大豊娘娘レイヴン   作:RKC

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2話

~娘娘小話~

 

 なんやかんやあったが、展覧会開始の時間を迎える。一般客も入ってくるようになり、各社のブースは賑わいを見せていた。

 

 その中でもひときわ人が集まっているのは大豊のブース。とはいっても、客が見ているのはブースのメインである大豊(ダーフォン)新型重量コアパーツではなく、大豊娘娘(ダーフォンにゃんにゃん)の大型胸部装甲と重量2脚パーツだった。

 

「大人気ですね、レイヴン。私も鼻が高いです」

 

 コーラル波形のエアはやはり621がエッチな目で見られているという事を理解できておらず、どこか誇らしそうにしている。

 

 621は下世話な目線を向けられているが、やはり旧世代強化人間特有の鈍感さを発揮し、“自分、人気だなー”ぐらいの呑気な認識で、ほどほどに自尊心を満たしていた。

 

 一方で独立傭兵集団ブランチのメンバー、シャルトルーズとキングの二人が一般参加で新型ACパーツを見に来ていた。

 

「シャルトルーズ、今度は大豊のブースを見に行くぞ。早く付いてこい」

 

「えぇ? 私はまだ見てるのに……。キング、その態度友達無くすよ。

 ……それにしても大豊か。売上次第でパーツ貰えるらしいから大豊娘娘に応募したけど、落とされたからあんまり良い印象が無い」

 

「落とされたのか? その胸と尻で?」

 

「キング、その言い方セクハラ。とはいえその通り。しかも私の代わりに選ばれた奴はレイヴンの偽物らしい。……ちょっとムカつくし、気になるからから顔を拝みに行ってみようか」

 

 二人は軽い気持ちで大豊ブースに向かう。すると、そこにはシャルトルーズ以上の樹大枝細(シュダージィシィ)がいた。621を見てシャルトルーズは唖然とする。

 

「あいつ普通じゃない……。第4世代の強化人間なんてアンティークのはずじゃないの……!?」

 

「聞き及ぶ以上の実力……! この圧力、アイツを相手にした時にも劣らない……!」

 

 キングもたじたじだった。

 

 

 

 

       ♢

 

 

 

 

 新型ACのデモ操縦を終えて手持ち無沙汰のG5イグアス。621から貰った冷却材を手に考える。

 

(……これ、返さないといけねぇよな)

 

 イグアスは大豊ブースへと足を運ぶ。

 

(そう、借りた物を返す必要がある。別にアイツに会いたいわけじゃない。それに大豊の新型パーツにも興味がある……)

 

 などと自分に言い訳をする内に大豊ブースに到着。丁度、暇をしていた621がイグアスを迎える。旧世代強化人間特有の鈍感さと感情の乏しさから、さっき胸に顔を埋められた相手に対しても変わらず無表情だ。

 

 イグアスは再び621の胸に視線を吸い込まれそうになるのを我慢しながら、冷却材を突き出した。

 

「これ、返しておくぞ」

 

 621はイグアスの手から冷却材を受け取る。その際、621の手がイグアスの手に触れてしまった。その瞬間イグアスは思わず痙攣する。

 

(何で手が触れただけで……! クソッ!)

 

 己からにじみ出る童貞臭に悪態を付きつつも、イグアスは口を開いていた。

 

「し、新型パーツ、あるんだろ? 見て回りてぇんだが……」

 

 その言葉を受けて621はイグアスを連れてブースを案内する。その途中、イグアスは気になる腕パーツを見つけた。

 

「おい、あれの腕部積載量と射撃適正の数値は……」

 

(って、マスコットガールにこんなこと聞いてどうすんだよ……!)

 

 技術の人間ならともかく、この日限りの雇われに専門的な質問をしたことを後悔するイグアス。

 

 しかし今日のマスコットガールは621。彼女は独立傭兵でありACパーツには詳しい。加えて今日のために製品仕様について勉強してきているため、すらすらと答える。

 

 そのことにイグアスは驚きながらも、もしかしたらと続けて質問した。

 

「俺のACのアセンブルはこうだ。これにあのパーツを差し替えると挙動にどんな影響がある?」

 

 621はイグアスが見せてくるデータを件の腕パーツに差し替えて、性能的な説明をする。

 

 “ブースト速度の低下、時間当たりEN回復量の低下、そもそも積載上限を突破する。一応肩部の装甲は取り外しが可能だが、リニアライフルとマシンガンを使用するのであれば反動抑制にしか優れないこのパーツより現状の腕パーツの方が適している”

 

