俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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烈火のALIVE ②

「まったく、どいつもこいつも命を消耗品とでも勘違いしてるんじゃないか!?」

 

思わず足音を荒くして、明るく照らされた廊下を乱暴に歩く。

命なんてゲームじゃないんだからコンテニュー出来ないというのに、周りの魔法少女たちはその価値をまるで理解していない。

簡単に命を張るし、簡単に誰かを殺そうとする。 まったく親の顔が見てみたい、さっき見たか。

 

「ン? やあやあドクタークン、そんなにプリプリ怒ってどうしたのかね、子供はもう寝る時間よ?」

 

「やあ局長、夜更かしはホルモンバランスが崩れて太るぞ。 それにしても珍しい組み合わせだな」

 

『モッキュー』

 

局長の腕の中には、以前からこの魔法局で保護されている魔物「バンク」の姿があった。

無害とは判断されているが魔法局の監視下である魔物だ、局長なら近づくだけで騒ぎそうなものだが。

 

「私だって成長するのだよチミィ。 それに所詮は小動物だよ、可愛いものじゃないか」

 

『モキュフシャー!!』

 

「その割には嫌われているようだが、まあ仲良くやってくれよ……」

 

「疲れているようだねドクタークン、アニマルセラピーはどうかね? 先ほどラピリスクンも満喫したところでね」

 

ありがたい申し出を丁重にお断りしておく、今の自分に必要なのは快適な睡眠によるHPの回復だ。

決して獣とたわむれただけで回復するようなものじゃ……

 

「…………待て、今何と言った? ()()()()()()()()()()と?」

 

「そだよ? いやーやっぱりペットは良いものだね、私も昔は猫と一緒に暮らしていたのだが……」

 

局長の返答を待たずして、治療室の方へ向けて走り出す。

――――だがボクの行動とほぼ同時に、真横を()()を乗せたステンレスワゴンが通り過ぎて行った。

 

「あっ、局長。 先ほどはありがとうございました」

 

「ふふん、礼はいらんよラピリ……ラピリスクゥン!!?」

 

ああそうだ、なんて間の悪さだ。 局長は今までボクらの仕事に殆どかかわっていなかった。

バンクの情報も「無害な魔物」程度にしか知らなかったのだろう。

 

「―――バンクの“縁結び”か! 葵、正気か!?」

 

「ごめんなさいドクタァーー……でも私いいぃぃぃ……」

 

ドップラー効果を残し、葵の姿が見る見ると遠ざかる。

すかさず白衣から杖を取り出そうとするが……勢い余って引き抜いた杖が手からすっぽ抜ける。

既にバンクの能力による強制力が始まっているのか、彼女は一体誰と縁を結んだ? いや、そんなものは考えずともわかっている。

 

「……ブルーム、スター……ッ!」

 

噛み潰すように、ボクはその名前を呟いた。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「おにーさーん、居るー? 居なかったら返事してネー」

 

すでに時刻は草木も眠る丑三つ時、いつもと変わらず客のいない店内だが、流石に店員も居ないと雰囲気が違って見える。

店員がいない、つまりブルームスターことおにーさんの姿も無いということだ。

店先においてある植木鉢の下に裏口の鍵が隠されている事は知っていたので、侵入自体は他愛なかったが……。

 

「むーん、あてが外れたヨ……ん?」

 

手探りで壁を辿り、電灯のスイッチを入れると、並んだテーブルの上に1枚の紙を見つけた。

椅子を踏み台にテーブルの紙を回収すると、それはおにーさんが書いた手紙のようだ。

 

「母危篤、暫く店を開けますネェ……うそつきー」

 

これは店長に向けた方便だろう、局長から聞いた話によればあのシルヴァという少女が攫われたとか。

おにーさんはきっと、いや確実に彼女の後を追う。 だからこその言い訳だ。

 

「……となれば、おにーさんは1度はここに帰ってきたわけだネ」

 

神経を研ぎ澄まし、店内の様子を探る。

魔力の残滓を手繰れないかと思ったが駄目だ、ここにブルームスターの気配は残されていない。

不器用な人、こんな時くらいは私を頼ってほしい。

 

「……それとも、私ってそんなに頼りないのカナ」

 

彼とは秘密を共有する仲だと思っていた、それでも彼は独りで無茶を繰り返す。

近いようで遠い距離が埋まらない、一体どうすれば私は彼の隣に……

 

