「ところで、なんで急に女子会だーなんて言い始めたんだ?」
パンケーキを半分ほど食べたころに、ロゼが話を切り出した。
アスカは無言。ルナはストローから口を離さず、頬杖をつきながら顔だけをロゼの方に向けていて、ヒナタはそもそも話を聞いてるようではなかった。
「ああ、それは、」
仕方なく、私が答えることにした。
「私が昨日ヒナタに死体の処理を任せたか―—」
「ちょ、ちょっと声が大きいですわ!」
いった瞬間に、さっきまで窓の外を眺めていたはずのアスカが必死な顔をして止めに入った。
「……ごめん、なんも考えてなかった」
「桜坂の制服を着てる時点で目立ってるんだから気を付けてよミイナちゃん。私まで中二病の頭おかしいやつだと思われる」
ルナの冷ややかな目が痛い。
「まあいいよ。なるほどね、あの悪魔を処理したのミイナだったのか」
「そうだよ。たまたま私が一番近くにいたから」
「で、そのあとすぐにヒナタが来たんだ」
「そう。ほんとは処理班が来るのを待とうと思ってたけどちょうど応援に来たのがヒナタだったから任せた」
「そのお礼にカフェでコーヒーを奢ってくれるって話になったんです!」
いつから聞いていたのか、ヒナタが割って入ってきた。奢るといったつもりはないが、手元に置いてあったシェイクはもう中身がない。
「あなた、まだ処理できないんですの……?」
「できないし、できたとしてもしたくないのが本音」
人の死に触れるのはいいが、その詳細なんて知りたくないから。
都合のいい話だとは思うし酷いやつだと自覚もしているが、もし自分がやらなくてもいい事ならできればやりたくないのも本音だった。
「本当はそういう人が出ないようにするのが一番なんだけどな」
「そういうわけにもいかないのよ。私だって、死人0なんて経験したことないし、仲間がやられることの方が多いですのよ」
いうと、アスカは眼を伏せてパフェが乗っかったスプーンを眺めた。
「仲間すら守れないのに戦う能力のない普通の人なんて、どうやって守れっていうのかしら」
切り取られたパフェには手を付けずに、抑揚のない平坦な声でそういった。
悪魔被害というのは、魔法少女にとっても国にとっても都合のいい物へと変化する。
例えば、戦って死んだ魔法少女は、魔法少女という身分を隠したまま悪魔被害者名簿に移され、その戸籍を剥奪される。
生きて帰れば問題はなく、死んでしまっても大した問題にはならない。
そういう世界。
「逆に、そういう人を守ろうとすればこちら側を一人犠牲にしなくてはならないときも出てくるし、そうなると現場で一番弱い子に死んでもらう事になる」
「新人は増えないし、こちら側の損害は日々増すばかり。まったく反吐の出る状況ですわね」
ロゼの青い相貌が黒く濁った気がした。パンケーキに追加のシロップをかけていく姿を眼で追う。とろとろと器から漏れていくシロップが、パンケーキを伝って皿へと落ちていくのがとても綺麗だった。
「死んでください、っていって、はいわかりましたって言われる方も困りものだけど」
「確かにルナはそういうの多そうだからな」
「私の下の子たちは控えめに言って頭おかしいから」
「序列入りしてる魔法少女を神様みたいに崇めているのは流石に引いた」
序列とは、都市守護に当たっている無数の魔法少女の中で悪魔の討伐数が多い上位七人の事だ。
「別に私は神様でもなんでもないただの高校生なんだけどね」
「それも名門桜坂のお嬢さんなんだから質が悪いよ」
「それはミイナちゃんも同じだけどね。酒造業者の娘なんでしょ? それにクラスもAなんだし、普通に生きていればそれなりにいい生活ができそうなものだけど。どうして魔法少女なんかに。……いや、なんでもない」
言い切らずに、バツが悪そうに目を伏せた。
「大丈夫だよ。……でも、私はみんなと違って何か絶対的な理由があってこれをしてるわけじゃないから」
ただ、自分たちの周りに人を少しでも多く生き残らせてあげたいだけだ。
自分のせいで失った友達たちをもう二度と失わずに済むように。
そんな理由でも、命を懸けて悪魔と戦うには不十分な世界だ。
他の誰かがそういったとかではなく、単に私がそう思っているだけだが。
「ごめん。普通は聞くことじゃなかった」
そのバツの悪さを誤魔化すように再びストローに口をつけた。
「……そういえば、夏休み期間中って何人悪魔でたか覚えてる?」
「2体ですね」
ロゼの問いにヒナタが即答した。ロゼはそれを聞いて、瞼を閉じて何かを考え込むように俯いた。
「九月入ってからの出現数ってもう6体を超えてるよね」
「ですわね」
「これって流石に異常じゃない?」
言われてみればそうかもしれない。例年通りなら、普通悪魔が出る期間はまばらにならない。全期間を通して均一に出るのだ。
大体月に10体前後。
このエリア9~16の間ならそのくらいの数が一カ月の間に出現する。
だが。
「このままのペースでいけば九月の悪魔出現数は20以上になりそう」
ルナが言うように、異常なペースで悪魔が出現している。
出現率で言えば実に例年の二倍。
「それに、第一結界を破れる悪魔の数も段々増えてるよね」
都心部にかけて結界が三重に強化されている東京だが、そもそもこのエリア14ですら結界が張られてからはほとんど悪魔の侵入を許していない。
都心部に行くほど数字が大きくなるというわかりやすい造りのエリア表記だが、エリア外の東京近郊市には結界がなく、外を囲むように敷かれているエリア1から8と、そのすぐ内側に位置するエリア9から14が第一結界に分類される。
