俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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烈火のALIVE エピローグ

「……い、おーい……おーい、ラピリス! 起きろ、傷は浅いぞ!」

 

「寝相悪いネー、サムライガール。 こんなとこで寝ると風邪引くヨ?」

 

「う、ぐ……?」

 

乱暴に揺すられる意識を起こし、怠い瞼を開けると、そこには私を見下ろす2人の顔があった。

はて、私は何故こんな所で……

 

「――――ブルームスターは!?」

 

「待て、動くな。 状況は大体分かっている、彼女はもうここにはいない」

 

「追いかけます……!」

 

「ドクター、やっぱふん縛ったほうが早いヨ。 聞く耳ナッシングだネ」

 

どれだけ気絶していたのだろうか、登る太陽を見るとまだ朝方のはずだ。

痛む体に鞭打って起こそうとすると、どこからか現れた小人たちが私の体を包帯でぐるぐると簀巻きに仕立てる。

 

「そのようだね、これじゃおちおち話し合う事も出来ない」

 

「ドクター、この包帯を解いてください!」

 

「聞け、まず聞け、怪我人だと思って優しくしてるのも今の内だぞ」

 

ドクターが手元のゲーム機を操作すると、私を取り囲む小人たちがより厳重に包帯を縛り上げる。

特に腹部の傷口へ重点的に巻かれたそれは、もはや魔法少女の膂力でも容易に脱出できない強度だ。

 

「ぐぅ……こんなことをしている暇はないんです、東京へ行かねば! ブルームスターを追いかけなければ!」

 

「そうだ、それについて話がある。 まず君だけを東京へ送り出すことはできない」

 

「だったらブルームスターを見捨てると――――痛い痛い(いひゃいいひゃい)痛い(いひゃい)痛い(いひゃい)でしゅぅ!!」

 

「聞ーけーよーなー? 君()()は送り出せないといったんだ、この意味が分かるか? ん?」

 

ドクターが私の頬を盛大に引っ張る、両手が塞がれているためロクに抵抗も出来ない。

私「だけ」では送り出せない? ということはつまり、仲間がいれば良いということだろうか。

 

「生憎残念ながら非常に遺憾な事で、局長は3名の魔法少女の奪還を命じてくれた。 君を除いてあと2人、誰だかわかるか?」

 

「……シルヴァと、ブルームスター?」

 

「そうだ、お蔭で僕らは余計な労働を強いられることになった。 ……そのために助っ人も呼んであるぞ」

 

そういってドクターが指を鳴らすと、私の背後から唸るようなエンジン音が轟いた。

芋虫のような体を捩り、音の鳴る方へ目を向けると、そこには真っ赤に染まったスポーツカーがマフラーを振るわせて待っていた。

 

「はぁーい、お久しぶりね! 東京までのアシなら任せて頂戴、うちのロイならどんな悪路だってへっちゃらよ!」

 

『訂正を求めます、“どんな”という表現は適切ではありませんよ。 私とて不可能はあります』

 

「ドレッドハートに……ロイさん! どうしてここに!?」

 

そこに居たのはいつぞやのバンク大脱走騒ぎで世話になった(?)、赤い少女と銀色に輝くロボットの2人組。

ドレッドハート、「車」という現在魔法局に登録されている中で最大の杖を持つ魔法少女だ。

 

「話は大体分かっているわ、乗りなさいカワイ子ちゃんたち! お友達を助けに行くんでしょ、私のやる気がトップギアだわ!」

 

『貴女がやる気を出すと大抵空回ります、クールダウンしてください』

 

「ドクター……これは?」

 

「見ての通りさ……局長め、さすがにコネと金でのし上がったと自分を卑下するだけはあるよ。 人脈だけは一流だ」

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「もしもし、ヤスくーん? 実はちょっとかくかくしかじかでね、そちらの魔法少女を……なに、聖子ちゃんの生サイン色紙だと!? ぐぬぬ……ええいもってけ!! その代わり仕事はしてもらうからな!!」

 

壁面一杯の大型モニターとキーボード前に待機した職員が緊張感を放つ大型作戦室、そこで緊急回線用の特殊端末を使い、苦虫を噛み潰したような表情で局長が次々と通話を繋ぐ。

時に親し気に、時に偉そうに、時に(へりくだ)りながらログに並ぶ名前は錚々たる面々だ。

ありえない、いったい彼はどこからこの人脈を持ってきたのだろう?

