繁忙期過ぎたのに繁忙期より仕事が忙しいという謎現象と大したもの書いてないくせにスランプ気味になってモチベーション下がっていたクソ筆者です。
前回投稿日がもう半年前…。絶対時空歪んでる。私の感覚ではまだ2ヶ月しか経っていない。
まだ仕事が落ち着く目途が立たないのですぐに更新出来ないと思いますが、半年更新なしはないよう頑張ります。
後あまり影響はないのですが、サブタイトルの一部変更しました。サブタイトル付けるのヘタクソなので御容赦ください。
場面を分けたせいでまた長くなってしまいましたが、今話で無駄に長いのは一旦終わりです。3、4話ぐらい間を挟んでやっとエデン条約編に突入予定です。
そろそろオリ主ヒスらせないと設定腐るんで、エデン条約前に1回ヒスらせます(次回予告)
2024/8/15 感想にて猫に関する指摘をいただいたため一部を修正致しました。私も不足している知識はネットから拾っていることもあり、誤ったことになってしまうことがありますのでその際は教えていただけると大変ありがたいです。
戻ってきてしまった。
噴水の奥に見える白い建物の第一校舎──ではなく少し離れたところから聞こえてくる爆発音と発砲音を聞いて、ゲヘナ学園に戻ってきたことを再確認する。
結局のところ、オレはゲヘナに戻ることを選択した。オレ個人のメリットはないのは変わりないけど、
建前として周囲には風紀委員会と敵対する意思がないこととこれ以上エデン条約諸々でこれ以上万魔殿に引っ掻き回すための道具に利用されるのも癪なので、その庇護下に入ることでやりづらくすることが理由だと空崎委員長たちには伝えている。
扱いとしては保護観察処分みたいな感じで、風紀委員会に所属してしばらくペナルティで奉仕活動とか下働きをする感じになる。多分ほとぼりが冷めた頃──具体的にはエデン条約が締結した辺りで正式に風紀委員会に戻されるんじゃないかとは思ってる。実際にはどうだか分からんけど。
ちなみに本音の方を悟られないようにしてるのはこう……銀鏡を引き合いに出せば弱いとか、好きだから戻ってきたんだぜアイツみたいに見られるのが恥ずかしいというか。いや好きは好きでも恩人とか友達への好きだし、そういうのではない。違う。確かにヒスったけど、そういうことでは断じてない。単純にあの状況でヒスらない程枯れてないだけだし。
そんなことはどうでもよくて、ゲヘナに戻ってきた以上ブラックマーケットで築いてきた関係の整理をする必要がある。なんだかんだアングラに足突っ込んだせいで『武装探偵』を完全に廃業することは難しいけど、風紀委員会の庇護下に入ることが出来たお陰で『武装探偵』の看板に泥が付いた。
自分で言うのもなんだけど『武装探偵』は依頼内容に忠実で依頼達成率もそこそこ高い便利屋兼傭兵もどきってことで今まで商売してて、それが風紀委員会に降ったわけだから当然離れる顧客も出てくる。オレも結果的にブラックマーケットで活動していたけど、いつまでも後ろ暗い仕事を続けられるとは思っていない。幸いにも殺しとか後に引けない行為に手を出してはないし、この際『武装探偵』の仕事をセーブして徐々にフェードアウトしようという腹積もりだ。
といっても、山海経との関係を切ることは容易ではない。玄龍門が怖いわけじゃなくて、HSSのせいで薬が効きにくい体質になったせいでいざ体調を崩したとき効果があるのが山海経産の漢方薬ぐらいになった。
漢方薬ってのは市販で売ってる風邪薬と比べて値段が高く、コネで安く確実に手に入るルートがある今それを断たれると将来的に非常に困ることになる。それを抜いても竜華門主との関係を簡単に切るようなことがあれば、今度こそ玄龍門の構成員に暗殺されそうだ。
