俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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思い出・アップデート ⑤

「ぶるーむすたぁ~、私は心配なんですよぉ。 あなたねぇ、そんな命を粗末に扱ってぇ、魔法局(うち)に入りなさいよ魔法局(うち)にぃ」

 

「あははははは! めいゆー! あははははは!」

 

「たーすけてくれぇー……」

 

泣きながら管を巻くラピリスと笑い上戸のシルヴァに挟まれ、口から漏れ出た俺のSOSは誰にも届かない。

周囲のネズミたちもこの2人に尻込みしてか、様子を窺うばかりで飛び掛かってこない。

正直襲い掛かってこないのは助かるが、これでは俺も身動きが取れない。

この膠着も長くは持たないはずだ、その前に二人を引き剥がして何とかこの場を脱出しないと。

 

「……なーにやってんだヨ、ブルームスター」

 

呆れた声がどこからか聞こえ、ズドンと腹に響く銃声が鼓膜を(つんざ)く。

あまりの轟音にその場にいたネズミたちが散り散りに逃げ出し、後に残った空いた道をゴルドロスが不機嫌そうに歩いて来た。

 

「なんだろうな……何やってるとおもう……?」

 

「HEYドクター、3人纏めてしょっ引いていいカナこれは?」

 

そんな後生な、いやしかし彼女の立場からすれば当然か。

これはきっとおそらく通信機越しに俺たちの状況を確認しているドクターへの建前だ、たぶん。

 

『あー、待て……いったいどういう状況だこれは。 説明できるか、ブルームスター?』

 

「俺も分からないよ、2人ともネズミに噛まれてこうなった。 そっちも気を付けろよ、ぱっと見た感じだと酔っぱらったように見えるが……」

 

「酔っぱらってないですよぉ! 私未成年ですもん、ひどいですよぉぶるーむすたぁ~!」

 

「あははははは! めいゆーが泣かせたー!」

 

さめざめとなくラピリスを見てシルヴァがさらに笑う、今の2人ならきっと箸が転んだところで泣いて笑うだろう。

そして酔いが醒めない限り、この両手の拘束を解いてはくれないな。

 

「んじゃさっさと拘束しちゃうヨ、荒縄で」

 

「待て、話せば分かる! いいのか、仲間のラピリスも巻き込むことになるぞ!?」

 

「野良とくんずほぐれつするような奴は仲間じゃないヨ、良いから大人しくお縄につくといいネ!」

 

「――――待ち給えゴルドロスクン! 彼女の言う通り……ゼェ、人質を取られている以上ハァ……下手に刺激するような真似はしてはいけない……ゼェ……!」

 

その時、ゴルドロスの背後からある人物が息を切らせて飛び出す。

不健康に肥え太った腹、服装こそ違えどその脂肪には見覚えがあった。

 

「……局長さん?」

 

「ハァ……ふふ、また会ったねブルームスタークン……ゼヒィー……!」

 

大分辛そうだが大丈夫だろうか。

ゴルドロスの後を追ってきたのなら相当急いで走ってきたと見えるが。

 

「ちょっと局長、邪魔しないでくれるカナ?」

 

「いいや邪魔をする! ブルームスタークン、交換条件だ。 君達を見逃す代わりにラピリスクンを解放してもらおう!」

 

ゴルドロスの発言を遮り、局長がそんな提案をしてきた。

事情を知らない局長から見れば、俺は大事な魔法少女を人質に取る悪童に見えるのかな。

ともかくこの状況はチャンスに違いない。

 

「お、大人しくしろぉ! でなければこのラピリスを……えーっと、あれだ、しっぺするぞしっぺ!」

 

「ぶるーむすたぁ~! 見損ないましたよぉ、あなたも道は違えど心に芯のある正義を持っていたとぉ思っていたのですがぁ!」

 

青い酔っ払いが泣きながら心を抉る事を言ってくる、シルヴァの方はというと泣きつかれて眠ってしまったようだ。

ネズミは既に跡形もなく姿を消している、通信機越しの面々へ向けたアピールも頃合いだろう。

呆れた顔のコルトへ向け、そっとラピリスを突き飛ばし、受け取った隙を見て羽箒を取り出した。

 

「じゃあな魔法局! 互いにネズミにゃ気を付けようぜ!」

 

「あーこら、待てェー! 今度会ったらただじゃ置かないからナー! 離せサムライガァール!!」

 

