ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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計画②:思案

 ガンダム、意外と面白い。

 

 いや、意外とか言っちゃいけない。普通にかなり面白いぞ、これ。映像技術も昔のアニメとは思えないし、デンドロビウムの描き込みなんて一体何人のアニメーターを死の淵へ追いやったか恐怖してしまうぐらいだ。それにストーリーも、短い尺の中で綺麗にまとまっている。気になるのはヒロインのニナが結構鼻につく程度。

 

 締まらないラストではあるけど、これは初代ガンダムとその続編であるガンダムZの間のスピンオフらしいからこれでいいのだろう。となると、これに繋がる他二作品も見たくなる。教えてくれたハトバと、見せてくれたヒカリには感謝しなければならない。

 

「あー面白かった……。デンドロビウムってガンプラあるのかな。大変だろうなー、でも作ってみたいかも。…………ヒカリ?」

「はっ! あ、えと、面白かったですか?」

「最初に言ったよ。面白かった」

「な、ならよかったです……」

 

 さっきから放心状態のヒカリが気になる。ヒカリの反応は面白いけど、必死だから少し申し訳ないと感じることがある。僕は配慮ができていないかもしれない。

 

「そういえば三月さん、ベストバウトをジオラマで作ると言っても、ガンダムのこと何も知らないのに何作るつもりだったんですか?」

「うっ、的確な指摘だ……。まぁあるにはあるよ。僕がガンプラを作り始めたきっかけのやつ。アニメとかじゃないんだけど……」

 

 スマホを取り出して、保存フォルダから画像をひとつ表示させる。

 

 GBNのログに残されていた記録のひとつ。第四次有志連合戦の、終戦を表す一枚の写真を、ヒカリに見せる。

 

「ッ…………!!」

「これ。すごい絵になるなって思って…………。あれ、ヒカリ?」

 

 ヒカリの方に視線を向けると、小さく口を開けて、目が見開いていた。それは明らかに普通ではない反応の仕方で、最悪の場合トラウマなものへの反応にさえ感じる。

 

「……大丈夫?」

 

 返答が返ってこない。

 

 もしこれが、ヒカリにとってトラウマ級の何かだったとすれば、だとしたら、それは…………。

 

 スマホを置いて、ヒカリの背中にそっと腕を回す。

 

「ふぇっ!? あっ、えっ」

「…………ヒカリ、本当に大丈夫?」

 

 優しく、抱き締める力を強くする。

 

「ごめんね。ヒカリ、あれに嫌な思い出持ってるんだよね」

「………………ま、まぁ」

「何も知らないのに軽率に見せちゃって、ごめん」

「いえ、三月さんが謝ることじゃないです。あれは…………」

 

 ヒカリの手も力が強くなる。言葉が途切れたということは、そこから先は言いたくないんだろう。

 

「いい、言わなくて。ヒカリの言いたいことはわかるよ」

「…………幻滅しないんですね」

「なんで? むしろ、僕が自分に幻滅したかな」

 

 初めての友達に、こんな思いさせて。僕はなんて最低でデリカシーのないやつなんだって思うばかりだ。

 

「三月さんは、優しいですね。お母さん以外にこんなことされるの、初めてです」

「ヒカリって、自分では隠してるつもりっぽいけど、沢山の悩みを抱えてる気がするんだ。生きづらいんじゃないかって……だから僕は、そんなヒカリの助けになりたい」

 

 ガンプラバトルないし、GBNをやめた理由、紅月さんと話そうとしないこと、僕に対して思ってること、思いつく限りではこれぐらいだろうか。幾つか検討はついている。けれど、僕がそれをハッキリ言ってしまえば、最悪今回みたいにヒカリを傷付けかねない。だから、言わない。

 

「ヒカリがどんな人間でも、僕はヒカリの味方で居続けるよ」

「…………ありがとうございます。三月さん」

 

 ヒカリの方から離れて、僕は回していた腕を解いてから時計を見る。もう五時前だった。

 

「じゃ、僕はそろそろ帰るね」

「送りましょうか?」

「平気。道は覚えたから」

「そうですか。では、また明日」

「ヒカリがいいなら泊まってもいいけどね」

「だっ、大丈夫です!」

 

 少し残念だった。友達とお泊まりっていうのはやってみたかったんだけどな。

 

 そう思いながら自宅へと足を進める。ヒカリの家からは少し離れているけど、徒歩で行けない距離でもないし、道は覚えたからこれからいつでも遊びに行ける。

 

「……ヒカリ」

 

