ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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計画①:インプット

 ガンプラ部の活動がついにスタートした。

 

 限られた予算の中でガンプラを入手し、テーマを元にジオラマを制作していく。最初に定められたテーマは…………。

 

「ベストバウト……ですか」

「うん。みんなガンプラを作ってるってことは、それだけ好きなシーンがあるってことだからね」

「うう、好きなシーン多すぎて選べないのです!」

 

 ベストバウト……やっぱり出てくるのはSEEDの舞い降りた剣や、OOのトランザム、鉄血のハシュマル戦などだろうか。どれも好きなシーンばかりだから作るものが定まらない。

 

「私はやっぱあれかなぁ、第一期のロックオンの……」

「スローネツヴァイとの一騎打ちだね」

「うん」

「これまた屈指のベストバウト拾ってきたのです……。やはり、ここは『SEED』最終回のVSプロヴィデンスを!」

「私は『08小隊』のグフ・カスタムのシーンにしようかしら。ところで、部長は何を作るの?」

「え?」

「改造機のベースに選ぶくらいなのだから、やはり『0083』がお好きなんでしょうけど……」

 

 白宮さんが問いかけると、三月さんのヤスリがけしている手が止まる。

 

 あぁ、やっぱり…………。

 

「だぶるおー、えいてぃー…………、なんか、説明書に乗ってたようなないような……」

「まさか、知らない……?」

「……………………さっぱり」

 

 その答えが帰ってきた瞬間、その場の時間が一瞬止まった。

 

 そう、三月さんはガンダムについて全く知らないのである。

 

「それであの完成度……? 嘘だわ、嘘に決まってるわ……!」

「いや、ホントに知らなくて。機体はデザインが元々良かったから、イメージを崩さず控えめにアレンジする方向にしたんだよ」

「まぁまぁ、最近はガンプラ作ってるけどガンダム全然知らないみたいな人も多いから。シリーズ多いし追い切れないよ」

 

 紅月先輩の言う通り、ガンダムにはとてつもない数のアニメシリーズが存在する。漫画や小説、アドバンスドオブZのような雑誌企画なども合わせれば途方がないから、ガンプラは作っているがその作品についての知識はない人も多い。

 

「でも、部長がガンダム知らないってどうなのってところはあるよね」

「確かに……」

 

 ビリーヴさんの指摘はごもっともだった。

 

「フッフッフ、ではガンダム知識を三月ちゃんの脳にインストールするしかないのです!」

「うおおっ!?」

 

 突然小南先輩が立ち上がり、タブレットを取り出してそう宣言した。

 

「ときに三月ちゃん、キミにとってのガンダムってなんなのです?」

「え? えっと、リアルな作風で、巨大なロボットに乗って戦う戦争モノ……とか」

「ふむふむ、七十五パーセント正解なのです」

「結構いい線いってる……」

 

 いや、私はそれで正解だと思うけど……。それに七十五パーセントって、なんでそんな微妙な区切りにしたんだろうか。

 

「リアルな作風の戦争モノであるけど、モビルスーツはロボットじゃなくてマシーンなのです!」

「誤差じゃない!?」

「その訂正で二十五パー使うんですか!?」

「重要なのです。ここ、間違えると色んな人に叩かれるのですよ!」

「ネットこわ……」

 

 確かにそこにこだわってる人はいるけども! ロボットアニメの括りだから別にロボットで良いんじゃない!?

 

「というわけで、見れば怖くない三部作! 初代機動戦士ガンダム、劇場総集編なのです!」

「繋がりどこにあるんですか……」

 

 タブレットを手渡された三月さんは、表示されているガンダムの作品を見つめる。指でフリックしながら、作品の公開日時が書かれたところに目を向ける。

 

「これ、四十年以上前の作品じゃん……。ガンダムってそんな歴史のある作品なんだ」

「ぐはぁっ!」

「ごへぇっ!」

 

 三月さんの発言の直後、突然紅月先輩と遅れて来た顧問の水無月先生が断末魔を上げて突然倒れた。

 

「え、なになになに!?」

「世代でもないのにこの人たちはなーにやってんのです……」

「委員会のときからは考えられない悪態の付き方ですね……」

 

 小南先輩は、学級委員会の集まりの中では突出してみんなをまとめ上げるリーダー的な存在であり、生徒会長に立候補すれば当選間違いなしとも言われている。が、ここガンプラ部では変な語尾を付けて趣味に盛り上がるただのオタク女子だし、毒も強い。一体どうなっているのだか。

 

 ……クリスマスのとき、あの戦場の中にいたのかな。

 

「ヒカリ」

「うわっ、な、なんですか三月さん」

 

 急に話しかけられたのでびっくりした。三月さん、本当に顔がいいから余計に驚いてしまう。

 

「ヒカリはなんかオススメの作品ってある? 見やすい長さで面白いやつ」

「え、えーっと、『鉄血のオルフェンズ』とかでしょうか……。二期は意見が分かれてますが、一期は不朽の名作と言って差し支えありませんよ」

「へぇー……。鉄血鉄血…………あ、八年前なんだ」

「へ……?」

 

 鉄血が、八年前…………!?

