俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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思い出・アップデート エピローグ

「ちょっと、こっちで本当にあってるのカナ!? なんかばっちいし臭いし!」

 

「黙ってついてこい、先行したラピリスの様子がおかしい! 何かがあったぞこれは!」

 

ドクターが持つゲーム機に映し出された反応を辿り、あみだくじのように道が分かれる下水道をひた走る。

珍しく焦りを見せる彼女の様子が、事態の深刻さを思わせる。

魔法局のトップが危険に晒され、更に魔法少女一名の安否が不明とならばそうもなるか。

 

「……まさかとは思うけど無事でいなヨ、サムライガール」

 

「縁起でもない事を言うな馬鹿!」

 

自分でも今のは失言だと思う。

それ以降は何も語らずにサムライガールを探して下水を走っていると、向かい側から反響する足音が聞こえてくる。

反射的に足を止め、銃を構えるがそれは杞憂だった。

重たい足音が大きくなるにつれ、闇の中からふくよかなシルエットが見えてくる。

 

「局長、無事だったか!」

 

「おお、ドクタークンにゴルドロスクン! 会えて嬉し……いや、今はそんなことより彼女だ! 頼むよ本職!」

 

息を切らせ、大粒の汗を流しながら後ろへ振り返る局長。

誰かいるのか、太ましい体に隠された後方に目を向けると、そこには血塗れのサムライガールを抱えるブルームスターの姿があった。

 

「っ……!」

 

≪オペレーション・ドクター!!≫

 

素早く医療用のカセットを起動させ、呼び出された小人たちが慎重にサムライガールの身柄を引き取る。

ドクターはというと治療を小人たちに任せ、ブルームスターへ歩み寄るとその胸ぐらを思いっきり掴み寄せた。

 

「ちょ、ちょっとドクタークン!?」

 

「――――何があった! 答えろ、ブルームスター!!」

 

「……オーキスにやられた、二人してこの様だ」

 

「オーキスが……?」

 

幽鬼のような表情でそれだけ告げると、胸ぐらを掴む腕を振りほどき、ブルームスターは踵を返す。

サムライガールほど目立った外傷はないものの、ふらつく足取りは彼女に蓄積されたダメージを思わせる。

 

「……チッ、今はラピリスの搬送が先だ! ゴルドロス、君は局長の護衛を任せた、まだネズミの残党がいるかも分からない!」

 

「え、ええ、でも……」

 

「でももだってもあるか! 大分血を失ってる、早く処置を施さなければ本当に不味い事になるぞ!」

 

「っ……ぶ、ブルームスター! 無茶はしないでヨ!」

 

ドクターに急かされ、後ろ髪を引かれる思いで振り返ると、ブルームスターは振り向きもせずに片手を振って応える。

見送る事しかできなかった彼女の背中は、どこかゾッとするような覚悟を感じさせた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「っ……ぁう……」

 

オーキスと名乗る魔法少女に攫われ、どれ程の時間が経ったのだろうか。

昼夜の感覚を失いそうな廃墟の中を、這う這うの体で彷徨う。

麻痺した体が拘束されなかったのは幸いだが、手元には杖であるペンも本も無い。

取り出した携帯は圏外だ、助けを呼ぶことは難しい。

 

「ここは……どこだ……?」

 

電灯の1つも無い暗い廊下を、壁に手を突きながら恐る恐る歩く。

この状況でオーキスたちに出会えば一たまりも無い、まずは杖を見つけなければ。

そういえば、彼女は私を攫う前にこの場所を何と言っていたっけ。

 

「――――ここは東京だよ、麻痺抜けンの早いねぇ。 思った以上だわ」

 

「っ……!!」

 

不意に闇の中から響いた声に身体が強張る。

コツコツとわざとらしい靴音を鳴らしながら、道を塞ぐように現れたのは嫌らしい笑みを浮かべた眼帯の少女だ。

 

「……スピ、ネ」

 

「そだよぉ、みぃんな大好きスピネちゃん、キヒッ! こんな夜更けに女の子一人で出歩いちゃ危ないよぉ?」

 

「……今は、夜なのだな」

 

彼女に廃ビルの中で襲われた時はまだ日が高かった、既にかなりの時間が過ぎたことになる。

だとすれば気がかりなのはブルームスター……七篠さんだ、酷い己惚れかもしれないが私を取り戻そうと無茶はしていないだろうか。

 

「キヒッ! そう警戒しないでよぉ、何も取って食う訳じゃあるまいしさ?」

 

「……我に、何をさせる気だ」

 

「……へぇ? 察しが良いじゃん」

 

殺すのならば幾らでもチャンスがあったはずだ、ブルームスターのおびき寄せるのが目的なら既に私の価値はない。

それでもリスクを負ってまで自分を生かしておくならば、相応の理由があるに違いない。

 

「何故……何故魔法少女同士で争う、我に何をさせる気だ! 答えよ、スピネ!」

 

「キヒッ……良いよぉ、答えてあげる。 ただ、声は抑えておけよ?」

 

気を張って吠えると、こちらに近寄って来たスピネが私の腕を掴み、手を引いたまま何処かへと向かう。

暗い通路の突き当りを曲がると、そこには等間隔に並んだ割れ窓が通路と共に続いている。

窓の外にはこの建物と同じように、廃れた居住区街と―――その家々をゆうに越す怪物の群れが闊歩していた。

 

「なっ……!? むぐっ!」

 

「騒ぐなよ、見つかったら面倒だ。 あれはここら一体に広がる生態系のトップ層かなぁ」

 

思わず叫びそうになった口を、掌で無理矢理塞がれる。

東京、それは「災厄の日」からすべてがブラックボックスと化した闇の街。

魔力による汚染が酷いということは知っていたが、この惨状は一体どういうことだ?

灰色の雲に覆われた空の下、そのどこへ目を向けようとも様々な姿の魔物が確認できる。

 

「……これが、東京……?」

 

「そうさ、アタシたちが10年生き延びて来た……取り戻すべき故郷の姿」

 

「取り、戻す……? まさか、まさか()()()()()!」

 

「そうさぁ、お前を除いてあと4()()、魔法少女たちを犠牲に私たち2人の悲願は達成される!」

 

スピネが私の腕を強く握り、語気を荒げて笑い声を漏らす。

10年、それはこの世界に魔力が溢れた日。 東京が誰も生き残れない地獄と化した日。

そうだ。 この見渡す限りの地獄を生き延びた、彼女たちの目的なんて簡単に想像がつく。

 

「――――10年前に凍り付いた、アタシ達の思い出を取り戻す。 その為になら……悪魔にだって魂を売ってやるさ」

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