俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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BANした過去がやって来た ⑦

「カヒュー…カヒュー…!」

 

「……ナニコレ?」

 

変身を解いて喫茶店へ戻ってみるとそこは凄惨たる状況だった。

誰一人とて客のいない店内、瘴気が立ち込めるキッチン、テーブルに倒れ伏す縁さん。

何があったのか、その答えを知る者は厨房に佇む優子さんしかいない。

 

「優子さん……まさかあんた、作ったのか……!!」

 

「……次は上手くできる気がしたのよ」

 

「これで飲食店の店長が務まるんだからすごいネ」

 

隣で呆れた顔を見せるコルトの様子から見るに、彼女も優子さんの洗礼を喰らったのだろう。

お察しの通り優子さんは絶望的に料理が出来ない、死を覚悟したアオが齢1桁にして一通りの料理技術を身に着けるほどに。

俺が居候を始めて臨死体験を得たのち、客に提供する料理には一切手を加えないように目を光らせていたのに、つい油断した……!

 

「あっ、コルトちゃーん! こっちこっち、いやーここのカレー美味しいね!」

 

「それはサンドイッチよ」

 

「何デ……?」

 

ガラガラのカウンター席では、名状しがたい液状の何かにスプーンを差し込みながら満面の笑みを浮かべるドレッドの姿があった。

一部の魔法少女は毒物耐性も得るのだろうか、反応から見るにコルトは駄目なようだが。

 

「んっ、そっちの人は?」

 

「この店の経営最終防衛ライン、魔法少女の内情も知ってる人だからあまり警戒しなくていいヨ」

 

「なるほどねー。 こんにちは、私鑼屋 伊吹(どらや いぶき)、地元ではドラヤキちゃんって呼ばれてます、お見知りおきを!」

 

「あ、ああ。 こっちこそよろしく、魔法少女ってのはこの顔にビビらない奴ばっかなのか……」

 

「えっ? ああその顔、カッコいいと思うわ!」

 

グッとサムズアップして見せる鑼屋、嫌味でもなく多分天然なのだろう。

別に顔を罵ってほしい訳でもないし、付き合うのも疲れそうなので先に縁さんを起こすことにする。

 

「脈拍・呼吸ともにヨシ。 ほら縁さん、また厄介な案件入ってますよ」

 

「うーん、暴力的な味わいが味蕾に突き刺さるの……」

 

まだ意識が混濁しているようだが、幸い優子さんの料理に中毒症状はない。

放っておけば正気に戻るが今は時間が惜しい、さっさと目覚めて貰わないと困る。

 

「優子さん、この人にコーヒーを一杯」

 

「はい、縁起きてます! おめめバッチグーですはい!!」

 

「はいおはようございます、それじゃちょっとここまでの話しますね」

 

「えっ、何? どしたの? その子お客さん? 違う? 他所の魔法少女? えっえっえっ?」

 

状況把握に手間取る縁さんにここまでの出来事をかみ砕いて説明する。

なおドレッドと相乗りしたブルームスターは一時離脱、俺は帰りに偶然であったコルトに事情を聞いて合流した体だ。

 

「……そう、話は分かったわ。 コルトちゃんはラピリスとドクターに連絡、鑼屋ちゃんは仕方ないから一時的にこちらの指揮下に入ってもらうわよ」

 

「了解です、マン太郎のためですから!」

 

「OK、けどドクターに着拒されてんだよネー」

 

「何したんだよお前……」

 

まだ若干顔色は悪いながらも仕事モードに入った縁さんが指揮を執る。

これだけの人材が揃えばマンタの捕獲は何とかなりそうだ、ただ問題は……。

 

「もう一体のウサギみたいな魔物だっけ? あっちは何か当てがあるのか」

 

「……始末書だ、しょうがないよね、始末書だ」

 

五七五で侘び寂びを交えて諦念の意を表明する縁さん、いやいや諦めてもらっては困る。

コルトの方を見ても首を振るばかりで策はないようだ。

 

「しゃーない、俺がもう一度探しに……」

 

「ただいま戻りましたー……あっ、お兄さん。 やっぱり帰ってきてましたか」

 

