ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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計画③:過去

 波乱万丈だった四月が終わり、新生活への慣れが堕落を生み出す五月が始まった。僕たちは引き続きジオラマの制作を行いながら、GBNで集まってはミッションをこなす毎日を続けている。

 

「それにしたって驚いたわ、アマツはともかくツバキが初心者ミッションをやっていなかっただなんて」

「それは私も思いました」

「ログインしてすぐ連れてかれて特訓開始だったからなぁ…………」

 

 今思い出してみてもあまりにもスパルタじみた特訓だった。もう二度とやりたくないけど、あれのおかげで僕は様々なミッションを楽にこなすことができている。それだけは感謝したい。それだけね。

 

「随分短気な師匠を持ったのね……。一体どういう人なのかしら」

「えーっと、アノマロカリスって人」

「えっ──」

「はぁっ!?」

 

 アマツが静かに、レシアが大きく驚いた。こういうところにキャラの違いを感じる。

 

「あ、アノマロカリスって、あの個人ランク十六位の!?」

「え、あの人そうなの!?」

「稲妻の如く現れては数々のハイランカーをPKで叩きのめし、今や知らぬものはいない程の超凄腕ダイバーよ! まさかそんな人にバトルを教えられていただなんて……」

「へ、へぇ〜…………」

 

 あの人そんなすごい人だったんだ!?

 

 確かにおかしい強さをしてたと思うけど、GBN上位だとは思わなかった。ということはあれってかなり手加減してたってこと…………? あれで…………?

 

「……ど、通りで強いわけですね。GBNを始めて最初に戦ったのがアノマロカリスなら、私やレシアさんに勝利したのも頷けます」

「まぁ強くなったんだろうけどさ……、あの人絶対脳筋だよね。僕との特訓内容もひたすらタイマンだったし」

「それは特訓って言えるのかしら……。まぁあの人らしいと言えばそうなのかもしれないわね」

 

 アノマロカリスさんが一体この世界でどういう評価を下されているのかは少し気になるところだけど、そろそろ帰らないといけない。多分二人とも同じだろうから今日はここで解散にした。

 

「アマツ、ちょっといいかしら」

「は、はい」

 

 と言いつつ、ちょっとだけ二人の会話を盗み聞いてみる。レシアは結構鋭い人間だから、アマツが秘密にしていることにも気付くかも。

 

「一応聞きたいのだけど、クロスレイは機動力に特化した調整をしてあるのよね?」

「まぁ、ジーラインのような感じですが」

「それにしてはパワー任せの動きをしていたわ。それでシナンジュ・スタインに押し負けて、私達がカバーする羽目になった」

「そ、それは……その」

「貴女、本当はパワー系の機体の方が──」

「違いますっ!!」

「ッ…………」

 

 アマツがレシアの言葉を強く遮った。それはまるで隠し事がバレてしまったかのような勢いで、レシアの言葉が図星だということがわかる。

 

「あっ……、……あくまでもクロスレイは、換装のための汎用的な改造を施した機体です。今回は白虎だけだったので、機動力の方が高めに思えただけですよ」

「そう…………。なら、いいけど」

「……すみません、大きな声出してしまって。もう行きますね」

「え、ええ」

 

 アマツがログアウトのボタンを押し、その身体が粒子となって消滅した。僕はタイミングを見計らってから、レシアの方に近付く。

 

「アマツ、やっぱり何か隠してるっぽいね」

「ええ、けれど乙女には隠しごとのひとつやふたつあるものよ。でも……」

「………………」

 

 レシアの言葉が詰まる。彼女は配慮ができる人間だ。本人のいないところでこういう話はしたくないのだろう。

 

「……本人が明かしてくれるまで、待ってあげたら?」

「そうね。それがレディとしてあるべき姿よね」

 

 ひとまずはそれで。

 

 話に決着をつけてから、僕たちはログアウトした。

 

────────────────────

 

『ちょっと話したいことがあるんだけど電話していいかな?』

 

 ナラティブガンダムの筋彫りをしていると、紅月先輩からメッセージが届いた。『大丈夫です』と送ると、程なくして電話が鳴った。

 

『もしもし、進捗どう?』

「普通です。今筋彫りしてて」

『なるほどなるほど、私はミカエリスの調整に苦戦中。いい感じのプロポーションが見つからなくて……』

「…………そんな話をするために電話してきたんですか」

 

 少し強い言い方になってしまった。GBNでの事といい、今日の私は少し不機嫌気味かもしれない。

 

『……はいはい。緊張ほぐすためだったんだけど』

「あなたが私に電話して、何も無いわけありませんから」

『そうだね。これでも私は君と一戦交えてる。そして、マスダイバーとしての君を殺した張本人でもある』

「…………」

 

 四ヶ月ほど前、世間がクリスマスのムードに包まれていた日。GBNでは第四次有志連合戦と称される大きな戦いが繰り広げられた。私は討伐対象、つまり大将首として戦い、そして紅月先輩(レイメイ)のガンダムシルヴィーツヴァイとの一騎打ちで敗れた。

 

 それ以来、私がダイバーギアに触れることはなかった。三月さんが現れた、あの時までは。

 

『言うタイミング逃してたけど、とりあえず言っとく。まだガンプラ続けてくれてて良かった』

「……いいえ、私なんて、これといった取り柄もない普通の人間ですから。ガンプラを作るか勉強するかしかやることがないので」

『ははは……。まぁそう卑下するものじゃないよ? 私は君と戦って、一瞬だけど負けそうだって思ったし』

「負ける可能性を常に考慮できるのは強者故の余裕ですよ。確かにあれがあなたの全力だとは思いましたが、結局は負けてしまいましたし」

『あくまでね…………』

 

