「ということで、加入してくれた白宮ハトバさんです」
「大手を振るって歓迎なさい!」
「トントン拍子で増えていきましたね……」
この、来て早々椅子に腰掛けて脚を組んでいる子こそ白宮ハトバさん。僕とヒカリと同じ一年生とのことだ。
「偉そうなガキなのです」
「ガっ……、失礼ね! レディに向かってその口の利き方はなんなの!?」
「財力って面で見れば私の方がレディなのです」
「こーら、マウント取らない」
三人の押し問答を見守りつつ、ふとヒカリの方を見てみると、少し様子がおかしいことに気が付いた。
「ヒカリ、どうかした?」
「あっ、いえ。なんでもありません……」
ヒカリがそっぽ向いてしまった。やっぱり何かおかしい、すごく気になる。
「ところでひとつ聞いていいかしら、ここの部長って誰?」
「………………」
「………………」
「………………」
沈黙が訪れる。
そういえば決めてなかったな……。
「……普通に考えて年長とか?」
僕が探るように口にすると、二年の先輩方はお互い顔を見合わせた。一言も発していないからわからないけど、なんとなく責任を押し付け合っていることはわかる。
「わ、私はナンバーツーの立場にいるのに憧れてるので! それにどっちかというと後輩キャラだからそういうの向いてないと思うのです……」
「私もどちらかと言えばリーダーとかはあんまり……」
「わたしは生後半年くらい。一番年下」
さらっととんでもない情報が舞い込んできたが、そもそもフィギュアが動いて喋ってる時点でファンタジーもいいところなので無視する。
「…………、でも一年が部長というのは不自然よね」
「三年生が加入すれば良かったんですけど生憎……まぁいいんじゃないですかね?」
「ふーん。じゃあ、私が部長を名乗ってもいいということかしら」
思わず立ち上がる。
正直、部の危機を救ってくれたことには感謝してるけど、考えてみれば突然現れて加入して、なんやかんやリーダーの座まで手に入れようとしてるやばいやつだ。僕の関与抜きに勝手に決められるのは癇に障る。
「あら、最初に
「セオリーに従ったけど頼りないみたいだから」
「うぐっ!」
「あがっ!」
二人ほどダメージが入った声がしたが無視。
「僕が言い出したからには、ここは僕の部だ。乗っ取られるのはちょっと嫌かな」
「随分と威勢がいいのね。いいわ、だったらここは勝負と行こうじゃない」
「いいよ」
お互い顔を睨んで、バチバチに火花を散らす。勝負だったらつい昨日勝っている。望むところだ。
「三月さん、そんなにこだわる必要はないのでは……」
「こだわるよ、こういう集まりは初めてだし。それに、会って数分のこの子の人となりを知りたいのもある」
「”この子”って言わないでくれるかしら」
しまった、火に油を注いだ。
「で、勝負ってなにするの? 基礎力診断テスト?」
「そんなものじゃないわ。ビルダーなら当然、GBNよ」
「ッ…………」
やっぱりか。
大方予想できることだけど、ヒカリの肩が少し揺れたのは気になる。そういえば、ヒカリってGBNやってないのかな?
「わかった。いいよ」
「じゃあ決まりね。早速ダイバーギアを持って──」
「ちょーっと待ったー!」
さっきまで沈黙していた紅月さんが突然白宮さんに待ったをかけた。一体どうしたのか。
「決闘、といえばアレでしょ!」
「アレ?」
「あぁアレね、いいわよ別に。選手宣誓のようなものだし」
待って、アレって何? さっぱりなんだけど。
「ひ、ヒカリ、アレって?」
「さぁ、よくわかりません……」
「二人とも」
「わあぁっ!?」
いつからいたの先生!? いやさっきからずっといたけど! あまりにも静かだったから全然わからなかった!
「いいかい? オタクってのはね、悪ノリする生き物なんだよ」
「……はい?」
「じゃあ二人とも、ここに立って顔見合わせるのです!」
という言葉と共に小南さんに捕まり、そのままズルズルと白宮さんの目の前にまで移動させられる。
改めて見ても小さいなこの子、百五十センチくらいかな?
