年度末の仕事が例年よりキツくて執筆出来なかったけど、ブルアカ関連イベントには意地でも行っていたクソ筆者です。
Xで3連休中に投稿すると言った手前、なんとか仕上げましたが明日5時起きなのでサブタイトルは後で考えます。各話のサブタイトル付けるのが一番難しいまである。
後、もしかすると後日加筆修正するかもしれません。
また、3月中は仕事が今より過酷になることが決定しているので、投稿に関しては期待しないで下さい。申し訳御座いません。
…さてと、一体何を話せばいいんだろうか。
さっきまで天雨行政官が座っていたパイプ椅子に座った銀鏡を見て今更悩む。
第一着点も分からないのに話し合いなんて……いや、交渉事じゃないんだ。もうちょい気楽に──なんて考えられたならそもそもこんな状況にすらなってない。
結局オレの方から会話を切り出すことが出来ず沈黙が続き、我慢出来なくなったのか銀鏡が口を開く。
「その…頭の怪我ごめん。大丈夫?」
「ああ。出血も元々温泉開発部の奴らの爆破で切って止まりかけたやつが開いただけだし、そんな深いのじゃないよ」
「そっか…」
会話が途切れてしまい、また沈黙が訪れる。
まあ、怪我の状態から会話なんて広げにくいし、何より自分がやったものに対する話だ。こっから続くとしたら謝罪ぐらいしかない。
折角会話になったのに流れが途切れるのを嫌い、今度はオレの方から切り出す。
「そういえば、あの後大丈夫だったのか? 便利屋いたけど」
銀鏡の様子を見ると怪我をしている様子もないので戦闘はなかったとは思うけど、陸八魔たちの動向も気になったので訊いてみた。
「うん。ちょっとだけ揉めたけど、それよりも救急医学部呼ばなきゃいけなかったから…。ごめん」
「まあ、そうだよな…」
改めてそのときのことを思い出してか、顔を俯かせて落ち込んでしまう。
ミスった…! 頭打って気絶してんだから、そりゃまず医療班呼ぶだろ! 傷抉ってどうすんだ!
自分の話題に対する選定センスのなさに苛立つ。
……前はこんな風に会話に詰まることもなかったんだけどな。
不甲斐なさからふとそんなことを思ってしまう。
ゲヘナにいたときはこんなことはなかった。他愛のない話も出来たし、放課後に買い食いしたりもしてた。休みの日もカラオケ行ったりバイクにニケツして出かけたりと遊びに行くぐらいには仲が良かった。その頃のことを思うと、やっぱりお互いぎこちない。
本当、前はどういう風に話してたんだっけ?
……ガキかオレは! なんかこう、こういう青臭い感傷なんて許容されても学生までだろ! いやまあ、オレも未だに学生なんだけどさ!
壁に頭を打ち付けたくなるような言い知れないむず痒さと気色の悪い感傷に頭を抱えたくなる。
落ち着けっ…。情動に乱されるな。感情的になって対応しても碌な結果を招かないことぐらい、昔から分かり切ってることだろっ。
鳩尾のあたりにあるモヤモヤしたものを体の外に出すように、軽く深呼吸をした後深い息を吐き出す。
オレは脊髄反射で会話出来るタイプじゃないし、感情のままに出た言葉が人に一生モノ──いや来世にすら残る傷になることを知っている。だから冷静に、道筋を立てて話をしなきゃいけない。所詮相手が納得するかなんて受け取られ方次第だ。どれだけ詳細に説明しも、相手が誤った捉え方をしてそれを回答と受け取れば納得されないし、そもそも意図して解釈を捻じ曲げて自分の正当さを主張する輩もいる。
銀鏡はしっかり説明すればまだ理解してくれる方だけど、オレとしての最善の着地点が分からない以上何をどう話すべきか。
いや、そもそもここで決別になったとしてもオレは昨日までの生活に戻るだけだ。いつまでも後ろ暗いことは出来ないけど、銀鏡との関係が明確になってゲヘナでの活動がやりにくくなるだけでやることは変わらない。寧ろゲヘナに戻ったときのメリットがほぼないことも自分の中で答えが出てる。ならいっそのこと──
「あーもう!」
急に銀鏡が叫び出し、吃驚して思考が中断され反射的に肩が跳ね上がる。
俯いていた顔を上げ、覚悟を決めたような表情で銀鏡がオレを目を真っ直ぐ見つめてきた。
「カナタ!」
「お、おう」
「なんであのときいなくなったんだ!」
さっきまでの態度が嘘のように単刀直入にこちらに問いかける。
…まあ、こういう猪突猛進というか回りくどいことしない方が銀鏡らしくて少しばかりやりやすい。
ただ、銀鏡が訊いているのはあの日──オレがゲヘナから出奔したときのことだ。
あの日オレは銀鏡でヒステリアモードになって、合わせる顔もなくブラックマーケットへ逃げた。そしてあの日のことをちゃんと説明するとなったら、急にキザになった理由──HSSについても説明しなきゃいけない。
そう考えただけで言葉が出なくなる。
オレは
オレにとって銀鏡は友達で恩人だ。あのとき出会えてなければ今のオレはないし、もしかするととっくにくたばってたかもしれない。ゲーセンのシューティングゲームしかやったことないようなやつが喧嘩で気軽に銃を抜くような銃社会も真っ青のキヴォトスで、傭兵もどきが出来る程度に適応出来たと思えば本当に頭が上がらない。
そんな相手を最低な形で
男からすれば性的興奮なんてある種仕方のないことかもしれないし、オレもそれを否定することが出来ない。
だけど、それを向けられた相手はどうだ?