 僕はヒカリのことを何も知らない。ガンプラバトルが強い、ガンダムの知識も豊富、けれどGBNは肌に合わなかったらしくて、勉強は結構できる方。…………あれ、意外と知ってる。

 

 目が綺麗な女の子だ。隠してるのが勿体ないくらい。けれどあんな瞳に見つめられてしまえば誰だって落ちてしまいそうだから、隠してもらった方が丁度いいのかもしれない。

 

 にしたって、今でも少し疑心暗鬼になる。あの子が僕に惚れているなんて。

 

 あの子のことを思って気付かないフリをしているけれど、あそこまであからさまな反応をしているのに気付かないわけがない。僕はライトノベルの主人公ほど鈍感じゃないからだ。

 

 僕は自分を人に褒められるほど良い人間だとは思っていない。ただ愚直に絵にだけ向き合って、突き進んで、砕け散った脆い石。破片と化した今の僕でも何かができるかもしれないと、ガンプラを作るようになった。その結果、こんな僕に輝きを見出してくれる人が現れた。それはとても嬉しいことだ。好かれたくない人間なんていない。アセクシャルの人だって、好感度は高くあって欲しいはずだ。

 

 でも、気がかりがひとつだけ。僕自身が、ヒカリへの想いをはっきりとさせられていないこと。

 

 僕は中学時代、男女問わず何度か告白されたことがあった。

 

「あなたのことが好きです」とか、「一生かけて幸せにします」とか、「付き合ってください」とか、中学時代の僕にはさっぱりなことだった。人より絵、そんな薄情な人間だった僕にはそんな刹那的な感情は切り捨てるべきだと思っていた。今でもそうではないのかと、時々思うことがある。

 

 だから高校に入ってからは、できるだけ人に関わりを持とうとしている。自己紹介ではつまずいたけど、今は特定のグループには属さないままクラスではそこそこ頼られるくらいの地位にいるから結果オーライだ。その中でもヒカリは特別。僕にとって初めて同じ話題で盛り上がれる女の子で、初めての友達で、初めてお付き合いしてもいいかもと思った人間だ。

 

 けれど、特別だからこそ思う。そんな宙ぶらりんな心持ちでヒカリと付き合って、彼女を傷付けてしまわないか不安でならない。女の子同士だからとか、そういうことじゃない。

 

「ただいま」

「お、トウカおかえり」

 

 玄関を開けると、出迎えてくれたのはパパだった。エプロンをしているから、今日の晩ご飯担当はパパみたいだ。ママはアトリエかな。

 

「今日は遅かったな」

「友達の家に行ってた。一緒に映画鑑賞会」

「へぇ! それはいいな。トウカ、今まで友達付き合いとかしてこなかったもんな」

「うん。今度、機会が会ったら家に上げてもいい?」

「もちろん! 親子三人じゃ持て余すくらい広い家だし、全然いいぞ」

 

 親の許可ももらったことだし、今度ヒカリを誘おう。どんな反応をするのか楽しみだ。驚くのか、嬉しがるのか、それとも色々考え込んでショートしてしまうか。もしそうだった場合はなんだか可愛い気がする。

 

 ただ、ヒカリが思ったより度胸のある子だったらその時、僕はそれ相応の覚悟が必要かもしれない。

 

「…………ないか」

「なんか言ったか?」

「なんでもない」

 

 今、その答えを出すには、僕は僕を知らなすぎる。

 

────────────────────

 

 晩ご飯とお風呂を済ませた後、僕はベッドでゴロゴロしながらスマホで調べ物をしていた。

 

「デンドロたか……」

 

 というかデカ……。

 

 『GP-03デンドロビウム』、ステイメンというガンダムをコアユニットとした戦略兵器クラスの超大型の機体。デンドロビウムの花言葉は『わがままな姫』であり、まさにそれを体現するかのようなボリュームを持っている。問題はそのサイズ。どうやらビームサーベルを兼ねる超大型ビーム砲を含めれば全長約一メートルらしく、これを出そうと思ったやつはきっととんでもない大馬鹿者だろうと考えるほどのビッグサイズだ。そのせいかユーザー内では一部カルト的な人気を持っているらしい。つくづくおかしな世界に来たものだよ僕は。

 

「いいシーンだったけどなぁ……」

 

 僕がジオラマで再現しようと思ったのはVSシーマ・ガラハウのシーン。尺の都合とはいえ敵の大ボスがあの巨体の突撃によって呆気なく散るのは、戦争の無情さを表していて印象に残っていた。けれど、肝心のガンプラがこのサイズ、この値段となれば、泣く泣く没にせざるを得ない。砲身だけ作ろうにも今の僕にはそれだけの実力は持ち合わせていないし、諦めるしかないか。

