俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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BANした過去がやって来た ⑨

裏口から飛び出して行った魔法少女たちと縁さんを見送る。

胸ポケットのスマホが「あなたは良いのか」と言いたげに震えるが、この状況で席を立つと不自然なため中々離れるに離れられない。

 

「コルト……あの子は、なんで……昔は素直で可愛い子だったのに……っ」

 

調理場に残されたコルトの母親が泣き崩れる、優子さんはマイペースに電子タバコを吹かし始めた。

これはもしかして俺にフォローしろってか?

 

「えーと、コルトのお母さん? コルトだって考えがあっての事ですよ、まずは彼女の活躍を見届けてはくれませんか?」

 

「……あなた達は、あの青い女の子の家族なんでしょう? 不安じゃないの? 怖くは無いの!?」

 

コルトの母親が涙に濡れた顔を上げ、ストレートに感情をぶつけてくる。

そりゃ不安だし心配だ、だから俺もいち早く駆け付けたい。

 

「……下らないわね」

 

――――優子さんが彼女の疑問をタバコの煙を吹きながら一刀両断する。

膝をつく彼女を見下ろす視線は、心底つまらないものを見るようだ、俺に向けられている訳でもないのに思わず背筋に嫌な汗が流れてしまう。

 

「素直で良い子なんて外面を取り繕った言い方ね、もっと分かり易く大人しくて扱いやすい子って言ったらどう?」

 

「なっ……あ、あなたは……母親なのに分からないの!? 自分の子供が大切じゃないの!?」

 

「大切よ、自分の腹を痛めて産んだ子が可愛くないわけないでしょう。 だから私はあの子が信じる道を進ませたい」

 

優子さんが席を立ち、へたり込む彼女に詰め寄る。

不穏な空気を前に、一応自分も何かあった時に止めて掛かれるよう身構えておく。

 

「昔は可愛かった? 子供なんていつの時代も可愛いものよ。 昔は良かったなんてただの押し付けじゃない」

 

「そんな、こと……あなたに何がわかるの!?」

 

「分かるのか、と聞いたのはあなたでしょう? 随分勝手なもの言いね」

 

「っ……!」

 

コルトの母親の肩がびくりと跳ねた。

傍から見ている俺でも分かる、優子さんからたち込める怒気の気配に。

あの視線で刺されてはもはや身動き一つとれない、まるで蛇に睨まれた蛙だ

 

「私だって葵が戦うなんて本当は嫌よ、だけどあの子は自分を曲げなかった」

 

「それで……万が一があったらどうするの……!」

 

「死ぬほど後悔して一緒に死んでやるわ、だから本人も死ぬわけにはいかないって張り切ってるわよ」

 

「……クレイジーよ、あなた」

 

「かもしれないわね、けどあんたもそろそろ自分の子供と向き合ってみたら?」

 

言うだけ言って優子さんは踵を返し、ラピリス達の後を追って裏口から出て行った。

部屋には呆然として動けないままの彼女と俺が残された。

 

「……あの、落ち着いたら今のコルトをちゃんと見てください。 2人が分かり合うにはきっとそれが必要だ」

 

「…………そう、ね」

 

俺もスマホを片手に裏口の扉を開く。

コルトの晴れ舞台だ、こちらも気合いを入れてサポートをしなければ。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「やあ、遅かったね。 こちらはいつでも準備は出来ているよ」

 

「ドクター、早いですね」

 

裏口から出て、路地から広い道路へと抜けるとそこにはすでにドクターが待ち構えていた。

珍しく早い登場だ、いつもの調子ならゴネて引きこもってもおかしくないのに。

 

「なに、折角魔物の生態サンプルが取れそうなんだ。 張り切ってモルモッt……マンタを捕まえようじゃないか」

 

「アーソウダネ、ドクターはそういう奴だヨ」

 

捕まえたマンタが解剖されないように気を付けなければ、すると遥か彼方の空からわずかに魔力の流れを感じた。

みるみる近づいてくるそれは先程感じたものと同じ、間違いなくマンタのものだろう。

 

「ラピリス、向こうから飛んでくるマンタの気配が分かるネ?」

 

「……気流が乱れてますね、高度もぐんぐん落としてきます。 こうなると飛行というより落下という感じですね」

 