当てもなく探しに行こうとしたその時、丁度帰って来たアオと出くわした。

その腕の中には額に大粒の宝石を嵌めこんだ綿あめのような生き物が抱きかかえられていた。

 

「あー! おにーさん、そいつだヨそいつ!!」

 

「ぎゃあ可愛い! ちょっと抱かせて、君ごとで良いから抱かせて!」

 

「……? お兄さん、大分にぎやかですがこれはどういう状況ですか?」

 

「あぁー、話すと長くなるんだけどな……というかそれが例の魔物か? よく見つけてきたな」

 

アオに抱きかかえられた魔物はひくひくと鼻を動かしてじっとこちらを見上げている。

既存の動物には例えにくい何とも言えない生き物だ、しいて言うなら羊毛を被ったげっ歯類ってところか。

 

「ええ、民間の方に保護されていた所を偶然発見しました。 ところで他にも魔物を見かけたのですが」

 

「ああ、それを含めて丁度いいタイミングだ。 話は中でしようか、何か飲むか?」

 

「いえ、私は結構です。 こちらのお客様にお願いします」

 

「……お客?」

 

するとアオの後に続いて金髪の女性が店へ入ってくる。

目尻の垂れさがった優しげな碧い瞳、口元のホクロがいやに艶っぽい。

年齢が図り難い妙に若々し気な印象を残すその女性にどうもコルトの面影が重なって見えた。

 

「ま、ママ!?」

 

「……コルト、あなたもここにいたのね」

 

「むっ、もしやコルトのお母さんでしたか。 こちらの方がもきゅ太郎(仮)を見つけてくれたんですよ」

 

『モッキュー!』

 

どんなもんだいと言いたげな綿型生物、ただもきゅ太郎という仮称には不満があるのか眉間に皴を寄せている。

感動の再会を果たした親子はというと、ただお互いを見つめ合うばかりで交わす言葉が出てこないようだった。

 

「……何か作ったほうg」

 

「やめて優子さん、話が余計こじれるから。 はい部外者はこっちの厨房に集まってー」

 

「はえー、コルトちゃんのお母さん美人さんね。 何歳?」

 

「コルト、こちらのテーブルを自由に使ってください。 折角の再会ですのでどうぞ遠慮なさらずに」

 

「ぐぬぬ、そのマイペースっぷりが憎たらしいヨ、サムライガール。 それとおにーさん……!」

 

素早く優子さんが生み出した暗黒物質を片付け、テーブルの一つを開けて2人を誘導する。

コルトから憎々しげな視線を受け取るが華麗にスルー、そそくさと全員が厨房の中へ集まった。

 

「……あのー、私部外者だからよく知らないんだけどコルトちゃんって両親と仲悪い感じなんですか?」

 

「私も詳しい話は聞いたことはないのですがそうらしいです、縁さんは知っていましたか?」

 

「うーん、一応詳しい事情は知っているけどプライバシーの問題なので深くは話せないわ……」

 

「そこの野次馬三人衆、ジロジロ覗かれちゃ向こうも話しにくいだろ。 軽食作るからこっちで大人しくしてなさい」

 

厨房からコルト親子の様子を覗き込む3人を咎め、冷蔵庫の中身を確認する。

幸い優子さんの魔の手を免れた食材は少なくない、サンドイッチ用のパンも余っている、適当に拵えてマンタ捕獲前の腹ごなしと行こう。

 

「何か手伝えることはある?」

 

「そうですね、ジッとしていてもらえます?」

 

優子さんを賄いで使うテーブルに座らせ、調理に掛かる。

横目でちらりと確認した向こうのテーブルでは、親子が黙りこくったまま向かい合いって座っていた。

 

《……マスターはデバガメしなくていいんですか? 私としてはかなり気になるのですが》

 

「親子の問題に口を出す奴は馬に蹴られて死んじまうよ、それにコルトなら問題ないさ」

 

あれだけ泣きじゃくれば嫌な気持ちも吐き出しきっただろう、ああして対面できているのがその証拠だ。

本当に嫌ならとっくに逃げ出している。

 

「……あ、あのね……!」

 

 

やがて沈黙に負けてどちらかが話し始める、口火を切ったのなら後は心配ない。

2人の会話を背に、出来上がったサンドイッチを皿にまとめて俺は食事を待つ4人の下へ戻って行った。

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