俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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BANした過去がやって来た ⑤

「ま、ママ……?」

 

「コルト……?」

 

そこだけ時間を切り取られたように、2人の時間が停止する。

馬鹿な、両親は2人ともアメリカにいるはずだ、また悪夢か? それにしては尻もちをついたこの痛みは本物だ。

 

『……モキュ?』

 

ママの後ろから、あの魔物が何処かやり遂げたような顔を覗かせる。

お前もなんでこんな所にいるんだ、コノヤローその毛皮全部剃り落としてやろうか。

 

「こ、コルト! あのね、私……」

 

「――――っ!!」

 

ママが伸ばした腕を反射的に振り払い、その脇を魔物を掴み取って走り抜ける。

駄目だ、今更どの面下げて会えと言うんだ。 私とあの人たちの関係はあの日あの時、あの場所で終わったんだ。 今更、何で今更……

 

『モキュッ?』

 

……小脇に抱えた魔物がのんきな鳴き声を鳴らす。

思えばコイツが唐突に逃げ出したせいだ、何故この場所にママが居たのかは分からないけど、逃げたこいつを追って出会うなんて偶然にしては性質が悪い。

 

「……まさか、お前のせいなのカ……?」

 

『モッキュ!』

 

はっとして人差し指にできた赤い腫れを見てみると、それはよりはっきりとした細い線となって指の付け根に刻まれていた……まるで縁を結ぶ赤い糸の様に。

まさかそんなわけがあるか、と一笑に伏せないのが魔法というものだ。 こいつらは私達の常識をあざ笑うような真似を簡単にやってのけてしまう。

 

「分かってはいたけどサ、なんでこんな……お前は……!」

 

『モキュ?』

 

間違いない、コイツは魔物だ。

本人は良かれと思ってやった事かもしれない、だが呼び起された結果は私にとって迷惑極まりないものだ。

他の連中と何ら変わらない、今更壊れた絆と引き合わされたところで何になる。

 

「お前は、お前は最悪だヨ! 今までであったどんな奴よりも性質が悪い……!」

 

『モキュウ……』

 

いっそ握り潰してやりたかった、だが真っ直ぐ見つめかえす魔物の瞳を見るとそんな気も失せてしまう。

分かっている、私は逃げているだけだ。 コイツはただ失った機会を再度見せつけただけだ。

だけど私にはあの人たちにまた顔を見せる勇気なんてどこにもない。

 

「分からないヨ……おにーさん……」

 

『モッキュ』

 

道端に膝をつき、腹の中にたまったグチャグチャの感情がつい口から漏れた。

その言葉を聞いて魔物が、力をなくした腕からすり抜けて私の小指に噛みついた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

『―――見えたぜ、あんの憎きマンタ野郎のお出ましだァ!!』

 

「別に憎くないわよ! ちゃんと加減してよロイ!!」

 

この二人のドライブに付き合ってもう何度死を覚悟しただろうか。

魔法少女は物理的なダメージでは死なない、分かってもいても気持ちの問題は別だ。

もはや悲鳴を上げる気力もなく、俺はハクと一緒に神への祈りを捧げていた。

 

「箒ちゃん、見えたわ! あれがマン太郎よ!」

 

「うん、うん……分かったから安全運転で頼む……!」

 

「平気よ、長年の付き合いだけどロイは一度も事故った事ないから!」

 

《その一度目がたった今来るかもしれないって話なんですよぉ!!》

 

残念ながらハクの叫びは俺の脳内に響くばかりで2人に届くことはない。

窓の外から見えた空にはドレッドの言う通りに浮かぶマンタの姿があった。

 

苔生したような緑に茶色を差した身体には深々と槍が突き刺さり、その傷口からは蛍光グリーンの体液が零れている。

左右に伸びたヒレの下には機械的なブースターのようなものが見え、絶え間なく炎を噴射し続けていた。 なるほど速い訳だ。

 

「ドレッド、あのマンタの特性は?」

 

「見ての通り飛行性能ね、信じられないだろうけどここ一週間ほどあの速度で飛び続けているわ」

 

「どこからそのスタミナ持って来てんだか、他には?」

 

「そうね、お腹が吸盤みたいになって何でも引っ付けることができるの。 あとは……ロイ、照準」

 

