過酷な世界でヒスりたくない   作:腹切りたい焼き

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結局投稿が遅くなり申し訳御座いません。
特殊タグとハナコエミュが納得行かず、書き直していました。

今回より時系列やや飛ばして、次話よりストーリーもどんどん進められるはず。
ですけど原作見ながら書くの疲れたので、番外編的な感じでメイン絡めつつ個別の話書くかもしれないです。

短パンイオリに興奮し過ぎて9月に博多行くことを決めたので、それまでに最低2話は更新出来るよう頑張ります。

サブタイトルは例の如く、決められたら後で入れます。


13.

MomoTalk

 

▶︎
補習テスト不合格者出たから

2回目やることになった

▶︎
で、それに向けて強制参加の合宿に

参加することになったから

まだしばらくそっち戻れそうにない

 

_イオリ
 

◀︎
面倒臭いな

◀︎
合格点取ったのに連帯責任で

また試験受けなきゃいけないなんて

 

▶︎
お嬢様学校だし、

落第に対して厳しいんだろ

▶︎
多分

 

_イオリ
 

◀︎
せっかく戻ってきたんだから、

留年なんてしたら許さないからな

 

▶︎
当然。銀鏡先輩とか呼びたくないし

 

_イオリ
 

◀︎
私だってカナタに

先輩なんて呼ばれたくない

◀︎
もう1回目の試験は終わったんだろ?

◀︎
何点だったんだ?

 

▶︎
風紀委員会の方は問題ないか?

▶︎
あんまり情報入ってこないし

 

_イオリ
 

◀︎
話を逸らすな!!

 

▶︎
61点

 

_イオリ
 

◀︎
絶対合格ラインじゃないだろ!

 

▶︎
セーフ! 合格ライン60点以上だから!

 

_イオリ
 

◀︎
ギリギリじゃん!

 

▶︎
古代語なんてゲヘナじゃ範囲外だし

仕方ないだろ

▶︎
一から勉強してこれだから

褒めてほしいぐらいだ

 

_イオリ
 

◀︎
確かにそうだけど…

◀︎
でももう少し安心出来る点数取れ!

 

▶︎
まあ、次の試験まで時間もあるし

なんとかする

▶︎
過去問も手に入ったし

傾向もなんとなく読めた

 

_イオリ
 

◀︎
それならいいけど…

 

▶︎
後こっちで美味いチョコミントアイスの店

見つけたから、今度行こうぜ

 

_イオリ
 

◀︎
勉強しろ!!

 

 

 


 

 銀鏡とのモモトークに区切りがついたので画面を消し、腰かけていたベッドに背中から倒れこむ。

 

 あっという間に特別学力試験の1回目が終わり、想定通り不合格になった。

 

 正直原作で何点取ったかなんて細かいこと覚えてないけど、浦和と白洲、下江の3人が不合格だったので流れは変わらないはず。

 

 オレはオレでなんとか合格したけど、古代語なんて勉強したことないからヤマが後1問外れてたら不合格だった。

 

 キヴォトスで言う古代語は、前世で言うラテン語に相当するらしい。アリウス分校がよく使う言葉である『vanitas vanitatum』は聖書の文言だと前世()調べたことあるから間違いないはず。

 

 ただ『ブルーアーカイブ』経由で知っただけで前世で勉強したこともなければ、ゲヘナ学園には古代語の科目にもないので有名なフレーズを覚えてヤマを張ってなんとかって感じだ。

 

 後やっぱりトリニティなだけあってゲヘナのテストより難易度が大幅に上がっている。正直今回合格出来たのは運がよかっただけとも言える。

 

 2次試験は…どうせ受けられないだろうけど難易度が上がる。今のままでは最終試験を通過出来る程の学力はないので、根本的な解決にはなってない。

 

 それと妨害に対する対策とかエデン条約に向けてのアリウスの情報収集も進捗が悪い。

 

 アリウス関係はブラックマーケットで流通先が分からない銃火器があるから着実に準備を進めてるのは間違いないんだろうけど、アリウス自治区から出てこないので明確な動きが掴めない。もう時期も時期だから準備自体は終わっていて、エデン条約本番まで姿を見せない可能性すらある。

