しょうきんかせぎの ボンズマンが しょうぶを しかけてきた! 作:モンスターポケット
──『ポケモンは怖い生き物』。この言葉は、シンオウ地方がまだヒスイ地方と呼ばれていた頃に、外国からフィールドワークへと訪れていたラベン博士の著書に繰り返し出現する記述です。当時の人々にとって、ポケモンは脅威の象徴でした。
力が恐ろしく強く、統一性のない見た目。何もないところから電気を生み、時には天候を操る。
場合によってはその神秘的な生態や人智を超えた能力が信仰の対象となった例は世界各地に散見されることからも人間が歴史的にポケモンを恐れていた事が伺えるでしょう。
当時でも一部の革新的な地域では狩猟や拠点防衛などにポケモンを利用するなど、『生活におけるパートナーとしてのポケモン』の可能性が模索されてこそいましたが、それは詰まるところポケモンを『敵か味方か』という二元論的な捉え方に基づく考え方の延長に置くものに過ぎませんでした。
ラベン博士は、そのような文化潮流の中にいながらポケモンに多面的な側面を見出しました。彼はポケモンを単純な存在として捉えず、彼らが持つ『隣人』としての多面的な性質を深い観察によって『ポケモン図鑑』として描き出し(ただし、その記述はどちらかといえば博物学的な整理法でありましたが)、オーキド博士に結実を見た現代ポケモン生物学の土台を固めた偉人なのです。
……ただし、先に言ったようにポケモンの脅威としての性質以外に着目した人間はラベン博士が最初というわけでもありません。最初にポケモンを手なづる事に成功した人間の脳裏にはこんな考えが過ったはずです。『こいつは使えるぞ』と。
昔々、ポケモンと人間が出会い、共存の道を探り始めたと同時、ポケモンを利用した犯罪が生まれ、そしてそれを追う人々も現れたのです──。
「随分待たせるな……」
警察署の奥に三ヶ月前に新設された『ポケモンポリス国際警察連携部門』。その受付の前に用意されたラジオから繰り返し流れるポケモン犯罪史の教材朗読を流し聞きしながらボンズマンは座っていた。
いくら新設されたばかりとは言ってもすでに『おたずねもの制度』が出来てから3ヶ月。主人公も何件かの依頼をこなし、一連の手続きにはお互い慣れたもののはず。
最初は強盗と引き換えにもらった100万円の束を「ウヒョヒョー!」と何度もベラベラ数えていた自称賞金稼ぎも、数えるたびに減ったり増えたりする万札に一喜一憂する自分がなんだか情けなくなってポーチに雑にしまった。
ここにきて何かイレギュラーな事態でも起きたのかと思っていると、さっき主人公の申請を受け付けた職員が何故か申し訳なさそうな顔でこちらに向かってきているのが視界に入った。
「あのう、その……」
「もしかしてすでに捕縛済みだったって訳か?」
「いえ、そういうわけではないのですが」
「じゃあ、入れ違いで誰か別の賞金稼ぎが依頼を受けてしまっていたとか?」
「そういう訳でも……」
ボンズマンは職員の歯切れの悪さが気になり片眉を上げた。
現状、おたずねもの情報は施設の中央に置かれたボードに依頼票の形で貼り付けられ、それを受付へ持っていくと、番号の書かれたカードを貰える。依頼をクリアしたのちにそのカードを施設の裏の屋台に持っていくと番号に応じたくじが引け、なぜか必ずきんのたまが当選、ただきんのたまなんぞもらっても困るのでその場で現金に変えてもらうという仕組みが出来上がっていた。なんでだろうね。
ともかく、形式が原始的なので、ヒューマンエラーが起こりやすかった。特によくあるのが、依頼票が貼り出された直後にジュンサーさんが先にソイツを捕縛してしまい、情報が伝わる前に賞金稼ぎが依頼を受けてしまったというトラブルだ。
その場合は依頼がキャンセルになってしまう訳だが、その事実を知らないで敵を探しに行くと、もうすでにいないターゲットを探し回った挙句報酬もスカと結構な痛手になってしまうのだ。当然補填などない。賞金稼ぎは制度として成立したばかりだという点を差し引いても定職とは言い難かった。
そのため、ボンズマンは真っ先にその点強く確認したのだが、職員の返答はNO。
ならどういう訳なんだ? と主人公が口を開こうとした瞬間、職員がなぜかカウンターを出てボンズマンの前に立って、勢いよく頭を下げながら奇妙なことを言いだした。
