすべきか。

 

「ひぃ~ん! ごめんねぇ朱音ちゃん、駄目なお姉ちゃんで……」

 

「……まったくだよクソ姉貴、私の邪魔しやがって」

 

どこから響く声とともに、上空から飛んで来た赤い銃弾がゴルドロスの握るマシンガンを強かに叩き落とした。

 

「ゴルドロス!?」

 

「っ……問題ないヨ! それより相手は上――――あぐっ!?」

 

銃弾が飛んで来た方角、射撃点と思われるビルの屋上を睨みつけたゴルドロスの背に赤い銃弾が突き刺さる。

一度目の射撃とは全くの逆方向、今のは一体どこから……

 

「キヒッ! 弾道曲げるくらい朝飯前だっての、魔法少女なんだからさ! ……それよかなぁーに人のこと本名で呼んでんだよバカ姉!」

 

「あ、ああああ朱音ちゃん!? なんでどしてなんで……!?」

 

ゴルドロスが片膝をつくと同時に、上空から耳に残る笑い声を吐きながら新たな魔法少女が着地する。

……魔法少女スピネ、以前と変わらぬシスター風の衣装に身を包んだ少女が飄々と掌で拳銃を回していた。

 

「き、金ぴかの!? 大丈夫か、無事なのか!?」

 

「ゲホッ! これくらい大丈夫だヨ、めっさ痛いけどネ……!」

 

「大分喰らっただろ、無理すんな!」

 

幸い銃弾は貫通していないようだがダメージの大きいゴルドロスを背に隠し、箒を構える。

相手はほぼ万全の魔法少女2人、こっちはタイマー切れの俺とシルヴァ、ラビリスの3人。

ラピリスと挟み撃ちの形になるが、問題は向こうがちゃんと協力してくれるかどうかだな。

 

「……なんだ、今日はあの黒騎士連れてきてねえのかよ」

 

「キヒッ! あいつはただいま調整ちゅー、命拾いしたねぇブルームスター」

 

「そうですか、ならばここで終わるのは貴女達の方です」

 

スピネの背後では二刀を構えたラピリスがじわじわと距離を詰める。

魔石を回収したあの速度で踏み込まないのは相手の射撃技術を警戒してのことか。

 

「無力化した上で貴女達の身柄を拘束します、魔法局へ戻った後はその素性や目的を洗いざらい吐いてもらいますよ」

 

「素性と目的ぃ? あ゛ぁ良いよ良いよ、名前もバレたんだから教えてやる。 私の名は烏羽(からすば)朱音(あかね)、東京生まれ東京育ち、年齢は……たしか10歳だったかな?」

 

「……なに?」

 

スピネの言葉でその場の全員に動揺が走る。

生まれも育ちも東京の10歳、その話が本当なら彼女達は『災厄の日』からあの東京都内を生きてきたとでも言うのか。

 

「目的はぁー……何を犠牲にしてもテメェらが見捨てた東京を取り戻す事だよ」

 

そしてその動揺を見逃すスピネではなかった。

真下に向けた拳銃の引鉄が引かれると、放たれた銃弾が着弾した地点から大量の白煙が溢れ出す。

溢れ出した煙幕は俺たちごと呑み込んで視界を奪い尽くす。

 

「なっ……おのれ卑怯な、正々堂々と勝負しなさい!!」

 

「め、盟友ぅー!? 盟友どこー!!?」

 

「みぎゃー!? ちょっと、抱き着くなヨ銀髪ガール!?」

 

「あっぶな! ラピリスおまっ、刀振り回すな!」

 

《マスター、何で私を盾にするんですか!? 箒使いなさいよ箒!!》

 

煙の中はあっという間に混沌とした惨状と化す。

スピネたちはこの煙に乗じて逃げたようだ、こちらもどさくさに紛れて逃げるなら今の内か。

 

「シルヴァ、俺たちも引くぞ! ほら早く!」

 

「ま、待て盟友! 何処だ盟友! 私はどこにおるのだぁ!?」

 

「コラ、貴女達まで逃げるんじゃない! くそっ、この……!」

 

「ギャー!? ちょっと今お尻触ったの誰かナァ!?」

 

五里霧中のシルヴァを担ぎ上げてその場から全力で撤退する、ラピリスが刀から放つ風で辺りの煙を蹴散らしてももう遅い。

その場にいたはずの4人の野良は跡形もなく逃げ去った後だった。

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