竜華門主は多分オレが出戻りしたことは知ってるだろうけど、何も言ってこないから縁が切れたとは思っていない。もし依頼が来るようなら風紀委員会の目を掻い潜って受けるしかない。
他にも陸八魔たちに詫び入れに行けてないから優先して時間作りたいし、念のため先生の動向も見ておきたい。万魔殿に対しても
アリウススクワッドと交戦するかも怪しいけど、エデン条約のときに起きるミサイル攻撃に対する対処は考えておかないと防御手段を持たないオレは確実に死ぬ。持ち運び出来てミサイル直撃からも五体無事に生還出来るような都合の良いシールドなんて都合のいいもの存在しないだろうし、それまでに何かしら自己防衛策を考えておかないとな。
とりあえずエデン条約さえ乗り切れば、ゲヘナが関わるデカい事件は最終編までない。そこでもウ…ウトなんちゃら*1に乗ることもないだろうし、なんちゃらのサンクトゥムタワー*2攻略戦でも出番はないだろうからそこさえ乗り切ればどうとでもなる。
オレは最終編が終わってカノ…カルバンク*3? とにかくRABBIT小隊の2章までしか知らない。メインストーリーの5章で百鬼夜行が舞台なのは知ってるけど、プレイする前に死んだ。その後にゲヘナがメインの話が出てきてもおかしくないし、変な動きがないかアンテナを張っておく必要はあるけど。
…やることが多過ぎて頭が痛くなってきた。
「サボりてぇ…」
「サボるなよ」
背後から独り言にツッコミを入れられて吃驚して振り返ると、そこには呆れ顔の銀鏡が腕を組んで立っていた。
「おう、おはよ」
「…おはよう」
「サボんねぇから。勘弁してくれ」
「なら登校して早々サボりたいとか言うな!」
いや、だってねぇ…。と不満の言葉を飲み込む。
ただでさえやること多いのに、BDとはいえ補習もあるしその上ゲヘナだからなぁ…。テンション上げろって方が難しい。
「今日からビシバシ働いてもらうからな」
「…お手柔らかに頼むわ」
冗談に聞こえない言葉に思わず肩を窄める。
今の立場もあるしサボる気はないけど、脱走しようものなら今度こそ銃片手にブラックマーケットの果てまで追いかけられそうだ。
当然反抗する気はなく、大人しく隣に来た銀鏡と一緒に第一校舎を目指して歩き始める。
「その恰好見るのも久しぶりだね」
銀鏡が言う恰好──ゲヘナ風紀委員会の制服に視線を落とす。
以前持っていたのはとっくに捨てていて、改めて仕立て直した。*4オレも最近はジャケットとかスーツだったし、もう着ないと思ってたし元が軍服っぽいせいでなんとなくコスプレしてる気分になってちょっとだけ恥ずかしい。
「実際、この服着るのもあの日以来だな」
「最近はジャケットとかなの? 前はパーカーとかだったけど」
「まあ、ビジネスカジュアル的なのが多くなったな。着回せたりして楽だし」
そう答えると「そっか」と銀鏡が相槌を打つ。
「それっぽいの選んでたんだけど、似合ってなかったか?」
「いや、似合ってたけどやっぱりそっちの方がいいなと思っただけ」
「…おう」
まあ制服だから一般的に見れば変なところはないんだろうけど…
思わず唇を締めると、銀鏡がジトっとした目で見てくる。ゲヘナへ戻ってきたことに不満があるように思われたようだ。
「別に戻ってきたことに不満があるわけじゃないぞ」
「…そういうことじゃない!」
どうやら想定したこととは違うようで、他の候補が浮かばず首を傾げる。
「じゃあどういう意味だ?」
「……知らない!」
「え、ちょ、えぇ…」
少し間が開いた後、急に顔を背けて早足でどんどん先へ行ってしまう。