 

「……ふぅ、私のコレクションの3割を失う事になるが背に腹は代えられまい。 縁クン、悪いがお茶をくれ」

 

「ああはいはい、こちらどうぞ。 しかし局長、今まで通話していた相手って……」

 

()()()()を始めに、他の魔法局支部を当たれるだけ当たったよ。 他にも警視総監官房長官法務大臣etcetc……私の出来る限りで戦力を集めた」

 

「そ、そそそそんなに!? 局長のコネってどうなっているんですか、というかそんなに集めて何する気ですか!?」

 

「ふふふ……なに、月例会議で毎回の如く議題に上がっていたことを思い出してね、それを利用させてもらったのだよ」

 

得意げに出っ張った腹……もとい、胸を張って見せる局長。

月例会議、それは月1で行われる全国の魔法局長間で行われる胃壁と神経が削れる会議。

秘書として参加している私なんてまだマシだ、局長なんて1日の会議だけで2㎏痩せるほど憔悴する。

 

「それで局長、議題とはまさかアレですか? 利用させてもらったというと……」

 

「うむ、今日はやけにグイグイ来るね縁クン、しかし君が気になるのも分かるとも! そうさ、なあなあで誤魔化されてきたあの計画だよ!」

 

そして局長が待機していた職員に合図を送ると、モニター一杯に今回の作戦名が表示される。

無理だ、出来るはずがない。 それは誰もが考え、そして誰もが恰好だけのアプローチで諦めた無謀だ。

しかもこんな思い付きのような突貫で――――

 

「――――“東京奪還作戦”、今こそここに始めようじゃないか!」

 

「…………えぇー」

 

ああ、この人は本当に馬鹿なんだろう。

問題はこの大馬鹿に付き合う人間が思った以上に多い事か……

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

『ブチ飛ばして行くぜエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!』

 

「あああああ安全運転でおおおおねおねおねがががしますうううううううう!!!」

 

スポーツカーがロクに舗装されていない砂利道を爆速で駆け抜ける。

魔法製のサスペンションですら緩和しきれない振動が全身を揺する、気を抜けば舌を噛みそうだ。

隣を見ればコルトは顔を伏せたまま神へと祈りを捧げ、ドクターは青い顔のまま固まっている。

 

「ドドドドクター、よよ酔い止めはひつひつよよよ必要ですか?」

 

「大丈夫だボクを誰だと思っているこの程度の揺れなんてことはないぞ遠くの景色を眺めてじっとしていればうっぷ」

 

「コルトぉー! エチケット袋をくださーい!!」

 

「あはははは! やっぱ皆でドライブするとたーのしー!」

 

地獄絵図の車内で、唯一はしゃぐのはこの車の持ち主であるドレッドハートのみ。

本人ゆえに何らかの耐性が働いているのだろうか、それとも単に神経が図太いだけなのだろうか。

 

「……浮かない顔をしているね、まだ体調がすぐれないのかい?」

 

「いえ、ドクターの方が重篤に見えますが……そうですね、まだ魔力が万全まで回復していません」

 

ブルームスターとの衝突での消耗は思ったより大きい、多少の休息ではコンディションも元には戻りはしないだろう。

ブルームスターだってそのはずだ、彼女だって東京への突入は十分に回復してから臨むだろう。

……いや、彼女なら一秒でも惜しいとそのまま突っ込んでもおかしくはないか。

 

「ドクター、魔力を急速に回復できるいい方法は何かありますか?」

 

「先天的魔法少女、“シフター”なら魔石を取り込むことである程度の回復は可能だ。 効率は悪いけどね」

 

「むぅ……他にはないのですか?」

 

「あとはそうだな……回復というよりおすそ分けかな? 他の魔法少女から魔力を分けてもらうんだよ、粘膜接触で」

 

「ねんま……っ!?」

 

ドクターがベッと舌を出して見せる、意味する所はつまりそういう事だろう。

察した瞬間、顔に火が付いたように紅くなってしまった。

 

「ふふっ、魔力が足りないなら実践してみようか? なに気にするな、これはただの医療行為だからね……」

 

「い、いいいいいえそのあのその! 私にはまだ早いというか初めては大切な人に取っておきたいというか……!」

 

「お二人さーん、いよいよ見えて来たよ! イチャつくのもそこまでにしておいてねー!」

 

ふざけて私をからかうドクターをドレッドハートが諌めると、風景を置き去りに走り続ける車の遥か前方に山のようにそびえ立つ巨大な壁が見え始めた。

遠近感が狂いそうなほど巨大な壁、あれこそが日本と東京を隔絶する境界となるものだ。

 

「まるで空から降りて来たように見えるほどの大きさ……“天の壁”なんて呼ばれるものよ、昔の魔法少女たちが作ったものらしいけどね」

 

「分厚そうだネ、どこかに入口とかあるのカナ?」

 

「ないわよー、だから()()()()()()()!」

 

「「「…………えっ?」」」

 

背中に特大の悪寒が走る。

なんだろう、今のは私の聞き間違いだろうか?

 

「このまま出来るだけ低い場所狙って登るわよー! ロイ、お願い!」

 

『任せな、フルスロットルでぶっこむぜェ!!』

 

「……だ、誰か助けてえええええええええええええええ!!!!」

 

私か、コルトか、ドクターか、叫んだのは誰だったかよく覚えていない。 もしかしたら3人同時で叫んだのかもしれない。

しかしそんな私たちの訴えは空しく、減速するどころかさらに加速した車は、遠近感が狂いそうなほど巨大な壁へと突っ込んでいった。

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