 

「がはっ……!」

「えちょ、ヒカリまで!?」

「三月ちゃーん、ガンダムにおけるリアル時間のお話は高確率で人を傷付けるのですよ?」

「それ先に言ってよ! しっかりしてヒカリー!」

 

 それから私は、ショックから立ち直るのに数分を要した。さっき倒れていた二人も然りである。

 

 閑話休題。

 

「貴女達、無駄にダメージ食らいすぎじゃないかしら……」

「昔のアニメ扱いされたのがショックで……」

「ジェネギャぁ……」

「まだ三年前って言っても許される……はず」

「はぁ、これは重症なのです」

 

 身体が張り裂けそうなくらいのショックだった。三月さんも自重してなのか大人しくなっているし。

 

「私としては、やっぱりおすすめは『0083』だと思うわ。やっぱり自分の乗っている機体が活躍するのを見た方が入門としてはいいでしょう?」

「それは確かに……」

「それに、あの作品はクオリティも高いし一作品で完結する劇場総集編もある。そもそもがガンダム初心者にうってつけなのよ」

「そっか……見るとしたら、やっぱりサブスク? それともレンタルかな」

「スタメモってサブスクかなり少ないイメージなのです」

「確かに。私はサブスクやってた内に一気見したけど」

「あたしはレンタルしたなぁ。友達から」

「それレンタルっていうかただ借りただけでは……」

「BluRayの方がいいかなーと」

 

 議論が続く。

 

 スターダストメモリー及びジオンの残光はサブスクでの配信が非常に少ない。元々OVAだから脚光を浴びづらく、それでいて作品の知名度自体もよくはない。素人目では通常のガンダムとゼフィランサスは間違い探しのようなものだ。私から見れば完全に別物だけど。

 

「とりあえず、僕が見るにはレンタル屋か人のを借りるしかないってことでいい?」

「まぁ、そうなるわね」

「で、誰か貸せるよって人いる? がめついようで悪いけど、タダで済むのに越したことはないから」

 

 紅月先輩とビリーヴさんが目を逸らす。持ってないなあれは。小南先輩は委員会のときと同じ笑顔をしている。ダメなやつらしい。

 

 うーん、ん? あれ、確か家にあったような…………。

 

「私、総集編の方のDVD持ってます。中古ですけど」

「ヒカリほんと!?」

「まぁもしかしたらないかもですが……」

「飯綱ちゃんでかした!」

 

 この人の役に立てるなら喜ばしいことだ。買ってて良かった、ありがとう昔の私。

 

「よしじゃあ、制作の期限は五月の末くらいで、水無月先生は細かいところよろしく!」

「あい任された!」

「僕はこれから、ヒカリの家でアニメ鑑賞ってことで!」

「………………え?」

 

 え?

 

────────────────────

 

「お邪魔しまーす」

 

 え!?

 

 状況を完全に理解する頃にはもう到着してしまっていた。どうやら私は、これから好きな人を家に上げるらしい。

 

 待て、落ち着け。冷静に考えておかしい。そうだこれは夢だ。お昼時って眠いからね。多分授業中にうっかり眠ってしまったんだ。そうだ、そうに違いない。違ったら私の色々が耐えられない。

 

 というか好きになって一週間も経ってないのにどんな状況だ。夢に決まってるだろこんなの、多分これからちょっと色々他人に見せられない状態になっていけないところに触れられそうになるところで先生に教科書で叩かれて目が覚めるんだ。頼むから下着を替えるような事態になってないことを祈りたい。

 

「ヒカリ?」

「えっあっはい!?」

「鍵は?」

「は、はい今開けます……」

 

 家の鍵を取り出して玄関を開ける。ドアを開けて中に入ると、私に続くように三月さんが私の家に上がり込んだ。やばいやばい……。

 

「あれ、靴全然無いけど、両親は? ヒカリって一人暮らし?」

「あ、いえ、両親は共働きで基本遅くに帰ってきます。中学の頃までは母がいたんですけどね」

「そうなんだ。僕はどっちも基本家にいるから新鮮だな」

 

 私の夢情報なので信憑性は皆無だ。ワンチャン現実だった場合は知らない。

 

「どう? ひとりって、寂しかったりする?」

「休日はどっちもいるので……。まぁでも、静かだな……と思うことはあります」

「……僕が一緒にいたげよっか?」

「ふぇっ!?」

「なんてね」

 

 はい夢確定。こんなの私の願望及び妄想以外でありえない。誰にでもこんなこと言ってるのか? おかしいですよカテジナさん。

 

「早く見よ。DVDどこ?」

「は、はいただいま……」

 

 リビングに来て早々ソファで寛いでいる三月さんのために、テレビの下の棚から『0083 ジオンの残光』のDVDを取り出す。プレーヤーにセットしてリモコンを操作すると、少ししてから再生の設定画面が表示された。

 

「やっぱりDVDだと荒くなっちゃうね」

「DVDは画質が荒いからこそのアナログな魅力があると思います。私はこういうグリッドのずれ、気に入ってますよ」

「ヒカリって、結構渋い趣味してるよね」

「……女の子らしくないですよね、すみません」

「ううん、ヒカリらしさが知れて嬉しい」

「ッ…………み、見ますよっ。テレビに集中してください!」

「りょーかい」

 

 夢の三月さんの言葉を吹っ切って、DVDを再生する。

 

 というか、これに意味はあるのだろうか。夢でこれを見ても三月さんには還元されない。あと、この夢なんか長くない?

 

「じ、じゃあ私、お茶持ってきます」

「うん。僕は見てるね」

 

 とりあえず離脱。冷蔵庫から麦茶を取り出して、2つのコップに注ぐ。三回深呼吸してからコップを持って歩き出すと、突然左足に強い衝撃が走った。

 

「いったぁ!!」

「ヒカリ!?」

 

 三月さんが再生を止めて駆け寄ってくる。なんとか麦茶は死守したけど、めちゃくちゃ痛い。角に足ぶつけるのは本当に痛いのに少し油断するとすぐやってしまう。

 

 ……あれ、え? 夢なのに痛い? それってどういう……。

 

「ヒカリ、大丈夫?」

 

 ……………………あれ?

 

「夢じゃ、ない……?」

「ヒカリ何言ってるの?」

 

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