「この依頼、他の人との共同依頼という事にしてくださいませんか! 報酬は全てボンズマンさんにお支払いいたしますので!」
「はあ……? ……あっ」
主人公は職員のセリフに何が起こっているのかを即座に察し席を立とうとしたが、その両肩を職員に全力で抑えられてしまう。
「お願いします話だけでも!」
「い、嫌だ! それ以上何も言わないでくれ! どうせアイツだろ!? 関わりたくない!」
「お願いです! あの人を止められるのはこの支部だとあなたしかいないんです!」
「断る! ていうかアイツ勝手にお尋ね者のところに行ってるだけだから賞金稼ぎですらねえだろうが!」
「あの人まじで何しでかすかわからないんですってホントに! 依頼ボード見てからここ出発する時あの人何言ったか分かります!? 『俺の新しいわざを見せてやる』ですよ!? お願いだから人間にはポケモンのわざは使えないんだってあの人に教えてください!」
「嫌だ!」
「お願いします!」
「いやだ!」
「1.5倍」
「ウヒョッヒョー!」
ボンズマンは警察署をスキップで飛び出した。
中略。
ボンズマンは向かった先で即座に見つかり牢屋に入れられた。傍でアブソルがため息をつく。ボンズマンは頬をかいた。
「あれえ?」
「(呆れ)」
ボンズマンは自分が掴んだ鉄格子を揺らしてみるがびくともしない。恐ろしく堅牢だ、人間は勿論、そこら辺のポケモンが何かしても壊れないだろう。
──ボンズマンは金だけを見て勇み足を踏んだのでそこまで内情を知って行ったわけはないが、牢屋に入ってから見張りにせせら笑いと共に聞かされたことには、ここを根城にしたおたずねものは少数の組織でポケモンのたまごを売り捌いていた業者であった。それだけならなんら違法性はない(地域によってはいまだに食用になっているくらいだ)のだが、彼らについてはその目的が問題。
手順はこうだ。孵化直前のたまごを選び、好事家に売り払うのだ。そしてバットとか彼らの好みの鈍器と防音室のカギを貸し出す。彼らが部屋から出てきたら割れた卵と『内容物』を清掃。
……それ以上はさしものボンズマンも聞く気が起きなかった。というか今も耳を塞いでいる。うるさいからだ。
「ここにくるとはボンズマン、君にもやはり正義の心が宿っているようだな!!!!!!」
「『イットーショー』、いい加減周りに迷惑をかけるのはやめろ」
「それはすまんな!! ぐわっはははは……はあ!」
「うるっさいぞ侵入者のくせに! 頼むから黙っててくれ!」
見張りが鉄格子の向こう側からカリカリとした表情で叫んで何か2、3文句を言ったようだが、イットーショーの特徴的な笑い声にかき消されボンズマンは聞き取れなかった。
ボンズマンはその様子に「相変わらずだな」とため息を吐いた。
というか組織の下っぱを引っ掛けて話をよく聞くために半ばわざと捕まったボンズマンはともかく、イットーショーはなんで捕まってるのか? アブソルが首を傾げた。
イットーショー。上半身に服の代わりに肉襦袢を着ているような男は、顔はハンサム、体はムキムキ、心はさわやか、と箇条書きで要素を抜き出すと100点満点を叩き出す名前の通り出来た男だが。しかし、彼はある一点において、巷でも有名な変態として知られている。
「うむ、どんな悪党にもまずは説得から試みるべきだと私は思う! 正面玄関でその旨お伝えしたらここに案内されたのだ!」
「ええ……」
「(尊敬)」
見張りドン引きである。そんなこったろう、とボンズマンは思った。大した正義漢だこと。話を聞いたアブソルが立ち上がり、イットーショーの周りをぐるぐる回って丸を描いてから、ボンズマンに寄り添った。アブソル的にはイットーショーの説得から入るスタイルはポイントが高いようだ。
俺にもやれって? と肩をすくめるボンズマンが不意に手を中空まで上げた瞬間、見張りの弛緩しかけた空気が再び張り詰める。彼はモンスターボールからゴルバットを出して鉄格子の中を油断なく見据えた。
「おい動くなよ! それ以上動いたら毒針を打つ、当然どく消しなんか渡してあげないからな……賢明な選択をしろ、頼むから」
「それで? 今日は先生は?」
「話を聞け、頼むから!」
「うむ、先生はなあ」
ボンズマンが見張りを無視してイットーショーに『最も重要なこと』を確認した。イットーショーがいると言うことは、当然『先生』がいるはずなのだ。イットーショーの暴走を止めることができる唯一無二の『先生』が。
