俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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BANした過去がやって来た ③

「止まれ止まれー! 止ーまーれー!! この魔法少女ドレッドハート様の前を走るなんて良い度胸じゃないのー!!」

 

遥か前方の魔物と後方から追いかけてくる車に挟まれながら空を駆ける。

さっきから全力で箒を吹かしているというのに、前には追い付けず後ろはまるで引き剥がせる気がしない。

 

《マスター、何やってんですか! 道路から外れて飛べば振り切れますって!》

 

「駄目だ、運転してやがるのは誰だ!? まるで振り切れねえ!!」

 

直線で魔物を追いかける俺に対し、地上を走る車は道路の影響をもろに受けるはずだ、だというのにそれを意に介さないドラテクで奴はついてくる。

都会に比べて道路を走る車は疎ら、それでも一切衝突することも肝を冷やすような場面も無い()()()()()()()で一切距離を稼げない、運転手はどんな腕と度胸してやがる。

 

《ヒエェどこに目ん玉付けてんですかアレ! いっそ『真っ黒』使っちゃいます?》

 

「……いや、三分しか使えないあれは切り札だ。 こんなとこで切れるか!」

 

確かにあの姿なら出力は一気に上がる、だが3分という数字は魔物を倒して後ろの暴走車両を振り切るには少し心もとない。

だがこのままでは手づまりなのも確か、さてどうしたものか―――

 

「―――もー怒った、あんた野良ね!? ()()()()()()()()()()()()、ちょっと痛い目見てもらうわよ!」

 

「……はぁ!?」

 

魔物なのに倒してはいけない?

奇妙な台詞に後方を振り返ると、スポーツカーのボンネットが開き、その中から無数の銃口が顔をのぞかせた。

 

「……ゴルドロスかよお前はァ!?」

 

「誰よそれぇ! やっちゃえ、ロイ!!」

 

耳を塞いだ彼女が助手席に引っ込むと同時にボンネットの火器が一斉に火を噴く。

やたらめったらな射撃だが数が多い、その上左右に振ってもうまい具合に車体を傾けて射線を合わせてくる。

 

「わわわ! あっぶね! クソ、この……駄目だ、一旦降りるぞハク!」

 

《あいあいさ!!》

 

一度魔物の追跡を諦めて、羽箒を急降下させる。

車の真正面へと着地すると同時に、衝撃で舞い上がった石片の一つを向かってくるタイヤへと投げつけた。

 

「喰らいな、ブルームバンカー遠隔バージョンッ!!」

 

丁度タイヤが石片を踏みつけるその瞬間、箒と変わったそれが車体を跳ね上げる。

あわや横転しかけた車は何とか踏ん張るが、それでも制御を失って二度三度とスピンを繰り返したのちに電柱へ顔を突っ込んで停止した。

しゅうしゅうと焼けたゴムの臭いと煙を放つ車体は完全に沈黙している、ついやり過ぎたが中身は大丈夫かな。

 

《私は止めろって言ったんですよ……》

 

「ハクてめ、裏切る気か!」

 

「……あーもー! なんて事してくれんのよー!!」

 

エンストした車から先ほどと同じ少女の叫びが響き、助手席の扉が乱暴に蹴り開けられる。

その中からフラフラと出てきたのはやはり先ほどと同じライダースジャケットにパイロットゴーグルを引っ掛けた少女。

恐らく中学生くらいだろうか、服装のせいかアオ達に比べてかなり大人びて見える。

 

「なんて……なんてこと……うぇっぷ」

 

『ドレッド、だから言ったでしょう。 嘔吐ならこのエチケット袋の中でお願いしますよ』

 

「ん?」

 

《はぇ?》

 

蒼い顔でへたり込む少女に合わせて運転席からもう一人の人影が降りてくる。

黒いラインをあしらった金属光沢の強いボディ、両手足には小さなタイヤのようなものが各2つずつ装着され、頭部は黒いモニタに覆われており、光の点で表情を表している。

人と呼ぶにはあまりに物々しいそれはまさに……

 

「……ロボだな」

 

《ロボですね》

 

『はい、ロボです。 正確にはアンドロイドのロイと申します、以後お見知りおきを』

 

「ロイ、そんな奴らに自己紹介しなくていいわ! ……うえぇっぷ」

 

エチケット袋に顔を突っ込んだ少女の背中をさするロボット、中々にシュールな絵面だ。

乙女のはしたない姿から目を逸らして待っていると落ち着いて来たのか少女が袋から恨めし気な顔を上げる。

 

「わ、悪かったね。 さっきはちょっとやり過ぎたよ、怪我はないか?」

 

「平気よ、とっても丈夫なの私。 けどあなたのせいでこっちはエンスト、燃料積み直さないと駄目ね」

 

エンストなのに燃料を?