エリア14だけは特別、その中心街に第二結界が張られていて、二重結界都市と呼ばれているが、それでも第一結界は簡単に破られるようになってきている。
「単に結界が弱まっているか、悪魔が強くなっているか」
「悪魔でしょうね。結界が弱まってるなら地方にうじゃうじゃいる悪魔が大軍で進行してきてもおかしくないし、単独で結界内に侵入する、あるいは結界内で発生すると考えると悪魔の方が納得できますわ」
でも、それだと私が昨日戦ったあの悪魔が人を捕食するに足る力と知能を大して持っていなかったことと矛盾する。
穴を掘って都市まで登ってくることはできるのに、それをしないのはなにか引っかかる。
「悪魔って人を食べに都市の方まで来てるんだよね。地方はすでに手放されて人いないのに、なんで地方の方に悪魔が残ってるの?」
「んーそれは、悪魔が人を襲うのが多分快楽目的だからだと思うよ」
あくまで私の考えだけど。と付け足して、ルナはストローに口を付けた。
「でも、快楽目的に都市部に来るのが普通だとしたら、段々強くなっていってるのに先月全然来なかったのも今月になってたくさん来るようになったのもおかしいと思います……」
襲る襲るといった様子でヒナタが言った。
この中で一人だけ序列入りしていない後輩という立場で、四人の会話に入るのは難易度が高かったのだろうか。
「そこが問題で、私も悩んでるんだ」
「でも答えは出ないし出したとしても意味はないのよ」
それで魔法少女が増えるわけでも、ましてや戦いやすくなるわけでもないから。
といいたいのだろうことは容易に伝わった。
「そこでなんですけど……」
また、ヒナタが襲る襲るといった様子で口を開いた。
「私が昨日処理した悪魔の体内にこんなのがありまして」
そう言ってヒナタが見せたのは、一つの金具みたいな、アクセサリーみたいなものだった。
どこかで見たことがあるような、ないような。既視感のある見た目の謎はすぐに解決された。
「これ、魔力供給のためのバッチじゃ」
「……うんそうだと思う」
ルナがバッグの中からまったく同じものを取り出した。
「これと同じだから、私と同時期に入隊した子たちの物だと思うんだけど、」
「あの悪魔は魔法少女を殺せるほど強くなかったし、魔法少女が一つ目の悪魔に殺されたなんて話私は聞いたことないよ」
聞いてたらもっと警戒して当たったはずだ。お腹がすいて頭がおかしくなっていたわけでもないのにあんな馬鹿な動きをする悪魔なんて、強いわけがないだろう
。
それに、もし強いとしっていたら、いくら私とは言え敵の目の前でフルチャージするような馬鹿な真似をするわけがない。
「だから私思ったんですけど、」
またもやヒナタが恐る恐るといった様子で口を開いた。
「誰かが悪魔に知恵を与えてるとか、強化しようとしてるとか、そういう説ってないですかね……」
「なら、あんな簡単に倒せるのはおかしいと思うけど、」
「誰かが魔法少女のバッチを悪魔に食べさせたってことなら、気持ちはわからなくもないけどないと思うな」
ロゼが言う通り、悪魔にわざわざ近寄る必要なんてないし、もし仮にそうしたとしてもあの悪魔のように大して強くならなかったのだとしたら問題外にまで転落する。
「んー、悪魔を有効に使うための研究をしてた人はいなくもないけど、なにせすぐ溶けちゃうから全然進んでないみたい」
「杞憂といったところか、一応考えには入れておくけど、杞憂に終わればそれでいい」
ヒナタは何か解せない顔をしていたが、私はロゼの言葉を信じたかった。
しかし、昨日の時点では居心地が悪くなりそうな予感がして憂鬱だったが、いざ集まってみると全然そんなことはなかったな。
みんな何カ月も前にあったときにそっけない態度だったから嫌われているものだと思っていたが、そんなこともないのかもしれない。
好かれてるかどうかもわからないけど。
もしかしたらこの人達なら仲良くできるかもしれない。なんかそんな気がする。
「……あまり暗い話をしていてもしょうがないですし、とりあえずみんな食べ終わったならそろそろ解散する頃かしら?」
「そっか。もう四時だもんね」
「じゃあ先輩、お会計お願いしますね。ありがとうございました!」
「ミイナちゃん、おいしかった」
と思っていた時期が私にもありました。
嫌われてはないのだろうが、好かれてるかどうかもわからないな……。
諦めてレジへと向かうと、意外にも合計の代金は大きくなかった。
3500円程度。この店、いつか潰れるんではなかろうか。
会計を終えて外に出ると、四人とも私の事を待ってくれていた。
まだ九月の初めという事もあってまったく日は落ちていなかったが、これが冬になると四時でも夕焼けが見られるようになる。
そのころまでみんなが死なずにいれたのなら、私が魔法少女として戦っていた意味があったといえるだろうか。
「せんぱーい! 帰りましょー!」
今度は私が駆け寄る番だと思って、小走りでみんなの元へ向かった。
*
しかし、あの悪魔の体内に魔法少女バッチがあったことは解せない。
同胞が食べられてしまったのか。あるいは食べさせたのか。
あの余裕のない改造されたみたいな戦い方は何だったのか。
何もわからなかった。
だが、その答えをすぐに知ることになるとは、微塵も思っていなかった。
私も高校時代はよく友達とカフェに集まったものです
そういう懐かしい記憶を呼び起こしながら書いていたら、ふとあることに気づいたんです
私、高校いってませんでした
この次の話から戦い始めます