色々あったお泊まりと、中間テストが終わり、各自制作を終えた作品をGBNで鑑賞することになった。このジオラマ機能はこの前のアップデートで追加されたものらしく、先輩方も試すのは初めてとのことらしい。最初はその先輩の一人であるレイメイ先輩の作品からだ。
「じゃあまずは私の作品から、まぁ無難に水星の魔女最終話のあのシーンだね。虹色のパーメットをどうやって再現するかってのでめっちゃ悩んだなぁ……」
レイメイ先輩が作ったジオラマは、白いエフェクトが中心の光から溢れ、光を囲んでいる四体のガンダムをさらに包み込んでいる……というようなものだ。人の命や争いをテーマにしている泥臭いガンダムの作風からは想像できないような神々しい様だが、どうやら実際のシーンのひとつらしい。
「私たち側から見るに完璧に再現できてるけれど、結局何を使ったの?」
「ホログラムシールだよ。スコアエイト越えのパーメットって白ベースで光ってるから、いけるかなぁって」
なるほど、確かにそういうことならホログラムシールで表すのは適切だ。やっぱり歴が違うんだろうな、僕だったら塗りに走って絶対失敗する。
「ガンダムっていうか、奇跡を起こす妖精みたい」
「それがシルヴィーの由来だよ」
僕が率直な印象を口に出すと、それに返答するようにしてビリーヴ先輩が話しかけてきた。
「だよね、レイメイ」
「いや、そんなことはないけど……」
「ないんかい、なのです」
レイメイ先輩がやんわり否定したところにツッコミとおまけのような語尾をつけるコネコ先輩。あの三人はやっぱり定番って感じがする。
さて、じゃあお次は僕の中で最弱ヘタレ女と呼び声高いアマツの作品だ。あの後何もなく寝て帰っていったんだよね。どうせならガンプラ選びだとかなんとか言ってデートにでも誘えばよかったのに、意気地なし。
「わ、私はナラティブの冒頭三十分のあのシーンです。ジオラマってあんまり経験ないので上手くできてないところも多いんですけど……」
「おぉ〜…………」
アマツのは打って変わって、とてもガンダム然としているというか、らしいような構図だ。巨大な装備で固めた白いガンダムが金色のガンダムと対峙しているとてもシンプルなシーンだが、一味違うのが白いガンダムの手から(スケールが拡大されているのでわからないが)タコ糸程の細さの糸が金色のガンダムの腕に巻き付いているところ。調べた話では、ガンダムの世界は基本的に接触による有線通信が主流らしく、これは二機のガンダムが戦っているのではなく、会話をしていることを表しているということになるのだ。知る人にはわかる小ネタのようなもので、ヒカリの知識の深さとガンプラへの好意がわかる。
「めっちゃよくできてるじゃん! 先生感動しちゃう!」
「そ、そうですかね……」
「単純に戦ってるとこじゃなくてこのシーンをチョイスしたのも…………いいセンスなのです!」
「そ、そうですかねぇ? えへへ…………」
もや。
なんか変な感じ、アマツが僕以外にデレデレするの。とはいえ、ここで逆張りで欠点を出してもそれは全員の気分を害する行為で、つまるところ絶対にやっちゃいけない悪手だ。なのでここは…………。
「アマツ。あの金色、キャンディ塗装ってやつだよね?」
「え、そ、そうですっ。メッキシルバーの上にクリアイエローを吹いて……どうしてわかったんですか?」
「やっぱり。通りでキラキラしてると思った」
誰も気付かなかった、つまり僕だけが気付いたこの作品の魅力を僕が一番に褒めてあげる。よし、これでアマツの注意が僕に向いた! ほれ見たことか諸君、アマツは僕の前では誰が見ても疑いようのない恋する乙女なのだよ。
……………………いや、何やってんだ僕。
「あー、確かに。あたしの友人は普通にゴールドの上に光沢クリアー吹いてたけど、そういうやり方もあるのか」
「試しにやってみた、ってだけの話ですけどね」
「初めてでこの光沢は中々出せないわよ。クリア塗料は扱いが難しいから」
「ふふん、流石アマツだね」
「なんでツバキちゃんがドヤってるのです……?」
いいだろ別に。
というわけでアマツの作品鑑賞は一旦区切り、次の人の作品へ。次はレシアだ。
「私はとてもわかりやすいわ、エンジェルダウン作戦よ」
「おおー、グサッてるグサッてる」
「先輩、それはどういう表現なのです……?」
これまでの作品とは打って変わって、こちらはバリバリ戦闘シーンという感じだ。大きな片翼を持ったガンダムがもう一方のガンダムの持つ大剣によって貫かれている。
「電流や火花を翼に見立てて、この後に登場するデスティニーガンダムを想起させるのがこだわりポイントよ!」