なんか怒ってる感じだけど、引き留めようにも何に対しての怒りなのかさっぱり分からず遠ざかっていく背中を眺めるしかなかった。
流石にこのまま放置することも出来ないので、どうしたものかと思いつつ小走りで銀鏡を追う。
その後追いつくも何に怒っているのか結局分からず、モヤモヤしたままオレの学生生活は再開した。
――――――――――
放課後になり風紀委員会へ久々の出勤、の前に万魔殿から呼び出された。
エデン条約前には呼び出されるんだろうとは思ってたけど、復学早々になるとは思っていなかった。まあ何を言われようと答えは決まってるんだし、出来れば万魔殿の弱み1つ2つ握ってから席に着きたかったけど仕方がない。
放課後の補習が終わってから広場を経由して万魔殿へ向かおうとすると、端の方で小さい女の子がぴょんぴょんと木の下で跳ねているのが見える。
明らかに空崎委員長よりも小さいし、ダボっとした上着に金髪となると心当たりは1人しかいない。
本来なら万魔殿への用事が優先されるんだろうけど、ああもあからさまに困っている子供を放っておく程オレも薄情じゃない。それに今朝銀鏡から風紀委員会の腕章貰って付けちゃってるし、「風紀委員が困っている生徒を放っておいた」なんて悪評を流されちゃ堪らない。それに彼女を助けたとなれば多少遅れても大目に見られるだろう。
軽く咳払いをして喉の調子を整え、頬の筋肉を軽く解してから少女に近づく。
「君、どうかしたの?」
普段より明るい声色を意識して、なるべく優しく小さな生徒──
「オレは風紀委員会の2年生、遠山カナタ。よろしくね」
とりあえず不審者と思われないよう、左腕にある風紀委員会の腕章を前に出して先に自己紹介する。
年の近い奴とか年上に警戒されるのはまあいいとして、小学生ぐらいの子に不審者扱いされるのは割とキツイ。普段からニコニコしてるタイプじゃないし警戒されるのは仕方ないんだろうけど、初めて梅花園に行ったときココナ教官に不審者じゃないかと疑われたときは想像以上に心にクるものがあった。
それからは子供に話しかけるときは柔らかい雰囲気を作れるように努力しているけど、初対面の子供にはあまり上手くいかない。
「イブキはね、丹花イブキ! よろしくね、カナタ先輩!」
オレの杞憂とは裏腹に元気いっぱいに自己紹介を返す丹花に思わず表情が緩む。
なるほどこれは万魔殿の連中も可愛がるわけだ。警戒心が薄いのは心配するところなのかもしれないけど、人見知りせず笑顔で挨拶を返されるのは自然と良い印象を覚える。
とりあえず木の上に何かあるんだろうと思い見上げると、そこには三毛猫がこちらを見ながら身を縮こませていた。
「もしかしてあの三毛猫?」
「うん。猫ちゃんの声が聞えてね、どこだろーって探してたら木の上で降りられなくなっちゃてるみたいなの」
「あー成程。よし、じゃあオレに任せて」
猫相手なら話が早い。丹花に少し離れるよう伝え、木を登り始める。
これでも小学生の頃はゲームより外走り回ってたタイプだし、久々とはいえ木登りなんて数えきれない程やってきた。幸い足を掛けやすいでっぱりもあってスムーズに上ることが出来、猫にも手が届く範囲まで登れたので比較的太い枝の根本に腰を下ろす。
さて、ここからどうするか。ただ降ろすだけなら追い立てて落とすのもありだけど、丹花が見ている以上そういう手を取りたくない。
ひとまず警戒させないように目を合わせず観察すると、赤い首輪が付いていることに気が付く。
飼い猫か。それにこんなに近付いても少し尻尾は立ってるけど、威嚇してくる様子はない。もしかすると赤ん坊時代から育てられてたとか、そういう人馴れした猫なのかも。