「えーコホン。これより、三月トウカと白宮ハトバによる、決闘を執り行う」
「え、え?」
「双方、魂の代償をリーブラに」
なんかいきなり儀式的なことが始まってしまった。え、何これ? 本当に何これ?
助けを求めようとヒカリの方を向くと、「あー、これか」と言って何か納得している様子。わかったんだったら助けて。
「三月トウカ、この決闘に何を賭ける?」
「え? えっと、ガンプラ部の部長の座」
「はい、白宮ハトバ、この決闘に何を賭ける?」
「同じく、ガンプラ部部長の座よ」
「
さっきまでの紅月さんの雰囲気からは想像できない厳格な声が響く。なんか若干嬉しそうだけど。
かくして、僕はわけのわからない状況のまま、自分でもアホらしいと思うプライドをかけて決闘することになったのだ。
「ふおおおー!!! 一回言ってみたかったんだよこれー!!!!」
雰囲気台無しだよ。
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GBN内でも特に人が密集しているここは、セントラル・ディメンション。
プレイヤー……またの名をダイバーがログインする際最初に出現するのがこのエリア。なのでダイバー同士の合流地点に使われたり、そこら辺の初心者狩りダイバーが日々美味そうなカモを狙っていたりもする。はぁ、治安が良いんだか悪いんだか。
ここで僕が待っているのは、ガンプラ部のメンバーだ。顧問と先輩方、白宮さんは家からログインするらしく、あのまま解散した。それで先にいい感じの場所を探し回っているらしい。あ、座標来た。
まぁあの人たちはいいとして、問題はヒカリだ。どうやら、ヒカリはGBNをやっていなかったらしい。
『GPDにこだわってたのはそれが理由?』
『まぁ、そうなりますね。GBNは昔ログインしたんですけど、なんだか肌に合わなくてパッタリやめてしまったんです』
『へぇ〜……』
という会話を繰り広げたが、正直疑わしい話だ。GPDは十年ぐらい前に終わったコンテンツだし、ガンプラバトルを始められるのは対象年齢も加味すれば早くて十歳程度。つまり、GBNのブームも落ち着いた頃に逆張りでGPDをやろうなどとは思えない。
それに、すぐやめたにしてはガンプラバトルが強すぎる。なにか絶対隠してるはずだ。
「ツバキ、さん?」
「え?」
考え事にふけっていたら、突然話しかけられたので顔を上げる。寸分の狂いもない黒の長髪、赤と白の巫女服に似た侍装束、透き通るような綺麗な瞳、控えめで息の籠った声。
少し違うけど間違いない、ヒカリだ。
「……ヒカ、じゃなくて、えっと……」
「あぁ、アマツです。……合ってるっぽくて安心しました」
「うん、僕も。ひと目でわかる見た目で良かった」
リアルのヒカリはショートボブで右目が隠れるくらい前髪が長い。けど、こっちのアマツは腰まで髪が伸びていて両目が見えるよう髪が整えられている。
立ち上がってヒカリを見ると、目線に違和感があることに気付く。
「あれ、身長僕の方が高かったような……」
「…………もうちょっと、ある方がいいかなと……」
「ふーん、ヒカリってやっぱり可愛いね」
「ぅぇえっ!?」
こういうところは変わらないらしくて、ホッとした。
二人で転々とエリア移動しながら、先輩方から送られた座標まで向かう。座標はエリアのワープポイントみたいなところからさほど遠くはなかったので、辿り着くのに苦労は無かった。
それで着いたのが、曇り空と無機質な岩石が埋め尽くされたエリア、『第十六戦術区域』。アマツ曰く水星の魔女というシリーズに登場するフィールドを再現したものらしいが、全くもってわからない。
「来ましたー」
「あれ、二人とも遅かったのです」
「私のキャラメイクがあったので、遅れてすいません」
「全然、大丈夫なのです」
