馬力で負け、そのまま後退する。空いた隙間を塞ぐようにネクサスのガンビットがビームを撒き散らすが、スカルライダーは軽々避け、私を追ってくる。
「速いッ……!!」
いくら『HADES』が起動しているとしても、普通こんなに速度が出るなんて思わない。一体どんな無茶なチューンをすればここまでのスペックになるのか、分解して見てみたいぐらいだ。
間にネクサスが入り、お互いビームサーベルで切り結ぶ。
「悪いけど、わたしは先輩だから」
「生後八ヶ月がよく言うよ」
ビームの刃が激しく火花を散らす中、私は『青龍』で一時距離を取った。近接戦じゃあの人には絶対勝てないと悟ったからだ。一撃受けただけでわかる、あんな化け物と相手したら、耐久値がいくつあっても変わらない。変わらずあの人は頭と胴体だけを狙って確実に仕留めに来るだろう。
地面を這うように低空飛行でガンビットが迫る。主人であるネクサスが押し負けそうになったタイミングで飛び出し、一斉にビームを放つ。が、それも予期されていたのか、容易く避けられてしまう。
「気付いっ……!!」
そして、着地と同時に背部のビーム砲がネクサスを貫かんと放たれる。
「!」
この位置、もしかしてビリーヴさんごと私を狙うつもりか。
ネクサスが避けるのと同タイミングでヤタノカガミを展開。少し拡散はしたが、跳ね返した。そのビームをスカルライダーはまたも軽々しく回避する。
「チッ、金ピカ装甲お得意の反射か。これ、火力出る割に当たんねぇな。クソ装備」
アノマロカリスさんは悪態を付きながらそのビーム砲を取り外した。そして、落ちたビーム砲の砲身を持つ。
「……まさか」
予想は的中し、スカルライダーは砲身を肩に担いでこちらに飛び込んでくる。
形状的に、あのビーム砲はEパック方式。つまりあのビーム砲の中には少なくともMSを一撃で飛ばす程の火力を数発撃てるレベルのメガ粒子が詰まっているはず。そんなものを至近距離で誘爆させられたら、ただじゃ済まない!
「はっ、アマツ!」
この事にビリーヴさんも気付いたのか、こちらのフォローに回ろうとする。
「な、きゃあっ!」
だが、頭上からのビームがそれを阻む。
空中から飛んで来たのは、水星の魔女に登場するMS輸送機、ティックバランの改造型。それ自体がビームキャノン程度しか戦闘力を持たないが、何やら様々な武装がゴテゴテ取り付けられている様子。いや、そんなことを確認してる場合じゃない。
いつの間にか目の前にまで迫っていたスカルライダーから逃れ、至近距離の爆発を『白虎』で受ける。耐熱性はともかく、ビーム由来の攻撃ならなんとかなるはずだ。
衝撃を受け止めてから、後ろに回り込むことを予想してビームブレイサーを飛ばす。しかし、センサーが捉えることはなく。
「ここだ」
「はっ……!?」
背後じゃない…………、前!?
スカルライダーは後ろには回り込んでおらず、実際にはこのクロスレイの正面方向、真ん前に飛び出ていた。そして、スカルライダーは背中から大剣を取り出している。
「ッ……、はァッ!!」
大剣が振り下ろされる直前に、咄嗟の回避行動で難を逃れる。右手のガーベラストレートを振るが、手応えは無か──
「ッッ!!?」
大きい衝撃が走る。
スカルライダーが、クロスレイの胸部を蹴ったのだ。
体勢を崩すが、それでトドメを刺されるのは真っ平御免……『青龍』を使ってその場を離れる。
「ハッ、なるほどね」
当然、スカルライダーが追ってくる。仰向けの姿勢でスラスターを使い、何とか機体を起こしている状態。これでは確実に斬り負ける。
だが、そんなつもりはさらさらない。
ビームブレイサーを飛ばして、相手に気付かれないよう視界外から回り込ませる。そして、頃合いを見てサーベルを発生させ──
って……!?
「避けたっ!?」
「もう見てんだよその動きィ!!」
スカルライダーはスラスターを巧みに使って、空中でバク転。その運動エネルギーを利用して、素早くビームブレイサーの射線から逃れた。いや、そんな動き、読めるわけないでしょ……!
