俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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BANした過去がやって来た ⑪

「いやー、これでマンタ事件も解決か。 疲れた疲れた」

 

《お疲れ様でーす、あとは適当な場所で変身解除して合流しましょう》

 

タイマーが切れ、いつものモノクロ形態に戻りながら悠々と空を飛ぶ。

あとはコルトたちの問題だ、俺たちは邪魔をしてはいけない。

 

《どうですかね、上手く行きますでしょうか》

 

「さあな、後は神のみぞ……ん?」

 

《どうかしました?》

 

何気なくゴルドロスたちの様子を見てみると、どうも様子がおかしい。

母親を押しのけるゴルドロス、だがその雰囲気はどうも親子同士の喧嘩とは違う。

 

《マスター、ちょっとあれ! あのビル見てください!!》

 

「ん? どうし……かんばぁん!?」

 

ハクに促され視線を上げると、そこには今まさにボルトが外れて落下する看板の姿があった。

コルトはあれを見て飛び出したのか、風に煽られた看板は吸い込まれるようにゴルドロスたちの下へ落ちていく。

直撃するかは怪しいコースだが、あの大きさなら間近に落ちた衝撃だけでお釣りがくる、彼女だけで抑えられるか?

 

「ハク、もう一回タイマー使えるか!?」

 

《駄目です、もう3分使い切りました! これ以上は……!》

 

ならセーフティ抜きで、と血迷い掛けたが駄目だ。

制御を外してあれを使えば辺りに灼熱をばら撒く、とてもじゃないが共闘や協力には使えない。

だがこのまま駆け付けたところで間に合うかどうか。

 

「――――手を出すなヨ、ブルーム!!」

 

箒を方向転換させた瞬間、機先を制したゴルドロスの声が飛ぶ。

振り向きもせず落下してくる脅威を見つめる彼女の動きに迷いはない。

 

「っ……大丈夫かよ、コルト」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

身体は勝手に動いていた、止める術なんて思いついちゃいない。

あれを受け止めた所で魔法少女である自分は問題ない、だがママたちはどうだ。

 

考えろ、魔石は十分にある。 何を取り出せばあれを受け止め切れる、被害を抑えられる。

焦る気持ちとは裏腹に頭は動かない、何か、何か、何か―――――

 

『―――モッキュ!』

 

ふと、あのかわい子ぶった鳴き声が聞こえる。

声が聞こえた方に視線を落とすと、私と並行して走るあの(けだもの)がいた。

 

「おまっ、何でここにいるのカナ!?」

 

『モッキュ!』

 

話を聞いているのかこいつは、まあ腐っても魔物なら直撃を喰らった所で死にはしないだろう。

余計な時間を喰った、再度迫りくる看板へと目を向けると――――

 

『モッキュ! モッキュッキュー!』

 

「へっ? あっ、おまっ! 何処に潜り込む気だヨお前、テディはお前の玩具じゃないんだヨ!?」

 

目を離した隙に魔物がテディの腹の中へと飛び込んだ。

慌てて掻き出そうとするがもう遅い、既に看板は目前だ、もはやどうこうできる猶予はない。

 

「――――ああもう、何か出ろォ!!」

 

ヤケクソ気味にテディから手を引き抜く、恨むぞあのもこもこ、無事に終わったら全身の毛を毟ってやる。

何かを掴んでいる感触はある、それは魔物か偶然にも掴んだ銃か。

確かめる暇もなく「それ」を目の前の大質量へと叩きつける。

 

無駄な抵抗だ、たかが知れた威力。 

無情にも落下する看板はこともなげに私達を吹き飛ばすだろう――――――

 

 ――――ピッコォーン!