「…………剣、でかくない?」
「ベースはRGでしょうけど……これ、エクスカリバーだけMGサイズですね」
「『SEED DESTINY』と言えば迫力重視のパースがかった戦闘シーン、だからジャンク品から流用させてもらったわ。それにRGのソードインパルス持ってなかったし」
「妥協が功を奏したってわけ、いいね」
有るもので良いものを作ろうとするのはクリエイターとして素晴らしい心構えだとパパが言っていた。これを見ると、まさにその通りだと思える。
「強大な敵、そして自らの仇とも言える相手を討ち、満身創痍の中復讐を成し遂げたことに涙するシン・アスカ、だがそれを引き金に世界は変わってしまう…………うん、やはり『SEED DESTINY』を代表する屈指の名シーンなのです!」
「私もそう思うわ。コズミック・イラの世界はこういうものなのよね」
ガンダムに詳しい人がシチュエーションを語ってくれたのだが、僕としては名シーンではあるけどそのコズミック・イラとやらはそれでいいのかとは疑問になる。
「ヒカリ、これってそういう作品なの?」
「さぁ、ジャブみたいな感覚で核を撃つような世界なので……」
「えぇ…………」
ヒカリに聞いてみたら予想を遥かに超える回答が返ってきた。流石にドン引きものである。
ではお次、今度はコネコ先輩のものだ。
「ぶっちゃけ、作品はレシアちゃんのとダダ被りなのです」
「でも今度は無印の方ですね」
「無印?」
「さっきの前作です」
「なるほど」
舞台は砂漠、犬のフォルムをした機体に囲まれている一機のガンダム、その機体には鮮やかさはなく、まるで力わずかとばかりのグレーカラー。言わずと知れたピンチの展開の中、ガンダムはとても頼りにはならないようなナイフを両手に駆け出している…………という感じのものだ。作りは簡素で、ガンプラの作りも成型色を生かし部分塗装とスミ入れ、トップコートのみに絞られている。
「なにこれ、ヤケになってるの?」
「ヤケになった准将が一番怖いのです」
「え、どゆこと?」
「この後機体諸共五体満足で帰還するんですよ。私もちょっと恐怖を覚えました」
「今しがた僕も怖くなったんだけど……」
この状況から生き残るってなんなの……。『SEED』というシリーズがどんなものか少し気になってきた。今度サブスクとかで見てみよう。
そしてお次、ELダイバーであるビリーヴ先輩の作品。生後九ヶ月あまりの感性で一体どんなものを作るのか気になる。そういう思いで作品の展示ゾーンに入ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「…………なにこれ?」
「ベアッガイ」
「ベアッ、ガイ?」
「正確に言うとプチッガイ」
「プチッガイ……?」
さっきまでの殺伐とした世界は一体どこへやら。小さい村と、クマのようなガンプラ。それらが柔らかい空気に包まれながら微笑んでいる。それはただただ平和な、駅近の喫茶店自慢のパフェのように甘い世界だった。
「アッガイというモビルスーツがあって、それをクマをモチーフに改造したのがベアッガイ。そこからさらにデフォルメを強くしたベアッガイIIIを、あんな風に小さくしたのがプチッガイなんです」
「はぁ……。うん、ごめん全然わかんない」
アマツから説明されたけど、えーっと要するに、アッガイが紆余曲折あって最終的にああなった……、元のアッガイを知らないから全然わからない。
「こんな機体です」
「ん、へぇ…………」
察してくれたのかアマツが元のアッガイの画像とベアッガイの画像を出してくれた。
…………いや、これでもわからない。
「えっと、アッガイの身に一体何が……?」
「大人達の醜い欲望によって生み出された子供達だよ」
「ちょ、ビリーヴ!? どこでそんな言葉覚えてきたの!?」
「ラウ・ル・クルーゼ」
「やってくれたなあの野郎!!」
あの二人はとりあえず置いておいて、改めて作品をまじまじと見る。作りは簡素寄り? だけど、それがトゥーン系の雰囲気に合っていてむしろいい味を出している。それにしても、プチッガイと言うだけあって本当に小さい。GBNのシステムで巨大化された姿としても、僕たちとそう変わらないほどの大きさだ。
あ、もしかして、リアルだとビリーヴ先輩は小さくなるから、そのサイズの関係でプチッガイの作品なのか。
「ふむ…………」
出来栄えを確かめているのか、純粋に楽しんでいるのか、はたまた両方かもしれないビリーヴ先輩の姿を見る。慈愛に満ちた瞳は、このガンプラたちが広げている世界を温かく見守っているように感じた。
