俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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思い出・アップデート ①

「――――強引な解釈だが、つまりは未来に得るはずの“可能性(えん)”を結んだのだろう」

 

十数万は下らないゲーム用の椅子をぎしぎしと軋ませる音を響かせながら、扉の向こうで少女が語る。

ドクター、この魔法局で働く魔法少女の一人だ。

彼女が持つ魔法は希少な治癒能力を有する、だからこそこのように厳重な警備という名の引きこもり的生活を許されている。

 

「バンクだったかな、彼の持つ魔法は非常に興味深い。 運命を手繰り寄せるなどいよいよ科学世界を乗り越えた話だ、それを“縁結び”などという温い形で使ってくれて本当に助かるよ」

 

「御託は良いのだよチミィ、それであの魔獣は一体何なのかね?」

 

私の後ろに控えた男が、後退し始めた頭髪を弄りながら偉そうな声を上げる。

交渉は私が行うので黙っていて欲しい、ただでさえドクターは気分屋だというのに。

 

「さてね、さっぱり分からないんだこれが。 魔法なんてそんなものだろ」

 

「はっ! それが高い税金によって雇用されている魔法少女の言葉かね、まったく最近の若い子は努力が足りとらんよ努力が! 私を見習いなさいよ君達!」

 

「あのぉー……()()、あまりヒートアップし過ぎるとお体に障(さわ)りますのでそこらへんにしましょうよ」

 

ギチギチに締めたベルトをたっぷりと油の乗った腹で隠し、サイズがあってない制服を無理矢理着込んだ中年男性。

それがこの魔法局東北支部長、槻波(つきなみ)影一郎( えいいちろう)である。

 

「私ぁまだまだ健康だよ! 動けるデブだよ私はね、それより君の方は大丈夫なのかね桂樹クゥン? 報告書には目を通したよ、()()の駆除に手を焼いているようじゃないかね」

 

「で、ですがシルヴァちゃんとブルームスターちゃんは特にこれといった問題を起こしては居なくてぇ……」

 

「今まで問題を起こしたかどうかじゃないよ、次に彼女達が人に害を与えないと誰が保証できる! できないよねぇ、ええ!?」

 

ねちねちと文句を突き刺してくるが、言ってること自体は間違っていないから胃が痛い。

そもそも彼女達が問題を起こさずとも、別の魔法少女が問題を起こせば「野良」というカテゴリーに括られた彼女達にも世間の火の粉は飛びかねない。

 

「ふんっ! いいかね、魔法などという力は本来年端も行かぬ少女の身には余るものだよ、だからこそ我々魔法局があるのだ。 野良ネコなどはさっさと始末を付け給え、私の経歴に傷がつく!」

 

「ううぅぅ……局長はもっと自分の言動を整えるべきかと思うのですが……」

 

「だまらっしゃいな! 良いかね、他の支部局長からにらまれるのは私なのだよ! その分君らは好き勝手出来るがね、何でも良いから早く片付けなさいよ!」

 

「あうあう、前向きに善処しまーす……」

 

言いたいだけ言いきった局長は、ドスドスとやかましい足音を残して去っていく。

まったく簡単に言ってくれる、そもそも彼女達を交渉の場に持ち込む事がどれほど難しい事か。

 

「ごめんねドクター、話の腰を折っちゃって」

 

「構わないよ、ボクもバンクとは別件で聞きたいことがある。 “これ”は本当にボクが見つけたものなんだな?」

 

扉の隙間から一枚の電子パッドが滑り出され、その画面には所々文字化けしたテキストファイルが表示されている。

そこに掛かれているのは「七篠月夜」、以前にドクターが発見し私が保護したデータファイルだ。

 

「……ボクにはとんと記憶がない。 縁、君はよく覚えていたな」

 

「私も大分おぼろげよ、このデータも自動で消えちゃうから毎秒数千回ほど自己複製を続けるプログラムを組んで無理矢理残しているだけ。 暇を見つけたら改良するわ」

 

プログラムの作成には苦労したが、完成してしまえば定期的に画面を確認する癖さえつければ簡単だ。

そういえば珍しく魔法に科学が勝った貴重な事例になるのだろうか、記録に残せないのが非常に残念だ。

 

「とんだゴリ押しだな……発想もそうだけど記憶が消失する前によく間に合ったね」

 

「いやね、ドクター。 あなたのチェンジャーを作ったのが誰だか忘れたの?」

 

「そうだったな、愚問だった。 忘れてくれ」

 

「ふふん、それじゃ私はちょっと野良の魔法少女に関する対策書類作ってきまーす……」

 

「うん、頑張れ。 僕はもう一度この七篠月夜に関して調べてみるよ」

 

扉向こうのドクターと別れ、オフィスワークへと戻るために長い通路を歩く。

あの人の事だ、放っておけば良かれと思って余計な事をしかねない。 先んじて私が牽制しておかねば。

まったく、いつになったら私は私のやるべき事が出来るのだろうか。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……ってなわけで、パトロールという名の一時避難中なんだヨ」

 

「それで良いのか魔法少女」

 

ブルームスター(私服形態)の姿でコルトと共に繁華街を歩く。

ここは以前、手長と脚長の魔物が現れた付近だだが、その爪痕はきれいさっぱりと消えている。

 

「しっかし局長か、アオもあんまり話さないからよく知らないんだよな。 どういう人なんだ?」

 