 考え込むように言葉が途切れた。その時間に、私は改めてあの戦いを振り返る。

 

 凄かった。今でも神経が反応するほどに、鮮明に、色濃くあの光景が目に焼き付いていた。コントローラーを一度でも離してしまえばその瞬間に切り刻まれるような緊迫感、鎮まることを知らずに上がり続ける高揚感、私はあの時、ただ純粋にバトルを楽しめていた。今でだってその思いは変わらない。

 

 だから、私はあれを一度きりにしなければならない。私が覚えていいもののわけがないのだ。マスダイバーとして戦った私が、あんなこと、虫が良すぎる。

 

『……じゃあ、聞くけど』

 

 一分ほどだろうか。それくらいじっくりと考えた紅月先輩が口を開く。

 

『飯綱ちゃんは自分のこと強いと思う?』

「……え?」

『私は君のこと強いと思うけど』

「えっと……」

 

 思考の斜め上からの質問で頭を打たれた気分だ。自分が強いかどうか…………か。何故そんなことを聞くのだろう。

 

「……それなりに強いと、思いますよ。今のところは。多分、白宮さんや小南先輩とワンツーマンで戦えば私が勝つと思えるくらいには」

『三月ちゃんと戦ったら?』

 

 難しい質問を投げかけてきた。私は一度彼女に負けている。一度自分を負かした相手に勝てるか、そこまでの自信は持ち合わせていなかった。

 

「…………わかりません」

 

 だから、こう言う他ない。

 

『わからないか……。じゃあ、少なくとも勝率は三割から五分ぐらいかな』

「……どうして、こんな質問を?」

『ん? あー、ね。えっと、なんだっけ……』

 

 いきなり声が遠くなった。小さく相槌が聞こえるので、同じ家にいるビリーヴ先輩からの質問だったらしい。

 

『単純に知りたかったんだって、ビリーヴ。この子らしいや』

「……なるほど」

 

 別に隠してるわけじゃないならオープンチャットにすればいいのに。そう思ったが、言ったところで遅いので唾と一緒に飲み込んだ。

 

『じゃあ次は私からの質問。今の生活は楽しい?』

「楽しい……ですか?」

「そ。GBN含めてね」

 

 聞き返すとそのまま返された。楽しいかどうか…………か。わからないというのが正直なところだ。楽しいというよりは、ドキドキする。主にトウカさんのことで。

 

 三月さんはクラス内ではもう既に人気者の地位を確立している。中学ではひとりで黙々と絵を描いていただけらしいのに不思議だと思ったが、聞けば中学の頃からファンクラブがあるらしく、私よりも先に彼女の魅力に目覚めていた人間は多かった。というかただの一生徒にファンクラブ開設されるって一体どんな中学だったんだ。あとファンクラブ開設されるほどって三月さん一体どれだけイケメンなんだ。それが女子に許されていいことなのか。

 

 というのは置いといて、三月さんはとても優しい。男女問わず困っていたら手助けするし、頭も良い。この前なんか三月さんがラブレターもらうところを見てしまった。本人は断ると言っていたけど。そういうことなので、こういう質問をしたことがある。

 

『三月さんって、恋人とか作ろうと思ったりしないんですか?』

『んー、今のところは特に。ソロの趣味ばかりやってきたから必要性あんまり感じないんだよね』

 

 最初はそう答えてきて、彼女にガチ恋している私は一瞬だけショックを覚えたのだが、その直後。

 

『あーでも、ヒカリぐらい僕の心を揺さぶれる子ならいいかもなぁ』

 

 その場に白宮さんがいて良かった。おかげでなんとか正気を保っていられたが、二人きりだったら完全に消滅していた。

 

 三月さんのことは好きだ。だからといって、一緒にいると楽しいことばかりじゃない。それでも隣にいられるだけで嬉しいのだから、このままでいいと思う。

 

 あの人は私の傷に平気で触れてくる。でも、その手はとても優しいのだ。

 

「楽しいかどうかは……わかりません。けれど、今の生活を守りたいとは、思います」

『…………そっか。じゃ、大丈夫だね』

 

 その声色は穏やかだった。何か不安なことが晴れたみたいな、そんな声。

 

『私が心配することはなさそうで良かった。じゃ、また学校でね』

「はい、おやすみなさい」

 

 挨拶を交わしてから電話を切ろうとすると、「あ、そうだ」と紅月先輩が言葉を付け加えてきた。

 

『三月ちゃんのことは私達共々応援してますので』

「えっ!?」

『じゃあね』

「ち、ちょっと待っ……!」

 

 電子音が鳴り響く。先に電話を切られた。

 

 共々…………ってことは、おそらく水無月先生も小南先輩も私の好きな人が三月さんだということがバレてる。じゃあつまり……。

 

「し、白宮さん…………!!」

 

 絶対にあの人が言いふらしてる。何がレディだ、プライバシーというものはないのか。ふざけやがって。

 

 まぁ、いいや。あの人はそのうちGBNで叩きのめしてやろう。今は制作に集中。早くディテールアップを終わらせなければ、いつまで経っても塗装までありつけない。

 

「GBNで……か」

 

 今までの私であれば、きっとそんなことは思わなかっただろう。いや、そもそも白宮さんと知り合うこともなかったはずだ。全て、三月さんと出会ったことで変わったこと。

 

 あの人が与えてくれるのは、私が知らない私だ。それは得体の知れないものであり、時には許容し難いものでもある。でも、その先には良いものが待っている。だから手を伸ばすのだ。

 

 その先にあるものが、自分と自分の黒い歴史とを繋ぎ止める鎖を、断ち切ってくれることを信じて。

 




ハトバ「冤罪よ。貴女がわかりやすすぎるだけ」
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