コルトの叫びを背に、酔いつぶれたシルヴァを背負いながら辛うじて箒は飛び立つ。

重量オーバーだな、後ろからコルトが撃って来ないのは幸いか。 ……しかし人を泥酔させるネズミとは、今までとは違った意味で厄介な魔物が現れたもんだ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「殺してください」

 

「まあまあ落ち着きなヨ……」

 

水を飲ませてしばらく落ち着かせると、我に返った様子のサムライガールが据わった瞳で物騒な事を言い出した。

どうやら彼女は酔った時の記憶もしっかり覚えているタイプらしい。

 

「もう二度と、泣かぬものだと、決めたのに……ふふ、ふふふ……笑ってくださいよゴルドロス、おにーさん以外の人間に泣いて抱き着くなんて……」

 

「反省してるなら責めはしないヨ、ただ今度から単独行動は避けて欲しいナ。 ……で、どういうことだと思う、ドクター?」

 

『うーん……恐らくだが“魔力酔い”って奴じゃないかな』

 

サムライガールの身に起きた症状について見解を求めると、通信機の向こうからは何か知っているような返答が返って来た。

魔力酔い、読んで字のごとく魔力を喰らっておかしくなったということだろうか。

 

『前に資料で読んだことがある、魔法少女が強い魔力を浴びると起きる症状だ。 許容量を超えるとまるでアルコールに酔ったような状態になる、細かい症状は人それぞれだけどね』

 

「……なるほど、ネズミが噛みついた時に打ち込まれたカナ」

 

「ああ、初めに局長を襲った男もこれが原因だろう。 ただ君も知っていると思うが、常人が魔力を喰らえば酔う程度じゃ済まないぞ」

 

「そうだネ、悪酔いにしてはかなり異様な感じだったヨ。 少し噛まれた程度であれならサムライガールみたいにめった噛みにされたらどうなる?」

 

()()()()()()()()()()、人の原形はまず留めちゃくれないだろう』

 

「……oh」

 

人は魔力を扱えない。 大気中に含まれる程度の微量なら害はないが、何らかの要因で濃い魔力を浴びたら話は別だ。

体内に吸収された魔力が暴走し、出来の悪い超常現象が腹の内側を食い破って出てくる。

……一説によれば、魔物とはこうした生き物が変質して生まれたものだといわれている。

 

「だったらやばいネ、あれは一匹二匹の数じゃなかったヨ」

 

『街に溢れたら大惨事は間違いないな、最悪東京の二の舞になるぞ』

 

「そ、それはかなり不味いのではないのかね!?」

 

体育座りで落ち込むサムライガールの隣、反省のため正座させた局長が声を荒げる。

その顔は「何とかなるのだろう?」と私達に縋り付くような表情をしていた。

 

「なんとかなるしなんとかするヨ、今は大事な話の最中だからちょっと黙っててくれるカナ」

 

「あっ、ごめんなさい……って違うよ! 大事な話ならそれこそ私が必要でしょうが!」

 

『勝手な判断でみすみすブルームスターを逃がすような人が必要になる場面なんて、そうそうないと思うけどな』

 

「うぐっ、そそそそれは……」

 

通信機越しに放たれるドクターの容赦ない口撃、しかしこれには同意するほかない。

私としては局長に責任を擦り付けて彼女を逃がせたので良いが、魔法局の立場からすれば局長の行動は目に余るものだ。

 

『局長様はブルームスターにご執心のようだが、そろそろ理由を聞かせてもらってもいいかな? でなければ流石にボクらもグーが出そうだぞ』

 

「わ、分かった分かった! 話しますとも、私だって命は惜しいからね!」

 

「利口な判断だネ、それじゃまずミカちゃんってのは誰なのか教えてもらおうカナ?」

 

初めにブルームスターを見かけた時に、局長が漏らした名前。

間違いなく原因はそれだ、このまま理由も分からずついてこられても迷惑なのでちゃっちゃと吐いて欲しい。

 

「…………だよ」

 

「What's? なんだって?」

 

「ううぅぅ……私の! 初恋の相手だよ! 似てるんだよ、ブルームスターと名乗る少女と!!」

 

「………………ウン? それだけ?」

 

初恋の人と面影が被るから贔屓目に見てしまっていたと、そうかそうか。

通信機の向こうで何かを握り潰す音が聞こえたのは気のせいじゃないだろう、この場にドクターがいなくてよかった、そうでなければ今頃局長は原形を留めていないはずだから。

 

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