そこにいたのは黒髪にワンピース風の衣装、謎の猫耳がついた少女と小豆色の髪をまとめたポニーテールの女性。前者が小南さんで後者が紅月さんだというのは一発でわかった。そして一歩引いたところで岩石を観察しているのがビリーヴさんだろう。フィギュアの姿そっくりだ。
アマツの言葉に、紅月さんの髪が揺れたのが気になった。
「で、白宮さ……じゃなくて、僕の対戦相手はどこに……」
「ここよ」
リアルで聞いたよりも少し低い声が聞こえた。声の方に振り向くと、そこにはド派手な紫のドレスを来たやたらと胸と身長が大きい女性がいた。
「わ、わー……」
「レシアよ。こっちでもよろしく頼むわ」
「…………やっぱり身長コンプレックスだったんだ」
「失礼ね!!」
「あいたっ!」
持っていた扇子で頭を叩かれた。痛いと言ったが、大して痛くはない。GBNは五感がほとんど再現されてはいるが、流石に痛覚はないみたいだ。
「はい、じゃれてないでさっさと機体持ってくるのでーす」
「言われなくてもわかってるわ」
「はいはい」
GBNでは遠隔での操作によって機体を自動で運ぶことができる。最近のアップデートで追加された機能のようで、SNS上では賞賛の声が上がっていた。
「アマツちゃんも、この戦いで色々学ぶのですよ!」
「あっはい」
「お、コネコ、先輩風吹かしてるね」
「今までずっと新参者だったので!」
「ははは……」
アマツが新人の扱いを受けている。実際は僕をボコボコにできるくらい強いのに、本人ではないけど不服だ。アマツ自身も愛想笑いをしているので複雑な心境だろう。
「……なんか、今日の先生影薄くないですか? いつもはやかましいぐらいなのに、会話にもあまり挟まらないし」
「言うなぁ。あたしは女の子同士の会話に水を差すようなことはしないのです。これ、百合オタの鉄則ね!」
「はぁ」
百合…………ユリの花? いや、この場合GLの意味になるのか。やっぱりそうなんだな……。
なんて会話をしていると、呼び出しておいたロゼア(作りかけ)が飛び出てきた。脚は未塗装、腕とバックパックは出来上がってるけど本調子じゃないから、正直コンディションは悪い。けれど、それでもやってやる。
早速ロゼアに乗り込んで、息を整える。遠くにはレシアさんのであろう、紫のガンプラが佇んでいる。
「よし、二人とも準備オッケー?」
「うん」
「勿論よ」
「じゃ、改めて……。これより、ツバキとレシアによる決闘を執り行う」
「もうこのスタンスで行くんですね……」
「当然! ……形式は一対一の個人戦、場所は第十六戦術区域。勝利条件は、先に乗機のブレードアンテナを折った者とする」
倒すんじゃなくて、アンテナを折る……? ガンダムって悲惨な戦争モノって聞いてるけど、にしてはかなり優しめな気がする。
「聞こえますか、ツバキさん」
「ヒカ……じゃなかった、アマツ?」
「もう変える気ないらしくて、この後決闘の口上を言うはずなので構えておいてください」
「口上? え、そんなのいるの?」
「え、まさか知らないんですか?」
「ごめん……」
「……わかりました、私に合わせてください」
「わかった。頼りになるね」
「は、はい……」
なんだかよくわからないが、とりあえずアマツが助けてくれるらしい。なんだか何も知らないままオタクの内輪ノリに巻き込まれていたからとてもありがたい。
「立会人はフォース『ビルドリバイバル』のレイメイと……」
「同じく、ビリーヴがつとめるよ!」
「両者、向顔!」
アマツとは別に、レシアの顔が写ったウィンドウが目の前に表示される。
「勝敗は、モビルスーツの性能のみで決まらず」
「えっと……」
「パイロットの技のみで決まらず……です」
「で、です!」
「はぁ……、ただ──」
「「「結果のみが真実!」」」
「フィックスリリース!!」
白宮ハトバ/レシア
上質な言葉遣いと扇子が特徴の高校一年生。身長149cm。
「一人前のレディ」になるための努力は惜しまず、ガンプラについても真摯に向き合っている。
身長のことを弄られるとキレる。