イットーショーは彼の言葉を聞いてなぜか天井を指差した。アブソルとボンズマンはそのジェスチャーに上を向いて瞠目した。
「そこにおられる」
「うおお!?」
「(驚愕)」
「(……)」
天上から落ちる影の中に浮かび上がったのは赤いかみなり模様。
先生、と呼ばれたザングースは牢屋の天井に爪を刺して宙で瞑想をしていた。ここに至るまで一切の物音を立てず。一拍遅れて見張りもそのことに気づき焦り声を上げる。
「貴様いつからそこに!」
「先生は最初からおられたぞ!」
「いつも思うけど先生って何者なんだ? こいつが野生って信じられねえんだよなあ」
「先生はすごい人だ!」
「どんな人か聞いてるって訳じゃないんだよ」
先生が瞑想を取りやめ、するりと音も立てず下々の喧騒に瞑想の世界に降り立つ。そうして口を開こうとした瞬間、イットーショーが大音声で言葉を発する。
「(
「ええわかっていますとも先生! 勿論ここを出ましょうとも! 新しく覚えたわざも披露したいですし」
「(
「ゴルバット、『どくばり』!」
「先生が喋ってるところ見たことねえなあ」
「(憐憫)」
見張りがゴルバットに指示を出す。見張りの脳内は状況の目まぐるしい変化に正直しっちゃかめっちゃかといった様子だったが、『新しいわざ』と言う言葉からザングースが牢屋に何か小細工をするつもりなのだと思ったらしい。
「逆なんだよなあ」
「はあ?」
ボンズマンのぼそっとした呟きに見張りが反応した時、どくばりはザングースの方へ向かっていたが、彼女はそれを見据えて微動だにしない。素早く細い針に反応ができないのか? スローリーなナマケロなのか? いや違う。そのザングースは瞬きすらせず、その目で正確にどくばりを追い、その上で見逃している! ザングースがイットーショーの背を爪で突いた瞬間、
「ふん!」
イットーショーが腕を高速で振るい、どくばりが地面に叩きつけられ粉々に消滅した。そこは人として刺さっとけよ。
見張りはポケモンのわざが人間に防がれたと言う事実に一瞬動揺したようだったが、すぐに気を取り直し、にやにやと笑う。あっちからの攻撃が通用しなかろうが、そもそも牢屋を開けられなければ問題がないことに気づいたのだ。
牢屋に捕まっていた変態が、前に出ようとしたザングースを手で制して、快活に呼びかける。
「先生の手を煩わせるまでもない! 私がやりましょう?」
「はあ? ポケモンにだって壊せないように作った牢屋に人間が何するって言うんだ?」
「さあ、私に指示を出してくれ先生! 私は『かみなりパンチ』が打ちたいです!」
「(嘆き)」
そう言いながらイットーショーはその場でシャドーボクシングを始め、ザングースは頭痛を耐えるような表情をする。
「む、れいとうパンチでもいいですよ先生」
「こいつ何を言ってるんだ……?」
先生、と呼ばれたザングースはうんざりと、本当にうんざりとした顔をして変態に向かって『10万ボルト』を放つ。当然のことながら人間がポケモンのわざを喰らえば痛い。例に漏れず変態もグオオとくぐもった声を出す。が、変態はそれを噛み砕くように攻撃的な笑いを無理やり作り出す。
見張りは目の前の光景が理解不能で、ゴルバットに指示を出すのを忘れている。
「わかりましたよ先生! これがでんきわざの感覚、そして俺はかくとうタイプの人間! つまり私が出すべきわざはこれだと言っているんですね!」
かくとうタイプの人間ってなんだよ。ボンズマンのぼやきをよそに変態は拳を腰だめに構え、
「これが、私が先生から教わった二番目のポケモンわざ! 帯電した電気が威力を引き上げるパンチ! これが、これが私のお!」
後ろにいたザングースが首を横に振ってため息を吐く。変態の拳が周囲の空間が歪むと思われるほど強く握り込まれ、そして、
「かみなり、パンチだあああああああああ!」
まるで一筋の流星を思わせる圧倒的な速度で牢屋の壁に向かって突き出され、それはそのまま変態の叫び声を掻き消すほどの大破壊音を伴って牢屋の柱が数本ひしゃげて吹き飛んだ。
勿論、パンチをする前の溜めの時点で彼に飛んだ10万ボルトはアースの要領で地面へと逃げているので今のパンチはただのパンチだ。イットーショーのイットーショーはバカ一等賞のイットーショーだ。