それならと体の向きを猫と平行にし、手を伸ばすが引っ掻かれることなく下半身に届いたため軽く撫でる。
続いて胸の内ポケットからまたたびを練りこんだ市販の猫の餌が入った袋を取り出し、大豆ぐらいの大きさがあるそれを手のひらに数粒出して猫の前に差し出す。
「よーし、降ろしてやるからこっちおいで」
野良猫なら手を伸ばした時点で引っ掻かれてても仕方なかったけど、ここまで行くと手に載った餌も食べるかもしれない。
差し出された餌の匂いを警戒しつつ嗅ぎ、問題ないと判断したのだろう手のひらの餌を食べ始めた。
餌を食べさせた後改めて猫に手を伸ばしても逃げず、抵抗もされなかったためそのまま首を掴み胸に抱き寄せる。
ここまで行くと自分の家以外でも餌を貰う代わりに触らせて、みたいなことをしているのかもしれない。思った以上に人馴れしてるから、もう爪を立てられる心配もなさそうだ。
使うわけないと思って持ってきた猫餌だけど、役に立ってよかった。こういう念のために用意したものが役に立つのは気分がいい。
喜ぶのは後にして、とりあえず暴れる様子もないので三毛猫を驚かすことがないようにゆっくりと木を降りていく。
「よいしょ、っと。レスキュー完了」
「カナタ先輩すごーい!」
とりあえず保護した猫を地面に降ろすと、こちらを一瞥した後校門の方に走り去ってしまう。自分の家に帰ったのか、それとも別のところに餌を貰いに行ったのか。まあ、猫なんてそんなもんだ。
喜んでいる丹花に視線を合わせるように膝を折り、帽子越しに軽く頭を撫でる。
「猫のこと見つけてくれてありがとうな。また何かあったら教えてくれ」
「うん。ありがとー!」
満面の笑みでお礼を言うその表情にオレも自然と笑顔になる。
ほんっといい子だな、この子。ゲヘナじゃなくてミレニアム行った方が良くないか?
「っと、ごめん。この後お仕事で羽沼議長に会わなきゃいけないからもう行かなきゃ」
「マコト先輩のところ? イブキももう戻るから一緒に行こ!」
「もちろん。そうだ、実は万魔殿の部室行くの初めてだから案内お願いしてもいい?」
「任せてー!」
元気いっぱいに応える丹花の横を歩き、彼女の話を聞きながら万魔殿の部室へ向かう。
楽しげに話す彼女を見ていると、年の離れた妹ってのはこんな感じなのかと可愛く思う。まあ、そもそも妹いないから年が離れたも何もないんだけど。
そんな時間も当然長く続くはずもなく、数分で万魔殿の部室前に到着する。
一応呼び出しで来た手前、扉をノックしようとするがそれよりも早く丹花が扉を開けて中に入ってしまう。
「ただいまー!」
「おかえり、イブキ」
「マコト先輩にお客さんだよ~」
中から聞こえるやり取りに諦め、ノックをせず入室する。
部室には分かる範囲で羽沼マコトと棗イロハ、
「遅くなり申し訳御座いません。遠山カナタ、出頭に従い参上しました」
「キキキッ! 随分遅い到着だな遠山カナタ!」
「マコト先輩、カナタ先輩を怒らないであげて。イブキが見つけた猫ちゃんが木の上で降りられなくなっててね、助けててたら遅れちゃったんだ」
「そうか。次から気を付けることだ」
「あ、はい」
…前世の知識でしか知らなかったけど、本当に丹下に甘いんだな。もっとネチネチ言われること覚悟してたんだけど、少し拍子抜けだ。
「ちょっと難しい話をするみたいですから、向こう行きましょうかイブキ」
「はーい。カナタ先輩またねー!」
これから玄龍門とか危うい話が出てくるかもしれないからか、棗イロハが別室へ丹花の手を引いていく。
部屋を出るまで手を振ってくれる丹花へオレも軽く手を振って応え、扉が閉まると改めて羽沼マコトへ向き直る。
