俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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思い出・アップデート ⑧

「……ドクター、さっき起動したカセットには何の効果が?」

 

『ああそ、――――は、――――用の――――でね―――』

 

ドクターとの通信を拾いながら、ひたすら暗い下水道を走る。

やけに通信にノイズが混ざる、地下とは言えそこまで距離は離れていないはずだが。

 

『大丈―――い? 電波――――悪―――ああも――――君は、そのまま――――』

 

「はい、局長の跡を追いかけます。 任せてください」

 

じめじめと温い空気を角飾りで掴み、先に逃げたネズミたちの影を追う。

局長の他に感知できる人影がもう一つある、何か長物を握っているこの影はブルームスターだろうか。

流石というべきか、彼女もネズミたちの居場所に感づき、この下水道へと潜り込んだのだろう。

 

「ドクター、“仕掛け”の準備が出来たら合図をください。 タイミングは私が合わせますので」

 

『了――――任せ――――』

 

速度を上げて狭い通路を駆ける、流石に最高速とはいかないが前を走るネズミたちに追いつくのは時間の問題だ。

待っていろブルームスター、そしてネズミを操る魔物。 私に恥をかかせた罪は実に重いぞ。 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「――――よぉ、お目覚めかい眠り姫? カッコいいねこの本、手作りぃ?」

 

「う……ぐ……」

 

すえた臭いの湿った空気と、生暖かい温もりが嫌悪感と共に全身を包む。

傍の魔物が持つランプのような光源だけが照らす薄暗い通路、この臭いと水が流れるような音で自分が下水道に居るということは分かった。

 

横たわる私を見下ろす影は二つ。 1つは前に出会ったことがある、スピネと名乗る魔法少女。

その顔には以前にはなかった眼帯を装着し、ギザギザの歯を見せびらかすように口角を釣り上げている。

 

もう1つは初顔だ、嘴のような細長いマスクに顔を隠し、全身を真っ黒いマントで覆った人物。

その身体から湧きたつ“嫌な感じ”からして魔物だろう、その肩には数匹のネズミが乗っていた。

 

(わりぇ)を……どうしゅるしゅもりだ……?」

 

「キヒッ! 舌ぁ回ってねえんだから無茶すんなよ、アタシ特性の麻痺弾だ、しばらく動けねえって」

 

そうだ。 あの無人ビルで突然この二人が現れたと思ったら全身が痺れ、なす術もなくこの場所まで連れてこられた。

殺すなら人気(ひとけ)のないその場でも出来たはずだ、それでも拉致してきたからには相応の理由があるはずで……

 

「……ぶ、ブ(リュ)ーム(シュ)ターか……!」

 

「ギヒッ、どいつもこいつも察しが良くて助かるなぁホント。 そういうこった、大人しくしてろ」

 

なんて事だ。 自分のせいでブルームスターに、七篠さんに迷惑が掛かってしまう。

どうにかこの場を切り抜ける方法を考えなければ、しかしペンと本は没収されている。

全身を苛む痺れのせいでまともな詩も紡げない、八方ふさがりだ。

 

「にゃ、何故(にゃぜ)こんにゃことを……我々(わりぇわりぇ)はみにゃ(おにゃ)じ魔法少女にゃろぉ……!」

 

「あ゛ー……? かったるいこと聞くじゃん、住む場所が違うってだけで争うのが人間だろ? 魔法少女なんて曖昧な区分で纏めンじゃねえよ」

 

実につまらなそうな顔を向け、彼女はこれ見よがしなため息を吐いた。

隣に佇む魔物はじっとこちらを見つめるばかりで、いらだちを見せるスピネに頭を叩かれようと何の反応も示さない。

 

「……まあいいよ、アタシは優しいからね。 目的があってこんなことをしてるのさ」

 

「しょ、しょの目的(みょくてき)とは……?」

 

「それは――――ああ、いいとこで邪魔が入ったじゃん?」

 

彼女が口を開いた途端、空気を揺らして何かが近づいてくる気配を感じ取る。

まさか、もう彼が来たのか?

 

「く、くりゅなぁ盟友ぅ! これは(わにゃ)……!」

 

「ギヒヒッ、もう遅いねぇ! 随分早かったじゃねえかブルームスター!」

 

暗い道の先からネズミの群れが現れ、その背に乗った人物がランプの光によって照らされる。

……ネズミの上で、器用に見事な土下座を見せる恰幅のいい男性が。

 

「…………誰だこいつ!?」

 

「許して……許してください、私食べてもおいしくないよ、脂身ばっかりだよ……?」

 

スピネの反応を見るに、この人物の登場は彼女にとっても想定外だったらしい。

だとしたらこの人はいったい何者なんだ?