 

 ゲヘナ側の情報は何も行動していないかのように何も動きがない。オレを補習授業部に突っ込んだ以上繋がりがあることは確かなんだろけど、現状何か工作している動きはない。本当に何もしていないのか、既に準備を終えているのか。何仕出かすか読めないので、どう対処したものか。

 

 ただテレワークでも出来る風紀委員会の書類仕事やってたら、万魔殿から「日中暇なんだから仕事しろ」とか言ってクソみたいな仕事押し付けられた。暇なわけねぇだろクソ狸。

 

 と、こんな調子ですべてにおいて不順だ。せめてオレが自由に動ければアリウスに関してはもう少し上手く立ち回れるんだろうけど、いかんせん人材がいない。

 

 この手のことでいつも依頼するのは陸八魔たちだけど、エデン条約の本筋に便利屋68は関わらないから依頼するわけにもいかない。だからブラックマーケットの情報屋に金払って依頼してるわけだけど、アリウスを探っていると悟られるのを避けるため動かしてるのは少人数だしかなり慎重に探らせている。そもそもアリウス分校のことすら碌に説明してないので、オレが裏取りで動けない以上信用度も程々に考えないといけない。これ以上情報が集まらないなら金も馬鹿にならないし打ち切るしかないか。

 

 …いっそのことなるようになるさ、とでも思い切れればいいんだがそう出来る性格じゃないのは分かっている。

 

 ただでさえいくつものバッドエンドが示唆されている『ブルーアーカイブ』、その中でも特に分岐点がある『エデン条約編』。1つでもフラグ管理をミスればドミノ倒しにキヴォトス滅亡ルートに入るような重要なメインストーリー。こんな地雷原みたいなストーリーに関わる気なんて全くなかったのに。

 

 オレに出来ることはないのに、関わらなきゃいけない立場にいる。こんなに無駄でリスクのあることはない。とっとと全部終わらせて楽になりたい。

 

 

「お待たせ──あれ? 寝ちゃった?」

 

「…いえ、起きてます」

 

 

 部屋に先生が戻ってきたので、上半身を起こす。

 

 合宿所に到着して少し。この後の予定を話すと先生が補習授業部の部屋へ向かったが、オレは風紀委員会へ連絡があると嘘を吐いて遠慮していた。

 

 当初の予定通り、あまり関わりを持たないよう補習授業部とは距離を取って今日まで来た。放課後の補習のときも話しかけられたら話して、分からないところは先生に質問と徹底したつもりだ。

 

 傍目から見た感想だけど、補習授業部の面々は着実に友好を深めている。まあ、本格的なのは合宿で共同生活してからだけど。

 

 とりあえずここまではオレの原作知識(記憶)と違いはない。補習授業部との関係が完全に徐々に打ち解けて来ているのも予定通り。

 

 ただ同性同士で部屋の割り振りをしたので、先生と同室になったから単独行動し辛いのは面倒だ。適当な理由つけて抜け出すしかない。

 

 

「風紀委員会との連絡は終わった?」

 

「はい。問題ありません」

 

「良かった。この後みんなで合宿所掃除するから、10分後に汚れてもいい恰好で合宿所前に集合することになったんだ」

 

「分かりました。着替えるので、先に向かっていてください」

 

 

 合宿所に来て最初に大掃除をするのは覚えていたので、体操着とか着替えは多めに持ってきている。

 

 正直面倒臭いからサボりたいところだけど、オレも合宿所を使う以上補習授業部の面々に掃除を放り投げるのは気分が悪い。

 

 先生は先に集合先へ行ってもらい、仕方なくゲヘナの長袖ジャージに着替えて合宿所前に出る。

 

 聞いたのがワンテンポ遅いせいで一番最後かと思ったが、まだ先生と阿慈谷、下江しかいなかった。

 

 

「待たせた」

 

「あ、と、遠山くん」

 

「うっ…」

 

 