「犬みたいに鼻が利くな……縁、周辺の避難指示を頼む」

 

「無茶ぶりだなぁもう! うぅうぅ、間に合うかな……」

 

胃を抑えた縁がどこかへ電話をかけ始めたのを尻目に、魔力の気配を感じる方向を見上げる。

時間に余裕はない、適当に手を突っ込んだポーチから取り出した魔石を使い、テディの腹から目当てのものを取り出した。

 

「それは……網ですか?」

 

「ソーダヨ、耐久力強化オプション付きワイヤー製ネット。 こいつで例のマンタを取っ捕まえる」

 

取り出したのは10mは余裕で覆えるサイズの鉄網、面で捕らえれば風の影響を受けにくいはずだ。

問題は飛んでくるマンタを正面から受け止めなければならない事、それと……

 

「……ゴルドロス、マンタはかなりの速度で突っ込んでくるわけですよね?」

 

「……ソダヨ」

 

「…………私にはマンタのところてんが出来上がる気がするのですが」

 

「…………そこは私達が気合いで頑張るしかないヨ」

 

そう、このワイヤーネットは魔力を帯びている。

だからこそマンタを捕らえられる、と同時に相手を傷つけてしまうということだ。

上手いこと衝撃を緩和できないと突っ込んできたマンタがそのままスパッと切れかねない。

 

「まあ努力はしますが、3人がかりで捕らえ切れますかね」

 

「私もいるわ、4人よ!」

 

そこへ赤い車に乗り込んだドライブガールが登場する。

数は増えるのはありがたいが彼女を捕獲役に回すわけにはいかない。

 

「駄目だヨ、ドライブガールはマンタの標的になってんだから待機してもらわないとネ」

 

「むうぅ……しょうがないわね、マン太郎の事はお願い!」

 

ドライブガールが網の外にいると、マンタもそこ目掛けて突っ込んできかねない。

彼女は網の向こうで待機してもらう、その為に網を構える人材は別に必要だ。

 

「電柱などに結び付けるのはダメですか?」

 

「まず間違いなく衝突でへし折れるカナ、私達が握った方が確実だヨ」

 

「言っておくけどボクに馬力は期待するなよ、元から戦闘が出来る能力じゃないんだからな」

 

それでも無いよりマシなんだから協力してもらう、引きこもりにはいい運動になるだろう。

それにこれだけ魔法少女がいればブルームスターも顔を出しにくいはず、ドクターは貴重な人材だ。

 

「言ってる間に来ますよ、全員構えてください!」

 

ラピリスが示した方角、ビルの屋根に設置された看板の向こうからぐんぐんとこちらに近づく点が見える。

感じる魔力の流れから正確な速度は測れないがかなりのものだ、果たして私達だけで受けきれるだろうか。

 

≪コンバットファイター・A!!≫

 

「ドレッドハート、君はその車を使って目一杯逃げろ。 僕らもその後を追う」

 

「そういうことね、分かったわ!」

 

ドクターがゲーム機にカセットを嵌めこみながら、ドライブガールへ指示を飛ばす。

向こうの動きに合わせてこちらも逃げる事で相対的に減速させる腹積もりか、問題は3人の足並みを合わせないといけないが……

 

「ラピリス、君は飛ばし過ぎるなよ。 逆にゴルドロスは大丈夫か?」

 

「サムライガールほどじゃないけど素早さなら問題ないヨ、そういうドクターこそ平気カナ?」

 

「僕はこの機体を使うから問題ない」

 

「わー便利ー……」

 

小型の戦闘機に掴まったドクターが網の端をもって空を飛ぶ。

必然的に地上に残った私とサムライガールが網を引っ張ると三角形の面が出来上がる。

あとはここにマンタが飛び込むように調整するだけ、3人の呼吸が合わないと難しいミッションだ。

 

「任せたわよ、3人とも。 幸運を祈るわ!」

 

「そっちもネ、失敗したら最悪その車に突っ込んでくるヨ?」

 

「その時はその時で何とかするわ、ロイがね!」

 

『とんだ無茶ぶりですね、まったく……』

 

その軽口を最後に車のエンジンが唸りを上げる。

幾らかタイヤが空回りし、急発進した車体を追うよう―――空から件のマンタが現れた。

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