「キキ…改めてよく来た遠山カナタ。ひとまず座るといい」
そう促されて、応接用のソファーに腰かけると羽沼マコトが語り始める。
「何故呼ばれたか分からないだろう。何、恥ずかしがることはない。上に立つ者の考えが分からないもの仕方のないことだ」
こちらに口を挟む余地を与えないような1人語りに対して、反論出来ず口を挟むことが出来なかった。
実際、羽沼マコトの正確な考えは分からない。
天雨行政官からはオレの身柄を確保しようとしていたこと。オレを通じて玄龍門と繋がりを持とうとしようとしていること。そう聞いているし、オレ自身有り得る話だと考えた。
だけど、その考えはあくまで風紀委員会が掴んだ情報と状況を照らし合わせて出た答えであって憶測でしかない。
その憶測が正しいと仮定して、羽沼マコトにとってオレの処遇はどちらに転んでもどうでも良かったはずだ。いや、風紀委員会が万魔殿の下部組織である以上オレは支配下に置かれることになる。そう考えればこの状況も羽沼マコトにとってベターなルートを辿っていることになるのか。
…まあ、そこまで考えてるかは怪しいところだけど。
「それ故にこの話にはなんのメリットがあるのか、何を企んでいるのか、罠ではないか、そう考えを巡らせるだろう。だが安心しろ。決して悪い話ではない」
そこまで言い終えるとこちらの反応を観察するように一拍開ける。
候補はある。だけど、今までの言葉や態度から絞ることは出来ない。
こちらから口を挟むことをせず答えを待つと、にやりと笑い大げさに右手をこちらに差し出す。
「万魔殿に入れ遠山カナタ! 大人を相手にビジネスをしてきた経験! その結果築いてきた多くの学区や大人との人脈! 誰も成し遂げられていない偉業──キヴォトスに全土を手中に収める我々の野望も夢ではない!」
過大評価されている気はするけど、その強欲な誘いは確かに悪い話ではない。
軽い喧嘩ですら死がチラつくキヴォトスにおいて、万魔殿の議員になれば前線に出て戦うことも少なくなる。オレ自身戦うよりも書類仕事してる方が気が楽だし、働きによっては風紀委員会に対する嫌がらせもなくせるかもしれない。その過程で面倒なことはあれど、断る理由が見つからない程魅力的な話だ。
「今後はシャーレの先生と手を組み、計画を進めていく。キヴォトスを手に入れた暁には…」
そこまで言うと突然言葉に詰まり、ぶつぶつと独り言を呟き始める。
「望むものをくれてやろうと言おうとしたが、もしイブキと言われたらどうする? そうなったら然るべき対応をするが…」
…なんか勝手に人をロリコンにして、処刑のことまで考えられてる気がする。
話を遮るのも失礼だし最後まで聞くつもりだったけど、早々に誘いに対して返答しよう。
「あの──」
「ふふ、そしたら彼の好みの女の子とセッティングするとかどうかしら?」
口を開こうとしたそのとき、
「彼も男の子だし、そっちの方が確実じゃない?」
わざとらしくデカイ胸を揺らしたせいで一瞬目で追ってしまうけど、理性で咄嗟に逸らす。
胸に視線が行くのは男の本能として仕方ないんだ。勘弁してくれ。
「いや~、でもサツキ先輩。カナタ君って彼女いるしダメだと思いますよ」
今度は元宮の方からもトンデモ発言が飛び出す。
心当たりは1つ、先日の陸八魔との一件。まあ万魔殿に漏れてても仕方ないけど、ここでもあの釈明しなきゃダメなのか…!
「あら、そうなの?」
「はい。同じ風紀委員会のイオリちゃんと」
「いや付き合ってねぇから!」
何故か銀鏡の名前が出てきたせいで、思わず声を荒げて否定する。
陸八魔なら分かるけど、なんで銀鏡の名前が挙がってくる!?