「くッ……!!」
地面に着地して、ビームブレイサーのワイヤーを自分の手元に来るまで巻き取る。『青龍』のスラスターを最大出力で吹き、最高速度で同じく着地していたスカルライダーに迫る。
「はああああぁぁッ!!!」
速度を乗せた、渾身の一撃。
それを、スカルライダーはビームザンバー”一本”で受け止めた。
「なッ!?」
「見てるっつってんだろ。さっきの不意打ちも、この力任せの突貫も」
スカルライダーを操るのは、SSSランクダイバー、アノマロカリス。
彼とは一度、剣を交えている。
「しっかしまぁ生き生きしやがって。おかげで前のよりよっぽど読みやすかったよ」
軽々と私の刃を弾き、その後すぐに凄まじい速度の蹴りを喰らう。
「負け惜しみはしない。俺は初見に少し弱いんだよ。ガンダム知識ゼロ、が故の偏った固定観念が招いた完全なるミス。だからもう二度としねぇ。それに……あん時はお前もチートしてたろ?」
「ッ…………!」
「足を洗って、新たに『アマツ』としてログインして、女を知ったわけだ。クソみてぇな人生歩んだお前にゃ似合いの見返りじゃねぇか。過去なんか忘れてもっと喜べばいいのに」
「……そんなんじゃ、ありません」
そうじゃない。そうじゃないんだ。
この人はそれをわかって言っている。
だったら、乗ってやろうじゃないか。
「今の私は、生まれ変わった私じゃありません。ただ生まれ変わりたいと嘆きもがくだけの私。ツバキさんは、そんな私の手を取ってくれた」
「……」
「忘れるための過去じゃない……。忘れたいほどの過去があるからこそ、今、胸を張って生きようと思えるんです! だから今の私は、あなたが思い浮かべる彼女とは違う……! 私は…………『アマツ』です!!」
「…………ハッ、そうかよ」
立ち上がって、剣を構える。
どちらからともなく踏み出し、剣を振る。金属同士がぶつかるような音はしない。代わりに、そこらを燃やすほどに熱い火花がパチパチと辺りを照らした。
相手の斬撃は重い。故にこのクロスレイのパワーで押し返すことは不可能。あの時彼と互角に戦えていたのは、フェイクデカールの力あってのものだ。私じゃない。それを嫌でも感じてしまうほどに突き付けられる実力差、彼のレベルの高さに、私は……!
「っ……」
上からビームブレイサーによる攻撃を行う。想像していた通り、スカルライダーは軽々と避けた。
「もう見てるっつの──」
「はあッ!!」
人間は、脳で構成した動きを脊髄に伝え、その脊髄が身体の各神経に対し動きを再現するための信号を送る。つまり、人間は思考した動きを実行するためにはどうしてもタイムラグが生まれてしまうのだ。
彼には、戦法でもパワーでも単純な力量でも、勝つことはできない。だから、彼が『人間』であるが故の限界に、私は踏み込む!
彼がビームを避け、着地するコンマ数秒もない刹那の一瞬。そのスズメの涙にも満たないような儚い猶予。
その一瞬に、私は刃を入れる。
「なッ……!」
足のヤタノカガミで、彼のビームザンバーを弾き飛ばす。
そうだ。この一瞬。
彼が意表を突かれ、どうするかを考え実行するまでのこの一瞬、それだけで十分、ガーベラストレートによる振り下ろしは成立する!
機動力はこのクロスレイの方が上! この勝負、私の勝ち──!
ズガンッ!!
「……通った」
「……………………………………え?」
その判定、コクピットすぐ下、デュートリオンエンジンがスレスレで被弾。
スカルライダーの腕が、クロスレイの腹を突き破っていた。
「残念。お前の振り下ろしモーションより俺の突きの方が五フレーム速かった。ま、ほぼまぐれだよ」
「そん、な」
勝てたと、思ったのに。あと一手、届かなかった…………!
脚で乱暴に突き飛ばされる。レッドゾーンの耐久ももうすぐ尽きて、私はロスト。
…………私の、負けだ。
「やってくれたねアノマロカリス。でも、おかげでフルチャージだよ」
すぐ上には、もう全ての準備を終え、必殺技の発射体制に入っているガンダムネクサス。後はもう、彼女に託すしかない。
「へぇ。必殺技って予備動作の時に全部倒してっから、まともに喰らうのは虎とチャンプ以来だな」
「じゃあ、倒されてくれる?」
「ハッ、”撃たせてやる”。それだけは譲歩してやるよ」
「そっか。──ガンビット・サテライトキャノン」
極限まで溜め込まれたエネルギーが一斉に放たれる。目の前全てを覆い尽くすような極光を、スカルライダーはまたもや難なくかわした。
「こんなもんか」
そう残念そうに呟きながら、彼は上空から降ってきたビーム砲を受け取る。そして、発射中により身動きの取れないネクサスに発射。しかし、特大のエネルギーを纏うネクサスには通じず、ビームは屈折して違う方向に飛んで行った。
「なるほど無敵か……。じゃ」
スカルライダーは横に逃げる。サテライトキャノンによる極太のビームが彼を追いかけ、彼は反撃することなく回避に徹する。
「こしゃく……!」
「流石、長いな」
まるでライザーソードのようにスカルライダーを追い続けるサテライトキャノンのビーム。まさか、このまま逃げてやり過ごすつもり……!?
「…………今」
その言葉が聞こえた瞬間、クロスレイはロストした。
アマツ「ツバキさんの師匠強すぎません……?」
ティックバラン・カスタム
アノマロカリスが継戦能力向上のため、カスミのベースジャバーにならってサモネに制作を依頼(もとい丸投げ)した支援機。
スカルライダーの運送や武装の補充の他、外付けのゲシュマイディッヒパンツァーを搭載したドラグーンを始め、様々なオプションを積載している。
武装はビームキャノン他、スカルライダー用オプションウェポン多数。(サモネが気分で変えるため、本人は詳細を知らない)