 というようにド正論をぶつけた。イグアスはその回答に再び驚きながらも、自分がアセンブルも分からないような素人と思われた気がして、無意識に言い訳を口にしていた。

 

「い、いや……肩部の装甲でショットガンの弾を弾けないかと思ってよ。ムカつく野良犬に勝つためには戦法を変えなきゃなんねぇから……」

 

 それを聞いてエアが反応した。

 

「野良犬……レイヴン、恐らくあなたの事です」

 

 621はそれを聞いて、“自分に勝つならこんなアセンブルが良いだろうな”と試算を始めた。それをイグアスにアドバイスしようとする。

 

「レイヴン、それで良いのですか?」

 

 エアの疑問に“仕事だし、的確なパーツをお勧めするのは普通じゃない?”、という仕事人の返答をする621。

 

「それはそうですが……。まぁ、好きにしてください。こちらも向こうの手の内が分かります」

 

 621はエアとの脳内会議を終えてイグアスに助言する。

 

 “野良犬は長ショットガン2丁、短ショットガン2丁持ちのふざけたアセンしてるから、とにかく近寄られない事が大事。

 

 右肩はそのまま。ファーロン・ダイナミクス製の直進型4連装ミサイルで敵のアサルトブーストを牽制。

 

 左肩のパルスシールドはどうせ破られるから外して大豊製の「太陽守(タイヤンショウ)」を装備。ミサイルをかいくぐってアサルトブーストで近付いてきても、「太陽守」で迎撃。

 

 それでも混戦が予想されるから、両腕とも最近改良が施されて威力の上がった大豊製の「常陳(チャンチェン)」に換装。適当な弾幕で無理やり追い払う。射撃に意識を割かなくて良いから相手のショットガンを躱すことに専念できる。

 

 現在、大豊系列企業であるベイラム社の腕部パーツにも適応可能なリロードアシストオプションがあるので、それを導入すれば弾切れの時間も減らす事が可能。

 

 また、ジェネレーターも「明堂(ミンタン)」から大豊製新作の「三台(サンタイ)」に変更して1.5倍のEN容量を確保。細かなクイックブーストの連発でショットガンの被弾を少しでも減らすのが良いと思う。

 

 積載上限は突破してないし、ブースト速度が2%程低減するが誤差の範囲内。EN容量と秒間のEN回復量は増加しているからむしろ機動力は上がっていると言える”

 

 621は出来るだけ大豊製品をオススメしながらアセンブルを弄る。その指摘にイグアスは舌を巻いていた。数値上の話ならともかく戦術目線でここまで話ができるとは思っていなかったためだ。

 

 621は”シミュレータで試してみよう”と目を丸くしているイグアスをシミュレータポットに押し込んだ。

 

 シミュレータポットの中はACのコックピットのように狭く、二人が入るとぎゅうぎゅう詰め。

 座席に座るイグアスのすぐ隣には、立ってシミュレータを弄っている621のファーロン・ダイナミクスが二つ。621が身を乗り出す度にイグアスの顔に触れそうになる。

 

 そのたびにイグアスは少し前に621の胸に顔を埋めた記憶を呼び起こされる。

 

(くそ……っ! 警戒心とかねぇのかこいつは……!!)

 

 煩悩と戦い続けるイグアスをよそに、621はエアに頼んで傭兵支援システムオールマインドをハッキングしてもらい、アリーナに保存されている621のデータをシミュレータに読み込ませた。

 

 それと同時に戦闘シミュレーションが稼働。イグアスも宿敵の機体を目の前に、今だけは隣の大豊娘娘の事も忘れてシミュレーションに集中する。

 

「メインシステム、戦闘モード起動」

 

 COMが無機質に告げると同時に、戦闘が始まった。

 

 ショットガン4丁持ちで特攻してくる敵機体。イグアスは右肩のミサイルを打つが、敵は横にブーストを吹かして回避。

 

 しかし、イグアスは左肩のハンガーから「太陽守」を左腕に装備し、グレネードを広範囲にばらまく。ミサイルの回避でENを消費してしまった敵機体は爆発を避けられず、巻き込まれて姿勢を崩す。

 

 イグアスはその隙を見逃さず、アサルトブーストで両手のマシンガンを連射しながら近づき、蹴りを入れてスタッガーを狙いに行く。

 

“止まって。アサルトアーマーが来る”

 

 しかし、隣の621の声に反応して急停止。その直後、敵機体から強烈なパルス波が放出される。急停止したため余波を喰らうだけで済んだイグアス。

 

 両機の距離は近い。お互いにショットガンとマシンガンをぶつけあうが、衝撃力はショットガン有利。あと一撃でイグアスの機体がスタッガーする。

 

