アラサーおっさんが剣と魔法の異世界を精神コマンドで攻略する(お試し短編版) 作:サクラ井ムツキ
「とても凄いスキルですけど、バンタ様はやっぱり冒険者なのですか?」
ゴブリンから助けた商人の娘のリーザが父親のブライアンが御者をする幌馬車の中で物語の中の英雄を見るような憧れの目をしながら俺に質問してくる。いきなり俺は異世界の日本人だと正直に話しても通じないだろう、かと言って嘘を言ってもボロが出そうだ。
「いや冒険者とは無縁の生活をしていてね、嘘みたいな話だけど夢の中で女神様からスキルをもらったと思ったら始まりの草原にいたんだ。帰るアテがないからスタートスでしばらく腰を落ち着けようかなと思ってるんだ」
「女神様からスキルを頂いたんですか?修行を積まれた聖職者様や活躍された冒険者の人が神様から新たなスキルを授けられるというお話を聞いたことがありますが女神様というのは初めてですね」
少しスキルについて聞くと神様にお祈りをしているとスキル名と使い方が頭の中に浮かび上がるとの事だ、じゃあ教会の権力が絶大かというと信仰する神が違う国でもスキルは発現するらしい。
「私は鑑定を持っているのですが商人として働いてからなので何かしらの事をしていればスキルはそれに関係したモノを授かりますよ……それはそうと起きたら始まりの草原にいたという事はまるで神隠しのようですな、それなら身分証等はお持ちでないのでは?」
御者台から振り向きながらブライアンが会話に参加してくる。身分証というかそもそも部屋着だったのに俺は外出用の上着を着て靴を履いて始まりの草原に居たのだ。服以外の荷物は会話をしながらアイテムボックスを確認すると私物という項目があって生前の全財産が放り込まれてあった。全財産と言っても異世界で使えそうにない電化製品等や悪影響を与えそうなものは売却済みと項目を開いたときにメッセージウインドウが開いてきた、身分証などもメッセージにある売却品リストの中にあって代わりにいくらかの金貨銀貨に変わっていた。ちなみにスパロボを始めたゲームや漫画はメディアという項目の中にあって起動したらコントローラーの様なメッセージウインドウで操作できるらしい、マンガ等はステータスウインドウが電子書籍のように読める。
「身分証になるような物は持ち合わせてないですね、現金はありますがこれはスタートスで使えますか?」
ポケットから出すフリをしながらアイテムボックスから金貨と銀貨を何枚か出して二人に見せる。金貨は片面に夢に出てきた女神らしき女性に似た彫刻があり裏面には小さな文字が彫り込まれた造形をして地球の500円玉と変わらないぐらい薄くて小さい。
「おやそれは迷宮金貨ですな、普通の金貨の十倍の価値はありますね……ふむ、それだけあるなら街で旅人用の一日滞在税を払い、冒険者ギルドに準市民として一年の税を一括先払いして登録するのをお勧めしますね。流民として無料で町中の滞在と登録は今のところ制限されていませんが、準市民でしたら市民と同等の扱いでギルドの信用も段違いですからね」
最後にブライアンは一括払いなら税金が2ヶ月分も安くなると笑顔になりながら勧めてきた、俺のスキルなら戦闘テストを受けて最低ランクより少し上からスタート出来るとの事だ。
「済まないがこの金貨もスキルと一緒に持たされたみたいでよく知らないんだが教えてくれないかい?」
「迷宮金貨は迷宮のモンスターを退治したら出てくる魔力のこもった金貨で、迷宮に捧げればその迷宮のモンスターを弱体化させてスタンピードを防止するからとっても価値があるんだってお祖父様が言ってましたわ。さらに珍しい番号ならコレクターの方にはもっと高く売れるとか」
珍しい番号?ブライアンとの間に割り込むようにリーザが説明するので金貨を見比べてみると裏面の細かい文字がそれぞれ微妙に内容が異なり、文字の最初に番号が書いてあった。日本の硬貨の年号違いのようなモノだろうか。
「リーザ少し急ぐからおしゃべりはここまでだよ。バンタ様ゴブリンのせいで閉門時間に間に合わないかもしれないので少しロバを急がせます、揺れますので舌を噛まないようにご注意下さい」
ブライアンが正面を向いたかと思うとロバに軽く鞭を入れ始めた、確かに地平線の向こうに夕日が沈み始めている。開門代金を門番に支払えば入れるらしいが今ならギリギリ間に合うとリーザがコッソリ教えてくれた。
「間に合わないのは困るなら俺のスキルでロバには急いでもらおう"追風"」
消費SP20の追風は他のユニットの移動力を3マス増加させる効果を持つ加速の支援版精神コマンドだが、コフラスでは10分間移動速度を30%アップさせるとスキルの説明文にあった。俺はロバだけでなく幌馬車全体を意識してスキルを発動させると幌馬車はたちまち速度を上げていく。速度は上がったがその分揺れが増えないのはスキルの効果だろうか?追風を切れないようかけ続けてそんな事を考えていたら暗くなる前に城壁に囲まれたスタートスの街にたどり着いた。
ブライアンがここは私がと言いながら一日滞在税を代わりに支払い、今日と明日の日付が入った木片を俺に手渡す。そうやって正門前で手続きをしていると10歳ぐらいの少年が小走りで近づいて来た。
「お父さん。姉さんお帰りなさい!」
少年は荷台の影にいた俺の姿に少し驚きながらもすぐに笑顔になって二人を出迎える。
「紹介しますバンタ様、息子のライアンになります。ライアン挨拶をしなさい、バンタ様は強力なスキルでゴブリンの群れから私達を守ってくれた恩人だ」
「はじめましてオブライアン商会のライアンです、この度は父と姉を救っていただきありがとうございます。」
リーザの弟らしくゴブリンを倒したという話でキラキラした目をコチラに向けて会釈をしてくる。異世界でもこういう動作は地球と似るのだろうか?それにしてもオブライアン商会?父親がブライアンで息子がライアンだとオブライアンがいるんだろうか?
「オブライアンは義父の名前なんです、ブライアンという名前で気に入られたおかげか妻とは結婚出来たようなものでして。おっといけない話し込むなら家に帰ってからにしましょう、ライアンは先に帰ってお客様の出迎えの準備をするように伝えてくれ」
わかりましたと言いながらライアンが人混みの中をすり抜けながら進んでいく、人通りも多く暗くなってきたし幌馬車は外ほど速度は出せないから走ったほうが早そうだった。
事故が起こらないようにしておこうと思い、俺は消費SP20の"先見"をロバにかけておく、これは閃きと同じ敵の攻撃を100%回避する精神コマンドだが、事故も回避してくれるだろう。
「私達が帰るとわかっていますから今日はご馳走だと思いますので沢山食べてくださいね」
リーザが嬉しそうな笑顔で話しかけるのでどんな食べ物が好きか、スタートスの名物料理は何か等他愛もない話をしながらブライアンの家に向かって幌馬車は進み続けた。