大豊娘娘レイヴン   作:RKC

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1話

「621、しばらくお前宛ての仕事は無い。今のうちに体を休めておけ」

 

 ハンドラーからの指示を受け、621は思案する。体を休めておけという言葉には、傭兵稼業ばかりではなく何か好きな事をして気を晴らせという意図も含まれているのだろう。

 

 しかし、621にはこれといった趣味が無かった。そのため体を休めておけという指令をされるたびにほとほと困り果てる始末。

 そんなとき、621の脳内に声が響く。

 

「レイヴン、休みを貰ったのですね。とはいえアナタはいつもやる事が無いと嘆いていました。そこで気晴らしにこの依頼を受けてみてはいかがでしょうか。

 ベイラム企業系列 大豊(ダーフォン)からの依頼になります。とはいえブリーフィングを行っているのはベイラム社のようです」

 

 コーラル波形であるエアはディスプレイに干渉し、ブリーフィングを再生する。

 

「独立傭兵レイヴン、もといG13。これはベイラム企業系列大豊からの依頼だ。我が方はこれよりルビコンにて開催されるACパーツ展覧会、インターネプコン・ルビコンにブースを構える事を決定した。

 

 ブースの一角に大豊コーナーを設営するが、その際のマスコットガール“大豊娘娘(ダーフォンにゃんにゃん)”を募集中だ。“大豊娘娘”には同社のコンセプト“樹大枝細(シュダージィシィ)”の通り胸と尻と太ももが大きくありながら、手足は細い女性に就いてもらいたい。

 

 G13! 貴様は写真審査の結果、“大豊娘娘”に足る人材であることを確認できた。用いるにたるマスコットガールであることを示してみせろ!」

 

 621は困惑していた。確かに自分の胸と尻と太ももは大きく、ACのコックピット座席もオーダーメイドの物を使っている程だ。代わりに手と足は細く、胸と尻と太ももは無視されているのか、ハンドラーから“もっと食べたらどうだ”と言われる程でもある。

 

 しかし、621は自分の写真を誰かに送った事は一度もない。なぜ企業が自分の容姿を知っているのだろうか。

 

「……すみません。私が勝手にレイヴンの写真を送りました」

 

 エアが申し訳なさそうに言う。

 

「しかし、“大豊娘娘”会議を盗聴していると、レイヴンの豊満なボディを見てもいないのに今年の“大豊娘娘”を決定しようとしていました。“大豊娘娘”にはレイヴンが相応しいはずです」

 

 知らぬ間にオーディションに応募されていた621。とはいえ、マスコットガールをやってみたいという思いが強く、621は依頼を受注する。

 

「レイヴン、付き合ってくれてありがとうございます。貴方の美貌を見せびらかしに行きましょう」

 

 

 

 

 

 数日後。621はインターネプコン・ルビコンの会場に向かうため、自前のACに乗る。一応、大豊のマスコットガールとして働くため、ACのパーツは全て大豊製にしてある。

 

 その時、ハンドラーから通信が入った。

 

「621、休みだと言っただろう」

 

 言葉こそキツく聞こえるが、その声の調子は621を心配している風に聞こえる。

 

「……まぁ良い。今回の任務は安全なようだ。お前も楽しみにしているのだろう、止めはしない。“大豊娘娘”、お前なら成し遂げられる。

 ちなみに会場でどのような衣装を着る予定だ?」

 

 621は事前に郵送されてきた衣装を試着した写真をハンドラーに送った。

 

 写真の中の621は髪をお団子に纏め、赤いチャイナドレスを身に纏っている。しかし、チャイナドレスは胸元が全て空いている様なデザイン。

 下胸はインナーによって覆われているが、ギリギリ乳首が隠れる程の布面積しかなく、上乳は放り出されていると言っても過言では無かった。

 また、服の側面についているスリットも深く、普通の下着では下着が露出してしまうため、紐パンを履く必要があった。

 