 最初に拒絶したからか、ややどもりながら反応する阿慈谷。

 

 下江は…相変わらず苦手意識があるようで身を縮ませて睨んでくる。

 

 まあ、最初の悪印象を覆したわけじゃないし。フィルター越しで嫌いと判断されてる以上、好転させるのは時間を掛けてフィルターを取っ払っていくしかない。

 

 そうする気はないからどうでもいいけど。

 

 

「お待たせ」

 

「アズサちゃんも──って、どうして銃を…?」

 

「肌身離さず持っていないと銃の意味がない。襲撃はいつ来るか分からないから」

 

「それは、その、その通りかもしれませんが…」

 

「それに遠山カナタも持ってる」

 

「えっ!?」

 

 

 白洲の指摘に阿慈谷が驚いてこちらに顔を向ける。

 

 阿慈谷たちと違って銃の扱いに長けているせいか、脇の下の膨らみからオレがショルダーホルスターで銃を持ち込んでいることを見破ったようだ。

 

 

「オレは先生と同じで銃弾に耐えられる程頑丈じゃなくてな。お守り代わりってことで許してくれ」

 

「い、いえ、それは大丈夫ですが…」

 

 

 建前で自分の体のことを言ったが、本当のところ襲撃がいつあるか分からないからだ。

 

 もしかするとトイレで離れた隙を狙われるかもしれないし、なりふり構わず襲撃を掛けてくるかもしれない。

 

 立地上狙撃はないだろうけど、抵抗手段が手元にあるだけで万が一に対応しやすくなる。

 

 杞憂なんだろうけど、それでも手札は1枚でも多い方がいい。

 

 そう無駄なことを考えていると、宿舎の方から浦和が出てくる。当然スクール水着姿で。

 

 

「お待たせしました。皆さん早かったですね?」

 

「アウトーー!!!!」

 

 

 浦和の姿を見た瞬間、下江が目を見開き絶叫して突っかかる。

 

 

「水着はプールで着るものなの! っていうか、ここには男子もいるのよ!?」

 

 

 特に触れないでいようと思っていたけど、下江がこっちを指をさす。

 

 

「まあ露出多いと何かの拍子に怪我する可能性もあるし、ちゃんと服着た方がいいぞ」

 

 

 汚れてもよくて洗濯しても乾きの早い服ということで、機能を見て水着を選ぶのはそんなに間違いじゃないとは思う。

 

 でもそれは合理的であって、一般的な感覚からすればおかしいことに変わりない。

 

 家の中で1人掃除するならまだしも、今回は異性も含めた複数人で屋外だ。露出狂のそれと変わらん。

 

 それになによりヒス的な危険度で考えると、グラマラスな浦和の体型は非常に危険だ。普通に水着じゃなくてジャージを着てほしい。

 

 

「……」

 

「…なんだよ」

 

 

 普通のことを言ったつもりだが、びっくりした様子で下江に視線を向けられる。

 

 

「いや、その、まともなこと急に言うから…」

 

「危ないことしてたら普通に口出すだろ」

 

 

 まあ、不良相手なら口より先に鉛玉ぶっ放すけど。ゲヘナだと尚更。

 

 後まともじゃないこと言った覚えはない。これでもキヴォトスの中では一般倫理を持った──

 

 いや、キヴォトスの倫理と前世での倫理はまったく違うな。喧嘩=銃撃戦が結びつくなんてことなかったし。

 

 キヴォトスに来て約3年。オレの常識もだいぶ浸食されてきたな。

 

 

「とりあえず別のに着替えてきた方がいい。持ってないならジャージ貸すぞ」

 

「ふふっ、持っているので着替えてきますね」

 

「ああ、そうした方がいい」

 

 

 溜め息交じりに告げ、呆れた素振りをしてその場から少し離れる。

 

 とりあえず補習授業部とは程々の距離感を保ててるのは再確認出来た。自分の手で調整出来る分、こっちだけはなんとかなりそうだ。

 

 そもそも1つでも厄介な案件を同時並行で処理出来る能力なんてオレにはないんだから当然だとも言える。

 

