カラダ探し in (偽)虎杖 作:カラダ探し怖すぎ
下準備
「うぁああああああッ!」
ばっと、ベッドから起き上がる。
―――は? なんで俺、生きてんの?
「まさか……土壇場で呪力を知覚して、反転術式を無意識にッ!?」
俺は急いで鏡の前に行き、絞殺されたはずの首を見る。
そこには、黒い痣のようなものができていた。これは……反転術式で治癒した跡なのか?
真相は分からない。でも、こんなものは『昨日』まではなかった。ならやはりアレは、夢じゃない。
―――楽しかった、なぁ……。
俺は朝ごはんを食べるため、鼻歌を口ずさみながら両親とじいちゃんのいるテーブルまで降りてきた。
そこには、『昨日』と同じ白米、味噌汁、ほうれん草の漬物そして生卵があった。
「え〜……今日も卵かけご飯かよ」
あんまり家の食事メニューがダブることはないので、少し愚痴が垂れた。
「え? 何言ってるのよ、昨日の朝食はカレーの残りを食べたでしょ」
いや、それ一昨日のことだよな?
「何言ってんだよ母さん、ボケたのか?」
「失礼ね悠仁! 私はご近所さんには『虎杖さんってぇ、20代にしか見えないですぅぅ』って評判の若奥様なのよ!」
へーへー、と適当に返事をする。そんな俺を父さんは微笑んで「反抗期かな?」と言い、じいちゃんは「黙って飯を食え、この飯を用意したのはお前じゃないんだぞ!」と叱ってくる。
なんで俺が怒られてんだよ。
その時に、つけっぱなしのテレビから天気予報が流れる。それでは、「11月9日、今日の天気は晴れ」などと言っている。
聞き間違いかと思った俺は、スマホを確認する。日付は、『昨日』の11月9日となっている。
「はぁ……一体どういうことだよ」
俺の感覚では、『昨日』は11月9日だったのだから、『今日』は10日のはずだが……。いくら考えてもわからねぇな。
俺は、カラダ探しに巻き込まれた人間全員に聞き込むことを決心した。
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でも、どうしようかなー。『昨日』のアイツらの反応、絶対ビビられてると思うんだが……。
まぁ、なるようになるか。
いつも通り通学路を歩き、学校に到着する。すると運がいいことに、『昨日』の6人が、自分たちが殺された生徒玄関前に集まっていた。
「こんな所で何してんだ? お前ら今、結構邪魔だぞ?」
「あ、アンタは……!」
瑠美子が“怯え”と“警戒”の混じった視線を向ける。いや、他の5人も程度はあれ似たようなものだ。
「なんでそんな目で見るんだ? 俺も『赤い人』に殺された“被害者”だぞ?」
「悠仁……ちょうどいいや。今、お前の話をしてたところだ」
高広が一歩前に出る。まるで、誰かを守るように俺の前に立つ。
「昨日のアレはなんだよ? まるでスーパーマンみたいな強さだったな! ……俺たちには、お前が“人間”とは思えなかったぜ?」
……これは、俺を『赤い人』と同じ呪霊と勘違いしているのか?
「お前らが何を言いたいのか知らねぇが……俺は人よりちょっぴり運動ができるだけの、ただの高校生だぜ?」
「嘘吐くんじゃないわよ!」
瑠美子が叫ぶ。
「アンタ、“笑ってた”じゃない! あの状況で笑うなんて、サイコパスなんじゃないのッ?!」
「……確かに、人より色々“鈍い”自覚はある。サイコパスかどうかは知らねぇが、今その問答必要か? 俺は心底どうでもいいんだが」
話題を置き換える。延命処置に過ぎないが、一先ず俺は聞かなきゃならない。
そう、『カラダ探し』というものについて。
その後、一番説明が上手そうな翔太に授業をサボって教えてもらった。
『カラダ探し』では、遥のカラダを学校の中で探さなければならない。『カラダ探し』の最中に振り返ってはならない。そして、死んでも『昨日』に戻る。
今のところ、これだけしか情報はない。
「意外だな。翔太なら、もっと深い情報を持ってると思ってたんだが」
「こんなつまらない怪談なんて、興味なかったんだよ。だから、正直俺も分からないことだらけだ。『カラダ探し』なんて……っ」
翔太は頭を抱える。『昨日』の死んだ記憶でも思い出したのか、顔面は蒼白だ。
「悠仁……正直、俺にはお前が分からない。でも詮索はしない。お前よりも、よっぽど訳がわからない事態に巻き込まれてるからな。他の奴がどうかは知らないけど、俺はお前を利用するぞ」
翔太は俺の目を見て、はっきりと言う。それがなんだか、少し嬉しかった。
「驚いた。翔太って、意外と優しいんだな? 他の奴は俺に一言もなく、今後も俺を利用するだろうよ」
顔を俯かせる翔太は、「そんなんじゃない……」と覇気のない顔で呟いた。
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それから学校をサボった俺は、ホームセンターを訪れた。
どうせ今日も『カラダ探し』なんだ。だったら、今までやりたかったことを全部試したい。
ホームセンターで包丁を見ていて、ふと思った。
今、俺は武器ありきで『赤い人』との戦いに臨もうと考えているが……そもそも、武器は持っていけるのだろうか?