「え、でもいつも一緒に…。あっ、もしかしてお別れしちゃってた?」
「確かによく一緒にいたけど、そういうんじゃない。そもそも付き合ってもない。男女で仲良かったら、でなんでもかんでもそっちに結び付けんな」
仲良いだけで付き合えてんだったら、前世でとっくに恋人出来てるわ。一緒にいるだけで恋人になるとか、ハムスターじゃねぇんだぞ。
それにそういう方面でも銀鏡に迷惑掛けてたんだな。あんま友達いなかったとはいえ一緒にいすぎたか。今度から気を付けよう。
さっきまで色々真面目に考えてきたのに急に阿保らしい話になったせいで緊張が解け、頭を冷やすために1つ大きな溜め息を吐く。
「…もしその手の話がゲヘナに広まってるんだったら、積極的じゃなくても否定してくれると助かる」
「う~ん。分かった!」
やや納得してない感じもするけど元宮に噂の否定を頼む。
…これが当然のように広まってるんだと、火消しも今後やらなきゃな。
また処理する案件が増えて頭が痛くなるけど、ひとまずこっちの話に決着を付けなきゃいけない。再三になるが羽沼マコトに向き直り、勧誘に対する返答を行う。
「羽沼議長。今回のお話、光栄ではありますが辞退させていただきます」
「…ほう、理由を聞かせてもらおうか」
はっきりとそう告げたが羽沼マコトは焦っている様子はなく、不敵な笑みを浮かべる。
「3つ程、理由があります」
順序立てて説明するため、分かりやすく人指し指を立てる。
「1つ。ここで風紀委員会から万魔殿に移籍した場合、オレはどちらに対しても強い信頼を得られません。つい先日までサボって迷惑掛けていたのに上位組織にスカウトされたからと古巣を捨ててしまえば風紀委員会からも裏切者として見られますし、そちらとしても『メリットがあれば簡単に裏切れる人間』を重用するとは思えません」
確かに万魔殿に所属出来て手柄を挙げれば、風紀委員会の待遇改善に動けるかもしれない。だけど、尻の軽い蝙蝠野郎に重要な役目が与えられるとは限らない。羽沼マコトが欲しているところだけを上手く利用されて、最後まで飼い殺しにされる可能性だって十分に考えられる。
次を説明するため、中指を立てて2つ目へ移ることを示す。
「2つ目。羽沼議長に経験や人脈を買われてお誘いいただきましたが、オレには既に求められている程の価値はありません。既にそちらの方面には『遠山カナタがゲヘナ風紀委員会に降った』と情報が流れているはずです。分かった以上、向こう側もリスクを考えて関係を持つことを控えるので人脈は死んでいるも同然です」
まだそうとは確定していないけど、オレがゲヘナ学園を退学でもしない以上緩やかにでもその方向に進んでいくのは止められないし止めるつもりもない。経験はともかく、後ろ暗い連中との人脈はじわじわと死に始めてる。下手するとオレを処理しようと手荒いことをしようとするのもいるかもしれない。
薬指を立て、最後の理由に映る。
「3つ目。先程挙げた2つの理由から、移籍した場合オレはゲヘナ学園で肩身狭くなりますしそちらも期待した働きが出来ないお荷物を抱えてしまいます。そんなリスクを負ってまで強行するのはお互いにメリットがありません。以上が辞退の理由となります」
羽沼マコトが引き抜く理由として挙げたものは、先日までのオレの立場あってこそ生かせた。だけどそれが上手く活用出来ないとなれば、お互い後悔するのが分かり切っている。
それにエデン条約や玄龍門の話が出てこないとなると、オレを100%抱き込めると思っていない証拠だ。
現状風紀委員会も情報は掴んでいるものの、実行に移すには竜華門主にツテのあるオレの協力が必要不可欠。絶対に万魔殿に引き込める確証がないのにそんな話をしてしまえば、先んじて空崎委員長に計画を潰される。
銀鏡に対しての負い目を抜きにしても、移籍することで発生するデメリットは大きい。仮に勧誘がしつこいようなら空崎委員長に報告して牽制してもらうのも手だな。
そもそも玄龍門と関係を持つ計画も精々セカンドプランとか出来たらいいな程度のものだろうし、時系列的にも既にアリウスと手を組んでいてもおかしくないので強行する必要も薄い。
本来の目的を話すことも出来ず、表向きの理由もデメリットが大きいと提示され断られた。オレならここで手を引く。
「キキッ…。そういう話ならば、今日のところは引き下がろう」
こちらの想定通り、あっさりと手を引いた。
引き際を理解しているあたり、この手のことに慣れてることが窺える。
正直羽沼マコトへの印象と言えば、エデン条約のときに騙されて飛行船爆破の挙句アフロになるとか議長の椅子にふんぞり返ってるダメリーダー的なイメージが強かった。だけど思い通りに行かず癇癪を起す大人もいる中、謀の巧さや物事の引き際などを見るとなんだかんだゲヘナでリーダーやってるだけあるのかもしれない。
「だが! 風紀委員会に所属する以上、容赦はしないぞ! 覚悟しておけ!」
…やっぱダメリーダーかもしれん。