 誰にも見えないよう顔を逸らして安堵して、失敗を起こさないよう再び気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 雑草抜きに始まり部屋や共用スペースの掃除まで終わる。

 

 しばらく使われていなかっただけあって埃が凄く手間がかかったけど、6人でやったお陰で昼過ぎには粗方片付いていた。

 

 これでようやくひと息つける。

 

 

「あ、まだ1ヶ所だけ残ってますよ?」

 

「あれ? そうでしたっけ?」

 

「はい、屋外プール♡」

 

 

 …そういえばプール掃除もあったな。忘れてた。

 

 プールも長年使用されてないせいか結構汚れていて、さっきまでの拭き掃除とは違いブラシで擦ったりと力も必要になってくる。正直面倒臭い。

 

 

「だいぶ大きいな。どこから取り掛かればいいのか…。いやそもそも、補習授業に水泳の科目はなかったはずだけど?」

 

「試験に関係ないなら、別にこのままでもいいんじゃない?」

 

 

 当然補習テストに関係ないので浦和以外から疑問が上がるけど、浦和は食い下がる。

 

 

「いえいえ、よく考えて見てくださいコハルちゃん。キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎ回る生徒たち──楽しくなってきませんか?」

 

「……え、何!? 分かんない! 何か私に分からない高度な話してる!?」

 

 

 突如浦和から発せられる青春のイメージに困惑する下江。

 

 まあ勉強しにきたのに水遊びの風景出されても結びつくはずもない。

 

 

「遠山くんも、女の子の水着見たいですよね?」

 

「ノーコメント」

 

 

 オレも男だ。異性の水着姿を見たくない、とは言い切れない。

 

 馬鹿みたいにいい返事が出来るわけもなく、また名前呼びはしないもののやや気安い態度を取ってくる浦和を軽くあしらう。

 

 最初に突き放したからもっと分かりやすく壁を感じるかとも思っていたけど、そういうのを感じないどころか補習授業部の中じゃ1番気安く話しかけてくる。表面上の態度から悪意は感じないけど、権謀術数に長けていることを考えればオレなんかより腹芸は得意だろう。

 

 羽沼マコトやブラックマーケットの連中のように悪意が分かりやすいならよかったんだけど、視線や態度からもそれを感じないのでなんともやり辛い。

 

 

「ですが確かに、こうして放置されてしまったプールを見ていると…なんだか寂しい気持ちになりますね」

 

「このサイズだったし、元々は賑やかな声が響いていた場所なのかもしれない。それでもこんな風に変わってしまう『vanitas vanitatum』…それが、この世の真実」

 

 

 おお、生バニタスだ。

 

 割と悲しいことを言っているのに、生の『vanitas vanitatum』を聞いて思わず感動する。

 

 ただ確か『vanitas vanitatum』──全部言うと『vanitas vanitatum, et omnia vanitas』だったか。本来の意味は多少良い方面に訳されて『人生は虚無で世界は不条理なもの。世界がそうだから人は世界に執着せず、だからと言って逃避せず程々に現世を過ごそう』みたいな感じだったはず。アリウス分校が口にするそれは前半部分を切り抜いて捻じ曲げたものに感じるので、多分ベアトリーチェが意図的に悪い意味として教え込んだんだろう。

 

 

「『全ては虚しい(vanitas)ものである(vanitatum)』…古代の言葉ですね。確かにそうなのかもしれません……」

 

 

 『vanitas vanitatum』の意味が分からず阿慈谷や下江が首を傾げていると、浦和がそう呟き何か考え込む。と思ったら今度は笑顔になって突拍子もない提案をする。

 

 

「アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん、遠山くん! 今から遊びましょう!」

 

「え、えぇっ!?」

 

「掃除して、プールに水入れて、みんなで飛び込んだりしましょう!」

 

「今からするの!?」

 

「明日からは頑張ってお勉強しつづけないといけませんし、となると今日が最後のチャンスになるかもしれないじゃないですか。今のうちにここで楽しく遊んでおかないと!」

 