オレは男だからそういう目を向けられたことはないし、正直性犯罪とかに対しても強い関心はなかったから想像でしかない。そんな程度でも相手の立場になれば友達であろうとそれが不快であることは想像に難くないし、信頼を損なうには十二分な理由になり得る。
そんな感情を銀鏡に向けてしまった羞恥心と浅ましさ、そしてそれを知られたとき銀鏡に嫌われてしまうんじゃないかと思い逃げるという
…ああ、止めろ。感情的になるな。テメェの都合の良いように世界は回らないし、どれだけ駄々を捏ねて怒鳴り散らしても覆らないことはごまんとある。それをする様がどれだけみっともないことなのか、それは間近で見てきたオレが良く知っていることだ。
本当に嫌になる。1つのことも貫けない愚図が。例えこのことで銀鏡に嫌われようと覚悟しても、オレの都合が邪魔をする。
風紀委員の銀鏡にとって、本来オレは取り締まり対象だ。それに彼女を傷付けて、今まで近付かず対応しようともしなかった。これからもオレはブラックマーケットで『武装探偵』を続けることになるだろう。だから、きっとここで突き放すのがお互いのためだ。
乱れる感情をどうにか抑え込んで、どうにか口を開こうとすると銀鏡が言葉を続ける。
「ブラックマーケットにいるって知って、すごく心配したんだぞ! いくら射撃が上手かったり、頭が回ってもカナタは銃弾1つで命が危ないし、もしそれで死んじゃったらって考えたら……」
泣き出しそうな声を聞いて、沈んだ思考から顔を上げる。
久しぶりにしっかりと見た銀鏡の顔はオレを非難するものじゃなくて、純粋に心配するものだった。
「その…悪かった」
今にも泣きだしそうな銀鏡を見て、拒絶の言葉なんて吐けず思わず謝罪した。
「悪かった、じゃない! 何度も連れ戻そうと考えてたけど、上手いこと風紀委員会が手を出せないようなところで動いて! わざとだろ!」
「…気のせいじゃないか?」
「嘘吐け! 目を逸らすなぁ!」
肩をバシバシ叩かれて非難される。
実際ゲヘナで活動は避けてたけど、それはまあゲヘナだと気軽に空崎委員長が出てきて確実に負けるからだし。比率は五分五分だし。
銀鏡のせいで大分自分の思考も落ち着いてしまい、さっきまでなんて言おうか考えていた内容が抜け落ちてしまった。
あーだこーだ考えている分、こう真っ直ぐ言われると必死に理論武装しているこっちが間抜けに思えてくる。
だけど、それとこれとは別だ。いや、だからこそか。銀鏡にはちゃんと伝えないといけないと思った。
「その、銀鏡。あの日のことというか、態度についてだ。あれについて、ちゃんと説明させてくれ」
「いや、無理に言わなくてもいいぞ」
覚悟して切り出した話題をあっけらかんと遠慮されて勢いが削がれる。
折角覚悟完了したのに…!
「確かにあのときの態度には驚いたけど、今思えば普段と大して変わらないんじゃないかと思って」
「待った。オレは普段あんなキザっぽくないだろ!」
「でも、人を口説くようなことときどき言うし」
「言ったことない!」
「さっきアルに告白したしてないで揉めてたよな?」
「あれは誤解なんだ…!」
「ふぅん…」とジトっとした目で見てくるけど、陸八魔のあれ以外言ったことないはず! こちとら竜華門主にデリカシーないって言われたんだからな! そんな人を口説くようなこと言うはずないだろ! まあその後にすけこまし言われたけど!
