酒が切れたので初投稿です
主人公がTSしてるのは作者の趣味と後々が楽しみだからです
聳え立つ摩天楼。文明の名残。溶けてドロドロになった無数の死体。
これは全て、一夜にして起きた出来事だ。
この惨状は全て、たった一人の悪魔とたった一人の少女によってなされた。
*
東京。エリア14の一角。
数十年前の魔物襲来によって主要な都市が軒並み破壊されつくした後に復建された東京23区の新しい呼び方がこの『エリア』だ。
十数年前くらいまでは人の住める環境ではなかった地方都市の方もだいぶ復興が進み徐々に元の景観に戻りつつある。が、そんな今でも、人が集まる地域は各地域に一つずつ、東京と大阪と仙台、そして福岡の計四つしかない。
そんな四都市の中でも、東京、さらにこのエリア14は、複数の学園が密集する学園都市で、きらびやかな電飾看板とカフェ、カラオケやデパートなどが立ち並ぶ都会の中の都会だ。
一度、同時多発的に起きた怪物事件によって半壊したとは思えないほどの目覚ましい復興具合。
もうそんな歴史があったことなど忘れているのではないかと疑ってしまいそうにもなる。
晴天の下で煌めく制服と汗。初秋の頃というのに、温暖化の影響で一昔前の真夏並みの気温。そんな中を歩いていく、たくさんの女子生徒。中学生や高校生、中には私服に身を包んだ大学生も見える。
カフェテラスに座り談笑しながらコーヒーを飲む女子高生や、並んで歩く中学生たちの姿は平和そのものだ。天高く上るビル群に囲まれていてもなお、刺すような日の光は健在で、袖をまくったワイシャツやブレザー姿で歩く学生が多い。
いつだってそうだ。平和という物が突然失われてしまう事を真に理解しているのは、それを壊す側と守る側でしかない。もし平穏を求めて逃げてきたとしても、エリアの中心からほど近いこの通りを歩いている時点でその気持ちはとうに薄れているだろう。
今日が日曜日という事もあってか、街は人であふれていた。
すれ違う人たちを視界の端に入れながら、彼らの歩く方向とは逆の方角へと歩いていく。
奇異な物を見る様な目を向けてくる人もいれば、気に留めることなくすれ違う人もいた。あるいは、蔑むような嘲笑するような、そういう雰囲気をまとう学生だっている。
しかし、ミイナはそれらを一切気にすることなく歩いていた。
それどころか、彼らの事すら気にしている様子もなく、長い睫毛から覗く血河の相貌を伏せ、手元の情報端末を眺める。
『【警戒アラート】ステージ4』
画面上部には大きくそう表示されていた。
というか、大体いつも何かしらが表示されている。
それはステージ1だったりステージ3だったり、警戒レベルが低い物から高いものまで、実に10段階に分けられた詳細な情報がその端末には表示される。
それは、他の人々の持つ端末には決して表示されない物であり、即ち、所有者が魔法少女であることを示すその証だ。
一般に数字が大きくなればなるほど危険度が増す。震度のような物だと思ってくれれば確実だ。
黒と桃色で彩られた皺一つついていないセーラー服に身を包み、パーカーのフードを目深に被る。30度を超えるという猛暑日の今日ですら、ミイナはその恰好を崩さない。
いついかなる時、何があろうともいち早く現場に駆け付けるためだ。
まるで、何かの使命があるかのような面持ちで、颯爽と現れては事件を解決に導く。
俊敏な動きで敵を屠り、単騎で制圧することを得意とする彼女。他の魔法少女たちからは尊敬され、世間からは神聖視すらされている少女兵のその一人。
端末から顔を上げると、道行く人々が段々と増えているのがわかった。人の流れができるのも時間の問題だろう。
急がなければ、人に巻き込まれて現場にたどり着けなくなる。
ミイナは再び情報端末に目を落とし、魔物の位置を確認した。
近道があれば、そこを通ってすぐに現場に向かうためだ。
『エリア14 東霧陵高等学校付近』
確認して警戒情報のページを閉じた。やはり、向かう道はこっちであっていたみたいだった。
『付近』というのは、魔物が移動しながら人を襲っているから、詳細な位置は不明という意味である。
より詳しい場所は、目撃者情報としてSNSなどに写真付きで無数に上がっているだろう。
歩きつつ、通知の溜まったメッセージアプリを開いた。
そこには、『今どこにいるの?』や『早く逃げて』といった悲鳴のような文字が無数にある。
これこそが、ミイナがフードを目深に被る理由だ。
魔法少女であることを学友に知られてはならない。
それは多くの魔法少女が共通に認識している暗黙の了解だ。
だから、こんなクソ暑い中でもパーカーにフードを被らなければならない。難儀な職業。
でも、それは全て一つの目的に起因する。
『引きこもりだから無事だよ。その悪魔ってどこに出たのかわかる?』
一人にメッセージを送ると、既読と共に、すぐに返信がされた。
『それなら良かった。確か高校の近くの第八商業ビルの辺りとかって聞いた気がする。ほら、小貫酒屋の近くの』
『小貫酒屋か。私の家からは遠いし大丈夫そうだね』
それを読んで、すぐさま走り出した。
少しでも遅れたら、もう手遅れになるかもしれない。この街にも、この国にも、なんの気持ちもないけれど。それでも、自分が戦う理由ははっきりとしているのだ。
守らねばならない。人々を。街も国も関係ない。友達には死んでほしくないし知り合いには倒れてほしくない。
だが、それだけではこんなに急いで現場になんて赴かない。命を懸けて、死ぬような死線を潜り抜けて、万が一にでも自分が死んでしまえば全て水泡に帰すのだから、何人かで固まって戦うべきだ。
だがそれでも、行かなければならない瞬間がミイナにはあった。
その一つの目的、それすなわち。
「……酒、酒を守らねば」
――酒である。
……酒は、味を楽しむものでも酒そのものを飲むものでもない。
雰囲気を飲むものなのだ。
アルカホール・プリンテイ 1926~1998