ガンダムビルドダイバーツバキ   作:レイメイミナ

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計画⑤:お泊まり

 言っちゃった。

 

 言ってしまった。

 

 だ、だ、大丈夫。だって女の子同士だし、友達だし、お泊まりぐらいなら平気。平気なはず。というかそもそも、ここでヒカリが引き下がる可能性もあるわけで…………。

 

「………………」

「…………えっと、じ、じゃあ……泊まり、ます」

 

 まじか。まじなのか。

 

「……わか、った。えと、お風呂先に入る?」

「い、いえ。お邪魔してる身なので」

「う、うん」

 

 なんだこの空気。

 

 浴室にて。

 

 スポンジとボディーソープを使って、今日の分の汚れを落とす。使っているのは僕イチオシの結構高いやつだ。客人用の洗剤を用意している家庭なんて流石に少ないと思うので、ヒカリもこれを使うんだと思う。

 

「ここ、ヒカリも使うんだ……」

 

 いや、いやいやいや、流石のヒカリだって他所の家でそういうことはしないはず。それだけは信じたい。でも、多分、思わないことはないと思う。だってヒカリは、僕のことが好きなわけ、だし。

 

 …………自分の匂いが好きな人と同じなのって、どういう感情なんだろう。

 

 曇っている鏡を拭いて、自分の顔を見る。熱闘を浴びた僕の顔は紅潮していた。恋をしている人間は、お湯なんか浴びなくてもこんな顔になってしまうのだろうか。それはなんだか恥ずかしい気がする。でも、ヒカリはよく真っ赤になる。僕がヒカリに勝ったときの、多分ヒカリが僕に恋したときとか、さっきお泊まりを提案したときとか、心配なくらい赤くなっていた。

 

 湯船に浸かって、もう一度考える。

 

 僕は、ヒカリとどうなりたいのか。友達のままがいいのか、それとも恋人同士になってもいいのか、今の僕ではわからない。ただハッキリしていることは、ヒカリに嫌われたくないことと、ヒカリと一緒にガンプラを楽しみたいということだけだ。

 

「ヒカリ……」

 

 ヒカリっていう名前は好きだ。なんとなくだけど、無性に呼びたくなる変な魔力を秘めている。『あの子』や『彼女』ではなく、『ヒカリ』と呼びたい。ヒカリに名前をつけてくれた両親には感謝しなくちゃな。いや、実際に言っても困惑されるだけだろうけど。とは言っても、名前が好きだと言っても、それが恋愛的な意味に発展するとは限らない。世のカップルはお互いの名前が好きだろうけど、逆にお互いの名前が好きなら恋愛に発展するとかではないと思う。

 

「…………は?」

 

 ダメだ、のぼせて思考能力が鈍っているかもしれない。もう出よう。

 

 バスタオルで水気を取ってから、人前に出てもひとまず恥ずかしくないような格好に着替える。髪を三分ほどドライヤーに当てると、もう充分なくらいには乾いていそうだ。短髪はこの辺りが手っ取り早くて助かる。

 

「ヒカリ、お風呂空いたよ──」

「うぇぇああっ!?」

「うおっ、ど、どした?」

 

 自室のドアを開けたら中々聞かないような悲鳴が飛んできた。

 

「ぇあ、わ、わかりました。入ってきますね……」

「うん、どうぞ」

 

 消え入るような声で言ってから、ヒカリはしっぽを巻いて逃げるように部屋を出ていった。静まり返った部屋を見渡してみても、特に変わってことは………………あった。ベッドが少し荒れている。いや、荒れているというよりは慌てて整えようとしたというのが正解か。

 

「…………まさか」

 

 いや、そんな、流石のヒカリだってそれくらいの良識はあるはずだ。ヒカリはいい子だから、決して好きな人の家のベッドで好きな人の匂いを堪能するなんていうことは、しないはず。はず…………はず。

 

 ………………いや、僕の方こそキモい発想をしているかもしれない。もしかしたら寝転がってただけとか、完全に無警戒な状態でいきなり話しかけられたからびっくりしただけの可能性だってある。なんにせよ僕はヒカリを信じたい。ヒカリは好きな人の匂いを下心丸出しで嗅いだりしない。絶対。

 

「…………ん?」

 

 そういえばヒカリ、着替えどうするんだろう……? このお泊まりって元々想定外なわけだから、当然本人の用意なんてないはずだ。となると…………。

 

「僕の服か……」

 

 別に自分の服を貸すことに抵抗はないけど、サイズが合うものがなさそうなのが心残りだ。上はともかく、下はサイズが合っていないとまずい。それに下着だって問題だ。今日付けてるのをそのままってわけにもいかないし、それこそ僕のを貸しても絶対にサイズが合わない。僕はDだけど、ヒカリは…………その、本人には言えないけど、よくてCとかだろう。買いに行くという手段もあるが、この夜中に買いに行くのは抵抗がある。一体どうしたものか。

 

「………………」

 

 …………仕方ないか。今日は、我慢してもらうしかない。諦めよう。

 

 とりあえず昔の服の中からヒカリに合いそうなのを引っ張り出して、浴室の方まで届けに行く。匂いは……問題ないな。よし。

 

「ヒカリー……」

「あ」

 

 ヒカリを呼びながらカーテンを開けると、そこには丁度よくバスルームから出ようとしていたヒカリの姿が。しかも、全裸だ。いや、当たり前なんだけど。

 

「あ、えっと、着替え持ってきたんだけど……」

「あ、りがとう、ございます…………」

 