見張りはきのみがまるまる入りそうなほど大きく顎を落として立ちすくんでいる。ボンズマンはイットーショーの右手を取って上へ持ち上げながら皮肉気な声色で言った。
「よっ、リアルウィナー」
「そうとも、正義は勝つ!」
「(同意)」
風圧の強い正義だよ。皮肉が伝わらないことにボンズマンは捨て台詞を言った。先生は交代拒否したが。
──ボンズマンは、鉄格子からする死臭に誰にも見えないように十字をきり、アブソルはそれに気付かないふりをした。
そのあとはイットーショーを先行させ、特に隠れることなく施設の中を練り歩いて回った。そもそもポケモンのたまごを扱うと言う性質が災いして強いポケモンを組織が用意していなかったと言うのもあるが、イットーショーにはポケモンのわざを寄せ付けない肉体がある。
「イワーク、いわなだれ!」
「効かん!」
「ブーバー、ほのおのパンチ!」
「効き目、なし!」
「ワンリキー、からわわり!」
「効きまっせん!」
「ひいい
ボンズマンは内心彼らに同意した。イットーショーは人間の範疇を超え、ポケモンのわざを使えると思い込む男だが、実のところポケモン基準でも枠を超えている気がする。先生は常にイットーショーに『みねうち』を指示しているようだった。先生は、どうもポケモンにしては高い倫理観を持っていると言うことをボンズマンは何回かの
「(……)」
「(心配)」
「そうだな……」
そうこうしているうちに、一番偉い人間がいそうな部屋にたどり着いたボンズマンたちは、そこにいた一番偉そうな人間がポケモンを繰り出そうとしたのを普通にイットーショーがそこらへんの植木を投げて咎めた。
モンスターボールが部屋の隅に転がる音が部屋の中に響く。イットーショーがそれ以上の大声で話しかける。部屋の中には無造作にポケモンのたまごが転がっていて、それぞれうにうにと動いていたり、ぐるぐるとゆっくり回転していたりする。心なしか部屋の中は暖かく、ボンズマンたちの体温は逆にスッと下がった。
「貴様がここの悪党のボスか?」
「くそっ、おいお前らこのーー」
「(叫び)」
「なっ」
「アブソル!」
「(同意)!」
人質にしようと思ったのだろう、悪党が、手近なポケモンのたまごを引っ掴もうとした瞬間、先生がかえんほうしゃを吐き出した。常に人間に無用な怪我をさせないよう動く冷静な先生らしくない攻撃に、ボンズマンは彼女があの鉄格子の死臭に気づいていたことに気づいた。が、予想の範疇内。アブソルが『ミラーコート』を纏って悪党の前に立ちはだかり、その火炎放射を受け止める。悪党は腰を抜かし机にけたたましい音を立ててぶつかった。それきり室内には静寂が訪れる。
「(呆然)」
「先生……」
先生と呼ばれたザングースは、自分のしたことにじわじわと理解が追いついてきたらしい自身の手を見つめて呼吸荒く震えている。アブソルが悲し気に鳴くがそれすら耳に入っていない様子だ。
その様子を見たイットーショーは腕を組み、目を瞑って顔を上に向け、すぐに決意に満ちた顔をたたえた。
「アブソル君、そのかえんほうしゃ!私に打ち返せ」
「(!?)」
「(困惑)」
意味不明の指示に困惑するアブソルとボンズマンに、ザングースだけが瞠目した表情でイットーショーを見つめる。
「先生!さっきのかえんほうしゃは私に新技を使わせるために打ったんでしょう!避けてしまってすみません!」
「なるほどな……」
イットーショーの
「フ、今のは先生に失礼でしたな。もう先生は悪くない、とは言いますまい!でもね先生、正義が勝つのは、悪意から善意を守るためなんです!先生が今、誤って出力してしまった善意を私が正義にするんです!」
「(……!)」
「さあこい!」
アブソルが、珍しくボンズマンの指示を待った。ボンズマンはニヤリと笑った。アブソルも笑った。
アブソルのミラーコートが解除され、滞留していたかえんほうしゃがイットーショーに襲いかかる!それを正面から
「これが先生から教わった第三のわざ! かえんぐるま! くらえ悪党ぉぉぉ!」
「うわあああああ!」
「やばい死人が出る!」
こっそり逃げ出そうとしていた悪党のボスが恐怖の叫びを上げる。高みの見物をしていたボンズマンもこれにはたまらず駆け出した。理念が正しくてもイットーショーがやると普通に加減を間違える。普通の人間はかえんほうしゃに当たると死ぬと言うことをアイツはイマイチわかっていない!