 

「……ヒカリは何作るんだろ」

 

 聞いてみるか。

 

 早速スマホからメッセージを送り、何を作るか尋ねる。少し間を置いてから、画像と共に返信が来た。

 

『ナラティブガンダムのこのシーンです』

 

 送られてきた画像には金色の機体と白色の機体が対峙しているシーンが映されており、一方は様子からしてかなりの重装備。とはいえ、デンドロビウムと比べるとサイズは圧倒的に小さいだろう。

 

『どういう作品?』

『ジオラマですか?それとも本編の方?』

『本編の方』

『少女の魂を宿す金色の機体フェネクスを追う物語です。ガンダムUCという作品から地続きなのですが、見なくても充分楽しめますよ』

『今度見せて』

 

 ヒカリとのチャットが埋まっていく。リアル寄りなのに魂を宿すなんてスピリチュアルな設定があるのは、少し不思議だから見てみたい。そして、できれば前作らしいガンダムUCとやらも見たい。

 

『いいですけど私の家でですか?』

『違う。今度は僕の家』

『え』

『うち広いからヒカリが来ても大丈夫だよ』

『そういう問題じやまないです』

『どういう問題?』

『いえません』

 

 焦ってる焦ってる。誤字ってるし漢字変換忘れてる。ヒカリって本当に反応かわいいなぁ。本人には申し訳ないけど、ついいじめたくなってしまう。

 

「あいたっ」

 

 なんて楽しんでいたら、スマホを落として額に直撃させてしまった。あんまり人で遊ぶとバチが当たるらしい。次からは加減を知っておいた方がいいかもしれない。

 

『じゃあ機会があればってことで』

『わかりました』

 

 スマホをスリープモードにして、天井を見つめる。この家は僕の妊娠祝いで建った新築らしく目立ったシミは無い。が、それから十七年は経過しているから無いわけじゃない。

 

 そういえば、最近はあまり絵を描かなくなったな。そもそも不合格の通知が来てからあんまりアイディアもモチベーションも湧かなかったから、ロゼアを作るとき以来キャンパスと向き合ってはいなかった。また描いてみようか。

 

「…………でもなぁ」

 

 不合格という言葉は残酷な刃物のようだ。僕の身体の中に入り込んで、事ある毎に悪さをする。

 

 でも、今は違うかもしれない。考えてみれば、あれから三ヶ月も経っているじゃないか。ガンプラにGBN、様々な経験を得たニュー三月トウカならとんでもない傑作を生み出せるかもしれない!

 

「よし!」

 

 画材とキャンパスを用意して、椅子に座る。よし、まずはテーマから……!

 

 

 

 一時間経過。

 

 アイディア、なし。

 

「なぜ…………」

 

 まったくインスピレーションが出てこない。どうしよう、このままじゃ僕は挫折したまま一生絵が描けなくなってしまう。それは流石に嫌だ。人生十五年そのほとんどを絵に費やしてきた僕がこんなことで経験を無駄にするなんてことはできない。

 

「はぁ…………」

 

 でも、どうしたものか。描かなきゃ経験が無駄になる。かといってそもそも描くことすら今はできない。うんうん唸っているうちに、僕はいつの間にかスマホを弄り始めていた。

 

 ガンダムに関すること、絵に関すること、色々調べて回っていると、ある画像が目に止まった。このシーンは、さっきヒカリの家で見たゼフィランサスの初陣のシーンだ。主人公のコウ・ウラキは敵に強奪されたガンダム試作二号機サイサリスを取り戻すため、同じく試作一号機ゼフィランサスに乗って追撃する。しかし実戦経験が全くない彼はベテランの敵によって追い詰められ、その上何故か説教までされる始末。そんな初々しい主人公のぎこちないサーベルを構えるシーン。

 

 これだ。

 

 僕はなんとなくそう感じ取った。キャンパスを横にして、筆に絵の具をつけて滑らせる。端から端へ、絵の具を伸ばしてはつけて、伸ばす。コントラストや構図を考えながら、画像を見て慎重かつ大胆に塗っていく。

 

「…………この辺りに、だから……」

 

 キャンパスの中に描かれた風景には、肝心の主役が存在しない。パッと見夜の工場を描いただけの面白味のない絵だ。でも、今はそれでいい。

 

 主役はこれから、ビルドする。

 

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