「――――待ってなさいよ、ブルームスタァー!!」

 

そんな私の悩みなどつゆ知らずとばかりに、窓ガラスの外をサムライガールが息を切らせて走り抜ける。

まったく元気のいい魔法少女だ、まだ腹の傷も塞がっていないだろうに。

 

「……アルエェ!? サムライガールナンデ!?」

 

思わず外を二度見してしまうが、そこにはすでに彼女の姿はない。

はて、見間違いか? しかしそんな疑問を否定するかのように、テディにしまってある携帯が着信を受ける。

 

「ハーイ、こちらコルト……ドクター? どしたのそんなに慌てて……サムライガールが? 隠した杖を奪って逃走? ……ソッカー、ふーん……?」

 

今見た光景を言うべきか、言わざるべきか。

見たといえば「何故追わなかった」と怒られ、言わなければのちほどバレた時に怒られるのだろう。

……ちょっとだけ考えて、私はとりあえず曖昧な返事で憤る彼女を誤魔化した。

 

ウン、何でこの店にいるかとか聞かれるとまずいからネ。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

《マスター、本当に独りで行く気ですか? コルトちゃんくらい誘えばついて来てくれると思うんですがねー》

 

「遠足に行く訳じゃねえぞ、あいつらを巻き込めるか」

 

スマホで確認した時刻は午前4時、そろそろこの夜が薄明かりに照らされる頃合いだ。

オーキスたちが待ち構える東京、そこではきっと今まで以上の死線が待っているだろう。

シルヴァが攫われたのは俺の落ち度だ、だからこそリスクを負うのは俺一人で良い。

 

《危なくなったら逃げてくださいよ、作戦コマンドはいのちだいじにで行きましょう》

 

「そんな事言わずガンガンいこうぜ、お前もいざとなったら見捨てて逃げろよ」

 

《うーん、生身であればグーが出ていた所です。 ところでなんでまだブルームスターの状態なんですか?》

 

ハクが言うように、俺の恰好は昨日から引き続きブルームスターのままだ。

私服状態で魔力の消費こそ抑えているが、この格好でいるメリットは殆どない。 

 

「ああ、それはな……」

 

「――――ブルームスター!!」

 

街の外へと繋がる大きな橋の上で、唐突に後ろから聞き覚えのある声が掛かる。

ああ、こうなると思ったからだ。 今の彼女と面と向かって会うのはブルームスターでなければ駄目だ。

 

「……よう、無茶するなよ正義のヒーロー。 傷に響くぞ?」

 

「これくらい……ゼェ、どうってこと、ハァ……ありま、せんよ……ゼェ……!」

 

振り返った先では、乱れた病衣を身に纏い、汗だくのまま肩で息をするアオの姿があった。

来ると思った、信じてた。 鳴神葵はそういう子だ。

 

「……シルヴァを奪還する気でしょう、私も行きます。 魔法局は関与しません、それなら……」

 

「駄目だ、危険すぎる。 お前はここに残れ」

 

「嫌です、私はあなたを死なせたくない!」

 

「俺もだよ、だからだ! 来るんじゃねえ!!」

 

「無駄死にです、2人掛かりで敵わなかったオーキスにあなただけで勝てるわけがないでしょう!」

 

「足手まといがいたからな、俺だけの方がむしろ都合が良いんだよ!」

 

俺はアオを危険に晒したくない、アオはブルームスターを独りで行かせたくない。

2人の考えに妥協案はない、ならば決着をつける方法は1つだけだ。

 

「……もういいです、実力行使です。 私より弱い魔法少女を行かせるわけにはいきません」

 

「気が合うね、助かるよ。 お前のそういうとこ、好きだった」

 

≪Warning!! Warning!! Warning!!! ……OK、GOOD LUCK≫

 

「―――――双刀転刃!」

 

二人だけが立つ橋の上、二重に絡み合う火柱がそびえ立つ。

やがて火柱が大気に散ると、火の海と化した戦場には魔法少女たちの姿が残された。

 

「……俺はお前を死なせたくない。 この先に1歩でも進めば、お前はもう後戻りできなくなる」

 

「私はそれを望んでいます――――決着を付けましょう、ブルームスター」

 

互いに譲れない意地をかけ、俺たちはほぼ同時に地を蹴った。

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