 

 やや強引なこの提案は、多分白洲のことを思ってのものなんだろう。

 

 『ブルーアーカイブ』での『浦和ハナコ』は普通の青春を望んでいた、と記憶している。天才と持て囃され政治の道具にされそうになって、そんな表面だけで中身のないものに嫌気が差して逃避した。

 

 だから白洲の言った『全ては虚しい(vanitas)ものである(vanitatum)』にも理解を示した。だけど今はまだ完全に諦めているわけじゃなくて、純真な白洲が全てを諦めるようなことを言ったのを見て放っておけなくなったのかもしれない。

 

 それに自分が普通の青春っぽいことをしたいってのもあるんだろう。変態行動が目立つだけで、中身は普通の女子とそう変わらないっぽいし。

 

 まあ、あくまでこれはオレの想像に過ぎない。そんな描写は明確に描かれていなかったはずだ。

 

 

「…うん。例えすべてが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない」

 

 

 そう言っていち早く水着を取りに行く白洲を見送る。

 

 すべては虚しいものと言う思想を植え付けられてきたにも関わらず、習っただけと切り捨てて最善を目指す。良くも悪くも子供は周囲の環境に影響されるわけだけど、そんな環境でよくその考えに至れたと思う。いや、そう言う環境だからこそか。

 

 オレはもっといい環境だったけど、そう言う考えに至れなかった。覆すことも抵抗することも、斜に構えて割り切って諦めることしか出来なかった。時間を掛ければ、オレから歩み寄ればもっといい結果があったのかもしれない。

 

 これが後悔か、と言われればそうじゃない。()()に関しては既に答えが出た話で、終わった話だ。後からぐだぐだ言うのなんて時間の無駄だ。

 

 ただ今は違う。まだどうにか出来る話だ。オレだってまた死にたいわけじゃないし、少なからず悲惨な目に合わせたくない奴らもいる。

 

 今オレに出来ることは限られている。道筋は分かってるんだ。オレはオレに出来ることをしよう。

 

 

「さあ、ヒフミちゃんもコハルちゃんも遠山くんも! 早く水着…いえ、なんでもいいので濡れても良い格好に!」

 

 

 やけにギラギラした目つきでオレたちを急かす浦和の姿に先生も思わず怖いと苦笑いをしている。

 

 やる気を出した阿慈谷も合宿所へ戻っていき、取り残された下江は困惑する。

 

 そこに笑顔の浦和が無言で下江にどんどん近付いていく。

 

 

「わ、分かったから! 無言で近寄らないで!」

 

 

 浦和の圧に負けて下江も合宿所に走り去っていくと、今度はこちらに姿勢を向ける。

 

 

「さあ、遠山くんも♡」

 

「水着なんて持ってきてないから着替えようがない」

 

「!? まさか下着で──」

 

「分かって言ってんだろ?!」

 

 

 わざとぶっきらぼうに言うが、セクハラで返されて思わず声を張り上げて否定する。

 

 分からない。浦和ハナコが分からない! どう接するのが正解なんだ!?

 

 嫌われ過ぎて今後の展開に影響が出るのも嫌だけど、距離感近過ぎるのも遠慮したい。てか距離感の取り方が全然分からん。もっとゲヘナの連中みたいに直情型の方が──

 

 ……まさかオレが一瞬でもゲヘナを恋しく思うなんて。軽くショックだ。

 

 というか、水着持ってきてないんだから水遊びなんて出来ないし。合宿所の掃除したんだから義理は果たしただろ。

 

 必要以上に馴れ合うつもりなんて最初からないんだ。そろそろ引き際だ。

 

 

「そもそも、オレは水遊びに参加するなんて言ってない。濡れるのも嫌だし先に上がらせてもらう」

 

「そう言わずに──」

 

「風紀委員会の業務が残ってるんでな。これから使う合宿所の掃除ならともかく、遊び目的での掃除に付き合える程時間はない」

 

 

 引き留めようとする浦和の言葉に被せ、突き放すように言う。

 