『任せな、いつでも行けるぜ!!』

 

そういってドレッドがダッシュボードの上に並んだボタンを操作すると、先ほどと同じようにボンネットから無数の銃器が飛び出した。

長い直線道路に入った瞬間、車体は前方を飛ぶマンタへと狙いを定める。

 

「お、おい! まさか撃つ気か!?」

 

「平気よ、それに見てもらった方が早いしねっ!」

 

更にドレッドが助手席に備え付けられたグリップを引っ張り出し、そのグリップにくっ付いたトリガーを引くと重火器が一斉に弾丸を吐き出す。

車内は防音処理されているのか、砲火の割に騒音は少ない。

 

そしてあわやマンタへ直撃かと思われた弾丸は、不自然にその弾道を捻じ曲げられてあらぬ方向へ跳んで行った。

 

「……今のは?」

 

「“風”よ、マン太郎もあの槍の持ち主だった子も風を使う能力を持っていてね。 突き刺さったせいか相乗効果で風の結界みたいなものを纏ってるの」

 

「そりゃ厄介だな、下手に近寄る事も出来ないのか」

 

「そうなのよ、あの槍さえ引っこ抜けば何とかなりそうなんだけど」

 

その時、運悪く風で逸らしきれなかった弾の一つがマンタに突き刺さった槍の先端に直撃する。

カンっと金属質な音を鳴らした槍が傷口を抉り、マンタの動きが一瞬停止した。

 

「あっ」

 

《あっ》

 

「えっ、何? どしたの?」

 

『ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

甲高い悲鳴を上げ、痛みに悶えるマンタが空中で暴れ狂う。

無理もない、あれは痛い。 暴れるマンタはそのままコースを外れて町の外へと飛び去って行った。

 

「ま、マン太郎ー!? うそ、どうしよ! あっち行くと他の街に出ちゃう!」

 

「追うしかないだろ! 行けるか運転手!?」

 

『誰に口聞いてやがんだ若造め! 飛ばすぜェ!!』

 

ロイがアクセルを踏み込み、さらに加速した車が暴走するマンタを追いかける。

他の街に被害が出ればいよいよ洒落にならない、他の魔法少女も集まってアイツを倒すしかなくなる。

 

「ドレッド、あいつの風を突破して槍を回収する手は何かあるのか!」

 

「それが無いのよねぇ! 箒ちゃん何かある!?」

 

「さっきの今であるものかよ! しかも銃弾を逸らすような突風だろ……」

 

この軽い体で突っ込んだところで吹き飛ばされるのがオチだ。

いっそあの黒い姿になるか、それでもあの風の威力が分からない以上は限界まで接近したい。

 

「ドレッド、この車はどこまで接近できる?」

 

「結界範囲ギリギリ、2mちょいってとこかしら!」

 

「分かった、なら何とかそこまで近づいてくれ。 後は俺が何とかする!」

 

「ロイ、聞いた? 私の相棒なら行けるでしょ!」

 

『当たりめぇよ、このまま車体ブチ当てたってかまわねえぜ!!』

 

「やったら怒るわよ!!」

 

2人のやり取りは完全に心が通じ合った関係だ、接近に関しては2人に任せて問題はないだろう。

そこから先の手段についてはこちらの相棒と相談だ。

 

「ハク、いつでも黒い奴が使える様に準備してくれ、頼んだぞ」

 

《了解です、しかしちょっと良いですかマスター?》

 

「ん、どうかしたか?」

 

《いえ、少しばかり気になったんですけどあのマンタってどこに向かっているんでしょう?》

 

「どこって……そういえばどこだろうな」

 

痛みにもがいても自分の縄張りから出ないような魔物だ、こちらが迂闊に手出ししたとはいえちょっとやそっとの衝撃で縄張りから出るような真似をするだろうか?

前方を飛ぶ魔物は先ほどまでとは違い、蛇行する事も無く真っ直ぐと飛行を続けている。

 

《この方角って私達の街がある方ですよね、確か》

 

「ああ、ただの偶然か?」

 

それにしてはマンタの動きに迷いがなさすぎるような気もする。

まるで何かに引き寄せられるかのようだ。

 

『――――モッキュー』

 

……どこからか獣のような鳴き声が聞こえたような気がした。

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