俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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BANした過去がやって来た ④

「けど追いつくって言ってもよ、今から追いつけるものなのか!?」

 

「大丈夫よ、マン太郎の飛行コースは大体頭に入ってるわ。 シートベルト閉めないと舌噛むわよ!」

 

《マン太郎!? 魔物に名前つけたんですか!?》

 

『ドレッド、私としては野良との協力というのはあまり気乗りが……』

 

「良いから出して、さっさとマン太郎に追いつくわよ!」

 

頭部をベチベチ叩かれたロイが溜息を零し、一気にアクセルを踏み込んでその車体を加速させる。

ギャリギャリとアスファルトの上を僅かに空回りしたのち、一気に解放された加速度は俺の身体を後ろに引っ張る。

 

『――――行くぜェテメェら!! 追いつくどころかこのままカマ掘ってやらぁ!!』

 

「誰!?」

 

「あー、ロイってハンドル握ると性格変わるのよ。 荒っぽいけど今まで追突事故を起こされたという報告は受けてないから安心して」

 

《出して! ここから出してマスタァー!!》

 

「逃がすか、お前も地獄の底まで道連れ(あいのり)だ!!」

 

ジェットコースターも真っ青の絶叫マシンに途中下車はない。

……そういえば別に羽箒を使えば乗り込む必要はなかったな。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「こんにちはー、こちらにコルトちゃん達は……死屍累々!?」

 

「いらっしゃい、何か食べて行く?」

 

「カヒッ……カハッ……! ヒュー……ヒュー……!」

 

軽やかなドアベルの音と縁の悲鳴に意識を引き戻された。

私は何をしていたんだっけ、確か綺麗な川の向こうでテディが手を振っていたような気がする。

 

「コフッ……縁、さん……よく来ましたね、まずは食事でもどうですか……」

 

「ゲホッ、店長ぉ……縁にお勧めセット1つ頼むヨ……」

 

「何なの!? 何を食べさせられるの私!? 何で目が虚ろなの二人とも!?」

 

私に逃げろと忠告してくれたサムライガールはどこへやら、そこに居るのは顔色の悪いゾンビが2人。

あれだけ惨い体験を私の番で断つのは心苦しい、縁にもちゃんとバトンを回さねば。

 

「ささ、座ってください縁さん……今日はいったい何用で……?」

 

「へ? あっ、そうそう実はまた新しい魔物が現れたの……ねえ、調理場の方から何やら名状しがたい音が聞こえてくるんだけど?」

 

「気のせいだヨ、あるいは深く認識しちゃいけない類のものだヨ」

 

「しかしまた魔物ですか、最近多くないですか?」

 

サムライガールの言う通りだ、東北は関東近辺より魔物の発生率は高くない。

だというのにここ最近の出現頻度は関東で活動していた時よりも多く感じる。

 

「まあいいヤ、どこに現れたのカナ。 サクッと倒してくるヨ」

 

「それがね、ここにいるのよ」

 

「……What's?」

 

すると縁の背後からぴょこっとバスケットボール大の生き物が飛び出した。

もふもふというよりもこもこの毛皮、まるで羊の毛並みを纏ったウサギのような生き物の額には赤く輝く宝石が埋め込まれており、こちらを見つめる瞳と毛色は対照的に薄っすらと水色を帯びている。

今までの巨大で凶悪な連中とは違う、この手で捻り潰せてしまいそうなほどか弱い魔物だ。

 

「―――うちで飼います」

 

「駄目よ、うちはペット禁止」

 

「そもそもペットじゃないから駄目なんですけどぉ……」

 

一気に活力を取り戻したサムライガールが、もこもこの魔物に飛びついてその毛並みを堪能する。

魔物も抵抗する様子は一切見せずにされるがままだ。

 

「縁、これって本当に魔物なノ?」

 

「ええ。 試しに皮膚片や血液のサンプルを取ろうとしたけど、通常の器具じゃまるで歯が立たなかったわ」

 

「ソッカ、今は大人しいけど急に豹変して襲ってきたりしないのカナ?」

 

「だから可能な限り魔法少女の近くで監視するように、とのお達しなの」

 

「責任ぶん投げられたネーこれは……」

 

『モキュ~!』

 

サムライガールの撫で方が気に入ったのか、鳴き声を漏らした魔物の口には鋭く尖った歯が並んでいる。

それは獲物を食い千切る肉食獣のものだ、見た目こそ人畜無害な風体を装っているが油断はできない。

 