不味いっ…。このままだと流されて説明出来ないまま終わる気がするっ。真面目に聞かせるにはこうするしかない!
ベッドから身を乗り出し、両手で銀鏡の両肩を抑えてオレの顔を少し寄せて真っ直ぐ見つめるように固定する。
「銀鏡! あのキザったらしい態度だけど、オレが逃げたことに関わることなんだ。聞いてくれ」
急に掴まれて驚いて銀鏡の肩が少し上がって硬直しているけど、構わず続ける。
「オレは、ヒステリア・サヴァン・シンドロームって特異体質なんだ。恋愛時脳内物質βエンドルフィンってのが頭の中に分泌されるとその体質が発動して、反射神経とか判断力が通常の30倍まで跳ね上がる。その副作用でああいうキザっぽい態度になっちまうんだけどな」
捲し立てるようにHSSのことを説明する。
要点を纏めただけのものを一方的に喋っただけだけど、少し気が楽になってしまう。
ずっと誰にも言えなくて、精神的にきつかったけどこれを言うだけで変わるもんだな。
「…恋愛時脳内物質βエンドルフィンってなんだ?」
すっきりしたのも束の間、遠回しに使った言葉について訊かれる。
いやあわよくばスルーしてくれればって思ってたんだけど、そう都合良く行くはずもなく。まあ調べたら出てくることなんだけど、それはそれとして口にし辛い。
「エンドルフィンって多幸感を覚えると分泌されるってやつだよな?」
「まあ、そうだな」
「恋愛時って付くし、何か違うの?」
余計なところに気付きやがって…! 頭悪くないのは分かってるけど、今だけはスルーして欲しかった。
ただ誤魔化し切れるものじゃないし、ここまで言ったんだし言うしかない。
「せ、性的興奮です」
「…え?」
「性的興奮、です。エロい気分になると、分泌される脳内物質、みたいな…」
絞り出すようになんとか言葉にする。
銀鏡はオレの言葉を聞いて呆然として、次の瞬間に顔を真っ赤にした。
「ヘ、ヘンタイ! つまりあれだろ! あのとき私のスカートの中に顔突っ込んで…!」
「皆まで言うな…! て、暴れんな!」
「五月蠅いヘンタイ!」
「オレだって出来ることなら、ってうおっ!」
当時のことを思い出して、ヘンタイ呼ばわりしてオレの手を掴んで暴れ始める。
こっちは怪我人なので大して力も入らないので抑えようにも力負けし、勢いに負けてベッドに押し倒された。
思わず瞑った瞼を開くと、目前には赤い瞳。後数センチで唇に触れてしまうんじゃないかという距離に銀鏡の顔がある。
宝石のような赤い瞳に見惚れて、思わず生唾を飲み込む。
お互い離れることは出来るのに離れることが出来ず、その距離で硬直した。
もし少しだけ、少しだけでも顔を動かしたらどうなるんだろうか。そんな感情が湧き出て、鼓動が早くなる。
薄いリップの塗られた小さい口から息が漏れ、オレの唇を擽る。友達にこんな感情向けるべきじゃないと分かっているのに、感情が掻き乱される。
少しだけ。少しだけでも触れてみたいと思って──
「遅くにごめんなさい。失礼──」
突然病室の扉が開くと同時に女性の声が響く。
「ご、ごめん。ノックはしたのだけど…出直すわ」
そう言ってすぐさま病室から出て行ってしまう。
数秒か、数十秒か予想外のことにお互い硬直して動けないままでいたけど、空崎委員長に意識が逸れたお陰で改めて今の体勢を自覚して銀鏡がその場から飛び退く。
「ご、ごめん」
「いや、こっちも悪かった…」
お互い謝るけど気まずくなって視線が逸れてしまう。
さっきとはまた違う意味で沈黙が病室を包み、何か別の話題を振ろうと考えると空崎委員長の表情を思い出し声が漏れる。
「…なんかすっごい誤解されてなかったか、今?」
「…された気がする」
銀鏡も同意してそう漏らす。
また数秒して、状況を飲み込んで嫌な汗が出てきた。
「ごめん! ちょっと行ってくる!」
顔を真っ赤にしたまま銀鏡が病室を飛び出し、空崎委員長を追いかける。
頼んだぞ銀鏡! オレたちの明日はお前に掛かっているんだ!
心の中で応援して、オレは布団の中に潜り込む。
「…今すぐダンゴムシに転生したい」
さっきまでの雰囲気を思い出してしまい、オレは銀鏡が戻ってくるまで布団に包まって悶え続けるしかなかった。