 

「おいお前、ちょっと待ってろ! もしもぉーし、こちとらお前の大好きな妹ちゃん様だけどォ!?」

 

慌ててどこかへ電話を掛けるスピネ、今まで見せていた余裕綽々な態度はどこかへ吹き飛んでしまった。

ますますこの人は何者なんだろうか。

 

「む、むぅ? き、君は確かえーと……ダークネスシルヴァリア二世クンだったかな?」

 

(しゃん)世ぇ……」

 

「おっとそれは失礼、失礼ついでに私を助けちゃくれないかね……?」

 

「むりぃ……」

 

「だよねぇ、君もかなりお辛そうだもの……誰かぁー! 助けてぇー!!」

 

「うるっさいよそこのおっさん、ンの無駄な脂肪引き千切ンぞ!!」

 

余裕がないスピネの怒気に気圧され、「ヒッ」と短い悲鳴を上げておじさんが両手で口を押える。

彼女は電話向こうの人物へ、苛立たしげな物言いを浴びせる。 このおじさんの誘拐はそれだけ想定外の事態なのか。

 

「連れてこいって()()()()ぁ!? 急な変更やめろっつーの、ったく我が姉ながらなんでホイホイいうこと聞いちゃうかなぁ!!」

 

「…………?」

 

電話で話している相手は、悪夢騒動の時に出会ったオーキスと名乗る魔法少女だろうか?

だとすれば会話を聞く限り、彼女たちにおじさんの誘拐を命じた3()()()の人物がいることになる。

彼女達と目的を同じとするまだ見ぬ仲間か、それとも……

 

「……チッ! ああもう、面倒くさいなぁ! だったらここで始末しちまえば良いんだろ!!」

 

「ひ、ヒィ! ダダダダダダークネスシルヴァリア四世クン、何かない!? ここから私を助けてくれる華麗で美麗な秘策とか!!」

 

「っ……!」

 

ガシガシと頭を掻きむしったスピネが、腰が抜けて後ずさるおじさんへと銃口を突きつける。

まずい、どうにかしなければ、しかし手元にはペンも何もない。

痺れる体で醜く這いずるが、激昂する彼女を止めるような真似は到底できない。

何か、何か手段は――――

 

「――――そこまでにしておけよ、スピネ」

 

暗闇を切り裂き、スピネの手元へと一本の箒が飛来する。

それはおじさんの額へ突きつけられた銃口を強かに弾き、狙いがそれた弾丸は下水の中へと消えて行った。

 

「っ……キヒッ! やぁっと来たのかよブルームスター!」

 

「5分ピッタリだろ? 大人しくシルヴァとそこのおっさんを返しな、でなきゃ拳骨じゃ済まねえぞ」

 

下水道に靴音を反響させながら、ブルームスターがランプの光に照らされて現れる。

見上げた視線が彼女と交錯すると、一瞬だけ辛そうな表情を見せた彼女がスピネを睨みつけた。

 

「……シルヴァに何をした?」

 

「キヒッ、教えてあげなぁい! 前々からさぁ、お前のその上から目線な態度にムカついてたんだよねアタシ」

 

スピネが片手をあげる、すると今までどこに潜んでいたのか、四方八方から押し寄せるネズミの群れが私達を取り囲んだ。

逃げ場はない、幾らブルームスターでも多勢に無勢だ。 この数に襲われては噛み傷を避けることは難しい。

 

「まあ話し合いは無駄か……悪いね2人とも、もう少し待っててくれ」

 

「ぶ、ブブブブルームスタークン! だだだ大丈夫なのかね、わわわわわ私も加勢するぞ! ネズミくらいなら何とかしてみせよう!」

 

「キヒッ! いいから引っ込んでなぁでぶちん、魔法少女同士の勝負に首突っ込むとミンチじゃすまないけど?」

 

スピネの脅しに秒で引っ込むおじさん、情けないが仕方ない。 ただの人間が首を突っ込んだところで命を無駄にするだけだ。

……それなのに、何で七篠さんは。

 

「勝算はあるさ、カップラーメン出来るまでに片付けてやるよ」

 

「へぇー言うじゃん? その挑発、乗ってあげ――――」

 

 

「――――そこまでです!!」

 

対峙する2人。一触即発のその局面に、ネズミの群れを突き破って蒼い旋風が割り込む。

鬼の角のような額飾りに、両手に握った二振りの刀。

ブルームスターと出会う前、無言で切りかかられたトラウマが蘇るその姿は……

 

「チィッ……! 魔法少女ラピリス、お前も嗅ぎつけて来たか!!」

 

「スピネ、ブルームスター! 魔法局の権限において、あなた達の身柄を拘束します!」

 

「えっ、俺も!?」

 

薄暗く、狭い下水道。

そこへ4人の魔法少女と、1人のおじさんが集まった。

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