「良き……良き毛並みです……名前は決まっているんですか……?」

 

「まだ決まってないわ、職員たちの中でもいくつか候補は出ているんだけど」

 

「ではもきゅ太郎で」

 

『モッキュー!!』

 

人の言葉が分かるのか全力で首を振って拒否する、気持ちは分かる。

魔物が首を振る度に額の宝石がチカチカと光る。

 

「お前ー、額のコレは魔石カヨ? 危なっかしい奴だネお前ー」

 

『モッキュ』

 

魔物の額に浮き出た宝石を突っつくと魔物がじゃれついて指に噛みつく。

噛みついたとはいっても甘噛みだ、痛くも痒くもない。

 

『モキュー……』

 

「もきゅ太郎は嫌ですか、ならばもきゅ次郎、もきゅ三郎……」

 

「いや発想を“もきゅ”から離しなヨ」

 

『モッキュー!!』

 

魔物の名づけについて揉めていると、唐突にサムライガールの腕をすり抜けて当事者が脱走する。

文字通り脱兎の如し逃げ足、魔物は換気のために僅かに開けられた窓の隙間へ飛び込んで、あっという間に逃げ出してしまった。

 

「……もきゅ吉ー!?」

 

「ほらぁー、サムライガールが変な名前つけるから逃げ出したー!!」

 

「あ、あわわわわ……始末書、始末書書かないと……」

 

「捕まえてからで良いカラ! さっさと追うヨ、サムライガール!」

 

「はい、すぐに見つけます!」

 

テーブルに置いたテディを回収して魔物の後を追う。

幸いと言って良いか分からないがあの魔物のサイズと見た目は目立つ、見つけるのはそう難しくは無いはずだ。

 

「わ、私も探し……」

 

「はいお待ちどう、本日の日替わり定食」

 

「…………ナニコレ?」

 

非常に残念な事だが縁はこの場に置いて行くしかない。

地獄の底から響くような悲鳴を背に、私達は店を飛び出した。

 

店の外はいつもと変わらない風景だ、魔物の姿は影も形も無い。

本当に逃げ足の速い、あの一瞬でどこまで逃げたのか。

 

「私は上から探します、コルトはこの周辺をお願いします!」

 

「分かったヨ、そっちは任せタ!」

 

サムライガールが適当な物陰を探して走り去っていった、その顔はかなり真剣だ。

こちらも不真面目なわけではないが気合の入りようが違う、しかし探すにしてもどこから探したものやら。

 

「あーもーどこ行ったのカナ……ん?」

 

ふと、自分の人差し指の付け根が赤く変色していることに気付いた。

さっきもきゅ太郎(仮)に噛まれた指だ、特に痛みはないが赤くなった指には微かな魔力を帯びている。

 

「魔力……そうだ、これなラ!」

 

先ほど魔物が飛び出した窓の下に回り込むと、そこにも指に残った魔力と同じものを感じる、

注意深く観察しなければ分からない程度の魔力。 だけど大丈夫だ、私なら追える。

 

「待ってローヨあんのチンチクリン、とっ捕まえたら鍋にして食ってやるからナ!」

 

先にサムライガールを呼ぼうかとも思ったが、万が一あの魔物が被害を出してからでは遅い。

いち早く捕まえるために魔力の痕跡を辿り、入り組んだ路地を駆け抜ける。

 

「よーし、段々気配が濃く……あだっ!?」

 

辿りに辿ってやがて開いた道へ飛び出した時、ちょうど目の前を通り過ぎた通行人と衝突してしまった。

しまった、追う事に集中し過ぎたあまり周囲への注意が散漫になっていた。

 

「あらやだ、ごめんなさい! 大丈夫!?」

 

「あだだ……ソーリー、こっちも前を見てなかったヨ。 ……えっ?」

 

謝罪と共に手を差し伸べた人物と目が合った瞬間、心臓が跳ねた。

それはつい先日の悪夢で見た顔、いやあの時に比べて少しばかり小皺が増えただろうか。

だけど間違えようがない、だってそれは二度と会いたくなくて、誰よりも愛おしい人―――

 

「――――マ、マ……?」

 

「…………コルト? あなたまさか、コルトなの……!?」

 

 

 

『―――モキュー』

 

その時、どこからかあの魔物の声が聞こえた気がした。

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