「偉っそうでいけすかないデブちんだヨ。 仕事ぶりはよく知らないヤ、よく縁に丸投げしてるイメージしかないネ」

 

「そりゃ俺も良いイメージが湧かないな……」

 

頭に浮かぶのはテレビやドラマでよく見る「嫌な上司」のイメージそのままだ。

しかしそうなると縁さんは大変だな、今度店に来たときはよく労っておこう。

 

「コルト、お前も何かあったら言えよ。 最悪の場合魔法局に殴り込みをかけるのも(やぶさ)かじゃない」

 

「AHAHA、覚えておくヨー……けどうーん、やっぱりブルームって……」

 

生返事を返したコルトがやけに真剣な顔つきで嘗め回すように俺の恰好を見つめる。

なんだろう、この格好にどこか変な所でもあっただろうか。

 

「……思うんだけどサ、その格好のおにーさんってかなり可愛いよネ」

 

「お前は何を言ってるんだ」

 

「いやいや結構マジだヨ、もうちょっと服装とか気を使えばこう……服っていつもどうしてるのサ?」

 

「知らんよ、いつもハク任せだ」

 

《あー、テキトーにネットから拾った服を魔法少女衣装の上に張り付けてますねー》

 

胸ポケットのハクが語る、俺もハクもファッションには結構無頓着なところがあるから私服なんていつも適当だ。

そもそも最低限着回せる数さえあればそこまで服なんていらないと思うのだが。

 

「……この後暇? ちょっと服買いに行こうヨ」

 

「仮に買ったとしてその服どこに保管しとけってんだよ……」

 

万が一にでも女児の服を所持していることが優子さんたちにバレたらどうなることか。

社会的な死は確実として二度とアオ達に合わせる顔がなくなってしまう。

 

「なんなら私が預かるヨ! 折角可愛いんだからオシャレしないと勿体ないからサー!」

 

「嫌だよ! いっとくが可愛いは褒め言葉じゃねえからな!」

 

 

抱き着くコルトを躱して距離を取る、するとそこで道の向こうに人だかりが出来ていることに気付いた。

何かを取り囲むように集まった人々は何やら不安げにざわついている。

 

「……コルト、ちょっとタンマ。 アレ」

 

「ん? ……何か様子おかしいネ、行ってみヨ」

 

ただ事じゃないと見ると切り替えが早い、先ほどまでセクハラまがいの真似をしていた少女とは思えないな。

2人して人ごみの足元をすり抜け、その中央の様子を覗くとそこには2人の男が対峙していた。

 

ピッチピチのジャージに身を包んだふくよかな体系の男性だ、蒼い顔に脂汗を流して腰が引けている。

肩やもう一人はよれよれのビジネススーツを着た体格のいい20代ぐらいの男だ、その足取りはふらふらと覚束なく、口の端から涎を垂らし、瞳孔の小さい瞳は焦点があっていない。

 

「なんらてめぇよォ!! 俺が何したって俺の勝手だろうが!!」

 

「い、いいいいやね、私は割込みは行けませんよって注意しただけであってね! あなた酔ってる!? 嘘でしょそんなスーツ着ちゃってー!」

 

2人の間にトラブルが発生し、喧嘩に発展した雰囲気か。

パッと見た感じではスーツ姿の男に非があるようにも思えるが。

 

「ごちゃごちゃうるせえぇんんだよおおぉおおよ!! おま、お前は俺の母ちゃんかァ!!?」

 

「ひ、ひえええええ!!?」

 

激昂した男が懐から折り畳み式のナイフを取り出す。

周囲からは悲鳴が上がり、ふくよかな男性は腰が抜けたのか尻餅をついてしまっている。

いけない、あれじゃ逃げられないな。

 

「ハク、行くぞ」

 

《マージすか、こんな民衆の中で変身しちゃって後のこと知りませんよー!》

 

≪Are You “Lady”!?≫

 

幸い周囲の視線は2人へと集まっている、その隙をついて飛び出した。

噴き出す黒炎を抜け、間一髪振りかぶられたナイフと尻餅をついた男性の前に割り込む。

あとは振り下ろされた凶器を掴み取り、箒へと変えると勢いよく伸びた柄が焦点の合わない男の鳩尾へとめり込んだ。

 

「ゴア゛ッ……!?」

 

「悪いな、ちょっと寝ててくれ。 さて、大丈夫かおっさん?」

 

「ま、魔法少女……!? 白いマフラーに、灰を被ったような白髪……」

 

気絶して倒れ込んだ男の体を支え、振り返ると尻餅をついて震えるおっさんと目が合う。

満月のようにふっくらと膨れた顔は恐怖で蒼く染まっているが特に怪我はないようだ、良かった良かった。

 

「んじゃ後はこいつを警察に引き渡してか、けど長居するとラピリス達も駆け付けそうでなー……」

 

「……み、ミカちゃん?」

 

「ん?」

 

ふと、座り込んだおっさんがぽつりと言葉を漏らした。

その顔は俺を見ているようでどこか遠い誰を見ている。

 

「い、いやそんなわけは……でもあまりに似て……」

 

「―――ぷっはー! もー置いてかないでよブルーm……あ゛ぁー!?」

 

そこへ遅れて人ごみを抜けたコルトが顔を出し、同時に驚きの声を上げた。

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