俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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思い出・アップデート ④

「さあさあ気合いを入れてネズミ探しだ! 急げ、市民の平和が懸かっているぞう!」

 

「……なーんで局長がついてくるのカナ」

 

監視カメラの目も届かないほどの入り組んだ細道、どでかい腹を盛大に詰まらせながら、局長が血気盛んに叫ぶ。

正直現場についてこられても迷惑なのだが、言って聞くような状態ではなさそうだ。

戦闘では役に立たない護衛対象が一人、今回の仕事はやけに神経を使うことになる。

 

「空回りとはいえ今回はやけにやる気ですね、一体どういう風の吹き回しでしょうか」

 

「知らないよヨ、縁なんてさっき新しい胃薬開けてたからネ」

 

コミュニティのトップが動くとはそういう事だ、万が一何かがあればすみませんでしたではすまない。

こんななりだが、一応この人がいなくなるだけで私達には大きな損失が生まれてしまう。

作戦室で待つ縁の苦労が偲ばれる、まったく何でこんな人が我々をまとめ上げているのだろうか。

 

「ん、それでゴルドロスクン。 なにか動きはあったかね?」

 

「そうそうあってたまるかヨ、こういうのは根気強く……」

 

―――――うなじの辺りにゾクリと何かが走った。

遠い、これはお化け通りの方だろうか。 強い魔力のうねりを感じる。

それも二人分、ブルームスターとシルヴァのものか? おそらく戦闘中、だとすれば……

 

「……サムライガール、東の方角だヨ。 何か感じないカナ?」

 

「むっ、これは……」

 

「何だね? なにか見つかったのかね? 私にも教え給え!」

 

ああもう後ろが五月蠅い、誤魔化そうとも一瞬悩むがこの調子ならどこまでも付いて来るだろう。

下手に誤魔化すより目の届くところにいてもらった方がまだ安心できるか。

 

「何かは分からないけど何かはあったヨ、おそらくブルームスターたちが戦闘中。 危険だけどついてくるカナ?」

 

「うっ……も、もちろんだとも! 君達を置いて私だけのうのうと安全な場所で待っている訳にもいかないだろう!」

 

『あっはっは、ボクへの皮肉かな今のは?』

 

局長の強情っぷりに、通信機越しのドクターが笑う。

ただ声は一切笑っていない、局長の顔を見てみるとその顔は凍えたように蒼く染まっていた。

 

『こちらじゃ何も感知できていないな、相変わらず機械の探知精度はあてにするな。 君達の感覚を第一に動け』

 

「了解、すぐに向かいます。 二刀展……」

 

「待て待て、それは私も局長も付いていけないヨ。 行軍速度は合わせようヨ、サムライガール」

 

「むぅ……ですが市民の平和が懸かっているなら迅速に」

 

「な、ならばラピリスクンは先行して向い、状況を報告し給え! 我々はその後を追いかけよう!」

 

「分かりました、それで行きましょう」

 

局長が蒼い顔のまま指示を飛ばす。

速度の長けたサムライガールの先行させるのは確かに悪くない、だがその場合だと彼女に何かあった場合のカバーが効かなくなる。

しかしこちらが止めるよりも早く、サムライガールは駆けだして行ってしまった。

 

「Ahー……ドクター、どうするヨ?」

 

『仕方ない、斥候は任せよう。 彼女もブルームスターと相まみえたくてうずうずしているらしい』

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「シルヴァ、気合い入れて捌けェ!!」

 

「わー! わぁー! 手が足りるかこんなものー!!」

 

飛び掛かってくる無数のネズミを振り回す箒が、舞い散る火炎が、氷柱が、雷撃が打ち払う。

ただのネズミと言っても数が数だ、じわりじわりと多勢に無勢が効いてくる。

オマケにこいつらの歯牙や爪には、魔法少女の肌を切り裂く程度の力があるらしい。

このネズミたちを操る奴が何かを仕込んだのか、1つ1つはかすり傷だが傷も重なれば脅威に変わる。

 

「長引くのはヤバいな……シルヴァ、飛ぶぞ!」

 

「あい分かっ……うぎゃー!」

 

僅かに気が緩んだシルヴァの隙を突き、ネズミの一匹がペンを持つ彼女の人差し指に噛みついた。

その噛みつきを皮切りに、周囲でチャンスを窺っていたネズミたちが一斉に群がる。

見る見るとネズミの山に埋もれていく彼女の体、あわてて呼び出したスマホの画面を叩いた。

 

≪BURNING STAKE!!≫

 