賞金首の罪状がカスみたいに思えるレベルの罪を変態が普通に犯そうとしているのは彼にとっては別にどうでもいいが、おたずねものは死ぬと理不尽なことにお金に変わらない。というか見てただけのボンズマンたちも何らかの罪の問われかねない。ボンズマンは彼らの間に割り込み、おたずねものを守るため、アブソルに珍しく指示を出した。その様子を見て、先生も小さく笑って、涙を振り切りまた走り出す。
赤い夕焼けが山を染める頃、色々あって倒壊した建物の前で、イットーショーがボンズマンに向かって手を差し出していた。
「今日はありがとうボンズマン! 君と私の正義を讃えて!」
「おう」
ボンズマンはその手首を掴んで、アブソルの前に持ってってやる。アブソルはまるでヒーローショーの握手会に来たみたいに目を輝かせて「お手」をそこにしたが、イットーショーはその前足を強く掴んで人間にするように縦に大きく振った。
「では私は先生と一緒に帰ろう! ここで解散でいいだろ?」
「おたずねものを倒しといて現地解散ってお前しかしねえよ」
というか人の街に帰れ、なにサラッと山に帰ろうとしてるんだよ。ボンズマンの指摘に、イットーショーがうなづく。
「ご指摘もっとも! しかし、今回はボンズマンに助けられたことで彼らを捕縛できたところが大きい!」
「それはそうだ。主にデッドをアライブにしたってところ、もっと褒めてくれていいぜ」
視界の端でまとめて縛られた犯罪者集団が雁首揃えてうなづく「よし」。
「そう! 私はここまで、わざの真髄はそのいりょくにあると思っていたが、これを機に威力の低いわざを覚えようと思い立ったのだ! そのために先生のお宅へお邪魔しようと」
「(拒否)」
「勿論先生にご迷惑はおかけしません! よろしくお願いします!」
「(絶望)」
先生は人間でもなかなか見ないくらい絶望した表情で下を向いた。彼女の精神もはやノイローゼギリギリだ。ボンズマンはそれを見かねて、テンガロンハットのつばをつまんでからイットーショーの手を握った。
「おお、ボンズマンが握手を!?」
「今日のところは街へ帰れ、お前、警察署の受付を心配させすぎって訳」
「むう……」
イットーショーはその言葉に気まずい表情をし、先生に指示を仰ぐようにあちらを見た。
先生はあくまで高揚に首を縦に振っただけだが、流石のイットーショーも今回は彼女の言わんとしたことを理解したらしい。
「仕方ない……帰ろうじゃないか!」
「よーしよしそれでいい、じゃあ行くぞ」
「先生また会いましょう!」
「子供じゃないんだから夕陽に向かって走り出すのはやめろ! ていうか道に沿って行け人間なんだから! 頭ん中に包囲磁石でも入ってんのか!?」
「(尊敬)」
「アブソルお前イットーショーに甘くねえ!?」
即断即決、イットーショーが町に向かって直線距離で走り出したのにボンズマンたちが追い縋る。ボンズマンが後ろを振り返ると、先生がペコペコと低姿勢にこちらにお辞儀をするのが見え、ボンズマンはいいってことよ、と二本指でジェスチャーを飛ばし、イットーショーのマネをして大声で笑った。
法外トレーナーのポケモン列伝
名前:ザングースのイットーショー
ニックネーム:バカ
どうぐ:代えのパンツ
とくせい:てんねん
せいかく:ようき
説明:ザングースに弟子入りした人間(暫定)。自らの強すぎる力を恐れ、山にこもっていたところをザングースに発見され世話を受けていた。ザングースは彼をこのまま人間の街に放出したら街が消えるのではないかという責任感から彼にポケモンのわざ『みねうち』を教え、その深い感謝からイットーショーに先生と呼ばれるようになった。