「ガンダムのこと色々知って、思ったんだ。ガンダムは少し……ううん、かなり辛い目にあってるんだなって。それでもガンプラとしてこの世に生まれて、みんなに愛されて、だからプチッガイみたいなのも生まれたんじゃないかなって」
「それで、こういうのもいいかなって?」
「うん。わたしもレイメイも、ガンプラが大好きだからね」
予想とは少し離れていたけど、いい想いだと思う。ELダイバーとしての彼女の感性というか、心に直接触れているような。この作品には、そんな彼女の優しさが溢れていると思った。
五人目の作品も終わり、とうとう僕の作品のターンが回ってきた。正直、結構緊張している。この期に及んでまだやり残していることはないか、あそこの作り込みは大丈夫かとか、そんなもう過ぎていることにばかり気が散ってしまう。
「えっと、僕の作品は──って、あれ?」
「どうかしましたか?」
「あ、いや……」
気になったアマツが話しかけてくる。扉の前の画面に二人いることが表示されていて、どうやら僕の作品があるブースに別の人が来ているみたいだった。
「先客がいるみたい。なんでかはわかんないけど」
「作品の展示機能はフレンドに通知されるシステムなので、私たち以外のツバキさんのフレンドが来ているのかもしれませんね」
「かもね。とりあえず入ろっか」
中に入ると、僕が思い描き、作った通りの光景が広がっていた。だが僕の想定の外にいる二人の人影が、二機のガンダムの間に入るようにして立っている。
「あ」
「あ」
最初に反応したのはカグラ先生。そこから続くようにコネコ先輩が反応する。
「おい、お目当ての連中が来たみたいだぞ」
「え、マジ?」
二人のうち一人は見覚えのある背中で、僕を散々いたぶってくれたバトルの師匠であるアノマロカリスさん。そしてもう一人が妹のサモネさんかと思ったら、目線ひとつ下くらいの身長の男性のようだった。
そして僕が話しかけるよりも早くカグラ先生が前に出る。
「おい貴様らァ!! なぁに勝手に入ってくれちゃってんすかぁ!!」
「え?」
まさか、知り合い? いやアノマロカリスさんとカグラ先生が知り合いなのはともかく、もう一人は?
「いやヴァルガ誘おうと思って。お前らここにいるってんだから来たついでにちょっと見てただけだよ」
「チケット代取るぞ!」
「そんな機能ねぇよ」
カグラ先生は遠慮もなく、旧来の友と話すように声を出す。まぁアノマロカリスさんの妹さんとお付き合いしてるんだし、距離感はそれぐらいか。
「それで、これ作ったの誰なの?」
「そりゃあアワーゴッドティーチャーカグラちゃん先生が見つけた大天才ツバキちゃんに決まってるでしょう!」
「おわっ」
名指しと共に腕を引っ張られる。そして知らない方の人が相槌を打ちながら近付いてくる。
え、なに。なになになに!? やっぱやばかった? とんでもない欠陥品だった? もしかして僕、見ず知らずの人に怒られる? ネット怖い!
「……名前聞いてもよろしくて?」
「さっき言ったでしょうが」
「礼儀だよ」
「あー、えっと、ツバキです…………」
「ふむふむ、ツバキさん……」
身構えながら名乗ると、彼は考えるようにそのまま返した。一体何をされるのかと怯えていると…………。
「……参りました」
彼は目の前で土下座をした。
「え?」
「え?」
「…………は?」
僕とカグラ先生、そして後ろにいるアノマロカリスさんまでもが、同様の反応をする。そして、数秒の沈黙を破ってカグラ先生が口を開く。
「カスミ、お前にはプライドとかいうのはないのか?」
「知らん、プライドで飯が食えるか!」
「食ってもらわないと困るんだよお前のファンが!」
「うるっせぇぇぇッッ!!!」
土下座の体勢のまま彼は叫ぶ。その様子はシュールとかそういうのを通り越して、無残だった。
……って、え? カスミ?
ということはこの人、もしかして…………?
「カスミ!? GBNでは知らない人はいないと言われるほどのあの超有名クリエイターの!?」
僕より先にレシアが説明口調で驚いてくれた。それに続くように、僕も叫んだ。
「なんでみんなして僕の言葉持ってくんだよぉぉぉ!!!」
今ここで、間違いなく確信していることがひとつだけある。
この光景、傍から見たらすっごいシュールだな…………。
カスミ/霧雨クロート
GBNでは超有名なクリエイターで、フォース『ビルドリバイバル』のリーダー。
ガンプラの制作技術も操作技術も一級品だが、その実績に反して内向的な性格の小心者。よく弱音を吐いている。
使用機体は、「FAルシファー」「ビビッドガンダムゼロ」