俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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【ちょっとした小話:各々の好き&嫌いな食べ物】

・鳴神 葵
好き:カレイの煮つけ
嫌い:母の【マッキーで塗りつぶされている】

・加名守コルト
好き:クリームシチュー
嫌い:納豆

・古村 咲
好き:水ようかん
嫌い:生の玉ねぎ

・白銀宮 詩織
好き:プレーンシュガードーナッツ
嫌い:こんにゃく

・七篠陽彩
好き:にくじゃが
嫌い:優子さんの【マッキーで塗りつぶされている】


BANした過去がやって来た ②

「あら、いらっしゃい」

 

「こんにちはー……ってあれ、おにーさんは居ないのカナ?」

 

お昼時、いつもの喫茶店に顔を出すといつも居るはずのおにーさんの姿がない。

買い出しか、それとも昨日の戦闘で怪我でも負ったのだろうか。

 

「あいにくあいつは今日休みだよ、お蔭で葵もこの調子さ」

 

「………………」

 

他の客もいないカウンター席にはサムライガールが無言で突っ伏していた。

まったく魔法局のエース魔法少女がなんてザマだ、憧れの人が居ないだけでここまで消沈するとは。

 

「だから悪いけど今日は私が何か作るわ、とりあえずコーヒーでも飲む?」

 

「折角だし貰おうカナ。 あっ、砂糖とミルクもお願いシマース」

 

サムライガールの隣に座り、テーブルに立てかけてあるメニュー表を開く。

さて今日は何を頼もうかな、おにーさんが居ないのは残念だけど腹の虫はそんなの関係ないとばかりに抗議の声を上げている。

 

「でも今日に限って休みとはネー……」

 

「何でも実家に顔を出しに行ったらしいわよ、ケジメを付けるだとか格好つけてね」

 

「……ソッカァ」

 

あの人は過去と向き合う決心がついたのか、それに比べて自分はどうだ。

ここに足を運んだのも結局は逃げているだけじゃないのか、心の中の自分がそう言ってヤジを飛ばしているような気がしてならない。

 

「……あなたが何を求めてきたのかは知らないけど、ここはただの喫茶店よ。 コーヒーお待ちどう」

 

「あはは、ドーモ……(あっま)!?」

 

差し出されたコーヒーを啜るとそれは殺人的な甘ったるさで口内を蹂躙してきた。

飲料物なのにジャリっとした食感がある、まさか砂糖が溶け切らないほどぶち込まれているのでは。

 

「……砂糖が少なかったかしら?」

 

「今のコメントからなんでその発想が出てくるのカナ!?」

 

「2割冗談よ、コーヒーが駄目なら食事はどう? サンドイッチならすぐにでも用意できるけど」

 

「サンドイッチネー、このコーヒーみたいな出来じゃなければ……ん?」

 

またとんだ味付けになるんじゃないか、という不安が過った瞬間ある事に気付く。

隣で突っ伏したサムライガールは依然として動く気配がない、ただ意気消沈しているにしてはどうも様子がおかしい。

 

「……コル、ト……逃げ……母さんの……料理は……ブタの……エ……」

 

「サムライガァール!!?」

 

彼女は落ち込んでいたわけじゃない、何かしらを食し悶絶していただけだ。

ただ気づくのは遅すぎて、席を立とうと腰を浮かせたのと目の前に名状しがたいサンドイッチの様なものが置かれたのはほぼ同時だった。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

テーブルには淹れたてのコーヒーと手作りと思われるサンドイッチが提供される。

サンドイッチと言ってもいい加減な仕込みはされていない、挟まれている具もたっぷりでパンからはみ出た葉野菜やトマトはかなり新鮮だ。

コーヒーも香りが良い、薄っすらとジャズが流れる店内の雰囲気も悪くない。

適当に選んだがこれはかなりいい店だ。

 

「……こうして二人で食事をとるのは何年ぶりだろうな」

 

「分かんねえや、ってか父さんもそれだけで足りるのかよ。 昔はもっと大飯喰らいだったはずだけど」

 

「私も年を喰ったからな、今はこれだけで十分満たされる」

 

向かい合って座る初老の男性、名を七篠秀夫。

俺の記憶にある姿はもっと筋骨隆々としていて釜の飯を丸ごとかっ喰らうような活力溢れる父親だった。

だが目の前にいるのは見る影もなく線が細くなり、顔にも年相応の皴が刻まれている。

最後に顔を見たのはもう何年も前になるが、人はここまで変わるものなのか。 ……いや、俺のせいで苦労を掛けてしまったのだろう。

 

《そうですかね、私個人としてはナイスミドルという感じで実に……あでっ》

 

胸ポケットの相方を軽く小突いて咳払いを一つ。

人の父親をそんな目で見るんじゃないよまったく。

 

「丁度あの近くを通りかかって運が良かった、今は別のアパートに引っ越していてな」

 

「本当ビックリしたよ、この街も色々変わったな」

 

「……お前も大分変わったな。 その火傷はやっぱり治らないのか」

 

「まあな、けど気にしないでくれよ。 母さんにもそう言ってくれ」

 

「そうか……そう言ってくれるか」

 

そこで父は口を湿らせる程度にコーヒーに口を付け、カップを置くと大きく息を吐いた。

まるでこれから話すことにそれだけの勇気がいるかのように。

 

「……母さんな、今入院してるんだ」

 

「えっ……入院って、どこに!?」

 