「……大豊はお前の事を安く見ているようだ。私が話を付けておく」

 

 ハンドラーの声にはいつもよりドスが効いていた。

 

 

 

 

 

          ♢

 

 

 

 

 

 会場に付いた621。更衣室で衣装に着替え、大豊ブースに立っていた。今はまだ一般開放の時間ではなく、それぞれの企業スタッフが最終準備で忙しそうに駆け回っている。

 

「レイヴン、見てください。アーキバス社のマスコット、アーキ坊やです」

 

 少し遠くのアーキバス社のブースには、アーキバス社のロゴを基にデザインされたゆるキャラの着ぐるみが。

 

「可愛いですね」

 

 エアの言葉に621も頷く。そんな時、アーキバス社のブースに2人の人間が近付いてくる。

 

「あれは……V.VホーキンスとV.VIIIペイターですね。音声を拾ってみます」

 

 エアが会場のマイクに干渉し、その音声を621の脳に送る。

 

「第2隊長閣下から招集とは何事でしょうか?」

 

「スネイルにはよくある事だよペイター君。人を呼びつけるのが好きなんだろうね」

 

「第5隊長殿、聞かれでもしたら面倒ですよ。

 集合場所はここですが、第2隊長閣下は……?」

 

「偉そうに遅れてくるのもいつもの事だよ、ペイター君。待とうか」

 

 

 

「……V.IIスネイル。横柄な態度が目立っていましたが、慕われていないのですね」

 

 エアが何とも言えない口調でスネイルを憐れむ間にアーキ坊やが動いた。ホーキンスの肩を掴む。

 

「ん? マスコットが何の用かね?」

 

「第5隊長ホーキンス」

 

 ホーキンスはアーキ坊やから発せられたスネイルの声を聞いて息を呑んだ。

 

「す、スネイル!? い、いいや、スネイル第二隊長! 今のは、その……!」

 

「私は最近再教育センターの長官も兼任していましてね。私が長官を務める施設の新しい入居者となれることを光栄に思いなさい、第5隊長。……いえ、ホーキンス」

 

 そのままホーキンスはアーキ坊やに引きずられて連行される。

 

「そんな……! 第5隊長殿……! う、うぅ……っ!」

 

 ペイターは引きずられるホーキンスを見て嗚咽を漏らす。

 

「第5隊長ペイター……ううっ、悪くない響きだ……!」

 

 嗚咽を漏らしたかと思えば、昇進のチャンスに感動するペイター。そんな彼の肩にもアーキ坊やが手を置いた。

 

「ペイター。聞かれでもしたら”面倒”、とはいったいどういう意図があっての発言ですか?」

 

「だ、第2隊長閣下! それは……!」

 

「アナタも私が長官を務める施設の新しい入居者となれることを光栄に思いなさい」

 

「そ、そんな……今日から私が第5隊長なのに……!」

 

 そうしてペイターとホーキンスの二人は現場主義のアーキ坊やスネイルに連行されてしまった。

 

 

 

 

 

「……色んな人がいますね」

 

 エアはしみじみと呟いた。

 

 

 

 

 

           ♢

 

 

 

 

 

「レイヴン、見てください。ベイラム社のマスコット、ベイ太郎です」

 

 大豊ブースの隣、ベイラム社のブースにはベイラム社のロゴに手足を生やしただけの大雑把なデザインの着ぐるみが。

 

「……動きやすそうですね」

 

 エアの何とも言えない感想。その時、ベイラム社のブースに二人の人間が近付いてくる。

 

「あれは……G5イグアスとG4ヴォルタです」

 

「お披露目用の新型ACの操縦をしろってのか。レッドガンも舐められたもんだ」

 

 不機嫌そうに呟くのはG5イグアス。

 

「仕方ねぇだろ、上の命令だ。さっさと終わらせて新型パーツでも見てまわりゃあ良い」

 