“姿勢制御が限界。パルスアーマー”

 

 イグアスは621の声に反応して咄嗟にパルスアーマーを展開。ショットガンの弾はアーマーに相殺され、事なきを得た。そのままマシンガンで姿勢制御が限界だった敵からスタッガーをもぎ取り、アサルトブーストで0距離にまで詰める。

 

 両手のマシンガンをパージし、左3発・右3発のルビコニアン神拳でスタッガーを継続しながら最後は「太陽守」の爆発で敵を仕留めた。

 

「勝った、のか……へっ、ざまぁねぇぜ野良犬が」

 

 シミュレーションですら野良犬に勝てたことのないイグアス。初勝利の余韻に浸りながら、隣の大豊娘娘に思いを馳せていた。

 

(ACパーツやアセンブルの知識といい、戦闘中の助言といい、間違いねぇ。こいつもAC乗りだ。

 感情の乏しさから考えるに、後遺症のある旧世代強化人間か……?)

 

「お前、強化人間か? だとしたら何世代目だ?」

 

 621は指を4本立てた。イグアスは大豊娘娘が自分と同じ第4世代の旧世代強化人間である事に共感を覚えていた。同時に後遺症の残る雑な手術をされた事に対する同情も。

 

(今は第10世代が最新。そいつらからすれば旧世代の強化人間なんてのは時代遅れ。当然舐められる。

 野良犬の野郎もそうだ。どうせ奴も新世代の強化人間で俺の事を舐めているに決まってる。実力で黙らせてやりてぇ)

 

 イグアスは戦闘中に大豊娘娘から貰った助言を思い出す。

 

(こいつがオペレーターでもしてくれりゃあ、もしかすると……)

 

 621はボーっと考えるイグアスにシミュレータポットから出るよう促した。二人で外に出ると621はイグアスにパーツの購入を進める。

 

「確かに有効だったが、これを買うと今期の予算がほとんど飛ぶ……」

 

 イグアスはベイラムAC部隊の一員。一応は企業勤めであり、独立傭兵のようにバカスカパーツを買ったり出来ない。

 

「レイヴン、この依頼は売り上げに応じて追加報酬があります。あれをやりましょう」

 

 エアの後押しを受けて、621は悩むイグアスに抱き着いた。

 

「ッ……! お、お前……っ!!」

 

 イグアスは621からパイルパイパーの直撃を喰らい、脳をスタッガーさせる。621はすかさずイグアスの耳元に“買ってください”、とスタンニードルランチャーをぶち込んだ。

 

 イグアスはリペアキットを使う暇もなく撃沈。購入契約を結んでしまう。

 

(……流されて買っちまった。まぁ良い、これであの野良犬野郎に一泡吹かせられる)

 

 そう思うイグアスをよそに、621は“今度イグアスと戦う時は引き撃ちEN武器アセンにしよう”、と無慈悲なメタを考えていた。

 

 

 

 買い物も終わって解散際。

 

「お前、その……」

 

 非常識とは分かっていながら、イグアスは大豊娘娘に連絡先を聞こうとしていた。それほどまでに脳をやられてしまったらしい。その時、歩く地獄ベイ太郎が声を張り上げる。

 

「G13! 現時点で貴様が売上No.1だ! ウチの役立たず共にも大層売りつけおって! 技術営業のオマケにしては随分良い働きをする! 商売でも最前線で殴るのが得意なようだな!」

 

 イグアスは先ほど顔を変形させられた事を思い出して身を竦めるが、それ以上に発言の内容に耳を疑う。

 

「が、G13……?」

 

「そうだ! ……気づいていなかったのかG5! わが社の系列企業大豊のマスコットガールにはウチのG13を貸している!」

 

 さっきまで鼻を伸ばしていた相手が野良犬だと聞かされたイグアスは愕然とする他に無い。

 

 野良犬から野良犬に勝つアセンブルのアドバイスを貰った事。

 野良犬から助言を貰ってシミュレーションの野良犬に勝って喜んだ事。

 新世代強化人間だから自分より強いのも多少はしょうがないと思っていた野良犬が自分と同じ第4世代だった事。

 野良犬に抱き着かれてパーツの購入を決めてしまった事。

 

 ショットガンの4連撃をもろに喰らい、イグアスは再び脳をスタッガーさせる。

 

「うおぉぉおおおお!!!」

 

 彼は叫びながら走り去ってしまった。

 

「……流石にかわいそうですね」

 

 エアの言葉。621はイグアスの背中に手を合わせ、小さく謝った。

 

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