「ここから少し離れた精神病院だよ、お前が居なくなってから母さんは心をやられてな」

 

「―――――あ……」

 

情けない声が漏れたのは仕方ない事だと思いたい。

俺がやった事を考えれば不思議じゃない事だが、それでもすぐに呑み込むにはあまりにもショックが大きい。

 

胸ポケットのスマホが「しっかりしろ」と言わんばかりにブルリと震える。

ああそうだ、俺はもう逃げないって決めたんだ。

 

「……母さんは、大丈夫なのか?」

 

「問題はない、今は大分落ち着いている。 だが……顔を合わせるのは少し待ってほしい」

 

「分かってるよ、今は互いにためにならないだろ」

 

母さんの事は心配だ、しかしこの状態で顔を合わせれば母さんの容体が悪化してしまうかもしれない。

分かってはいるが何もできないことが悔しい、こんな時には魔法少女の力なんて実に無力だ。

 

「お前の方はどうなんだ、生活に困ってはいないようだが、あれから一人で大変だったろう」

 

「人の縁に恵まれてさ、何とかなったよ。 今は俺を拾ってくれた人の店で働いている」

 

「そうか……今度挨拶に行かないとな、どこの店だ?」

 

「えーとここから遠いんだけど……ってか面倒だし連絡先交換しようぜ、SINE(サイン)やってる?」

 

「……すまん、ガラケーしかもってないんだ」

 

「マジかよ父さん」

 

それから食事の片手間に四苦八苦しながら父さんとメールアドレスの交換を行った。

そういえばこの人は昔っから機械の操作が苦手だったな、メールでも長音符が打てなかったし。

 

なんとか連絡先の登録を済ませた頃にはサンドイッチも平らげ、コーヒーカップも綺麗に空となっていた。

 

「これで良いんだな? よし、日取りが決まったらお前に連絡するよ」

 

「メールが無理なら電話でも良いからな、それじゃ俺はそろそろ行くよ」

 

「もう行くのか、駅までの道は分かるか?」

 

「子供じゃないんだから分かるよ、それに頼りがいのあるナビも付いているからな」

 

掌のスマホに視線を落とすと画面の中からビシッとしたピースサインが返ってくる。

癪だがこいつの誘導は正確だ、口にすると調子に乗るから絶対に言わないけど。

 

「そうか、最近はこの辺りにも魔物が出るらしいから気を付けろよ」

 

「…………出るの?」

 

「目撃証言がある、ただとてつもなく逃げ足が速くて苦労しているらしい」

 

「そっか、一応気を付けておくよ。 じゃあな父さん」

 

「ああ……月夜のことは気に病むなよ、今度は親子3人で話をしよう」

 

「――――そうだな、楽しみにしておくよ」

 

父さんも月夜の事を忘れていたわけじゃない。

ただそれだけの事で俺の心は少しばかり救われた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

《いやー、マスターも将来あんな風に老けるんですかね。 頭髪の心配はなさそうでハクちゃん安心です》

 

「はいはい、一生言ってろ」

 

駅を向かう道すがら、周囲に人がいないのを良い事にハクの舌が回り始める。

調子のいい奴め、店に戻ったら覚えておけよ。

 

《後はお店に帰って明日からはまた閑古鳥との親睦を深める感じですかね、今日はお店開いているんですか?》

 

「俺が居ないのに開くわけないだろ、優子さんに言って聞かせたから安心……」

 

……何故だろうか、嫌な予感がする。

アオ達に今までの比じゃない命の危険が迫っているような、出来るだけ急いだほうが良いかもしれない。

少し速足で駆けだしたその時だった。

 

《―――マスター、右に跳んで!!》

 

「っ――――!?」

 

唐突なハクの指示を受けてすぐ右にあった路地に転がり込む。

何事かと思って体を起こすと、先ほどまで俺たちが歩いていた道路が暴風によって薙ぎ払われた。

 

「なっ……ハク、こいつは何だ!?」

 

《分かりません、けどたった今何かが目の前を横切りました! この風はただの余波にすぎません!》

 

「なるほど、十中八九魔物の仕業だな!」

 

≪―――Are You “Lady”!?≫

 

反射的にアプリを叩いて変身を行う、相手が誰だか分からないが故郷を荒らされて黙って見ている訳にはいかない。

黒炎を振り払って羽箒を作り、路地裏を飛び出す。

 

突風が吹いた向きへ目を向けると、遥か彼方の空に小さい点と化した犯人の影を見つけた。

速い、あのわずかな時間でここまで離されるか。

 

「クソ、今から追って間に合うか!?」

 

《どうですかね、アクセル全開で吹かせばなんとか……》

 

「――――こぉーらぁー!!! そこの不審魔法少女、止まりなさーい!!」

 

「ん?」

 

《んん?》

 

不意にどこからメガホンで拡張したような声が響く。

魔物から視線を外して見てみれば、すぐ下の道路を真っ赤なスポーツカーが走っていた。

その頭上にはパトランプのようなものが見える。 ……待て、なんで全力の羽箒にピッタリついて来ることが出来るんだ?

 

《マスター、まさかあれって……》

 

「魔法局からの命令です! そこの不審魔法少女、所属と魔法少女名を名乗りなさーい!!」

 

「……この町の魔法少女か!」

 

助手席の窓から顔を出し、メガホン片手に叫ぶ少女が見える。

赤いライダースジャケットに頭に引っ掛けたパイロットゴーグル、それがこの街を守る魔法少女の姿だった。

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