 浦和なら前に話したオレと馴れ合うことによって生じるデメリットを理解しているはずだ。それが自分だけじゃなく、他の奴らにも及ぶことも。

 

 オレだって特に嫌ってるわけでもない相手に冷たいことを言うのはストレスが溜まる。放っておいてくれた方が気が楽だ。

 

 

「部屋に戻って仕事してるんで、遊び以外で用があったら呼んでください」

 

 

 先生にそう一方的に伝え、2人の顔を見ずにその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 自室に戻ってしばらく。風紀委員会の仕事もひと段落したので勉強を始めていた。

 

 気付けば窓の外を見ればとっくに暗くなっていて、聞こえていた補習授業部の楽し気な声もなくなっている。ということはそろそろ合宿所に戻ってくるか。

 

 そう思っていると部屋の扉が開き、先生が入ってくる。

 

 

「お疲れ様です」

 

「うん、お疲れ様」

 

 

 挨拶だけして、また手元のノートに視線を戻す。

 

 実は先生ともあまり話はしていない。というより、補習授業部と同じでそもそも直接関わる気なんてなかったからだ。

 

 当初の想定ではエデン条約の式典か、もしくは風紀委員会の夏合宿で顔を合わせる程度でこんな風に2人きりになるになるつもりもなかった。

 

 言えば、ほぼ無条件で生徒の味方をするような人物だ。オレも今は生徒である以上、困っているの見たら手を差し伸べられるかもしれない。

 

 だけどそれは余計なこと。

 

 先生にはもっと重要な役割がある。ただでさえ過密なスケジュールで生徒の面倒を見ているのに、オレがその負担の一因になって過労のリスクを高めるのは非合理的だ。

 

 オレが不確定要素を避けたいのに、それになるつもりはない。

 

 

「勉強の方はどう?」

 

「…まあ、なんとか。少なくとも次の特別学力試験も落とす気はないので」

 

 

 先生からの質問にそう嘘を吐く。

 

 2次試験が受けられないのは分かってる。勉強しているのはまだ2次試験レベルの問題だけど、目の届かないところではもっと先の範囲まで予習している。

 

 やや淡泊に答えたので会話も終わったかと思ったけど、先生は隣の席に腰を下ろした。

 

 

「補習授業部のみんなとは仲良く出来そう?」

 

 

 その質問に思わず文字を書く手が止まる。

 

 今までオレが取ってきた態度を見てどうしてそう思うんだ?

 

 …いや、先生って立場からすれば気にするのは当然か。現状、オレなんて協調性のない面倒な生徒って感じだし。

 

 

「…あいつらがこれからもトリニティの生徒として在籍する以上、今オレと必要以上に関わることは避けた方がいいと思います。特に下江は正実のメンバーですから」

 

 

 前に補習授業部に向けて言った言葉と同じことを伝える。

 

 個人間なら多分仲良くなれる奴はいると思うけど、嫌悪感を持っている奴がトップに立っている以上今の空気はそう変わらない。

 

 無理矢理にでもやるとしたら、まず羽沼マコトとパテル分派を完全排除して長い期間で徐々に交流を続けて時間が解決するのを狙う。と言ったぐらいか。

 

 まあパテル分派はともかく、今のゲヘナに羽沼マコトが必要なのは認めざるを得ない。あの野郎、ただの馬鹿阿保間抜けかと思ったら統治能力はある方だし、謀略も上手いし一定のカリスマ性あるからクーデター起こしたら今以上にゲヘナが荒れるのはなんとなく想像出来る。

 

 だからと言って、性格悪いのは変わらないけど。オレも空崎委員長みたいにカチコミ…は難しいから、脅せるような情報掴んで黙らせる方法見つけないと。来年銀鏡が委員長になったとき、今以上に苦労しそうだ。

 

 …考えが逸れたな。

 

 とにかく、そんなゲヘナ憎しの空気がある中で下手に関わって補習授業部が被差別対象になるのはこの後の展開的にも非常に困る。

 

 下種な考えだけど、下江は格下と見れば噛みつくし少しおどおどしているところもあるからイジメの対象にされるとすれば彼女だ。

 