 

「…………ハッ?」

 

しかしそんな後ろ向きな予想を馬鹿馬鹿しいとあざ笑うように、非常に軽やかな音を立てて看板が吹き飛ぶ。

重力を無視して真上に跳ね上がる看板。 なんだ? 私は今()()()()()

 

「……ぴ、ピコピコハンマー?」

 

事の顛末を見届けていた縁がポツリと呟く。

確かに私の掌は何の変哲もない、おもちゃのハンマーが握られていた。

 

「呆けてんなよゴルドロス、まだ片付いちゃいねえぞ!!」

 

≪BURNING STAKE!!≫

 

 

はっと我に返り上空を仰ぐと、箒に乗って加速したブルームスターが看板へ蹴撃をお見舞いする。

細かい破片をばら撒きながら、大きく凹んだ看板は元の定位置であるビルの屋上へと蹴り戻された。

ズズンッという鈍い地響きを鳴らして着地する看板、暫くその場の全員が硬直するが、再び看板が落下することはなかった。

 

「は……はは……やったァ……」

 

『モキュキュ!!』

 

緊張の糸が千切れて膝をつく、傍らにはいつの間にかテディの腹から出て来た魔物が鳴いていた。

やんちゃな獣め、頬ずりなんかしたところで騙されてやらないぞ。

 

「お前は……あとで丸坊主だヨ……」

 

今まで無視してきた疲労と痛みがドっと押し寄せて来た。

たまらず重い瞼が重力に負ける、倒れる体を支えられない。

 

「――――コルト!!」

 

……蒼い顔をして駆け寄るママの姿が見える。

それを最後に、私の意識は闇の中へと微睡んだ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

≪――――オペレーション・ドクター!≫

 

やかましい電子音声に意識を揺すられ、目を覚ます。

横たわったまま見上げた空は知っている天井だ、ここはいつもの喫茶店だろう。

周囲には心配そうに私を取り囲む皆の姿、私は気を失っていたのか。

 

「なんだ目覚めたのか、きつけのコーヒーでも流し込んでやろうと思ったのに」

 

「お前は血も涙もないヨ、ドクター……!」

 

「あんたら人のコーヒーを何だと思ってんのよ」

 

改めて自分の体を見ると、ロケットランチャーの自爆による負傷はきれいさっぱり消えている。

腹の上には綿あめのように丸まって、もきゅもきゅと独特の寝言を漏らす魔物が一匹。

更に頭の下にはどこか懐かしい柔らかな感触があった。

 

「……目が覚めたのね、コルト」

 

「ママ……」

 

懐かしい、母の膝枕だ。

そういえば昔はこうやって寝かしつけてもらったっけ。

 

「その様子だと体はもう良いらしいな、なら次はマンタの治療だな」

 

「私もちょっとタバコ吸ってくるわ」

 

「俺もちょっと外の様子見てくるわ」

 

「私も私も」

 

ドクターが外へ出て行ったのを皮切りに、皆が皆ぞろぞろと店を出て行く。

跡には私とママ、そして腹の上で寝こける一匹の獣だけが残された。

 

「……ママ、怪我はないカナ?」

 

「それはこっちの台詞よ、あんな……あんな無茶して……っ」

 

ママの瞳から零れた涙が私の頬へと落ちる。

ああ、また泣かせてしまった。 私は本当に親不孝者だ。

 

「ごめんネ、ママ。 でも私……」

 

「……分かってる、あなたにはあなたの理由があるんでしょう? 私はあなたの話に耳を傾けずに、ずっと自分の都合を押し付けていた」

 

「ママ……」

 

「けどね、これだけは教えて。 あなたはなんのために戦っているの?」

 

なんのために戦うのか、そんな質問は何度も受けて来た。

今の自分の答えは決まっているが、昔の私ならなんて答えただろう。

 

「……ママ、私ね。 欲しいものが出来たんだ、あの日からたっくさん出来た」

 

「……それが理由?」

 

「ソダネ、いい迷惑だと思われるかもしれないけど私は私が欲しいものを守りたい。 ずっとずっと、たくさんいっぱい手に入れたい、そんな贅沢叶えるには普通の女の子じゃいられないよネ?」

 

「とんだ欲張りさんになったわね……コルト」

 

……ママの笑顔を見たのは何時ぶりだろうか。

ショッピングモールで魔物に襲われたあの日から、私達の時間はずっと止まったままだった。

 

「ごめん……ごめんなさい、コルト。 私、私あなたに酷い事を……っ!」

 

「いいヨ、ママ。 あの日があったから今の私があるんだ、たくさんの人と出会えた。 だから許すよ、きっと必要な事だったんだ」

 

仰向けのまま、子供のように泣きじゃくる母の頭を撫でる。

ああ、やっと言えた。 謝って許して、このやり取りをするだけにどれだけ時間がかかってしまったのだろう。

 

店の中にはただただ、ママのすすり泣く声だけが響いた。

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