「シルヴァ、ちょっと熱いぞ!!」

 

シルヴァに群がるネズミの山へ、掠める様に炎を纏う右足を振り抜く。

多少狂暴になってもやはり動物か、炎を恐れたネズミたちが散り散りに離れる。

顕わになったシルヴァの姿には擦り傷程度で思ったより外傷は少ない、ほっと息を吐きながらふらつくその身体を抱き支えた。

 

「おい大丈夫か! しっかりしろ、意識はあるか!?」

 

《ちょっとマスター、あまり揺らさない方が良いですって!》

 

「…………ヒックっ」

 

「……ひっく?」

 

支える腕に、ぐたりともたれ掛かるシルヴァの体が、しゃっくりのような声とともに一瞬跳ねる。

ゆっくりと上げた顔色は赤く、どこか遠くを見つめるような表情をしていた。

 

「……おいシルヴァ、大丈夫か?」

 

「…………ふへ、ふへへへへっ。 めいゆうぅ~~……我な、我なぁ……すごいんだぞぉ、かっこいいんだぞぉ!」

 

こちらの腕に抱き着くように絡みつき、どこか上機嫌なシルヴァが笑う。

その様子はおかしい、いやいつもおかしいような奴だったがそれ以上に様子がおかしい。

 

「お、おいハク! これって何だ、どういう事だ!?」

 

《私に聞かれたって分かりませんよ! たぶんあのネズミが原因じゃないんですかね!?》

 

「あいつらに噛みつかれると酔っぱらうってか!? んな馬鹿な!」

 

噛まれただけで酔っ払うってなら俺もとっくに醜態晒してる。

しかし原因はそれしか考えられない、俺との差はネズミに付けられた傷の数か。

 

《死ぬ気で避けてくださいマスター、2人とも泥酔したら収拾がつきませんよ!》

 

「分かってら! このままじゃ分が悪い、一旦引くぞ!」

 

「えへへへ、めいゆーの肌すべすべー」

 

「どこ触ってんだお前ー!!」

 

抱き着くシルヴァと取っ組み合っている間に、ネズミたちがまたじりじりと距離を詰めてくる。

その狙いはシルヴァを外れ、完全に俺へ向けられていた。

やはりこれは統率された動きだ、ネズミに指示を出している奴はどこにいる?

 

「素直に逃がしちゃくれねえよな……ハク、いけるか!?」

 

《あいあい、それじゃハクちゃんタイマーを――――》

 

「――――そこまでです!!」

 

奥の手を切りかけたその瞬間、一筋の疾風がネズミの束を薙ぐ。

赤と青の残光を追った視線の先、そこには二刀を構えたラピリスが立っていた。

 

「ラピリス、嗅ぎつけて来たか!」

 

「ここであったが百年目ですよブルームスター、大人しくお縄に……」

 

「馬鹿、ネズミが来るぞ!!」

 

「はい……? ひゃあぁ!?」

 

こちらに気を取られたラピリスの足元から、一匹のネズミが袴の中へと潜り込む。

変な声をあげてみ悶えるラピリスだが、服の内側で動き回るふくらみをどうにも捕らえられない。

 

「うひぃ! ひゃ! ちょっ、どこ噛んで……いったぁ! 引っ掻き……あだだだだ!!」

 

もぞもぞと奇妙な踊りを踊るラピリスは実に隙だらけだ、こちらがフォローに入るよりも早く、周囲のネズミたちが一斉にラピリスへと襲い掛かった。

 

「くっ、このぉ! ……ヒックっ!」

 

《あっ》

 

「え゛っ」

 

身悶えるラピリスの動きが止まり、糸の切れた人形のように両手を投げ出す。

散り散りにラピリスから距離を取るネズミたちと俺の間に、奇妙な沈黙が生まれた。

 

「……ら、ラピリス? 無事か?」

 

「…………ぶ~るぅ~むすたぁ~~~? なぁに野良同士でイチャついてんですかあなたはぁ?」

 

赤く染まった頬、焦点の覚束ないとろんとした瞳、どうにも様子がおかしい喋り方。

背中に冷たいものが走る、素早く回れ右して逃げだそうとした背を、一飛びで距離を詰めたラピリスがむんずと掴んだ。

 

「あははははは! つーかまーえたぁー!!」

 

「うへへ、ブルームスタ~! 我な、我なぁ~!」

 

「誰かー! 誰か助けてぇー!!」

 

2人の酔っぱらいに絡まれた俺の悲痛な叫びは、残念ながらどこの誰にも届くことはなかった。

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