 下江がいないと、トリニティは嘘と欺瞞だらけの場所であると失望して浦和が退学するかもしれない。

 

 下江と浦和がいないと、阿慈谷は自ら殺人を犯そうとする白洲を止めようと前を向けないかもしれない。

 

 下江と浦和、阿慈谷がいないと、白洲は自らの覚悟の元錠前サオリを殺して後戻り出来なくなる。

 

 その後だって対『色彩』戦の中にきっと浦和はいないだろうし、その損失はかなり大きいものだろう。

 

 他の生徒がそうだとは言わないけど、補習授業部が1人でも欠ければキヴォトスは滅びの道を辿る。

 

 もしイジメが起きても誰も退学せず、原作通りに進んだとしてもイジメられたときの傷は残り続ける。そうなるくらいなら、最初から関わない方がお互いのためだ。

 

 ただ既に補習授業部が廃棄確定のゴミ箱だと知っている先生としては、オレも積極的に輪に入って一致団結して欲しいんだろうと思う。

 

 きっと困った顔をしているだろうと思い先生の顔に視線を移すと、いつも補習授業部を見ているときとそう変わらない優しげな笑みを浮かべていた。

 

 

「カナタは優しいね」

 

「は?」

 

 

 先生の言葉に間抜けな声が漏れる。

 

 オレが優しい? それはない。なんか変な誤解されてるな。

 

 

「ただの…メリットデメリットの話です。避けられるリスクは避けた方がお互いのためってだけで、優しいとかじゃないです」

 

「それでも相手のことを考えられているから。それはみんなが出来ることではないんだよ」

 

 

 確かに傍から見れば、そういう風にも見えるのかもしれない。

 

 でも、違う。オレはそんないい人じゃないんだ。

 

 キヴォトスに来て、おおよその時期を把握して、滅びを避けるために原作通り進めることを決めて。

 

 そこでオレは、力がなくても出来たのにしなかったことがある。()()()()()()()()()()()

 

 本当に優しい人間は、世界のためとそれらしい言い訳を並べて人の死を見逃さない。

 

 だけど、彼女の死がないと展開がどう転ぶか分からなかった。小鳥遊ホシノの性格がオレの知るものになるのか、確証が持てなかった。

 

 だけど、今はこれが正しかったと思うしかない。でないと、自分の言葉を覆すことになるから。

 

 改めて決意を確認したとき、コンコンと扉を叩く音がした。

 

 …思い出した。確か合宿の夜は『阿慈谷ヒフミ』が『先生』の元を訪ねてくる。

 

 オレがここにいるのは邪魔だ。

 

 

「オレは、先生が思っているような人間じゃないですよ。単純にこの胡散臭い試験で、どう廃棄されずに、後腐れなくゲヘナに戻れるか考えてるだけです」

 

 

 そう吐き捨て、手元にある勉強道具を纏めて扉に向かう。

 

 

「それはどういう──」

 

「空き部屋で勉強してます。先に休んでてください」

 

 

 一方的に告げ、扉を開ける。

 

 

「あ、遠山くん。先生──」

 

「オレは別の部屋にいるから、後は好きにしろ」

 

 

 阿慈谷を押し退けるように部屋を出て、行先も決めていないけど一刻も早く離れたくて足早に立ち去った。

 

 やるべきことは分かっている。テメェの都合のいいように手の平を返すことなんてしない。

 

 例えそれで今度こそ本当にゲヘナを去ることになっても──

 

 1つ溜め息を吐き、思考を切り替える。

 

 最悪のことを想定するのは当然。だけど、目指しているのが最善である以上考えすぎて動けなくなるのは間抜けだ。

 

 とりあえず今はまた銀鏡に泣かれないためにも、ちゃんと特別学力試験でいい点数取らなきゃいけない。

 

 気を取り直して、都合のいい空き部屋で勉強道具を広げて勉強を再開した。

 

 

 

 

 




距離取ること選択したので、正直書きづらいんですよね…
次話から覚えてろ
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