『昨日』が初日だったんだ。恐らく誰も、俺の質問には答えられない。
だったら―――自分で試していくしかねぇな。トライアンドエラーだ。
「まずは、バッグを持っていけるかどうか試してみるか」
その後、必要そうなものを揃えてレジに向かい、会計をする。
あれ? 小銭なかったか?
「すみません、小銭なかったんで一万円からお願いします」
「わかりましたー」
店員に一万円を渡す。そしてレジに置いていた小銭とお札を取り、それを財布に戻す。
すると、いきなりその腕を掴まれる。
「すみません、お金足りませんでしたか?」
お会計って一万円以下だったよな?
不審に思いつつ顔を上げ店員を見ると―――
そこには、不気味な表情をした遥が立っていた。
「ねぇ、私のカラダ探して」
「……は? なんでここにいんの、お前」
学校にいるはずの遥が、なぜここに?
「あのー、お客様どうかなさいました?」
……この店員、遥が見えてないのか?
支払いを終えた俺は、遥の手を握り店の外へ連れ出す。
路地裏とは言えないがそこそこ人目につかない場所に行き、遥を見る。
真正面から見ても、相変わらず生気が感じない顔だ。昔とは大違い……?
―――遥って、どんな奴だったっけ?
「なぁ……もしかしてお前も、呪霊なのか?」
遥は反応しない。
「だんまりか? 喋らないままだったら、今、ここでお前を殴って虐めてもいいんだぞ?」
遥は、反応しない。
「へぇ、一切怯えてないな。普通は何かしら、反応があると思うんだけどなー? もしかして、操られてたりするのか?」
……遥は、反応しない。
「……っち、もういい。帰れよ、遥」
遥は元来た道を戻る。観察していて、まるで人形のようだと思った。
あれは生き物なのだろうか? 『赤い人』と同じような存在? なら、やっぱり呪霊? それに何故か、アイツとの記憶が思い出せないのも気になる。
しかし考えても無駄だと思った俺は、遥と反対方向へ歩く―――
そう、遥に
ゴンッ! と遥の後頭部を殴りつけた。それはキチンと遥が人体だと言うことが、俺にもわかる程に重い音と感触がした。
「人に殴られる気分はどうだ、遥?」
地面にうつ伏せになって倒れた遥を、俺は見下ろす。
女に酷い? 馬鹿言うなよ。俺は男女平等に殴るし蹴る。そこには嗜虐趣味も優越感も何もない。
今はただ、無表情の遥に一泡吹かせたいだけだ。
長い黒髪を掴み、わざと荒く引き寄せる。
できるだけ怖がらせるように、相手に“死”を予感させるように。露わになる、その瞳をのぞき込む。
「……はっ」
「お前、マジで人間か?」
その瞳に“恐怖”はなく、ただ“闇”だけが広がっていた。
地面に勢いよく倒れたせいで折れた鼻も、傷だらけになった顔も、いきなり殴ってきて“普通”なら怖がるはずの俺にも。
遥は、全てに興味がないような瞳をしている。
「マジに呪霊なのか? それとも……人に殴られたりすんの、
遥は反応しない。
「はぁ……正直、お前が一番不可解で不気味だぜ」
人間のくせに、人間らしくない。
この時俺は………少しだけ、遥に“恐怖”した。
▼
家に帰り、俺は荷物の準備をしていた。
転移させられる、と表現するが『カラダ探し』が始まるのは深夜0時。
それまで『赤い人』を倒す方法を考えていた。
まず、徒手空拳では勝てない。いや、頭を潰すとか心臓を破壊するとかなら出来たが、その程度では殺せない。
当たり前だ。“呪い”は“呪い”でしか祓えない。それが、『呪術廻戦』の鉄則。
だから、俺には『赤い人』を祓う手段はない。つまり、勝つことができない。
―――だからなんだ?
俺がやりたい、したいのは“勝つ”ことでも“祓う”ことでも、況してや『カラダ探し』を終わらせる事でもない。
俺は原作のために鍛え続けてきたこの肉体、戦闘技術、アイデアを試してみたい。
―――だから、今日も挑もう。
―――初めて出会った、あの好敵手に。
バッグに荷物を詰め込む。
念のため、制服のポケットなんかにも小物を入れておく。何が起きるかなんて誰にも予想できない。
どんな不測の事態にも対応できるよう、心構えを済ませる。
さぁ、もうすぐ始まる。
俺の『
おいおい、お前素手でも十分強いじゃん。これ以上装備増やして強くなってなにすんだよ?
おっと、なにやら『赤い人』の様子が……?