首をかしげると彼女は給油口の部分を開き、その中へ小さな魔石を幾つか放り込んだ。

 

「んん!? まさかその車……“杖”か!」

 

「そうよ、この車体とこっちのロイ2つセットで『ライドシフター』。 このドレッドハート様の持つ杖の名前よ!」

 

自慢気に胸を張って給油口を締める彼女だが、相変わらず車はうんともすんとも言わない。

魔石の数が足りないのかと思ったがどうもそういう訳ではないらしい。

 

『……魔力リソースを用いて機体を再起動させます、この魔石量ならばおよそ10分ほどお待ちください』

 

「はぁー、まーた取り逃がすわねこれは……」

 

ドレッドが落胆して車にもたれ掛かる。

またということはさっきの魔物をずっと追いかけているのか、しかしそれだと腑に落ちない事が1つある。

 

「なあ、さっきの魔物を倒しちゃいけないってどういう事なんだ?」

 

「えぇ……? ああそっか、あなた他所の魔法少女ね。 ロイ、あれ見せて」

 

『はい、こちらドレッドが撮影した魔物の写真です』

 

そうすると名を呼ばれたロボットが口の部分から写真を取り出して手渡す、ちょっと生暖かいのは気のせいだと信じたい。

そして鮮明にプリントされた写真にはマンタのような平べったい形状の魔物が写っていた。

 

「その子のお尻の辺りを見て、槍みたいなものが刺さっているのが見えない?」

 

「槍? ああ、これか」

 

言われてみれば、魔物の尻には螺旋状の溝が刻まれた棒状のものが突き刺さっている。

魔物の表情からは感情は読み取れないが、傷口から緑色の体液を零しながら空を飛ぶその姿は酷く痛々しい。

 

「その子ね、元は大人しい魔物だったの。 だけど野良の魔法少女が半端に怪我をさせちゃって」

 

「大人しいって……魔物がか?」

 

「中には優しい子もいるの、そうやって決めつけるのは良くないわよ!」

 

正直今までが今までだから信じがたい話ではある。

向こうで出会ったのはどいつもこいつも悪意を煮詰めてありったけ凝縮したような連中ばかりだ、大人しい魔物というのは想像しにくい。

……いや、そういえばすぐ身近に1人いたか。

 

「なるほど、ケツに刺さったこれのせいで暴れ回っているって事か」

 

「そうよ、前はふよふよ空を飛ぶだけで無害な可愛い子だったんだから! まずはあの槍を引っこ抜いて落ち着かせないと、動けポンコツー!!」

 

『ドレッド、叩いても車は動きません。 それどころか修復の手間が掛かるのでやめてください』

 

暴れる魔物を倒すわけではなく和解しようと奮闘する。

少し前の自分では信じられなかった考え方だ、そういう魔法少女もいるんだな。

 

《……マスター、どうします?》

 

「そうさなぁ、元はと言えば俺が余計な手出しをしたせいだしな。 ドレッド!」

 

「へっ? うわったった、何これ魔石!? デッカ!」

 

以前、手長の魔物から回収した魔石を放り投げる。

あの小粒の魔石で10分ならこいつを使えば一発だろう。

 

「邪魔した詫びだ、使えよ。 魔法少女ブルームスター、ちょっとばかし手伝うぜ」

 

「ブルームスター……ってあの箒ちゃん!? ウッソ本物!? 初めて見た、噂よりずっと可愛い!」

 

「……ハク、俺ってどういう噂されてんだ?」

 

《マスター、世の中知らない方が良い事もたくさんあるんですよ》

 

胸の内に僅かなしこりを残して、魔石を突っ込むと車体はすぐに息を吹き返した。

五月蠅いくらいに唸るエンジン音は男心をくすぐってくれる。

 

「……飛行能力持ち、それもあの箒ちゃんが協力してくれるってなら心強い。 野良との協力なんてバレたら大目玉だけど良いわ、乗って!」

 

「なあ、その箒ちゃんってのやめてくれない?」

 

「やだ!!」

 

「そっかー……」

 

絶対に曲げない強い意志が籠った返答を返され、俺たちは諦めて後部座席へ乗り込んだ。

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