 粗暴だがイグアスよりは丸い発言をするのはG4ヴォルタ。しかし、イグアスは収まりが付かないのか、近くにいたベイ太郎に絡む。

 

「マスコットか。お前の様な木っ端は知らんだろうがな、俺達はベイラム直属の精鋭部隊、レッドガンのナンバー付きよ。それがどうしてこんな展覧会に参加させられなきゃいけねぇんだ」

 

「ダル絡みはほどほどにしておけよ、イグアス。しかしベイ太郎か……相変わらず大雑把なデザインだぜ。こういうのって中に誰が入ってんだ?」

 

 ヴォルタもベイ太郎の背中をバシバシと叩く。その時、ベイ太郎が途端に大声を上げた。

 

「G5、G4!! マスコットとの交流に余念が無いようだな!! その元気があるなら展覧会の前に格闘訓練だ!!」

 

 

 瞬間、ベイ太郎の拳がイグアスとヴォルタの顔面にめり込んだ。その後も二人は歩く地獄ベイ太郎に顔面が変形されるまで殴られ、その場に放置されていた。

 

「着ぐるみの中にはAC部隊のリーダーが入る決まりでもあるのでしょうか……」

 

 エアの言葉に“さぁ?”、とでも言いたげに、621は首を傾げながら救急箱を用意して二人の治療に向かう。

 

「アンタ、大豊のマスコットガールの……って!」

 

「けっ、誰だか知らねぇがテメェの助けなんざ……って!」

 

 地面に座り込む2人はとんでもない格好をした大豊娘娘を目の前に、(おのの)いていた。

 

 ヴォルタはチャイナドレスの深いスリットから覗く、白い太もも重量二脚に釘付け。

 イグアスは上半分が露出した白いクソデカジェネレーター2基に釘付け。

 

 621はその視線に気づかず、その場にしゃがみ込んで医療箱を地面に置き、急速冷却材を取り出す。

 621が前のめりの体勢になり、ヴォルタとイグアスは服に覆われていない上乳と正対する。

 

 この時ばかりは太ももを見ていたヴォルタも乳に視線を吸引されていた。イグアスは変わらずに凝視している。

 

 レッドガンで戦いに明け暮れる二人は女をほとんど知らない。しかし、それでも目の前の巨峰に触れた時のムッチリもっちりとした感触を脳が勝手に空想し、早く手を伸ばせと催促してくる。

 

 しかし二人が本能に負ける前に、621の準備が先に終わった。621が顔を上げた瞬間、2人は顔をクイックターンさせる。

 621はそれに気づかず、顔の腫れを冷やすための冷却材を二人に渡す。

 

「お、おう……助かる」

 

「だ、誰がテメェみたいな女の施しなんか受けるかよ……!」

 

 ヴォルタが素直に受け取る一方、イグアスはそっぽを向いていた。

 立ち上がろうとするイグアスだが、殴られたダメージが大きいのかよろけてしまう。その結果、621の胸に顔を突っ込んでしまった。

 

「ッ……!!」

 

 イグアスは弾かれた様に621から離れる。その顔は腫れの赤みとは思えない程真っ赤っか。

 

「あ、ぐ……い、今のは……ッ!」

 

 狼狽するイグアスとは対照的に、旧世代強化人間特有の鈍感さを発揮する621。

 “いきなり倒れて来たけど、自前のクッションのおかげで怪我が無くて良かった”と思いながら何もなかったかのような表情でイグアスに氷袋を渡す。

 

「く……クソッ!!」

 

 そういってイグアスは走り去って行ってしまった。

 

「う、うちのイグアスが悪いな」 

 

 ヴォルタは621に謝りつつも感想を聞こうと思いながらイグアスの後を追った。

 

 

 

「イグアスの口が悪いのはいつもの事ですし、謝られる程でしょうか……?(コ波感)」

 

 実体を持たないルビコニアンにセクハラの概念はまだ早いらしい。

 

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