 …………なんだこの空気。あとなんか、デジャブを感じる。

 

「…………髪、乾かそうか?」

「……え?」

 

 空気を変えるために思いつきで言ってみた。が、正解かどうかわからない。というかこれじゃあ僕が脈アリみたいじゃないか。そこはハッキリさせたくない。なんというか、そこは最後の砦というかなんていうか…………。あー、もういいや。吐いた唾は飲み込めないって言うし、やってしまおう。

 

「……あ、着替えるまで待ってるね」

「えあ、は、はい」

 

 カーテンを閉めてしばらく、ヒカリから「着替えました」と声がかかった。カーテンを開けると、湯上がりで少し紅潮したヒカリがドライヤーを持って立っていた。普通のシャツとショーパンだけど、ショーパンは紐でなんとかのレベルで明らかにサイズが合っていない。シャツは袖が余ってるし。とりあえず下がずり落ちるなんてことにはならなさそうで良かった。

 

「お、おう……」

「……どうしました?」

「いや、やっぱりサイズ合わなかったなって」

 

 なんて誤魔化したけど、正直めちゃくちゃかわいくて気圧されてしまった。こんなに素材がいいのに肝心の顔が前髪で隠れてしまっているなんてもったいない気がする。

 

「……いや、大丈夫ですよ。袖はまくればいいので。それに…………」

「に?」

「いえ、なんでもないです」

 

 …………安直なところだと、僕の匂いがするとかだろうか。やはり家の匂いというのは僕自身がわからなくてもあるものなのか、なんだか少しこそばゆい。

 

「じゃ、乾かすね」

「はい、お願いします」

 

 ヒカリの後ろに立ってドライヤーを構える。暖かい風を当てながら、少しボサボサな髪を整えていく。綺麗な髪だ。髪と目に視界が行くような人は、もれなくルックスがいいものだと僕は思っている。ヒカリもその例に漏れず、そのひとつも手が加えられていない天然物の美しさを感じる。こういうのは大和撫子と言うのか。日本人らしい美人さんだ。

 

(こんな人にも、人生をめちゃくちゃにするくらいの悩みがあるんだなぁ……)

 

 好きなものを素直に楽しめないだなんて、歪なことだ。僕だって何回もミスをしてはママに怒られたりしたけど、それで絵を楽しめなくなったなんてことはなかった。ママは良いところはちゃんと褒めてくれるし、褒めているときのママはとても楽しそうだったから。僕の絵をもっといいものに、誰が見ても「この絵を描いた人は間違いなく天才だ」と褒め称えるようなものにしたいからだと、僕は子供ながらに理解していた。でもそれは結局、僕の家に限った話なのだ。みんな僕のような世界観を持っているわけじゃない、中にはヒカリのような人だっている。だから……。

 

「ヒカリってさ、すごいよね」

「えっ、いきなりなんですか?」

「最初は不安だったんだよ。無理やりGBNに連れ込んでさ、ヒカリはGBNに嫌な思い出持ってるみたいだから、正直どうなるかわからなくて怖かった」

「……最初は、私も不安でした。でも三月さんと白宮さんのバトルを見て、GBNの見方が変わったんです。なんというか、変わらないなって」

「変わらない?」

「データか実機かの違いなんて、些細なものなんだって。むしろ巨大なだけ、GBN(あっち)の方が重厚感がある。GBNもGPDも変わらず、自分たちの思い描いた世界をぶつけ合うことに変わりはないんです。だから、今の私はGBNのこと、好きですよ」

 

 ……なんだか、ほとんど答えを言っているのと同義な気がする。この言い方では、ヒカリはGBNを劣っていると認識していたと解釈できるからだ。

 

 ブレイクデカール、及びフェイクデカールは、GBNを嫌いGPDを好む原理主義的な者たちによって作られたという。つまり、ヒカリはそれらを使う存在『マスダイバー』だったという可能性がある。でもヒカリは優しい人間だから、一度でもGBNに牙を剥いてしまったことを後悔して、それでガンプラバトルから身を引くようになった…………こんなものだろうか。でも、ヒカリは今僕たちと一緒にGBNをしている。GBNを好きだと言ってくれる。怖かったけど、僕の行動は間違いじゃなかった。そう思いたい。

 

 ドライヤーの電源を切って、コードをひとまとめにする。

 

「……そっか。なら良かった」

「はい。だから、三月さんには感謝しています。進むことができなかった私の手を取ってくれた、だから、私は三月さんの事が…………!」

 

 ヒカリが振り返って、僕の方を向く。その顔はさっきよりもずっと赤くなっていて、綺麗な瞳が僕をじっと見つめる。

 

 今、なんだ。

 

「………………」

「……、ヒカリ?」

「えっと、その……悪いようには、思っていないっていうか、その…………」

 

 え、え? えぇ…………?

 

 そこでへたれちゃうの…………?

 

「と、とにかく友達としては好意的に思っているというか、えっと、そ、そんな感じです……ので」

「う、うん……」

 

 そのままヒカリは何も言わずに去っていった。まぁ行先は僕の部屋だっていうのはわかるけど。

 

 えっとまぁ、とりあえず、客人用の布団かなんかを出しておこうかな。なかったら一緒に寝てもいいし、最悪僕がアトリエの仮眠スペースに移動するでもいい。

 

「…………意気地なし」

 

 この、行き場のない緊張感をその言葉に乗せて、今はこの場にいないヒカリにぶつけてみた。

 




先生! ガンプラ要素が息してません!
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